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コメ展
日々の食卓に欠かせないコメの「食」以外の姿にも光をあて、稲作とともに発展してきた日本のコメ文化を見直す展覧会。佐藤卓と文化人類学者の竹村真一のディレクションにより、水田による環境や景観の保全、稲藁の活用、田の神信仰、太陽の動きと農事暦・祭事暦との関係など、コメをめぐるさまざまな文化・風習を紹介した。
会期 2014年2月28日(金) - 6月15日(日)
ディレクターズ・メッセージ
デザインの手本としてのコメづくり
日本において、コメづくりが始まったのは縄文時代後期。弥生時代からはさらに本格的になり、食べ物を大量に生産する仕組みが進み、それ以降、コメづくりは多くの人の食を支えてきました。今に至る大量生産の始まりです。そこには食という、直接的に命を支える問題以外にも、コメの売り買いという経済、そして変化する自然と折り合いをつけながら営まなければならないコメづくりという仕事、そしてそこから道具が発展し、自然災害などが起きないように願う祭りも生まれ、さらにそこから芸能という文化も発展してきました。天から降る雨をうまく溜めて、さらに下の田んぼに流す知恵が、現代の土木技術に繋がり、水を溜めた田んぼでは多くの生き物が育まれ、稲刈りを終えた後に残るワラは屋根になり、ワラジをつくって、畳の床にも利用し、卵や納豆のパッケージにもなってきました。
コメを英語にすると通常はRICEになります。しかし日本では、このように即物的な意味としてだけコメを捉えてこなかった歴史があります。それは、人の営みを支える「関係」であり「仕組み」であり「方法」なのです。これを、日本で育まれた優れたデザインと捉えることはできないだろうか。このような想いで、このプロジェクトが始まりました。
近い将来しか未来として捉えることができない現代の効率主義により失われてきた大切なことを、この「コメ展」が少しでも気付けるきっかけになれば、それ以上に嬉しいことはありません。
佐藤 卓
「地球食」としてのコメの再発見
毎年、1000倍に殖える魔法。お茶碗一杯分のごはんが約3000粒とすると、それはわずか3粒から成った稔(みの)りということになります。しかもその元手は、光合成に必要な太陽の光と水と空気(CO2)だけ。そんな有りふれたものから、イネという宇宙器官は、毎年こんな有難い生命の糧を私たちにもたらすーー。"まったくのいきもの、まったくの精巧な機械"という宮沢賢治の言葉は、こうしたコメへのセンス・オブ・ワンダーを見事に表現しています。
もちろん、この豊かな稔りは、人と自然の共同作業の成果でもあります。約1万年前、人類が原始的な稲作を始めた頃には一株にせいぜい数十粒だった稔りが、今こうして1000倍に殖える魔法となったのは、幾世代にもわたる人の努力の賜物であり、人間と植物の共進化の結果です。
そして、田んぼはコメを作るだけではない。それは水と気候の調律装置であり、生物多様性の揺りかごでもあります。水田と里山に象徴される日本や湿潤アジアの景観は、人が自然に手を加えた人工自然ですが、この「工」という字は天と地を結ぶ人の営みを意味しています。
イネと田んぼは、人がこの星において、地球生態系に参加する一員として創造的な役割を果たし得ることを証明しています。
いま日本のコメは揺れています。TPPや農家の後継者不足といった社会状況もさることながら、もっと根本的な文化やライフスタイルの部分で、日本のコメは大きな曲がり角に来ているようです。日本食が世界に広がり、世界無形文化遺産にも登録される一方で、コメを主食とする一汁三菜の伝統は次第に日本の食卓から失われつつあります。コメを食べなくなったばかりか、糖質やデンプンを摂らない食事が長寿につながるといった考え方まで出て来ている......。
でも、コメのもつ本当の力は、こんなもんじゃないはずだ。一見自明のコメ、私たちが慣れ親しんできた"知っているつもり"のコメを新たな視点で見直してみたい。まだ見ぬ、未然形のコメ文化を発見してみたい。そして気候変動や食糧危機の足音も高まるなか、まもなく90億の人口を抱える宇宙船地球号の基幹食物、「未来食」「地球食」としてのコメの可能性を、1万年の稲作とコメ文化の歴史も振り返りつつ見つめ直してみたい。私たちが「コメ展」を企画した背景には、こうした思いがありました。
この星の、とてつもない生命器官としてのコメの未来を探る旅に、おつきあいください。
竹村真一
開催概要
- 主催
- 21_21 DESIGN SIGHT、公益財団法人 三宅一生デザイン文化財団
- 後援
- 文化庁、経済産業省、農林水産省、港区教育委員会
- 特別協賛
- 三井不動産株式会社
- 協力
- おかげさま農場、キヤノンマーケティングジャパン株式会社、株式会社サタケ、株式会社スズノブ、全国農業協同組合中央会、全国農業協同組合連合会、農研機構作物研究所、ホクレン農業協同組合連合会、株式会社益基樹脂、ヤマハ株式会社
- 展覧会ディレクター
- 佐藤 卓、竹村真一
- 企画協力
- 宮崎光弘(AXIS)、奥村文絵
- 展覧会グラフィック
- 佐藤卓デザイン事務所
- 照明デザイン
- 海藤春樹
- 会場構成協力
- 五十嵐瑠衣
- 写真
- 西部裕介
- 映像
- 山中 有
- 参加作家
- AXIS、阿部大輔、アラカワケンスケ、石黒猛、imaginative inc.、川路あずさ、ことほき、CSOピースシード、studio note、パーフェクトロン、平井さくら、平瀬謙太朗、深澤直人、三木俊一(文京図案室)、WOW(柴田大平)
サテライトブース
企画展「コメ展」の開催に伴い、期間限定の「『コメ展』サテライトブース in 東京ミッドタウン」を設置。企画チームが全国に足を運び、形づくった特別な空間となりました。
- 会期
- 2014年2月28日(金)- 3月26日(水)
- 開館時間
- 11:00 - 21:00 入場無料
- 場所
- 東京ミッドタウン ガレリアB1F
- 協力
- 株式会社サタケ
- 企画協力
- 株式会社スズノブ、Foodelco inc.
- 会場構成・グラフィックデザイン
- AXIS
※「コメ展」および「『コメ展』サテライトブースin東京ミッドタウン」は、農林水産省の平成25年度日本の食を広げるプロジェクト事業のうち、消費拡大全国展開事業の補助を受けて開催いたしました。