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「テマヒマ展 〈東北の食と住〉」

contents

テマヒマ展〈東北の食と住〉

「東北の底力、心と光。」に続き、東日本大震災を受けて企画された展覧会。東北の衣食住のうち食と住に焦点をあてた。デザイナーやフードディレクター、ジャーナリストで構成されたチームが東北6県の農家や職人、工房をリサーチ。合理性を追求する現代社会が忘れてしまいがちな手間と時間とをかけたものづくりを紹介した。
会期 2012年4月27日(金) - 8月26日(日)

メッセージ

永い年月、厳しい自然と折りあいをつけながら、生活のために伝承されてきた東北に残る食と住から、私達はこれからのために、今、何を読みとることができるだろうか。伝承とは、先代のやっていることを最初は見よう見まねで身体で覚え、熟達したものが次の世代へと引き継がれていくこと。そこには、つくり方のマニュアルもなければ、丁寧な手ほどきもない。その家に生まれたら、それをすることが宿命だと身体に思い込ませ、受け継いでいく。
今、残っている素晴らしい手仕事を褒めたたえることは容易いが、どうしてこの地域に残ってきたのかを掘り下げ、そしてその精神をなんとか未来に残していく方法を探らなければならない時がきている。なぜなら、その永い間受け継がれてきた日本のものづくりの精神が、近代の『便利』を崇拝する合理主義に、歪んだ民主主義と資本主義が折り重なり、急速に消えつつあるからだ。
『便利』とは、身体を使わないということである。現代社会はできるだけ身体を使わないで済む『便利』なものを、疑うことなく受け入れてきてしまった。身体を使わないと人間はどうなるか。ここに記すまでもなく、様々な現代の病がそれを物語っている。この『便利』というウイルスは、一度生活に入り込むとなかなか元には戻れない手強いウイルスなのである。このウイルスが、日本の風土をことごとく蝕んでしまった。しかし、僅かな麹(こうじ)から幻の味噌を再生するように、今に残る手間ひまかけた手技からその精神を汲み取って、なんらかの方法で未来に向かって引き継いでいくことはできないものだろうか。この展覧会で、少しでも東北に残る日本のアノニマスなもの達に接していただき、日本のものづくりを今一度考えるきっかけにしていただければ幸いである。

佐藤 卓

すだれのように吊り下げられた数千本の干し大根。天にも届きそうなくらいに積み重ねられたリンゴの木箱。やわらかく煮るために、ひとつひとつ木鎚でつぶされる大量の豆。すべては人間の手の動きと自然が織りなした東北の生活のテクスチャーであり、生活に刻まれたリズムである。自然と季節の力を借り、それも無駄のないひとつの道具として授かり、日々の恵みとして蓄え続けて行く様。この停まることのない緩やかな循環が東北の人の生きるペースである。
この生活には手間ひまがかかっている。しかし穏やかで強く、迷いがない。このペースは自然と共生して来た長い経験によって、エコロジカル(生態的)な営みに同期し、破綻がない。手間ひまをかけるものづくりは常に『準備』である。その営みに終わりはないし完成もない。しかしその手間ひまが生み出すリズムが、行く先を見失いかけている今の人間のペースを穏やかに緩和し、大切な何かを明示し、焦りの心にひとつの糧を与えてくれるような気がしてならない。
訪ねる東北の先々で必ず同じ質問をしてみた。『なぜもっと楽に、合理的な方法でやろうとしないんですか?』と。返事は、『??...?......。無理をしないってことかなぁ』と。『無理』は循環を壊してしまうことを意味している。粘り強く淡々と繰り返される一見単純そうに見える作業が、穏やかで豊かな生活の循環を生み出している。『テマヒマ展 〈東北の食と住〉』にその空気を持ち込めるだろうか。急ぎすぎて混迷する現代を救う啓示に満ちた生活の美を持ち込めるだろうか。東北には今、人が見失いかけている真の豊かさの定義と、飾らない美の真髄が潜んでいると確信している。

深澤直人

本展のために東北の山、海、里を巡って、美しく厳しい自然を肌で感じることができました。強く印象に残ったのは、この厳しい条件で生きるために、世代から世代へ、手から手へ、口から口へ、東北の人々が受け継いできた暮らしの知恵と工夫です。そして書き留められることもなかった食べ物の多くはいま、ものが溢れる現代社会のなかで居場所を失いつつあります。
東日本大震災によって食品売り場から製品が消えたとき、目の当たりにしたのは、自分の手で料理をするという単純な営みが、温もりと希望をもたらす光景でした。当たり前だと思い込んできた食の営為、その未来を考え直すうえで、東北の知恵と工夫は懐かしさを越えて、実に多くの示唆に溢れています。本展でデザイン的視点から料理した手間ひまをじっくりと味わっていただき、私たちの未来と生き方に、新たな息吹を吹き込む手がかりとなれば幸いです。

奥村文絵

自然への畏敬の念と、冬の準備。風土を反映し、素材づくりに始まる制作。昨年開催した『東北の底力、心と光。「衣」、三宅一生。』の際、私自身、日本のものづくりの叡智を学びました。今回、『食と住』に焦点を絞って制作の現場を改めて訪ねる過程で再び感じたのは、気負いなく地道に作業に向かう人々の姿であり、工夫の数々です。今回もすばらしい方々と出会うことができました。
人間の文化史の現われである、ものづくり。素材を熟知したスペシャリストの存在があります。経験のうえで"勘"が活かされ、さらに独自の工夫も始まっています。と同時に出会うのは、後継者不足の課題により、伝えられてきた手仕事のいくつかは近い将来に消えてしまうかもしれないという現状です。東日本大震災の影響も依然として横たわっており、長く生き続けてきた『東北の食と住』の精神に改めて目を向けることの重要性を感じずにはいられません。
手や身体を動かし、作業の反復という時を重ねることで蓄えられてきた"知"。誠実なデザイン、信頼できるものづくりをいかに実現できるのか、さらには生活とは何かを改めて考えるべき今、『東北の食と住』は、現代社会が抱える様々な課題を示すと共に、我々に多くのことを気づかせてくれます。本展をふまえ、さらに多くの方々と、私たちの生活の今後について語りあっていきたいと考えています。

川上典李子

開催概要

主催
21_21 DESIGN SIGHT、公益財団法人 三宅一生デザイン文化財団
後援
文化庁、経済産業省、青森県、秋田県、岩手県、山形県、宮城県、福島県、東京都、港区
特別協賛
三井不動産株式会社
特別協力
株式会社 虎屋、株式会社TOSEI
協力
キヤノンマーケティングジャパン株式会社、マックスレイ株式会社
展覧会ディレクター
佐藤 卓、深澤直人
企画協力
奥村文絵、川上典李子
映像制作
トム・ヴィンセント、山中 有
写真
西部裕介
学術協力
岸本誠司(東北芸術工科大学東北文化研究センター)
会場構成
深澤直人、荒井心平(NAOTO FUKASAWA DESIGN)
グラフィックデザイン
佐藤 卓、岡本 健(佐藤卓デザイン事務所)
展覧会リサーチ協力
伊藤 維(Foodelco)
出展
有限会社 上ボシ竹内製飴所、東農園、つつじ生活改善グループ、有限会社 青森資材、田澤打刃物製作所、三上幸男竹製品販売センター、松山継道、青森県作業技術センター弘前地域研究所、中畑文利、Kボッコ株式会社、有限会社 ゆかり堂製菓、柳田きりたんぽ店、有限会社 佐藤養助商店、三又旬菜グループ、三高水産、有限会社 石孫本店、柴田慶信商店、有限会社 日樽、楢岡陶苑、民芸イタヤ工房、秋田県漆器工業協同組合、株式会社 藤木伝四郎商店、産直ふるさと大東、川畑りえ、新山根温泉べっぴんの湯、関口屋菓子舗、八百よろず屋小さな野菜畑、古舘製麺所、立ち上がれ!ど真ん中・おおつち、小久慈焼、滴生舎、株式会社岩鋳、有限会社 髙倉工芸、柴田 恵、文四郎麩、斎藤 誠、梅津菓子店、遊佐町笹巻き研究会、有限会社 上山観光フルーツ園、サーモンロードの会、酒井木工所、株式会社 天童木工、青龍窯、長文堂、中屋太次郎鋸店、油麩丼の会、喜多屋焼麩製造所、JAいわでやま 凍り豆腐事業部、村上栄子、有限会社 石橋屋、堤焼乾馬窯、遠藤すずり館、大崎市 竹工芸館、土っ子田島ファーム、株式会社 長門屋本店、角田藤江、株式会社 会津二丸屋、会津桐タンス株式会社、黒澤桐材店、マルサ漆器製造所、株式会社 原山織物工場、三島町生活工芸館