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マルタン・シン
この世には無限の白が存在する
ジャスミンの花びらの白
海泡の白
8月の月の白
ホラ貝の白
雨を降らせたあとの雲の白
― マルタン・シン
プロフィール
マルタン・シン(1947-2017)はインドの文化を先導し、50年の長きにわたりテキスタイルの開拓、展示、遺産保全に取り組んだ。国家を形成するポスト植民地期にプロデューサー兼キュレーターとして、独自の文化復興策を提示し、インドのデザインとファッションの現代美学を育成するため、精力的に活動を行った。その結果、シンは世界に大きな影響を与えたが、コンテキストと表現形式においては国内をルーツとすることにこだわり続けた。
シンのキュレーターとしてのビジョンが人々の記憶に最も刻まれたのは、「ヴィシュワカルマ」を含むインドテキスタイルの画期的な展示会を通してだった。シンは、アメリカ、イギリス、フランス、スウェーデン、中国、そしてインドの4都市で、7回にわたる一連の展示を行った(1981-90)。ニューヨークのメトロポリタン美術館では『インドの宮廷衣装』(1985-86)、旧ソビエト連邦(1986)と東京(1988)では『大地と空』、ハンブルグの美術工芸博物館では『砂漠の中の孔雀』(1991)、シュトゥットガルトの国立美術館では『インド砂漠』(1992)、ニューデリー、ムンバイ、バンガロール、コルカタでは「カディ:自由の布」(2002)を開催している。
さらにシンは、個人としても、政府の芸術機関の職員としても重要な役割を担い、国家の文化政策に大きく貢献した。彼が務めた役職には、アーメダバードにあるキャリコ美術館運営審議会の管理者及び会員、インド芸術・文化遺産ナショナルトラスト(INTACH)の創設時からの幹事、イギリス芸術・文化遺産ナショナルトラストの会長、ジョードプルのメヘラーンガル砦博物館トラストの理事、ハイデラバードのチョウマハラ宮殿の修復アドバイザーなどがある。また『ハンドクラフテド・インディアンテキスタイル(「手仕事のインドテキスタイル」の意。日本では未訳)』(ロリ&ヤンセン BV、2002)と『サリーズ・オブ・インディア:トラディション&ビヨンド(「インドのサリー:伝統とその先」の意。日本では未訳)』(ロリ―ブックス、2010)の編集も手がけている。彼は「Mapu(マプー)」という親しみを込められたニックネームで広く知られており、インド政府からは民間人に授与される最高勲章の1つ、パドマ・ブーシャン勲章が贈られた(1986)。