contents
ディレクター
「防災」や「災害」という言葉を目にしても、どこか遠い出来事のように感じることがあります。しかし突然、自然の力が脅威となり、当たり前のように使っていたインフラやシステムが機能しなくなる。そんな事態、「そのとき」は、なんの前触れもなく、平穏な日常のさなかに訪れます。
それでも人は、本能的に死や喪失を予感させるものから目をそらしてしまうと言われています。生きることへの本能が私たちを守ろうとするのかもしれません。実際に直面しない限り、「そのとき」を想像することは、決してやさしいことではありません。仙台に拠点を持ち、それぞれの場所で震災を経験した私たちにも、そう感じる瞬間があります。
未来に、どのような災害がどれくらいの規模で起こるのかは誰にもわかりません。災害の種類や頻度もたえず変化しています。この変化を思えば、「そのとき」は、災害が起きた瞬間だけを指すのではないのでしょう。「そのとき」は、さまざまな時間軸や場所に存在しているのだと思います。
災害への対処には、研究や想定をもとに導かれた「答え」があるかもしれません。しかし「そのとき」に何を思い、どのように備えるのかは、人や状況によって異なるはずです。
WOWはビジュアルデザインスタジオとして、作品を発信するだけでなく鑑賞を通じて思考を促す表現を探求してきました。今回のテーマである「防災」においては、災害の仕組みや防災技術を伝えるのではなく、それに向き合う人々の意識や、心のあり方に目を向けています。防災は、誰かひとりが背負えるものではありません。自分だけでなく、家族、友人、同僚、あるいは隣にいる誰か。他者がどのように「そのとき」を捉え、備えようとしているのか。そんな視点も手がかりにしながら、自分自身の問題としてとらえ直すきっかけを届けたいと思いました。
本展は、私たちが災害にどう向き合っていくのかを見渡す場所です。シミュレーション、プロダクトデザイン、古の伝承、そして願い――。「そのとき」の先にある希望のかたちを、さまざまな問いを通して考えます。自分なりに思いをめぐらせたり、さまざまな考えに触れたその経験が、いつか訪れるかもしれない「そのとき」 への静かな備えとなって、困難をしなやかに乗り越えるための支えとなっていくことを願っています。
WOW
プロフィール

WOW
東京、仙台、ロンドンに拠点を置くビジュアルデザインスタジオ。企業の世界観を描くブランド・コンセプト映像、商業施設や都市空間におけるインスタレーション、アプリケーションの設計やメーカーと共同開発するユーザーインターフェースまで、既存のメディアやカテゴリーにとらわれない、幅広いデザインワークをおこなっている。一方、オリジナルのアート作品やプロダクトも積極的に制作。国内外の美術館やギャラリーで展示を多数実施している。クリエイター個人の感性を起点に、世界の新たな一面を照らし、人々の心を躍動させる視覚表現を追求し続けている。