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ディレクター
ユーモアと聞いて...最初は、五大陸の笑いを探して歩く旅をしようと深圳、香港、ニュージーランド、メキシコと探し回ったが意外とむずかしい。30年はかかってしまうなあと氣が付いた。
今、僕の机の上には2017年秋に三宅一生さん、佐藤 卓さんと訪ねた、八ヶ岳の茅野、そこで出会った縄文時代の仮面の女神の等身大の置物がある。三角の仮面をつけた表現だが、毎日見ていても笑える。一万年も前のことを考えると氣が遠くなってしまうが、笑いは現在までずーっと続いている。
時間軸や空間軸を超えて、会場は必ずゴチャゴチャにしたい。こんなモノやあんなモノが交差し交換する。メキシコの旅から帰ってきて、すぐにノーベル賞作家のM.A.アストゥリアスの『マヤの三つの太陽』(岸本静江訳 新潮社 1979年)を取り寄せた。読んでみると...
「あたり一面が骨肉の争いを演じていた。椅子は椅子に突き当たった。ナイフはナイフに、フォークはフォークに、スプーンはスプーンに、ソース入れはソース入れに、皿は皿に、盃は盃に、コップはコップに、ナプキンはナプキンに、爪楊枝は爪楊枝に、灰皿は灰皿に、静止画の果物は天然の果物に、天然の果物は蝋細工の果物に、小ぶりのナイフと小ぶりのフォークをのせた魚料理用の食器一式は魚料理用の大振りの食器一式に、壜は壜に、食卓用水差しは食卓用水差しに、音もなく...それがみんな音もなく、音もなく、音もなく...死にものぐるいの戦いだ......」
このシュルレアリスムの文体が最後まで続く。21_21 DESIGN SIGHTの会場はこんな風になるのでは...。と想像した。
晴海埠頭の作品倉庫から漆塗りの世界地図が出てきた。世界は、この国々で回っているのだ。浅葉克己が地球僻地探検家として、今までに地球を歩き回って見てきたモノ、集めてきたモノたちと、身の回りのモノを並べてみることにした。
すると、モノとモノが共鳴し合い(あるいは不協和音を奏で)、時間も場所も言葉も意味も超えた不可解だが愉快な、訳のわからぬ「何か」を発し始めた。
人間の笑いは、どこから来るのか。ユーモアの本質とはどこにあるのだろうか。ひとりで笑うこともあるが(孤独な笑い、ブラックユーモアというのか)、人間は誰かと会って、これ面白いよねと同意して笑うこともある。時代や国や文化によって異なるユーモア感覚もあるが、すべてを超えた笑いも存在するのではないだろうか。
あまねく地球上に存在するすべてのユーモアの源泉を集めてみたい。表現は異なるかもしれないが、小さな笑い、大きな笑い、爆笑、失笑、艶笑、冷笑、微笑、苦笑...。ひとつひとつを拾いだし、一堂に見てみたい。
①ユーモアは心を和ませる。②ユーモアは暗い氣持ちをひきたてる。
ユーモアの中身は複雑であるが、このふたつを頭の隅に置いて見てほしい。
ユーモアは、コミュニケーションの本質だ。
浅葉克己
プロフィール
浅葉克己 Katsumi Asaba
1940年横浜生まれ。桑沢デザイン研究所、佐藤敬之輔タイポグラフィ研究所、ライトパブリシティを経て、1975年浅葉克己デザイン室を設立。日本の広告史に残る数多くの名作ポスター、コマーシャルを制作する。1987年東京タイプディレクターズクラブを設立。代表作に、長野オリンピック公式ポスター、サントリー「夢街道」、西武百貨店「おいしい生活」、武田薬品「アリナミンA」、ミサワホーム「ミサワデザインバウハウス」等。中国に伝わる生きている象形文字「トンパ文字」に造詣が深い。2015年には年間で4度の個展を開催。2015年は「浅葉克己デザイン日記」、2016年は「薔薇刑」にて2年続けてADC原弘賞を受賞した。その他、毎日デザイン賞、日本アカデミー賞、ADCグランプリ2回、ADC原弘賞3回、紫綬褒章、旭日小綬章、亀倉雄策賞など受賞多数。東京ADC委員、東京TDC理事長、JAGDA理事、AGI日本代表、東京造形大学・京都精華大学客員教授、青森大学客員教授、桑沢デザイン研究所10代目所長。卓球六段。