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企画展「『そこまでやるか』壮大なプロジェクト展」

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ディレクター

ディレクターズ・メッセージ

「そこまでやるか」。展覧会のタイトルとしては風変わりなフレーズです。この一文に私たちは、「自分にはとてもじゃないけどできないことをやり遂げてしまう人」への素直な驚きと尊敬の念を込めました。そんなの無理、何を夢みたいなこと言ってるの? "常識"があれば絶対にそう言ってしまうようなことを実現させてしまう人々です。彼らは途方もないと思えるようなことでも、いつできるのかわからないようなことでも、「実現させたい」と思えば決して諦めることはありません。粘り強く人々を説得し、経済的な問題を解決するために動きます。大きな作品ではときにアートやデザインというよりも建築や土木のスケールになるため、綿密なプランや図面が必要になります。確実につくり上げ、安全性を確保するための技術的な課題にも徹底的に取り組んでいるのです。
その結果、着想から完成まで数十年という長い年月がかかることもあります。その間、新たに別の問題が持ち上がってくることも珍しくありません。それでも彼らはさまざまな困難に対して「何か解決策があるはずだ」というポジティブな姿勢で立ち向かうのです。

彼らはなぜ、「そこまでやる」のでしょうか? 本展の参加作家、クリストとジャンヌ=クロードは「自分たちが見てみたいから」というとてもシンプルな動機だと答えます。純粋な美を追求することで作者自身が喜びを得る。それが作品を見る人にも伝わってみんなが笑顔になる。 難しい顔をして「アートとは」「デザインの役割とは」などと大上段に構えることなく、もっと直観的に、身体で作品を楽しむことができるのです。

大がかりな作品はときに、制作の過程でアートやデザインとは無縁の人々を巻き込むこともあります。作品を完成させるためにアーティストやデザイナー以外の人々が実際に手を動かしたり、機械を操ったりして協力するのです。つくるプロセスに関わることで普段とは違う思考や筋肉を使うことになるでしょう。また規模にかかわらず、人の手による膨大な作業を積み重ねて完成に至る作品もあります。そこには作家や作業に参加した人の手の跡と、濃密な時間が蓄積されています。
こうして完成した型破りなプロジェクトは見る人の心を動かし、揺さぶります。思いもよらないことが行われている、そのことを目のあたりにすることで私たちの中の "何か" を変えてくれます。それは壮大で途方もなく、ときにばかばかしいとさえ思えます。しかし、常識を大きく逸脱したアイデアやプロジェクトだからこそ、私たちの中に勇気と希望がわいてきます。あらゆることに何か別の考え方があるのではないか、新しい方法論が見つかるのではないかという思いです。
こんな経験をした後は、それまで当たり前だと思っていた価値観や常識が変わるのを感じるはずです。
その効果はすぐに現れるものもあれば記憶となって残り、気がつかないうちにじわじわと浸透して何年も続くものもあるでしょう。強い意志を持ったつくり手の情熱が私たちに発見と喜びを生み出します。人々に幸せをもたらし、ものと人、人と人との新たな関係性をつくり出してくれるのです。

青野尚子

プロフィール

青野尚子 Naoko Aono

東京都出身。早稲田大学第一文学部・桑沢デザイン研究所ヴィジュアルデザインコース卒業後、六耀社、建築・デザイン専門誌「FP」編集を経て現在フリーランス。建築、アート、デザインのジャンルを中心に活動しているライター。共著に建築を見るべき日本の美術館を 54件紹介した「新・美術空間散歩」(日東書院本社)。PEN BOOKS「やっぱり好きだ!草間彌生」「ルネサンスとは何か」「キリスト教とは何か」「印象派。絵画を変えた革命家たち」「ダ・ヴィンチ全作品・全解剖」共同執筆。PEN、カーサ・ブルータス、VOGUE Japan、ウェブマガジン「honeyee.com」などの雑誌にも寄稿。