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21_21放談 vol.2 三宅一生×佐藤 卓 「現代ニッポン・コンビニ・考」後編

パリの市場、日本のコンビニ


三宅
若い頃にパリで暮らしていたことがあるんですが、パリではね、通りの広場に市場が立つんですよ。よく行きました。肉屋、八百屋や魚屋、花屋などいろいろな店が出る。それらのお店はね、パリ市内のいろんなところを回っているんです。小さなトラックで定期的に決まった場所にやってきて、何にもない広場にあっという間に台を設置してきれいに商品を並べる。時間がくると、またさっとかたづけて、跡形もなくまたもとの広場になる。その素早さが見事でしたね。
日本でも京都の錦だとか、金沢の近江市場とか、市場があって買い物をしますでしょう。そういうところにはコミュニケーションがありますよね。料理人も来るし、観光客も来る。もちろん、地元の人も。
佐藤
パリの市場でのコミュニケーションはどんな感じなんですか。
三宅
お店の人とお客さん、お客さん同士の2つがありますね。お店の人が今日はこれがあるよ、とか、今日は来るのが遅かったねと話しかけてくる。お客同士のコミュニケーションというのは、市場を歩いていると友だちに会うんですよ。とくに週末の市場ではね。こんにちわ、いま何やっているの? とか言って情報交換したり、今日うちに来いよ、とかね。そういう出会いがある。
佐藤
日本のコンビニって、お客さん同士が話すことはないし、働いているスタッフ、とくにアルバイトの方は短期間で変わってしまうから顔なじみになることもないですし、お店の人ともレジで会計を済ませたらそれ以上の会話もまずない。コミュニケーションという意味からするとまったく違う浸透のしかたであるといえますね。
三宅
そうですね。話しかけるのがはばかられるようなところがありますよね。
佐藤
コンビニでも毎回同じ人が対応していたり、扱っている商品にとても詳しかったりしますと、なにか会話が生まれそうな気がしますね。コンビニにこれから期待したいことではありますね。
これからのコンビニ


三宅
僕はコンビニでスポーツ紙を買うんです。キャッチフレーズが面白いのを直感的に選んで買うのが好きでね。写真も大きいし、面白いですよね。大げさな表現をしていますけど、見ていると元気が出てくるんです。
佐藤
スポーツ紙はグラフィック・デザインとしてかなりアヴァンギャルドなことをやっていますね。学校では習ったこともない、過激な、なかなか新鮮なことをやっていると感じます。
三宅
競争の激しい世界ですからね。朝の出勤の忙しい時間に、いくつも並んでいるなかから1紙を一瞬で取り上げるというのはね。買い物も秒単位で考えないといけない時代なんでしょうね。
佐藤
たぶんコンビニでも同じでしょうね。コンマ何秒かで目にとまるようなパッケージをどうするか、各商品がしのぎを削っている。
三宅
買う方も、頭の中でなにが欲しいかのイメージはあるんだと思うんです。それを速やかに見つける、というところがあるんじゃないかな。だから、ぱっと目について瞬時に買ってもらうような工夫が必要になるわけですね。
佐藤
広告、パッケージの世界では唾液を出させる要素のことをシズルというのですが、今日行ったコンビニは、デザインもそれほど過剰ではなくて、本当においしそうに見えました。一般的にコンビニというのは、唾液も出ないような、蛍光灯の光が強くて影もないような空間のなかですべてが記号化している。おにぎりが食べたいなと思って唾液を出して買うのではなくて、記号で買っている。それに対する反省として、食べるものはおいしくあるべきではないかという思いから、ナチュラルローソンなどが出てきているのではないでしょうか。
三宅
今日のお店はせせこましさがない。それから、おでんのにおいがしない。そのかわりにパンのにおいがする。どうしておでんを置かないんですかって聞いたら、うちはパンを焼いて出していますからということでした。いずれにせよ、日本にこれだけいろいろなコンビニができますとね、僕などは店のつくりがわかりやすそうなところに入ってしまいますね。
佐藤
コンビニ自体のデザインというのも、これからはもっと日本の風土から考えられてもいいでしょうね。やはり審美性といいますか、情報がきちんと整理されていてわかりやすく、いて気持ちがいい、つまり心地よい空間のデザインがなされていく方向もありではないでしょうか。
利益のあげられない商品はすぐに棚から下ろされてしまいますから、日本のコンビニの棚は世界で一番きびしい棚だと言えるんです。ものを育てていこうというメーカーや企業の思いは売り上げ優先のためにぜんぶ切り捨てられてしまう。そのことに対する問題提起というものはある。利益だけを優先していたらナチュラルローソンのような試みはなかったと思うので、そういうところは評価をしていかなければいけないですね。
三宅
今日は、日本人の感性がパッケージや店づくりにちゃんと生きていると思いましたね。
佐藤
よく見ると、日本ならではのデザインが身近にけっこうある。そういう目で見渡してみると、日常生活も面白いなと思いました。海外のコンビニと比べてみる機会もあるといいですね。デザインの違いも見えてくるような気がします。


2006年8月28日 ナチュラルローソン代々木公園西店
および財団法人 三宅一生デザイン文化財団にて収録
構成/カワイイファクトリー 撮影/五十風一晴

今回はナチュラルローソン代々木公園西店にご協力いただきました。お店の前にはガーデンチェアが並び、焼きたてのパンの香りがする新しいタイプのコンビニです。ローソンが5年前から東京都内と近畿圏で展開しているチェーンで、現在、約70店舗あるそうです。
http://natural.lawson.co.jp/

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