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2019年2月 (2)

開催中の企画展「民藝 MINGEI -Another Kind of Art展」で、テキスト執筆を担当した猪飼尚司が、本展の企画に深く携わり感じたこと、考えたことを全2回でお伝えします。
第2回は、人々が民藝に向ける視線を、本展リサーチ中の自身の体験を交えて語ります。

撮影:吉村昌也

「民藝 MINGEI -Another Kind of Art展」の会場にいて、先日ふと気になったことがありました。それは来場していただいた方々が、口々に「これうちにほしいな」と話している点です。

美術展を鑑賞しているときに、美しいとか、素敵だというコメントを発することはあると思うのですが、「ほしい」という所有欲をくすぐるものって珍しくないですか?

でも、これはみなさんに限ったことではありません。
私自身も同じことを何度となくしているのです。

昨年の夏、本展の企画メンバーで栃木県益子町にある濱田庄司記念益子参考館に伺ったときのことでした。我々は、展示にお貸し出しいただくための作品を確認するためにお邪魔していたのですが、いつのまにか取り憑かれるように自分のお気に入りを語りはじめ、仕舞いにはこの作品ならうちのここに置きたいとか、ほかのメンバーが選んだものを、ずるいなどと言って横取りするという妄想ゲームをはじめていたのです。

同様に日本民藝館の館長室で、本展に展示する作品群を選出していたときにも、もののディテールを見る以上に、直感的にお気に入りのものを決めては、自分の頭のなかに並べていました。

撮影:吉村昌也

一般の美術展ではどうでしょう。いくら大きくニュースで取り上げられ、世間で評判になった作品を鑑賞しても、アートコレクターやディーラーでない限り、ほしいと感じる機会は少ないのではないでしょうか?

同じほしいと思う気持ちでも、ブランドものに代表されるような、貴重で高価であることや知名度のあるものを求める気持ちとは異なります。ブランドの多くは、価値判断を第三者に委ねており、自分だけの基準で物事を見極めていることが少ないと思います。

撮影:吉村昌也

目の前のものを無性にほしいと思う。これはものを愛でる、とても自然な感覚だと思うのです。参考館で見た濱田庄司さんのコレクションも、そして日本民藝館が所蔵する柳 宗悦さんのコレクションも、そして本展で確認できる深澤直人さんのコレクションも、みな私たちが会場で「ほしい!」と思った感覚とまったく同じ気持ちにあるのではないでしょうか。

このほしいという気持ちは、自分の意識、感性の表れであり、とても心地よい感覚です。本展でじっくりと作品群と対面しながら、存分に「これほしい!」と実感していただきたいと思います。

撮影:吉村昌也

猪飼尚司


©永禮賢

いかい・ひさし:
大学でジャーナリズムを専攻後、渡仏。1996年帰国し、フリーランスとして活動を開始。現在は、デザイン分野を中心に、国内外で取材を行う。雑誌『Casa Brutus』『Pen』『MILK JAPON』のほか、企業のブランドブックや展覧会テキスト、地場産業プロジェクトのサポートなどを手がける。

毎年2月、スウェーデンではストックホルム・デザインウィークが開催されます。日本とスウェーデンが外交開始150周年を迎えた2018年、21_21 DESIGN SIGHTスタッフが、そのデザインウィークを訪れました。ここでは、その様子をお伝えします。

Stockholm Design Week takes place every year in February. In 2018, the 150th anniversary of establishment of diplomatic relations between Japan and Sweden, 21_21 DESIGN SIGHT staff visited Design Week. Here is a report on my visit.

スウェーデンの首都ストックホルムには、その200平方キロメートルあまりの土地に数々の美術館や劇場、アトリエが集まっています。デザインウィークの時期にはそのあちこちで催しが開かれます。
初日に訪れたのは、The Royal Academy of Fine Artsの異なる世代の3人のメンバーが、それぞれの仕事を紹介する展覧会『INSIDE architecture』です。例えば公共空間で実際に使われている家具など、これから巡るストックホルムの街を彩るデザインに出会うことができました。

Stockholm, the capital of Sweden, covering an area of 200 square kilometers, is home to dozens of museums, theaters and workshops. Design Week events take place at various venues throughout the city. The first day, I visited the Royal Academy of Fine Arts' "INSIDE architecture" exhibit, which showcased the work of three of its members belonging to different generations. There I viewed designs such as furniture actually used in public spaces, and other works gracing the Stockholm cityscape through which I would soon be walking.

2日目は、大規模な家具の展示会、Stockholm Furniture & Light Fairを見学しました。北欧を代表するインテリアブランドの展示の中には、日本のクリエイターによる作品もいくつか見られるものの、日本からの参加は、出展も来場もまだとても少ないといいます。

On the second day, I visited the Stockholm Furniture & Light Fair, a major furniture show. Well known Scandinavian decorator brands were on display and I also spotted a number of works by Japanese creators. However, Japanese participants and exhibitors in the show are still very few.

その夜には、オープンを翌日に控えたMuseum of Furniture Studiesを一足先に見学しました。所狭しと並ぶ名だたるデザイナーの作品はどれも、Kersti SandinとLars Bülowの個人蔵のものだそうです。

In the evening, I went to the Museum of Furniture Studies, which would be opening the following day. The space was crammed with works by famous designers, all of which are from the personal collections of Kersti Sandin and Lars Bülow.

3日目には、ArkDesのYoung Swedish Design 2018を訪れました。アート、デザイン、建築、インテリア、衣服など様々な分野のこれからを担う若いクリエイターの作品が集まります。このArkDesは、ストックホルム近代美術館に併設されています。館内には、展示室のほかに読書やワークショップのためのスペースもあり、外は吹雪にもかかわらず館内は賑わっていました。

On the third day, we visited ArkDes' Young Swedish Design 2018. This show featured the works of young creators in several fields, including art, design, architecture, decorating and clothing. ArkDes is housed in Stockholm's Museum of Modern Art. In addition to exhibition spaces, the museum offers areas for reading or for workshops, and although a snowstorm was raging outside, the museum was full of visitors.

最終日に訪れたのは、ストックホルム郊外にあるDesign Lab Sです。ここは、8歳から15歳までと、80歳以上の人なら誰でも参加できるデザインラボです。子どもたちが編集者になって特集を考える、掲載する商品や写真を選び、プロのライターやカメラマンとともに本をつくった大プロジェクトを紹介してくれました。

On the last day of our visit, I went to Design Lab S, located on the outskirts of Stockholm. This is a design lab for youngsters aged 8 to 15 and seniors 80 and over that's open to anyone in those age groups. I was introduced to a major magazine production project, where the children acted as editors deciding on products to be highlighted in a special feature, choosing photos, and working with professional writers and photographers to produce the magazine.

他にも、デザイナーやアーティストのアトリエを見学したり、テキスタイルショップで行われる展示を見たり、美術館を巡ったりと、盛りだくさんの数日間でした。
小さな都市にスウェーデンの最新のデザインシーンが凝縮され、短い期間で数々の体験ができるストックホルム・デザインウィーク。北欧へお出かけの際には、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

During my trip I also went to designers' and artists' workshops, viewed an exhibit at a textile shop, and visited several museums. All in all, I was able to have a multitude of interesting experiences.
Stockholm Design Week was a wonderful experience, where I could encounter the most cutting-edge design movements concentrated in a small city. I heartily recommend that you visit when you travel to Scandinavia.

21_21 DESIGN SIGHT 田代未来子
Written by Mikiko Tashiro, 21_21 DESIGN SIGHT