2016年3月 (4)

「雑貨展」特別対談 深澤直人と葛西 薫が語る「雑貨」(第3回)

開催中の企画展「雑貨展」で、展覧会ディレクターを務めたプロダクトデザイナーの深澤直人と、展覧会グラフィックを手掛けたグラフィックデザイナーの葛西 薫。分野は異なれどデザインに通じ、「雑貨」に深い関心を持つ二人が、展覧会オープン前日の会場をともに回りました。
会場に並ぶ数々の雑貨や作品をきっかけに、二人が「雑貨」への思いを語る様子を紹介します。

>>第2回へ戻る

葛西:子どもの頃、文房具屋に行くのが好きだったんですよね。ちまちましているものが好きで(笑)。今でもそういうところがあって、必要もないのに買ってしまうんですけども。昔、僕が中学生とか高校生とかのころに。セーラーの万年筆で「セーラー・ミニ」というのがあったんですよ。閉じると短くなってて、かっこ良かった。

深澤:サイズが小さくなると、急に魅力的になったりしますよね。実は今回の展覧会で、僕が台湾で見つけてきた、サントリーのウイスキーの角瓶の小さいのを展示しているんです。雑貨展の企画が始まるときに、頭の中で「雑貨、雑貨」と思いながら歩いていたときに見つけまして。なんかかわいいんですよね。これは台湾のコンビニで売るためにこういうサイズになったもので、デザイン的な観点で小さくしたわけでないんでしょうけれど。

葛西:僕も今日、自分なりの「雑貨」を持参してきました。これは僕がデザイナーになろうと東京に来てはじめて買った色鉛筆。これはよくできていて、40数年使っていてまだ使い切らないんです。あとこれも1970年代くらいのもので、伊東屋で手に入れたテープカッター。テープがさっとつかめて、今も愛用していています。復刻販売して欲しいですね。これはただ土産物屋で買ったんですけど、パーカーのインクの入れ物。こっちは本の装丁用の道具。僕は自分で束見本を作るときに、糊をつけてぎゅっと締めて使う。なかなか実用的なんです。

深澤:葛西さんが持っているからこそ雑貨になった、というモノたちですね。とても面白い。

葛西:僕にとっての雑貨は「たわし」みたいな、実用的なモノの中にあるんだろうな。ただ、ひとつひとつのものの魅力とは別に、それらをこうして並べていくことで、また違った見え方をするのが面白いですね。

>>第4回へつづく

構成・文:井出幸亮
写真:大谷宗平/NACASA&PARTNERS, Inc.

「雑貨展」特別対談 深澤直人と葛西 薫が語る「雑貨」(第2回)

開催中の企画展「雑貨展」で、展覧会ディレクターを務めたプロダクトデザイナーの深澤直人と、展覧会グラフィックを手掛けたグラフィックデザイナーの葛西 薫。分野は異なれどデザインに通じ、「雑貨」に深い関心を持つ二人が、展覧会オープン前日の会場をともに回りました。
会場に並ぶ数々の雑貨や作品をきっかけに、二人が「雑貨」への思いを語る様子を紹介します。

>>第1回へ戻る

葛西:深澤さんはご自分の作品が雑貨として一緒に並べられるのは嬉しいと仰っていましたけど、そうではない人もいるでしょうね。

深澤:そう、「自分のつくったものは"雑貨"じゃないよ」という人もいるかもしれない。僕もその気持ちが分からないわけではないんです。矛盾してますよね。でも、この展覧会では出展者の方それぞれが自分の好きなもの、気持ちが良いと思うものが集まっているわけだから、その中に自分のつくったものが置かれることはやっぱり嬉しい。彼らは「モノの魅力に対するこだわり」の頂点にいるような人たちですけれども、そのこだわりとは常に「比較すること」でもあるわけで、色々なモノの中から「こっちの方が何となく好きだな」と選びとっていく作業の結果ですから。

葛西:誰でも、無意識なレベルで「かたちフェチ」みたいなところがあって、モノを見たり触ったりする中で「このカーブが何だかいいぞ」みたいに、生理的にグッとくることがあるんですよね。理屈では説明できないんですが。そういう、僕たちデザイナーができないこと雑貨たちはやってくれるんですよ。意表を突かれて驚かされたり。あと、洗練され過ぎてないというところも重要ですよね。僕自身、デザイナーになりたての頃は、ビシっとした冷たいイメージが好きで憧れていましたが、今は変わりましたね。

深澤:そう、僕もずっと「寸分も間違いのない綺麗な線が引きたい」と思っていましたが、それよりも人間味をもって崩すほうが難しいですよね。雑貨のカテゴリーの中に入るモノを意図してつくろうとするのはとても難しい。

葛西:例えば、職人が仕事で使う道具って、木の堅さや重さだとか、素材の持つ機能や質感に素直に従ってつくられていたりしますよね。そうやってできたモノに対して、すごいショックを受けることがあります。「デザイナーなんていらないんじゃないか」って思わされるというか。雑貨にもそれと似たものを感じることがありますね。もちろんデザイナーが悪いというわけではありませんが、デザインって「後から生まれるもの」なのかなと思ったりします。

深澤:実際、デザイナーというのが「つくる」側から「選ぶ」側になってきているような面もありますね。いわゆる「目利き」。選んで、編集する。今回の展覧会ではそうした側面も強く感じられると思います。

>>第3回へつづく

構成・文:井出幸亮
写真:大谷宗平/NACASA&PARTNERS, Inc.

「雑貨展」特別対談 深澤直人と葛西 薫が語る「雑貨」(第1回)

開催中の企画展「雑貨展」で、展覧会ディレクターを務めたプロダクトデザイナーの深澤直人と、展覧会グラフィックを手掛けたグラフィックデザイナーの葛西 薫。分野は異なれどデザインに通じ、「雑貨」に深い関心を持つ二人が、展覧会オープン前日の会場をともに回りました。
会場に並ぶ数々の雑貨や作品をきっかけに、二人が「雑貨」への思いを語る様子を紹介します。

葛西:『雑貨展』という言葉を聞いた瞬間に、何となくすぐ雰囲気が分かったんですよ。高級すぎず下品でもない、だけど大切なもの、という感じがパッと分かったので、わりとあっという間に展覧会タイトルのレタリングができたんです。これが「大骨董市」とか「江戸の銘品」とかだとしたらそう簡単にできなかったはずで。だけど今回は最初の打合せの段階で、すぐにある輪郭が見えてきましたね。

深澤:お互い違う分野のデザイナーですけれども、ものが生み出される時ってそういう感じですよね。議論して決めていくということはない。葛西さんはいつも色々な要素を凝縮して結晶化させるような仕事をされているから、このレタリングの中にも雑貨というもののエッセンスが入っている。だから観る側も「これ、雑貨だよね」とすぐにピンと来るし、そのレタリング自体が「雑貨だと感じるもの」を何でも投げ込める枠のようになったというか。

葛西:この字は正方形の紙に鉛筆で文字を描いてカッターで切った「切絵字」なんですよ。

深澤:染色工芸家の芹沢銈介は型紙を切っていくとき、下書きの線の通りには切らないらしいんですよ。むしろ少しズレてしまったほうが良いと言うんです。

葛西:僕も切る瞬間には「こっちかな」と探りながら、あえて鉛筆の線からズラして切っています。そういう作業を通して生まれる、偶然のバラつきが楽しいんですよね。

深澤:これを見た瞬間、「ああ! 雑貨だ」と。雑貨って「雑」ゆえに均一なグリッドに収まらないものですよね。だけど、結局自然界にあるものはみんなすべて形がバラバラなわけで。雑貨とはそんな風にすべてを飲みこんでしまう言葉なんですよね。先日、海外のメディアからこの展覧会について取材を受けたときに、先方から「"雑貨"は哲学的な概念であるように思いますが」と聞かれたんですが、確かにそうなのかも知れないなと。

葛西:そう、「雑貨」ってすごく曖昧な概念だし、それぞれのモノが「言葉にならない何か」を醸しているようなものですからね。

深澤:僕はプロダクトデザイナーなので、常にそうした感覚は切り離せないんです。雑貨と呼ばれるようなモノが放っている魅力とは何か?ということはいつも考えていて、それらと自分が創りだすモノの魅力が同じレベルまで到達しているかというのを、ひとつのメジャーにしているようなところがあります。実は今回、展示された雑貨の中にも自分がデザインしたプロダクトが入っていて、それを客観的に見ることができたんですが、自分が全然いままで感じたことのない感覚というか、展示した人自身の生活観みたいなものがそこに含まれているのを感じました。とにかく、マックス・ビルの世界の名品のスツールも、エットレ・ソットサスも、こうやって生活の中で使われる雑貨と一緒に並べてみると、みんな同じ「雑貨」になってしまう。こんなことが許されるんでしょうか(笑)。

>>第2回へつづく

構成・文:井出幸亮
写真:大谷宗平/NACASA&PARTNERS, Inc.

「WE MAKE CARPETS, the making of -雑貨からカーペットへ-」を開催

2016年2月28日、オランダから本展のために来日した参加作家「WE MAKE CARPETS」によるトークイベントを開催しました。これまでにも世界各地でその土地の文化を汲み取りながら、生活を取り巻く様々な日用品を用いて作品を制作してきたWE MAKE CARPETS。本展開催にあわせて約3週間日本に滞在し、日本の雑貨で美しいカーペットを完成させた今回のプロジェクトについて、普段は明かさないという舞台裏を語りました。

「雑貨展」の会場で一際目を引くカラフルな作品『Hook Carpet』。その美しい模様にじっと目を凝らすと、カーペットをかたちづくるパーツのひとつひとつがS字フックであることに気がつきます。サンクンコートに並べられるカラフルなフックの総数は、なんと8千個。ストローや絆創膏、洗濯バサミからパスタまで、様々な日用品を使ってカーペットを制作し続けてきた彼らは、今回S字フックを材料として選んだ理由として、屋外展示に強いプラスチック製であることや、大量生産による安価な値段など、展示に必要な条件が合致することに加え、カーブを描くかたちの美しさを挙げました。


Photo: 大谷宗平/Nacasa&Partners, Inc.

カーペットの材料がフックに決まると、展示場所の面積をもとに必要となる個数を割り出して、取寄せ作業に移っていきます。今回のプロジェクトでは制作時間が限られていたために一括購入はできず、都内の100円ショップ20店舗から2日間で8千個のフックを掻き集めることとなりました。そこで役立ったというのが商品についているバーコード。在庫情報が瞬時に分かるこの数字列に彼らは、生活を取り巻くモノの流通について深く考えさせられたと話します。店舗から8千個のフックを集められたということは、それだけの数が社会に流通しているということ。今回のプロジェクトが彼らにとっても驚きの連続であったことを強調しました。

大量のフックが集まるといよいよカーペットの制作が開始。サンクンコートを大きなキャンバスに、フックで模様を描き出していきます。興味深いのは、彼らが制作のために図面等を一切用意しないということ。3人で協力しながら手探りで組み立てます。大事にしていると話すのが「Intuition(直感)」と「Symmetry(対称)」という2つのキーワード。浮かんだアイデアを互いに共有し、全員が納得できたら細部をコピーし合い、カーペットづくりのために編み出した共通言語や、スマートフォンのカメラ機能を上手く利用しながら、カーペットを左右上下対称に拡張していくことを説明しました。

私たちの多くは普段、大量生産され、流通している日用品を定められた用途に沿って使います。しかしながらWE MAKE CARPETSは、S字フックに「掛ける」という機能以外の側面を見出しました。誰も注意を向けることのない機能重視の雑貨が「アートワーク」に変わる瞬間です。どれくらいの人数で、どれくらいの時間をかけて、どうやってつくり上げたのか、WE MAKE CARPETSの3人は、「雑貨展」の来場者に、想像しながらカーペットを見てほしいと話します。『Hook Carpet』を通して、私たちを取り巻く「雑貨」に思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。

Page Top