2016年11月 (5)

トーク「『分かる』ことと、『感じる』こと。」を開催

2016年11月26日、企画展「デザインの解剖展: 身近なものから世界を見る方法」に関連して、トーク「『分かる』ことと、『感じること』こと。」を開催しました。トークには、解剖学者の養老孟司と、グラフィックデザイナーで本展ディレクターの佐藤 卓が登壇しました。

「分かること」、そして「感じること」とは何か。私たちはどのように世界を認知し、ものごとに関わっているのでしょうか。分かることに本来限界はなく、感じることは現代社会において制限されているとトークは始まり、環境や社会によっていかに人々の感覚は鈍くなっているかと両者は見解を述べます。人間は意識と感覚を持ち合わせていながら、社会に暮らすうえで、自ら「感じること」を通念的な意識で抑圧するために、世界は均一化の方向に進みがちであると養老は語りました。

養老は、感覚は世界の違いをひたすら捉えていると語ります。概念上、当たり前のように存在しているものに対し、改めてそれぞれの違いを感覚に訴えかけるような現場をつくり出すこと。本展は、その違いを知るきっかけになりうると感じられるトークとなりました。

ワークショップ「みんなでカイボウ!見る方法」を開催

2016年11月19日、本展企画制作協力の岡崎智弘と技術協力の橋本俊行(aircord)による「みんなでカイボウ!見る方法」を開催しました。
このワークショップでは、身近なパッケージの一例として「牛乳パック」をとりあげ、解剖。パッケージデザインされる前の真っ白な牛乳パックを参加者が観察し、自分だけの解剖作品を制作しました。

今回のワークショップではまず、岡崎からパッケージデザインの役割と、解剖をするときの見方や方法について子どもたちに説明しました。子どもたちは真っ白な牛乳パックを眺めながら、アイデアを練ります。

会場に用意された本展の5製品を解剖した要素のカッティングシート、マジックペンなどを使って、夢中でデザインをしていきます。

牛乳の「生産者」について解剖した作品や、「色」「リサイクル」「文字」など、子どもたちがそれぞれの解剖の視点を持っていることがわかります。真っ白だった牛乳パックが子どもたちの自由な発想によって、新しいパッケージデザインに生まれかわりました。

最後に、制作した牛乳パックの正面、左側面、右側面、上部を撮影します。撮影した写真が一冊にまとめ、自ら「解剖本」に製本しました。自分だけの「解剖本」に子どもたちは嬉しそうな表情を浮かべます。
この解剖本に、どんな視点からデザインしたのか、パッケージから何を伝えたかったのか、一番気に入っているところなどを自分の言葉で説明していきます。

パッケージデザインの役割を学び、伝えたい情報が何かを考え、実際にデザインする体験を通じて、「つくること」「見ること」「伝えること」を楽しく体験することができ、充実した時間となりました。
わたしたちの身の回りに当たり前のように存在するたくさんの製品について改めて意識し、興味を持つ機会となったことでしょう。

佐藤 卓が語る「デザインの解剖」とは 後編

先日、スタートした「デザインの解剖展: 身近なものから世界を見る方法」では、広く親しまれている明治の5つの製品を、デザインの視点で"解剖"しています。
展覧会ディレクターを務める佐藤 卓に、彼が今まで取り組んできたデザインの解剖と、今回の展覧会の見どころについて聞きました。

聞き手:土田貴宏

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「デザインの解剖展: 身近なものから世界を見る方法」会場風景 (Photo: Satoshi Asakawa)

—今回の「デザインの解剖展」で、明治の製品を取り上げたのはなぜですか。

「デザインの解剖」を始めて間もない頃から、ある企業の複数の製品を解剖して、企業というものが社会の中でどんな存在意義を持っているのか研究したいと考えるようになりました。明治は以前に「デザインの解剖」で「明治おいしい牛乳」を取り上げたことがあり、文化活動にとても理解があると感じていたのですが、今回、私たちの思いに対して協力していただけることになりました。

—展示の中心になっている「きのこの山」「明治ミルクチョコレート」「明治ブルガリアヨーグルト」「明治エッセルスーパーカップ」「明治おいしい牛乳」という5つの製品は、どのように選んだのですか。

「デザインの解剖」で取り上げるのは、私がデザインに携わったものかどうかにかかわらず、多くの人に知られているものであることをルールにしています。明治の中でも人気のある代表的な製品で、できるだけ異なるカテゴリーのものから選びました。この点については、企業側はすべての製品に思い入れがあるので選ぶことはできません。こちらで選んだものについて明治とディスカッションしながら決定していきました。あくまでこちらが主体になり、デザインというメスを使って製品の解剖をしていくわけです。


「デザインの解剖展: 身近なものから世界を見る方法」会場風景 (Photo: Satoshi Asakawa)

—これまでの「デザインの解剖」に比べて、解剖の枠を超えて生まれた作品も多く展示されていますね。

若い世代のクリエイターが参加作家としてかかわり、新しい視点や技術によって解剖を解釈してくれました。デザインを解剖する中で浮かんできたテーマをお渡しして、それをもとに自由に作品を制作してもらっています。企画制作協力として采配を振るってくれたのは、テレビ番組「デザインあ」でも一緒に仕事をしている岡崎智弘さんで、彼は若いクリエイターとの間にすばらしいネットワークがあるんです。思いがけないおもしろい作品がたくさん生まれて、解剖の可能性を広げてくれていると思います。

—会場構成も佐藤さんが手がけていますが、どんな特徴がありますか。

今回の展覧会と並行して、展覧会で取り上げた5つの製品の書籍を制作していて、その書籍の文章のほとんどすべてを項目ごとに会場で掲示しています。5冊分の内容があるので、今までの21_21 DESIGN SIGHTの展覧会でいちばん文字の多い展覧会になりました。とはいえ来場した方は、全部の文章を読まなくても構いません。項目ごとに要約した短い文章がつけてあるので、気になったところだけじっくり読んでください。新聞やインターネットの記事も、隅から隅まで読む前提にはなっていないですよね。順路はありますが、自由に楽しみながら読み進めてかまわないわけです。


「デザインの解剖展: 身近なものから世界を見る方法」会場風景 (Photo: Satoshi Asakawa)

—これから「デザインの解剖展」に来場される方にメッセージをお願いします。

「デザインの解剖」の視点を持っていると、今まで気づかなかったものが見えてきます。目に見えるものから細かく見て、その奥にも興味を持ち、内側に入っていくとさらに見えてくるものがある、ということです。そして本質までたどり着いた上で、どうすべきかを考える。この方法はOSのようなもので、誰もが自分の中に持って、カスタマイズすることもできます。物事の表層を見るだけでは、対症療法しか思いつきません。また現在のものづくりを支えているのは、20世紀に発達した技術の成果です。その細部に目を凝らしていくと、自然と新しいアイデアが浮かんでくる。21世紀に我々がどうすべきかが見えてくるんです。まさに温故知新ですね。この展覧会でも、そんなデザインの可能性を感じていただけたら嬉しいです。

トーク「アートとデザイン」を開催

2016年10月29日、企画展「デザインの解剖展: 身近なものから世界を見る方法」に関連して、トーク「アートとデザイン」を開催しました。トークには、美術家の大竹伸朗と、グラフィックデザイナーで本展ディレクターの佐藤 卓が登壇しました。

大竹と佐藤は、同じ年に生まれ、幼少時代を同じ街で暮らしました。さらに、のちには二人とも美術大学を目指し、入学しています。トークのはじめに二人は、当時の東京の様子や日本の美術界の状況を、自身の活動を交えながら振り返りました。続いて、大竹は美術家として、佐藤はグラフィックデザイナーとしてそれぞれの視点から、今見ている世界を語ります。幼少時代には近しい思い出を持っている二人ですが、現在の活動や生活、考え方について語り出すと、お互いに驚きや発見も数多く見つかります。

最後には、会場の参加者との間で質疑応答も行われ、私たちの生きる日常は、それを見る視点、解剖する道具によって、さまざまな側面をみせることを実感するトークとなりました。

佐藤 卓が語る「デザインの解剖」とは 前編

先日、スタートした「デザインの解剖展: 身近なものから世界を見る方法」では、広く親しまれている明治の5つの製品を、デザインの視点で"解剖"しています。
展覧会ディレクターを務める佐藤 卓に、彼が今まで取り組んできたデザインの解剖と、今回の展覧会の見どころについて聞きました。

聞き手:土田貴宏

—佐藤さんは、2001年の「デザインの解剖」展を皮切りに、これまでにいくつもの商品を解剖する展覧会を開催してきました。そのきっかけを教えてください。

私は30年以上にわたり、大量生産品のパッケージなどを数多くデザインしています。デザインというと、クルマ、家具、服などのデザインは注目される機会が多いのですが、大量生産品のデザインはあまり取り上げられることがありません。しかしそれらは大量に流通するため、資源をたくさん使い、たくさんのゴミになる。そのパッケージが残念なデザインなら、コンビニやスーパーの売場も美しくなりません。デザイナーとして、こうしたものづくりの裏側を知り、いろいろ経験してきました。
あるとき、大学で学生の前で話をすることがあり、私がつくった誰も見たことのないポスターの話より、ポケットに入っているチューインガムのデザインの話のほうがみんなが興味をもつことに気づきました。
2001年に銀座松屋のデザインギャラリーで展覧会をすることになり、そんな裏側を知ってもらう展示として企画したのが最初の「デザインの解剖」展でした。

「デザインの解剖2: 富士フイルム 写ルンです」2002年5月15日-6月10日、松屋銀座 デザインギャラリー1953 (Photo: Ayumi Okubo)

—「デザインの解剖」は、外側から内側へ、つまり商品名やパッケージから中身、そして原材料へと解剖していきます。当時からそのような手法を採っていたのですか?

最初の展覧会の会場は百貨店の中のギャラリーだったので、来場者の幅が広く、デザインに興味のない人もいました。そういうごく一般の人も興味が持てるように、誰でも目にしたことがあって、自分がデザインしているので詳しく知ってもいる製品のパッケージを最初に見せようと考えました。最初から原材料の難しい話をしても、誰も観てみようとは思いませんよね。このときに初めて「これは解剖だな」と思ったんです。当時は二十数個の項目に分けて解剖しましたが、今回は一製品につき五十項目以上に増えていて、参加作家がテーマに沿って自由に発想した作品もあります。このように「デザインの解剖」プロジェクトは発展しているんです。

「デザインの解剖4: 明治乳業(現: 明治)明治おいしい牛乳」2003年8月13日-9月8日、松屋銀座 デザインギャラリー1953(Photo: Ayumi Okubo)

—「デザインの解剖」は、「デザインの視点で解剖すること」がテーマになっています。その「デザインの視点」とは何でしょうか?

たとえば「明治おいしい牛乳」をデザインしたのは佐藤 卓ということになっています。しかし私はパッケージのグラフィックをデザインしただけで、製品には他にも無数のデザインがあるのです。チューインガムなら、形、色、味、どれくらい味が続くかなど、すべての要素がいろいろな角度から考えられ、研究され、設計されています。これこそデザインなんだと気づいたときは、背中がゾクゾクしましたね。
「デザインの解剖」では、こうしたプロセスにかかわる人はあえて出さず、ものにフォーカスすることをルールにしています。それでも必ず、誰かが意志を持ってデザインをしているのです。彼らはデザイナーと呼ばれず、研究者や開発者として仕事をしていますが、私に言わせればやっていることは明らかにデザインです。このように、すべての行程をデザインとして見てみるということです。

「デザインの解剖展: 身近なものから世界を見る方法」会場風景 (Photo: Satoshi Asakawa)

—ものづくりにかかわる人の存在が浮かび上がることで、副題にあるように「身近なものから世界が見えてくる」気がします。

そして1つ1つのプロセスは、さまざまな素材ともつながっています。パッケージの情報は印刷されているので、印刷会社がかかわっている。印刷に使うインクはインクのメーカーが製造していて、さらにその原材料は別の企業から供給されている。1つの要素を辿っていくだけで、ありとあらゆるつながりが見えてきます。網の目のように張り巡らされた過程の末に製品が存在するということです。私たちは、そのすべてを普段から意識し続けることはできません。でもときには、そんな視点を持った上で物事を見てみてはどうかと思います。

>>後編につづく

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