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2019年7月 (4)

2019年7月21日、企画展「虫展 −デザインのお手本−」の展覧会ディレクター 佐藤 卓と企画監修 養老孟司によるオープニングトーク「虫はデザインのお手本」を開催しました。

トークでは、本展と二人にまつわるいくつかのトピックが語られました。「象虫」、「虫塚法要」、「分ける。分かる。分からない」、「意識と感覚」、「遺伝子系の進化と神経系の進化」、「人と虫」と議題をあげ、人々が虫から気づくことの重要性について語りました。

2019年7月18日、21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2では、企画展「虫展 −デザインのお手本−」がいよいよ開幕します。

自然を映し出す存在である、虫。私たちの身近にいながら、そのほとんどの生態はわかっていません。人類よりもずっと長い歴史のなかで進化を続けてきた虫の姿からは、さまざまな創造の可能性が浮かび上がってきます。

本展覧会では、デザイナー、建築家、構造家、アーティストたちが、それぞれ虫から着想を得た作品を展示します。小さな身体を支える骨格を人工物に当てはめてみたり、翅(はね)を上手にしまう仕組みをロボットに応用してみたり、幼虫がつくり出す巣の構造を建築に当てはめてみたり...。
クリエイターが、そして訪れる一人ひとりが、虫の多様性や人間との関係性を通して、デザインの新たな一面を虫から学ぶ展覧会です。

写真:淺川 敏/Photo: Satoshi Asakawa

また、ギャラリー3には「虫展 −デザインのお手本−」にあわせて、自然の造形美を伝えるプロダクトを発信するウサギノネドコを紹介するPOP-UP SHOPが、2019年7月28日までの期間限定で登場しています。植物の美しいかたちに着眼し、花や種子をアクリルに封入した「Sola cube」を中心に、ウサギノネドコのオリジナルプロダクトが一堂に会します。展覧会とあわせてお楽しみください。

Photo: Masaya Yoshimura

ANSA通信は、1945年に設立されたイタリアを代表する通信社です。このたび、旅と芸術、美をテーマとした特集記事で、「日常生活のためのプロダクトやインテリアに焦点を当てる世界の数多くのデザインミュージアム」のうち、「歴史的建造物もしくは著名建築家の手による壮観な建築空間に居を構える、世界的なデザインミュージアム10館」のひとつとして、以下のミュージアムとともに、21_21 DESIGN SIGHTが紹介されました。

トリエンナーレ・デザインミュージアム(イタリア/ミラノ)
デザインミュージアム(イギリス/ロンドン)
ヴィトラ・デザインミュージアム(ドイツ/ヴァイル・アム・ライン)
デザインミュージアム(フィンランド/ヘルシンキ)
デザインミュージアム(スペイン/バルセロナ)
装飾美術館(フランス/パリ)
デンマーク・デザインミュージアム(デンマーク/コペンハーゲン)
アート&デザインミュージアム(アメリカ/ニューヨーク)
東大門デザインプラザ(韓国/ソウル)

21_21 DESIGN SIGHTについては、「日本の東京・六本木には、デザインおよびその潮流を読み解くことのできる、大変興味深い21_21 DESIGN SIGHTがある。2007年にデザイナーの三宅一生によって創立されたこのデザイン施設は、建築家 安藤忠雄設計のスチールとガラスによる未来的な建築が緑地庭園の一角に居を構え、卓越した充実のプログラムを誇っている」と評するほか、「この施設の設立理念は、単なる展示紹介の場を超えて、我々の日常生活を豊かにするデザインの可能性を探求する場を創出し、我々をとりまく世界やものごとに対する様々な視点や見方を提供しながら、人々のデザインへの関心を高めることである」と紹介しています。

記事全文(イタリア語)はANSAウェブサイト〈© Copyright ANSA〉をご覧ください。

2019年7月19日より開催となる企画展「虫展 −デザインのお手本−」。その準備段階では、展覧会ディレクターの佐藤 卓、企画監修の養老孟司のもと、これまでなかなか出会う機会のなかった虫のスペシャリストを訪ね、虫への理解を深めてきました。ここでは、本展テキストを担当する角尾 舞が、その一部をレポートします。

さて、ラオス

大型連休のさなかに元号が変わり、どこか新年のようなムードの5月3日の朝、3人で成田空港に集まった。7月19日から21_21 DESIGN SIGHTではじまる「虫展 −デザインのお手本−」の出展作品の一つ、ラオスの山奥で蛾と共に暮らす青年の、ドキュメンタリー映像を撮影にいく旅がはじまる。厳密には出張だけれど、今回はどこか、旅といってもよい風情がある気がしている。

朝8時45分、23番搭乗口。佐藤 卓さんは、いつもと変わらない飄々とした笑顔で現れた。
「人生でこんな機会ないじゃない。絶対に行きたいと思っちゃったんだよね。展覧会の準備をしていると、なかなか会うことがない人に会えるのが、ほんとに楽しいんだよね」。

卓さんが養老孟司さんから紹介された、ラオスに暮らす青年、小林真大(まお)さん。彼を訪れる計画は、卓さんの一声で始まった。映像作家の岡 篤郎さんと、本展でテキストを担当するわたしが、今回の旅の同行者。会場テキストと直接は関係ないものの、今回の旅の記録をつけてみることにする。

トランジット先のホーチミン空港に着いたのは、現地時間の14時。5時間半ほど機内にいた。外は36度だという。トランジットまでの約一時間、小腹を満たそうと、3人でフォーを食べることにした。岡さんが、機材としてドローンを持ってきた話を聞く。卓さんのご親戚はラジコンのエンジンをつくっていたらしく、昔はずいぶんラジコンの飛行機を飛ばしていたそう。

20分遅れで、ラオス・ヴィエンチャン行きの飛行機は離陸した。カンボジアを経由して、ヴィエンチャンへ。ヴィエンチャンの空港で合流した卓さんは「そんな遠くもないのに、こんなに時間がかかるなんて」と話していた。

イミグレーションの人から「どこに滞在するのか?」と聞かれた。「ヴィエンチャンに一泊したら、プークンにいく」と答えたら「山...?」と言われた。そっか、山なんだ。空港を出ると、小林さんが、ラオスに長く住む若原弘之さんと、小林さんと同じくブレイクダンスを踊る太田行耶さん(通称ひげさん)と一緒に待っていてくれた。ロケバスのような大きなバンが迎えにきてくれて、荷物を詰め込み、ホテルに向かった。

「東京という虫を排除している街で、自然を感じてもらいたい」と卓さんが話すと、それに応えるように、若原さんの話がノンストップで始まった。

ホテルには10分ほどで着いたけれど、ロビーで2時間以上、若原さんの話を聞いた。若原さんについては、「考える人」(新潮社)の養老さんによる記事を事前に読ませていただいていたけれど、たしかに日本人には見えない。ラオスという国にあまりに馴染んでいる。そして、ウソかホントかなんてどうでもよくなるような、人生を10回やってもたどり着けない境地の話が次々と飛び出てくる。

若原さんは、早口だ。お話が止まらない。バンの中でも、ホテルのロビーでも、ずっとお話ししている。そして、内容のスケールが違いすぎて、頭が追いつかない。卓さんもずっと「えー!」とか「おー!」とかと叫んでいる。そう叫ぶほかない。

聞いた話を全部書くと、あっという間に数万文字になってしまうから、大幅に割愛するけれど、若原さんは、高校を出るか出ないかで海外に出た。日本にいる期間は全部合わせても20年に満たないという。ずっと蝶を採るのに熱心で、それは今も昔も変わらない。虫を採ることに人生をかけてきた。聞いている限り、あまりにかけすぎてきた。
最初に住んだのはインドネシアだった。人を雇って昆虫を採り、標本にして売る仕事を始めたが、諸外国からペットショップなどがやってきたため撤退したそうだ。

次に行ったのは、中国。ある研究所に就いて、研究方法を教える名目で約1,200人の研究員と蝶を採っていたという。5年ほどたったある日、突然解雇を言い渡される。それだけでなく、いきなり逮捕。3日後に言い渡されたのは、なんと死刑だったそう。カゴに入れられて街内を引きずり回され、石を投げられ、死を覚悟したとき、香港へ追放へとなった。「僕の犯罪は一人も被害者がいない。だって蝶を採ってただけだもん」。

受け入れられた香港で「次にどこに行きたい?」と聞かれたので、ラオスと答え、無事にラオスへ。そして今にいたる......という。そのままハリウッド映画になりそうなストーリーが繰り広げられ、我々の頭は混乱しっぱなし。しかしどこまでいっても、若原さんの話の中心は、虫だった。

>> Vol.2に続く

文・写真 角尾 舞