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思わずこぼれ落ちる言葉。愛でる気持ちと純粋に向き合う

2019年2月23日 12:00民藝 MINGEI -Another Kind of Art展

開催中の企画展「民藝 MINGEI -Another Kind of Art展」で、テキスト執筆を担当した猪飼尚司が、本展の企画に深く携わり感じたこと、考えたことを全2回でお伝えします。
第2回は、人々が民藝に向ける視線を、本展リサーチ中の自身の体験を交えて語ります。

撮影:吉村昌也

「民藝 MINGEI -Another Kind of Art展」の会場にいて、先日ふと気になったことがありました。それは来場していただいた方々が、口々に「これうちにほしいな」と話している点です。

美術展を鑑賞しているときに、美しいとか、素敵だというコメントを発することはあると思うのですが、「ほしい」という所有欲をくすぐるものって珍しくないですか?

でも、これはみなさんに限ったことではありません。
私自身も同じことを何度となくしているのです。

昨年の夏、本展の企画メンバーで栃木県益子町にある濱田庄司記念益子参考館に伺ったときのことでした。我々は、展示にお貸し出しいただくための作品を確認するためにお邪魔していたのですが、いつのまにか取り憑かれるように自分のお気に入りを語りはじめ、仕舞いにはこの作品ならうちのここに置きたいとか、ほかのメンバーが選んだものを、ずるいなどと言って横取りするという妄想ゲームをはじめていたのです。

同様に日本民藝館の館長室で、本展に展示する作品群を選出していたときにも、もののディテールを見る以上に、直感的にお気に入りのものを決めては、自分の頭のなかに並べていました。

撮影:吉村昌也

一般の美術展ではどうでしょう。いくら大きくニュースで取り上げられ、世間で評判になった作品を鑑賞しても、アートコレクターやディーラーでない限り、ほしいと感じる機会は少ないのではないでしょうか?

同じほしいと思う気持ちでも、ブランドものに代表されるような、貴重で高価であることや知名度のあるものを求める気持ちとは異なります。ブランドの多くは、価値判断を第三者に委ねており、自分だけの基準で物事を見極めていることが少ないと思います。

撮影:吉村昌也

目の前のものを無性にほしいと思う。これはものを愛でる、とても自然な感覚だと思うのです。参考館で見た濱田庄司さんのコレクションも、そして日本民藝館が所蔵する柳 宗悦さんのコレクションも、そして本展で確認できる深澤直人さんのコレクションも、みな私たちが会場で「ほしい!」と思った感覚とまったく同じ気持ちにあるのではないでしょうか。

このほしいという気持ちは、自分の意識、感性の表れであり、とても心地よい感覚です。本展でじっくりと作品群と対面しながら、存分に「これほしい!」と実感していただきたいと思います。

撮影:吉村昌也

猪飼尚司


©永禮賢

いかい・ひさし:
大学でジャーナリズムを専攻後、渡仏。1996年帰国し、フリーランスとして活動を開始。現在は、デザイン分野を中心に、国内外で取材を行う。雑誌『Casa Brutus』『Pen』『MILK JAPON』のほか、企業のブランドブックや展覧会テキスト、地場産業プロジェクトのサポートなどを手がける。