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21_21放談 vol.4 三宅一生×佐藤 卓×深澤直人×川上典李子 「オープン直前の21_21 DESIGN SIGHTで語るデザインの未来」 後編

21_21 DEISGN SIGHTは5感を使って「見る」場所


佐藤
普通、デザインの場合はメディアが規定されてからスタートするじゃないですか。でも21_21ではスタート地点がまったく違う。どこへ落とし込むかは自由なんです。そういうアプローチの仕方は普段していないことだと思うのです。だから脳がすごく活性化されるというのはあります。
深澤
やっぱりデザイナーって、あるお題を与えられたところで発想していくというトレーニングばかりをしているので、いざ、自発的にやってみようとしてもなかなか簡単にはできない。一方でアーティストというのは自発的に発想する、自分の目でものを見るということを常にトレーニングしている。
三宅
そういういろいろな人たちが一緒になってワークショップをすることで対話が生まれ、葛藤が生まれる。それが意外な才能の発見につながるのだと思います。
川上
「チョコレート」は、参加者のワークショップの積み重ねによって展覧会がつくられているわけですが、工業デザインからファッション、広告、グラフィック、メディアアートなど、通常であれば一堂に集まることはまれな、さまざまなジャンルの人びとによるワークショプとなっているのも特色です。発想の展開から素材の具体的な扱いまで、ほかの参加者から大きな刺激を受けているという声も聞かれ、お互いの交流や意見交換も、ますます活発になっていますね。
深澤
展覧会をやるときには、何がここに足を運んでくれる人たちの喜びになるのかということを考えないわけにはいきません。「チョコレート」でやろうとしていることも結局はそこです。で、私なりに考えますと、21_21というのはまったく未知の場でどんなイベントをやっているのかも想像がつかない。もちろん「チョコレート」と言われても、さっぱりわからない。展覧会にやってくる人はそのような場に放り出されるわけです。そうすると、おそらく目の前に展開されている状況を自分なりに一生懸命理解しよう、解釈しようと脳が動き出す。それはコンピュータが高速で回転するような感じです。それがある歯車とカチッとはまってくれたらその瞬間に全部理解できるんだけど、まったくかみ合わないという状態ができたときに、人は「なんなんだ、なんなんだ?」と探り続ける。

できれば「チョコレート」展では、この「なんなんだ?」の連続の果てに、カコンと歯車にはまる瞬間がくるようにしたいですね。最初から簡単にその人の論理でわかってしまうものはつまらない。もしかすると人によってはその歯車にはまらないかもしれないし、ある人はスコーン!とはまるかもしれない。そのはまる瞬間が自分の新しい感触だから、ものすごくインパクトのある気づきになる。それを「チョコレート」だけではなく、次の企画展でもやっていく。

デザインとアートを比較したとき、それらが見せている発想や表現がどこまでロジックに落とせるか、落とせないかというところがアートとデザインの分かれ目になっているのではないかなと思ったりもします。もっといえば、受け手のとまどわせ方に違いがある。いつかはだれもが必ず理解できるようなヒントを作品に与えておくか、ある種の謎、わからなさを作品にとどめたままにしておくのかというところに両者の境目があると思います。そのきわどい境界を楽しむ場所が21_21であると考えています。簡単にはわからない、だからこそ今まで体験したことのない驚きや発見や感動がある。つまり新しいセンサーを立たせてくれるところ、それが21_21の魅力ではないでしょうか。
佐藤
僕たちは目の前にいろいろなものを見てますよね。一番重要なのは、目を閉じたときに、その自分の記憶の中に残っていくものっていうのがずっとあるわけですが、その方が自分との関係においては本質的で重要なのです。そこにこそリアリティがある。これからの時代は、目の前に見えているものを信じるのではなく、こうした記憶に深く根ざしているものを起点にする、大切にすることが新しい気づきにつながるのだと思います。
深澤
記憶を、脳に張り付いているものを呼び出して、ここにある現実を理解しようとするんだけど、それが繋がりにくいというところがあってところどころ迷う。それはある種とても高いレベルの欲求なんじゃないかと思います。これは意識して志していないと、脳の歯車がカチッとはまらないかもしれない。でも子供みたいな人だとスッと入ってきちゃったりする場合もある。
佐藤
人の感覚というのはものすごく豊かなもので、それは誰もが基本的にもっているものなのに、普段は意外と使われていない。もしくは気がつかない。
深澤
視覚(目)で情報を得るという経験が圧倒的に多いのが今の世の中。だけどほんとうは、ほかの4つのセンサー(聴覚、嗅覚、触覚、味覚)だって見るという行為に密接につながっている。21_21ではフィジカルな展示空間をつくることですべてのセンサーを稼働させ、今まで得られなかったものを得てもらいたいですね。
三宅
21_21では展覧会やプログラムそれぞれにおいてさまざまな試みを計画しているのですが、それらを実現させることによって、展覧会というもののあり方も変えられるのではないかなと思っています。オープン時の特別企画でも、会期の後半ではウィリアム・フォーサイスによるビデオインスタレーションが、安藤建築の見方を一変させてくれるでしょうし、夏休みには狂言、落語、1人芝居などを行なう。つまり、いろんな人が関わることで新しい状況をつくりだしていく。人間がいれば必ずいろいろなものがつきまとってくるものですからね。そうやって自分たちを未知の環境に投げ出していって、どうなるかみるのが面白いところではないかと思うのです。

2006年12月4日 東京ミッドタウン内、21_21 DESIGN SIGHTにて収録
構成/カワイイファクトリー 撮影/ナカサ&パートナーズ 吉村昌也

ディレクターズ


21_21 DESIGN SIGHTの建物は、エントランスを抜けて地下のギャラリーに達すると、外観からは思いもつかないダイナミックな空間が広がっています。ギャラリーは大小あわせて2つ。それを示すサインは照明によってコンクリートの壁面に映し出される、1と2の数字のみ。ギャラリーのほか、サンクンコートあり、秘密めいた通路ありの空間で3月30日から始まる、21_21 DESIGN SIGHTのプログラムにどうぞご期待ください。

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