Loading...

contents

シカゴ美術館とアーヴィング・ペンの写真

2011年10月21日、アメリカ、シカゴ美術館より、同館写真部門の主任学芸員を務めるマシュー S. ウィトコフスキーを招いてトークが行われました。

メトロポリタン美術館、ボストン美術館と並び、アメリカ三大美術館のひとつに数えられるシカゴ美術館には、1995年から1997年にかけてアーヴィング・ペン自身によって寄贈された、膨大な数のペン・アーカイブが収蔵されています。180点以上の展覧会用プリント作品や1200点近い習作、さらに生涯をかけて蓄積された資料文書や書簡などからなるこれらの貴重な資料が寄贈されたことを記念して、同館では1997年にアーヴィング・ペン回顧展が開催されました。この展覧会はシカゴを皮切りに世界7ヶ所を巡回し、1999年には東京都写真美術館でも開催され、大きな話題を呼びました。

ウィトコフスキーは、ニューヨークやパリの画廊に勤務した後、フィラデルフィア美術館、ワシントン国立美術館などでの展覧会企画の仕事を経て、2009年からシカゴ美術館に勤務しています。今回は、シカゴ美術館所蔵のペンの作品の一部をスライドで紹介しながら、ペンの作品制作の視点や、ペンと三宅一生の仕事に見られる共通点について語りました。

トークの様子


ペンは、静物写真、ファッション写真、人物写真のどの分野でも秀でた感覚を表現した点で、他の写真家とは違う特別な存在でした。ウィトコフスキーは、ペンの写真は写真でありながら、絵画のような印象を抱かせるクラシックな気品に溢れていると述べています。

ペンは、1943年から65年以上にわたって『VOGUE』誌で仕事をしていました。『VOGUE』誌でジョージア・オキーフなどさまざまな著名人を撮影したポートレートシリーズの写真を見ると、どこにでもある小道具で小さな撮影スペースをつくっていたことが分かります。アトリエや、狭い空間などその人が居心地のよい場所ではないところで撮影が行われました。配置される人物を分け隔てなく見せるニュートラルな空間であると同時に、本来取り除かれるはずの糸クズやホコリなど、現実的な世界もここには映し出されています。

トークの様子


またペンは、第二次大戦後、パリやロンドン、ニューヨークなどで、街中にいる普通の人々のポートレートを撮影しています。自身が街に出て興味深い労働者を見つけては、モデルとしました。撮影は設備の整ったスタジオなどではなく、普通のアパートを借りて行われました。しかし、不思議とペンのポートレートには、どの人物にもエレガンスが漂っています。ここでも、街の中からニュートラルな背景の中へ彼らを移動させることで、被写体の存在感そのものを写し出す独自の世界観をつくり上げたのです。

ペンの写真には、写真という二次元の世界ににどうやって三次元的なものを収めるか、という工夫が見てとれます。ペンは彫刻家になった気分だったのではないかとウィトコフスキーは語ります。

トークの中でウィトコフスキーは、ペンと三宅の共通点として、「エレガンス」、「ピュリティ(純粋性)」、「エッセンス」、「バランス」の4つを挙げました。そして、ペンはこれらの要素は日本の文化にも関連すると考えていたのではないか、そしてそのことを三宅は感じとり、楽しんでいたのではないかと述べます。
写真プリントにおいてペンは、自身の求める表現のレベルに達するまでひとつのネガやポジに何度も立ち戻り、同じ素材を研究しては新たな作品をつくっていました。素材に対する再発見のプロセスを楽しんでいた点も、ペンと三宅の創作に共通して見られるといいます。
また、路上に捨てられたチューインガムやタバコに目をとめ、思いがけない美しさや、美の中の衰え、そして死という一面をとらえたペンの写真から、二人のもうひとつの共通点は、「True Beauty(真の美しさ)」を追求することだったのではないか。永遠に続く美は存在しない、しかしそれゆえに真の美しさであることを二人は理解していたと語りました。

トークの様子


トーク最後の質疑応答では、会場から積極的に手が挙がり、ウィトコフスキーは多くの質問に答えました。写真とデザイン、異なった世界で活躍したペンと三宅のいくつもの共通項と、ペン自身の仕事に込められた世界観に触れ、充実したプログラムとなりました。