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「カラーハンティング展 色からはじめるデザイン」レポート
第2回 藤原 大に聞く 〜後編〜

「カラーハンティング展 色からはじめるデザイン」の開幕に向け、展覧会ディレクター 藤原 大のインタビューを通じて、展覧会の魅力やプロセスを連載でお伝えします。

「カラーハンティング」に至るまで

1992年、多摩美術大学の学生だった藤原 大は北京の国立中央美術学院で1年間、山水画を学んだ。国立中央美術学院は、中国の選りすぐりの美術学生が集まる芸術のエリート大学として名高い。

「学生たちはほんとうに上手な人ばかり。ちょうどスーパーリアリズム風の油彩が流行っていてすごい熱気でした。僕が入った「国画系山水画」専攻は、1学年10人未満のクラス。そこに外国人留学生が数人加わる感じでした。寮に入って、皆で生活するんです」

「最初の3ヶ月は、有名な画家の実作をひたすら真似て描く。その後、文房四宝(筆・墨・硯・紙のこと)を持って教授と一緒に山に入り、スケッチをします。そのスケッチをもとに1年を締めくくる大きな作品を描くのです」

「中国に行く前は、山水画に描かれている木には見たことのないものがあったから、想像で描かれているのだろうと思っていましたが、それは違いました。目の前にあるものをそのまま描いているんだ、自然そのままなんだということがわかった。そして、ゼロからはじまることはない、目の前にあるものを見に行かなければ、空想に終わってしまうと。何かをする時には本物に近づくこと、現場に入ってそれを見ることを訓練したと思います」

ブラジル・アマゾン川上流にてカラーハンティングをしている様子(ISSEY MIYAKE 2009 SPRING SUMMER メイキング写真より)

カラーハンティングの確立と今

発想力と行動力をあわせもつことは、藤原 大というデザイナーの大きな強みだが、まず現場に赴き、そこで起こっているものごとを見るというスタイルは、この留学体験から培われたと言えそうだ。

「カラーハンティングは自然そのままを写しとることから始まります。山水画を学んだ体験もそこに通じています。山水画は墨の濃淡で万物の色を描きわける。空気の動きを描く。単色による表現ですが、そこには光があり、色がある」

藤原が初めて「カラーハンティング」という言葉を使ったのは、ISSEY MIYAKE の2009年春夏コレクション。南米の熱帯林に3000ものカラーサンプルを持ち込み、川、木、土などの色と照合させ、自然の中で得た色に染めた糸で布を織り、服を仕上げた。このコレクションは高い評価を得て、ファッションの枠を超え、美術館での展示も行われた。

東京都現代美術館「カラーハンティング ブラジル」より/Photo: 吉村昌也

「カラーハンティングから製品を作ったのはこの時が初めてでした。その後、カラーサンプルを確認するだけでは充分ではないと思うようになり、自分の色見本をつくろうと考えました。自宅で見る空の色を水彩絵の具で写しとる、自分の色をつくることを始めたのは、2011年6月からです」

今回の展覧会では、この空の色のプロジェクトをはじめとするすべての展示が、ライオン、人間の肌、沖縄のビーチなどの対象を観察し、水彩絵具で色をつくったハンドメイドのカラーチップをもとにしたものとなる。藤原は、展示を通して来場者に何を受け取ってもらいたいと考えているのだろう。

© Yu Yamanaka

「色は僕たちのそばに必ずあるのだから、本物を見ること、行動することから何かを感じてほしいと思っています。カラーハンティングはほんの些細な行為なんだけど、時間がないとかいろいろな理由で、そんなことはできないと思う人が多い。でも行動することで理解が深まる。自分で行動しておくと、デザインをするときに迷いがない。源流からものを考えて行くことができます」

「20世紀の社会で、デザインすることはモノをつくることでした。今は、環境をつくることがデザイナーに求められています。情報化社会がますます複雑化していくなかで、社会、サイエンス、エンジニアリングとデザインを結びつけるものが色だと、僕は考えています。色から始まるデザインにどんな可能性があるのかを探っているところですが、そのプロセスを楽しんでいただければと思っています」(了)

<次回は「カラーハンティング」ダイジェストをお届けします>

構成・文:
カワイイファクトリー|原田 環+中山真理(クリエイティブ エディターズ ユニット)