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「アーヴィング・ペンと私」 vol.4 ヴィンセント・ホアン

9月16日から開催中の「アーヴィング・ペンと三宅一生 Visual Dialogue」展にあわせ、各界をリードするクリエーターの方々に、ペンの写真の魅力について語っていただきます。


ペンの「静」な生き方に学ぶ


──ホアンさんは、実際にペンさんのスタジオを訪ねたご経験があるということなんですが、そのエピソードをお聞かせください。

ヴィンセント・ホアン(以下、ホアン): 
そうですね。95年にNYへ行く機会がありまして、当時僕はジョージ・ホルツのアシスタントをしていたんですが、一度は憧れのペンに会いに行こうと思い、スタジオを訪ねていきました。お会いした時に聞かれて驚いたのは「あなたは私に何をしてくれるんだ?」って言われたことです。普通は逆で、アシスタントにそんなことを求めないですよね。彼はそういう自分にないパワーをアシスタントに求めていたのかもしれません。当時、彼のスタジオには6名のアシスタントがいて、さらにウェイティングリストにたくさんの名前が連なっていたような状態だったので、スタジオに入ることは叶わなかったのですが、すごくいい経験になりました。

──その後ホアンさんは、ヘルムート・ニュートンのスタジオでアシスタントをされたそうですが、ペンさんの現場とはまったく違ったのではないでしょうか。お人柄も違いそうですね。

ホアン:ペンさんの撮影現場は実際には見ていないんですが、彼はもともとデザイナーなので緻密に絵作りをして、スケッチで構成を決めてから撮影に入ります。生活もすごく規律正しくて、朝5時に起きて散歩をするところからスタートして、午前中にはすべての撮影を終える。そして、スタジオでは一切音楽をかけないそう。一方、ニュートンは正反対のタイプと言えるでしょう。撮影に関しても、ほとんど即興でスケッチも描かずにその場で決める。また、人物写真にしてもペンは非常にストイックで、モデルをオブジェクトのように扱っています。ニュートンはご存知のように女性好きなので(笑)。その点でも全然違いますね。

──ペンさんの写真から学んだことを教えてください。

ホアン:観察力かな。彼はすごく東洋的な感覚を持っていた方だと思います。日本舞踊のような、柔らかいポーズでも指先まで神経が行き渡っているというような。彼の写真は「静」なんですが、何度見ても飽きない、不思議な写真だと思います。それにはやはり、いかに心を平静に保つかという、彼の生活や生き方が反映されているんでしょうね。もうひとつエピソードがあるんですが、石岡暎子さんがアートディレクションをされたマイルス・デイビスの撮影の際に、マイルスは自分の音楽をかけながら撮影して欲しいと言ったそうなんですが、ペンはそれを断固拒否して、一触即発の状態になったそうです。もちろん石岡さんが仲裁して、撮影は進められたんですが不機嫌になってマイルスがいろんな表情をした。そこをペンは撮ったんですね。だからあんな写真になったという。そこまでストイックなペンの姿勢はすごい。まだまだ追いつけませんが、一歩でもペンの写真に追いつきたいので、まずは規則正しい生活から始めようと努力しています(笑)。

──ホアンさんの最近のお仕事を教えてください。

ホアン:ミス・インターナショナル国際大会の写真集です。昨年の10月〜11月に、中国の四川省で開催されました。ミスコンだけでなく、様々なボランティア活動を記録した350ページの大作です。電子版の発売も予定されています。

(聞き手:上條桂子)



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ヴィンセント・ホアン Vincent Huang

写真家
1958 年、神戸の在日中国人の家庭に生まれ、写真好きの父親の影響で写真を始める。 77 年、ボストン大学ビジネス科入学。 78 年、カンサス・ベーカー大学ファインアート科専攻。 81 年、カルフォルニア大学バークレー校、サマースクール・ファインアート・フォトグラファークラスに参加。 82 年、サンフランシスコ大学アカデミー・オブ・アートカレッジ写真科卒業。
ロサンゼルスで、HELMUT NEWTON、GEORGE HOLZ のアシスタントを経て、フリーランスの写真家として活動を開始。 ニューヨークでの活動を経て86 年、日本に帰国後、ファッション雑誌、広告写真を中心に活動。 現在は、自由が丘に Lotuscalyx Studio (YouTube参照)を所有、ユニークな作家活動を展開中。
http://ameblo.jp/duckbuddha/

ミス・インターナショナルの国際大会より

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