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「アーヴィング・ペンと私」 vol.23 鈴木理策

現在開催中の「アーヴィング・ペンと三宅一生 Visual Dialogue」展にあわせ、各界をリードするクリエーターの方々に、ペンの写真の魅力について語っていただきます。


すべての作品に共通する職人的な技術と品の良さ


──鈴木さんの中でのペン像についてお聞かせください。

鈴木理策(以下、鈴木):
最初の出会いは高校生の時です。図書館で見た『LIFE』年鑑にマレーネ・デートリッヒのポートレートがあって、その写真をもとにしたデッサンが高校の文集に載っています。

その後、写真の学校に入ってから意識して見たのは『Moment Preserved』です。一般的に、スティル・ライフの写真というのは、動かない要素を構成し撮影しますが、ペンの写真には動くものが写っていました。例えば、果物などと一緒にハチが写されている。今にも飛び立つのではないかと錯覚し、動きをもたらす存在に思わず誘惑されてしまう。そういう、写真の内と外に緊張関係をもたらす力があって、とても印象に残りました。
当時は、スティル・ライフ、ポートレート、スナップとジャンルを分けて考えていたので、スティル・ライフの写真家と思いこんでいたペンがスナップ的な要素を持ち込んでいることに新鮮な驚きを得ました。

──ペンさんの写真を参考に練習をされたりしました?

鈴木:しましたね。CAMELのタバコとか撮ってみたり(笑)。『Worlds in a Small Room』の写真集もよく見ていました。この写真集の後ろには、撮影や現像に関するデータが載っているのですが、それを見ていると、露出をオーバーにして、その分現像時間を削るとか、色々工夫したことがわかる。自分でもずいぶん試してみました。

──ペンさんのプリントは、技術の高さもよく知られていますよね。

鈴木:ペンの代表作で、自宅からスタジオまでの道で拾ったもの、タバコの吸い殻とか片方だけの手袋とか、そんな他愛もないものを撮影して、プラチナプリントという白金を使った美しいプリントに仕上げたシリーズがありますが、それはまさに錬金術だと思います。ペンは機材をそろえる時、用意できる範囲で同機種のカメラを全て試し撮りして、一番良いものを選んでいたと聞いたことがあります。当時、カメラは手で組んでいたので個体差がありました。あくまで伝説ですが、技術を支える細心の努力があったと思います。

──ペンさんの魅力はどんなところだと思いますか?

鈴木:何を撮っても品があるところですね。例えばポートレートは、被写体との関係性を写すものと、対象を物質化する二つに大別できる。だけど、ペンが撮るポートレートは、対象を物質的に扱いつつも、それだけではない魅力がある。ペン独特の品の良さが、撮影者と被写体との時間を満たしているようです。アーヴィング・ペンというと、シンプルで美しい写真を造る人、という評価で終わってしまう場合があるけれど、現代の様にどんなものでも器用に撮れる人が重宝がられる時代においては、こだわりをもってひとつひとつの作業に取り組む彼の姿勢に学ぶことは多いと思います。

──鈴木さんの最近のお仕事を教えてください。

鈴木:いま、写真家の鷹野隆大や松江泰治、批評家の清水穣、倉石信乃と僕の5人で写真分離派宣言というのをやっています。もうすぐ本が発売になりますので、ぜひご覧ください。

(聞き手:上條桂子)

2012年3月9日に21_21 DESIGN SIGHTで開催された展覧会関連プログラムに鈴木理策と鷹野隆大が出演しました。
トークの様子は動画でお楽しみいただけます。
トーク「写真家にとって、ペンが遺したものとは何か」の動画を見る



Risaku_Suzuki

鈴木理策 Risaku Suzuki

写真家/東京芸術大学美術学部先端芸術表現科准教授
1963年和歌山県新宮市生まれ。1990年初個展。2000年に写真集『PILES OF TIME』(光琳社出版)にて第25回木村伊兵衛写真賞受賞。時間や記憶、場所の気配など、視覚に収まらない感覚を主題とする作品を発表し続ける。主な写真集に写真集『熊野、雪、桜』(淡交社, 2007年)、『Mont Sainte Victoire』 (Nazraeli Press, 2004年)、『Atelier of Cezanne: Six by Six (Set Two)』(Nazraeli Press, 2011年)等。東京国立近代美術館、東京都写真美術館、川崎市市民ミュージアム、青森県立美術館、The Museum of Fine Arts, USA、 Houston, International Center of Photography,USA等に作品が収蔵されている。
http://www.risakusuzuki.com/



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