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2025年1月24日(金)、企画展「ゴミうんち展」に関連して、本展の参加作家で発酵の専門家として活動する小倉ヒラクをゲストに迎え、本展ディレクターの竹村眞一、佐藤 卓とともに、トーク「発酵がつなぐ循環の世界」を開催しました。

大学で文化人類学を学んだ小倉は、デザイナーの経験を経て、現在は「発酵デザイナー」という肩書きで下北沢で発酵ショップを運営するほか、日本全国の発酵文化を調べ歩き、その豊かさと面白さを伝える活動を行っています。解毒する微生物、汚水を浄化する微生物、植物の色素を変質させて染色する微生物、衣類の汚れを落とす微生物、胃の分解を促進させて胃もたれを治す微生物など、さまざまな微生物を研究し、人間と微生物の架け橋役をしているといいます。

本展の準備期間中、小倉と竹村、佐藤は「ゴミうんち」とは何なのかについてディスカッションを幾度となく重ねました。初期の議論で出てきた「上り(のぼり)、下り(くだり)」という考え方について、竹村が説明します。

左から、佐藤、小倉、竹村。

竹村は、レゴブロックでタワーをつくるように、小さな物質をつなげて大きなものをつくる過程、つまり光合成で複雑な分子をつくり上げる工程を「上り(合成)」と呼び、逆に分解して循環させる過程を「下り」と呼んでいると話しました。

「下り」には、特急(燃やすなどして一気に分解)、各駅停車(酸素呼吸などでゆっくりとエネルギーに変換)、途中下車(発酵など、分解の途中で止める)の3種類があります。特に途中下車では、発酵微生物が途中で分解を止めているのでエネルギーが残った状態になります。このため、体に良いものとして、人間が体の中で有用に使うことができます(乳酸やアルコールなど)。逆に、一気に分解すると負担が多く、誰にとっても良くありません。ゆっくりと分解していくことが、多くの人に利益をもたらす仕組みになっています。これは小倉の考え方ですが、竹村はそのような着眼点が素晴らしいと話しました。

地球の歴史を振り返ると、植物が光合成を始めたことで急激に勢力を拡大し、地面が木々に覆われた時代がありました。この時、酸素の量があまりにも増えすぎ、酸素を使えない生物が絶滅してしまう危機が訪れました。しかし、その時に役立ったのが「カビ」だったと、小倉は話します。カビは長い分子を分解して土に戻す能力があり、それにより、これまで分解できなかった木々も分解できるようになりました。その結果、酸素と二酸化炭素のバランスが取れ、地球が今のような環境を維持できるようになったのです。つまり、現代の人類が存在するのも、カビのおかげだと言えるのです。

佐藤は、この「上り、下り」のプロセスをわかりやすく説明しようと、本展のコンセプトブック「ゴミうんち:循環する文明のための未来思考」の中で図を使って説明を試みていますが(p.58参照)、さらにわかりやすく表現することができないか、引き続き課題であると続けます。

小倉は、音楽でいうとEマイナーのような不安定なコードがあるからこそ、曲全体が安定して聞こえると話しました。不安定な部分には、何かを動かす力があり、不安定なものこそ、体が取り込みたくなるのだそうです。たとえば、ペプチドはたんぱく質の中途半端な状態で、自然界に長く存在できないからこそ、体に取り入れると安定するのです。不安定なものがサイクルの中に含まれていないと、体は喜ばないのだといいます。

この「上り、下り」の議論に関連して、小倉は20世紀は「上り」のデザインだけをしていたのではないかと述べました。つまり、すごいスピードで上ってきたから、その分、急速にゴミうんちが増えていったのではないか。そして小倉は自身の活動について、発酵デザイナーという肩書きで、下りのデザインをしているとも言えると話しました。

ライチの香りに変異する微生物や、プラスチックを分解する微生物がすでに発見されていることについてなど、来場者からの質問も交えながら話題は途切れません。佐藤は、小倉や竹村との議論を通じて、うんちを愛おしく感じるようになり、簡単に「さよなら」を言うのが惜しく感じるようになったと話しました。また、お風呂のカビさえも愛おしく思えるようになり、世の中の見方が大きく変わったとも語りました。

企画展「ゴミうんち展」がNHK World「DESIGN×STORIES」にて紹介されました。

以下のリンク先(外部サイト)からぜひご視聴ください。
(視聴期限:2027年3月31日まで)

NHK WORLD「DESIGN×STORIES」視聴リンク

◯「Poop-Loop」2025年1月30日(木)放送
https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/shows/2101040/

2025年1月18日(土)、企画展「ゴミうんち展」に関連して、ライブパフォーマンス「Records of Phenomena = 現象の記録」を開催しました。参加作家で、本展の企画協力も務める吉本天地が、展示作品の衣服「気配 - 痕跡」に変化を加えたパフォーマンスの様子をお伝えします。

吉本天地+amachi.「気配 - 痕跡」(撮影:Tomo Ishiwatari)、パフォーマンス前の様子

「気配 - 痕跡」は純天然染色を用い、あえて色止めを行っていないため、自然光に当たると次第に色が変わり、人が着脱することで擦れて表情が変わるという作品です。加えて、酸性のものをかけると反応が起こり色が変化するという特徴もあります。
本イベントでは、館内サンクンコートで展示している「漏庭」内の、樹木の枯れ枝や落ち葉を採取し、その植物を型紙のように使用して衣服に色の変化を起こしました。

冒頭、吉本の先導で鑑賞者一行はギャラリー2に移動。今回のパフォーマンスに登場する作品「気配 - 痕跡」を含めた吉本による本展展示作品3点の解説や、そこに込めた想いなどを話しました。
その後、日差しが差し込む地下ロビーの空間に移動してパフォーマンスがスタートします。
レモンの搾り汁が酸性であることを利用して色を変化させるため、まず吉本はその場でレモンを切り、搾り汁を用意し始めます。

「気配 - 痕跡」を床に置き、袖などを折りたたんでシワをつくり、採取してあった植物を衣服の上に配置していきます。葉っぱや枝のみならず、土がついたままの状態の植物を手に取り土を振りかけていく様子も見られました。

いよいよ、衣服にレモンの搾り汁を吹きつけていきます。霧吹きスプレーで全体にレモンの絞り汁を噴射し、少し馴染ませたら、乗せていた植物を衣服からよけて乾かします。この時点で、植物が配されているところとそうでないところに色の差が生まれているのを見て取ることができます。乾いた衣服はギャラリー2内の元の場所に戻され、新たな模様が生まれたことでその価値も変わったように見えます。

なお、今回のイベントには、吉本が展開するブランド「amachi.」の純天然染色の衣服を持参した2名も参加しました。2名は使用したい植物を自身で選び、吉本がレモンの搾り汁を吹きかける様子を間近で鑑賞。持参した衣服は、吉本の手によって、世界に一つしかない衣服として生まれ変わりました。

今回のパフォーマンスを経て変化した吉本の作品「気配 - 痕跡」は、本展会期中、会場内ギャラリー2にて展示されています。曖昧な模様の中から、植物の気配をほのかに感じられる仕上がりとなっています。ぜひ、会場にてご覧ください。

吉本天地+amachi.「気配 - 痕跡」、パフォーマンス後の様子

2025年1月13日(月・祝)、企画展「ゴミうんち展」に関連して、トーク「腸内をデザインする時代」を開催しました。腸内環境に関する研究開発や、個々人の腸内環境に合わせた層別化プロダクト開発を手掛けるメタジェン代表・福田真嗣をゲストに迎え、本展ディレクターの竹村眞一、佐藤 卓とともに、腸内環境から見直す「うんち」の価値と、社会や環境との新たな関係を語り合いました。

左から、佐藤、福田、竹村。

腸内細菌を25年以上研究し、うんちを「茶色い宝石」(="Brown Gem")と呼ぶ福田が、最初に観客に問いかけました。「ヨーグルトを食べている人は?」会場の8割の手が挙がります。「では、その効果を実感している人は?」首を捻りながら、ほとんどの手は下がります。一人の体に1000種類、40兆個いると言われている腸内細菌について、重要なのは「個人差」があるということだと福田は言います。現在は便からその人の腸内細菌を調べることができます。すると、健康でも人によって種類やそのバランスが全く異なることや、同じ人でも体調や時期によって変動があることがわかってきました。また、双子でも同じではありません。人の口から肛門までは外の環境とつながっている体外環境でもあり、遺伝子ではなく生活習慣、特に食習慣によって腸内細菌の種類やバランスが決まります。腸内細菌が生きていくためには、腸に届いた未消化物を「餌(食物繊維やオリゴ糖)」として栄養を摂り、菌には不要なので排出された「代謝物質(短鎖脂肪酸)」が腸から吸収されて全身にまわっていき、免疫機能や持久力など、人の健康に影響を与えていきます。しかし腸内細菌は好き嫌いが激しく、食べる餌は種類によって偏りがあります。つまり、人によって個人差のある腸内細菌たちの、それぞれが摂取したい栄養素も異なるため、同じものを食べても得られる効果は人それぞれなのです。

そして近年の様々な世界中の医療研究や臨床試験例を具体的に紹介しながら、福田が「茶色い宝石」と呼ぶ意味が説明されます。
ある病気における特定の薬の研究では、腸内細菌の個人差によって薬の効果が違うことがわかりました。その病気になった際、腸内細菌を調べれば薬効があるかどうかわかるというわけです。しかし、効かないということが判明したらどうするのか。そこで腸内環境を変える方法として便移植が紹介されます。別の臨床試験では、ある腸の難病の患者たちの腸に健康な人の便移植を行い治療したところ、通常の治療に比べてかなり高い改善率・寛解率となりました。しかしそれでも、寛解しなかった患者の割合の方がまだ高いのは、腸内細菌の個人差のためです。では自分にとって誰の便が有効なのか?研究の結果、親や子、配偶者よりも、兄弟姉妹の便移植の方が再発率が低いことがわかりました。そのメカニズムは解明されていませんが、無菌で生まれてから3歳くらいまでの間に腸内細菌の方向性が決まることから、幼少期の時期が近く生活習慣が似ている人の腸内環境が自分と近い、という仮説を立てることができます。では、一人っ子だったら?一番良いのは、健康な時の自分の便であることは言うまでもありません。しかし便がトイレで流され、下水処理されている現状、この治療には健康な便が不足しています。昨年からドナーを募り、「茶色い宝石バンク」を始めた福田は、「『良いうんちをつくる』という文化をつくりたい」と話します。

病気の治療よりさらに手前の、ヘルスケアにも「茶色い宝石」を生かし、未病に繋げたい福田の会社では、複数の企業や研究所と科学的な共同研究を行い、腸内細菌の「個人差」に着目した商品を開発しています。「ゴミうんち展」でも展示している「Body Granola」は、キットで採取した自分の便を送ると、自分の腸内環境に最適な素材のシリアルを定期購入できるというもの。「腸内環境は老化や病気で変化する。自分の健康な時の腸内のデータが取れることが最も重要」と語る福田。さらに、検便自体がストレスになることに対して、自動的に便を調べられるスマートトイレを検討していると言います。そして技術が進めば、センサーをオムツに搭載して赤ちゃんや老人の健康把握などもできるのではないかと、期待が膨らみます。これまでの医学において、「個人差」の理由は不明とされていましたが、技術革新により分子レベルの分析が可能になり、近年は腸内細菌が注目されるようになってきました。微生物である腸内細菌は、人ではないため医学の対象ではありませんでしたが、「茶色い宝石」は人の臓器と同じくらい大切だと考えている、と福田は語ります。

「話を聞いていると覚醒していく」と言う佐藤に、福田は最新の研究では脳のドーパミン抑制にも腸内細菌が影響していることがわかってきていると話します。人にとって、自分ではできない分解や代謝物質の生産をしてくれているだけではなく、攻撃性ややる気、集中力、食の好みなどに腸内細菌が関わっているのです。肌や腸などに住む共生細菌は哺乳類に限らず昆虫にもいるし、人類よりも微生物の方が地球上の歴史は長い。もしかしたら、細菌が人の肉眼に見えないのも菌の生存戦略かもしれない。「腸内細菌原理主義者」と自称する福田は、自身の仮説として、人は腸内細菌によって動かされているのではないかと話します。例えば「お袋の味が恋しくなる」や「夫婦が似てくる」といった現象も、新しい環境で人が食べる成分の変化への腸内細菌の反発や、同じ環境で生きることによって腸内環境が似ることが引き起こしているのでは?と、話は尽きません。

「人は一人で生きているのではない。『人間』『自分』という日本語があらためて輝いて見えてくる」と話す竹村は、うんちへの視点を変える「茶色い宝石」にまつわる展開を、本展のコンセプトブックでも「天動説から地動説への転換」とも言うべきイノベーションの一つとして紹介しています。福田のこれらの研究開発やコミュニケーション活動を、腸活や予防医療だけではなく、「社会の腸管デザイン」まで広げられるように期待していると話し、「ゴミうんち展」がそういった環境づくりの第一歩になれれば、と締めくくりました。

「Body Granola」(販売:カルビー株式会社)
「ゴミうんち展」会場風景 竹村眞一「未来を覗く窓」(撮影:木奥恵三)

2025年1月8日(水)に開催された企画展「ゴミうんち展」関連プログラム、Instagram Live「糞驚異の部屋ってなに?」のアーカイブ動画を21_21 DESIGN SIGHT公式Instagramアカウントにて公開しています。



* 映像や音声に一部乱れがございます。また、本動画配信は予告なしに終了する可能性があります。ご了承ください

ギャラリー3では、2024年12月14日(土)から12月26日(木)まで「米と藁。しめ縄職人 上甲 清 展—ともに生き、時を紡ぐ。」を開催しています。

愛媛県西予市で半世紀以上もの間、しめ縄職人として活動する上甲 清は、手植えの田植えから稲刈りまで、しめ縄専用の稲を自ら栽培し、それを藁にし、丹精込めてしめ縄作品をつくっています。しめ縄を人生にしている祖父・清の作品や生活と、その活動を取り巻く環境や文化を伝えようと「孫プロジェクト」を立ち上げた孫・智香。そして彼らに共感した、インテリアスタイリストの作原文子率いるMountain Morningが、本展を企画しました。

愛媛を訪れた際にこの活動や作品を知り、興味を持っていた作原は、やがて作業場をたびたび訪れ、田植えや稲刈りに参加し、上甲の人柄を知れば知るほど、彼が守ってきた藁文化を何かカタチ にして残さなければという気持ちが強くなっていったと言います。さらにその思いに賛同した写真家や映像作家などの仲間が記録を残していきました。

会場では、西予市の豊かな水田と山の情景、上甲の稲作としめ縄つくりの様子や、しめ縄が納められた地元の神社の風景の写真が空間を彩る中、上甲によるしめ縄作品「宝結び」「めがね」「えび締め」、制作に使用している藁や「わらじ」などの藁細工を見ることができます。また、稲作文化を象徴するように展示された「わらぐろ」の前には、上甲の作業場を再現したスペースが置かれています。ここでは一般公開前日に、数時間かけて上甲が大きなしめ縄制作を実演しました。完成した作品は、会期中に展示されています。

他にも、上甲の制作道具の写真や、地元の若手木工作家による椅子などと合わせて、制作風景を取材した映像をご覧いただけます。会場の入口付近には、購入できる作品がありますので、ぜひ手にとって愛媛の米と藁の文化を自宅にお持ち帰りください。

撮影:近藤沙菜

2024年11月10日(日)、企画展「ゴミうんち展」に関連して、展覧会ディレクターズトークを開催しました。本展ディレクターの二人、グラフィックデザイナーの佐藤 卓(21_21 DESIGN SIGHT館長)と、文化人類学者の竹村眞一が対談形式で、改めて本展のテーマについて語りました。

左から、佐藤、竹村。

はじめに佐藤より、本展を企画するにあたって重要な、竹村との出会いから紹介します。約20年前、仕事で同席した竹村から聞いた「牛丼1杯つくるのに使われる水の量は2,000リットル」という驚きの数字。ある試算により、牛を育てる背景や米に必要な水、流通や調理などを含めて算出したものです。ちょうどその頃、計画が始まった21_21 DESIGN SIGHTにディレクターの一人として参加することとなっていた佐藤は、まだ建物もできていないこの場所で「水をテーマに、竹村と展覧会をつくりたい」と強く思い、開館初年度、2007年の企画展「water」として実現しました。佐藤は、今当たり前と思っている目の前の世界が、視点を変えるだけで全く違って見えてくるという体験こそ、新しくできる21_21 DESIGN SIGHTで、デザインの力が発揮される展覧会になると考えたのです。その後、2014年には企画展「コメ展」を佐藤・竹村のディレクションで開催します。「日常」をテーマに、デザインを通じてさまざまなできごとやものごとについて考える場、というコンセプトは、佐藤が2017年に館長となった後も変わらず続いています。
「この世界の成り立ちを深く理解し、アップデートしていくのがデザインであり、色・形ではなく物事の原理への気付きを与えたり、様々な専門分野をつないで統合していくのがデザイナーの仕事」という佐藤の考えに共感したと話す竹村は、21_21 DESIGN SIGHTがそれを表現する場所と考えてきました。

グラフィックデザイナーである佐藤は、自分が仕事として関わる大量生産品が多くの資源を使い、多くのゴミを発生させていることにも関心を寄せてきました。特にゴミ箱に捨てた後は具体的にどうなっているか、生活では見えづらいことから、「ゴミ」を題材にした展覧会ができないか竹村に相談したところ、竹村の返答は「ゴミうんちCO2、それは大切なテーマですね」でした。「ゴミ」に「うんち」がくっついていたのです。タイトルにしたい言葉が決まりました。

次に、本展のコンセプトブックでも紹介されているキーワードを交えながら、本展のベースとなった考え方や情報が竹村より説明されました。人間社会でのリサイクルやサーキュラーエコノミー(循環経済)よりも広げ、ゴミうんちをもっと地球規模のこととして捉えた時、「地球の歴史はゴミうんちとの戦いの歴史である」と竹村は言います。例えば、27億年前、それまで海底火山の熱水噴出孔の熱やミネラルを僅かな栄養として生物が取り合っていた状況から、シアノバクテリアが「光合成」を始めて抜け出したイノベーション。太陽光、水、大気を占めていた二酸化炭素を使ってエネルギーにした光合成で、水を分解した「ゴミ」として排出された酸素は、当時は有害物質でしたが、それを長い時間をかけて資源として活用するよう生物はアップデートし、効率の良い「酸素呼吸」を生み出したのです。大量発生した酸素は、鉄分を錆びさせ海底に沈澱させ鉱床をつくり、またオゾン層形成により生命に有害な紫外線をカットしたことで陸に上がった植物は、長い時間をかけて空中に高く伸びるようになります。しかしこの樹木も、倒れても分解されない、いわば太古の「プラゴミ」だった時代があり、そのまま堆積することで石炭となり現代に活用されます。2億6千万年ほど前からは、樹木の分解できなかった成分を分解するキノコが進化することで、落ち葉や倒木が他の生命の栄養となっていきました。さらに土をつくるミミズの腸管、カビと発酵、虫と花の発展など、辿っていけば、全てがゴミうんちを資源化する歴史であり、「自然界にはゴミもうんちも存在しない」という言葉につながっていきます。

2019年に企画展「虫展」をディレクションした佐藤にとって、虫はデザインのお手本であり、美しいもの。生物的に蝶と蛾に絶対的な区別は無いように、多くの人に刷り込まれている嫌なものや汚いものの見方を変えて見て欲しいと語ります。
ゴミの回収・分別・リサイクル処理を公開し、産業廃棄物の概念や効果を変えていく企業、世界で問題となっている牛糞による「窒素汚染」を、鉄触媒により優良な肥料化する酪農家、排水を98%以上再生して循環利用できる「超節水・循環」型トイレを開発する企業。様々な技術が、日本で生まれて実用化され始めている例などを挙げつつ、竹村は「先端科学や歴史などの研究が日々進み、過去・現在・未来からたくさん学べる今ほど、自分の常識を脱衣しやすい時は無いのでは」と問いかけます。決して楽観的に世界を見ているわけではなく、過多に思える情報にもうまくアクセスして学ぶことで、多様で面白い知識を得ることができる現代をポジティブに捉えて、次にアップデートしていくことができるのではないか。そう思うと、SNSを見ている時間ももったいなく、こんなに楽しい時代はないと竹村は言います。「地球が生命を育んだだけでなく、生命の適応力が地球をアップデートしているとも考えられる。人間も、ものを分解する腸内細菌のような微生物のおかげで生きている。そういうことを、ミュージアムで子どもの頃から知ることができれば、違う未来が来ると思いませんか?」

参加者から「質の高い情報をどうやって得るのか」と言う質問を受けた二人。あらためて本を読むようになったと話す佐藤につづき竹村は、「本とAI」と答えます。そして話はインターネット上の玉石混合の情報に移ります。竹村曰く、ネットに限らずアナログでも、無駄な情報が多くあることは当たり前であり、偏っているよりも健全だと思った方が良い。DNAゲノム解析において、ほとんど意味がないとされていた多くの文字列に、最近の研究では、何かの変化があったときに使えたり、進化の可能性となることがわかってきたことからも、膨大なジャンクを抱えることが創造性、柔軟性、そして適応力なのだと言います。
会場から寄せられた、「街のゴミ箱を撤去してカラスや害虫を寄せ付けないのではなく、むしろその力を有効に使うことを考えたらどうか?」という発言に、クリエイティブな発想だと関心した竹村は、2016年に大隅良典・東京工業大学栄誉教授がノーベル生理学・医学賞を受賞した「オートファジー(自食作用)」(細胞がたんぱく質を分解し再利用する仕組み)を挙げながら、「もっと生物から学べば、人はもっとエレガントな仕組みをつくれそうだし、今はその黎明期にある。20世紀の常識で、21世紀のこれからの若者を縛らないようにする、その最先端の場として21_21 DESIGN SIGHTがあるのではないか」と締め括りました。

2024年11月3日(日)、企画展「ゴミうんち展」に関連して、トーク「ゴミうんちの地球史 Deep Time Walk」を開催しました。本展展覧会ディレクターの一人である文化人類学者の竹村眞一の話を聞きつつ地球の歴史を振り返りながら、少し葉の色づき始めたミッドタウン・ガーデンと檜町公園を歩きました。

散歩日和の秋晴れの中、ミッドタウン・ガーデンの芝生広場前からスタート。スタート地点を地球誕生の起点とし、隣接する檜町公園をぐるっと一周して戻ってくる460 mのコースを歩くことで、地球の歴史46億年の長さを体で感じようという企画です。10 m歩くと1億年経過するペースとなるので、人類が猿から分かれて直立歩行を始めたと言われる500万年前は、ゴール地点の50 cm手前となります。ただ数字を聞くだけではなく実際に体感することで、最後の最後で生まれる人類の時間がどれだけ短いか、地球の悠久の歴史が体に残って腑に落ちるだろうと竹村は説明します。

コースの途中で何度か立ち止まり、地球がどのように移り変わっていったのか、竹村はその波乱万丈な歴史について丁寧に話を進めていきます。地球は46億年前に、微惑星が衝突しながらだんだん大きくなり今のような大きさになりました。当時は表面がでこぼこで灼熱地獄の真っ赤な地球だったそうです。やがて海ができて水で覆われた青い地球になり、大陸ができて茶色い地球になり、氷に覆われて白い地球になり、ようやく現在のような緑色の地球になったのは4億年前に生物が海から地上に出てきてからのことでした。

地球の歴史は、生命が進化するたびに新しいゴミやうんちが生まれ、それをどう課題解決するかという戦いの歴史でもあったといいます。長い歴史の中では、私たちが当たり前だと思っている酸素や緑の樹木がやっかいな廃棄物だった時期もありました。「ゴミうんち展」は、自然界にはゴミもうんちも存在しないというコンセプトの展覧会ですが、地球の美しいシステムも最初からできていたわけではなく、ゴミうんちとのせめぎ合いのなかで新たなイノベーションによって循環するようになっていったのだと竹村は語りました。

地球の長い歴史を歩きながら体感し、誕生してからまだ日の浅い私たち人類が現在のゴミうんち問題とどう向き合い、地球にどう影響を与えていくのか、思いを馳せる機会となりました。

地球史や人類史におけるゴミうんち問題について詳しく知りたい方は、本展のコンセプトブック『ゴミうんち:循環する文明のための未来思考』をぜひご覧ください。

2024年10月26日(土)、企画展「ゴミうんち展」に関連して、トーク「都市の緑を歩く:建築家・造園家・研究者と散策する東京ミッドタウン」を開催しました。本展で会場構成を務める大野友資(DOMINO ARCHITECTS)、参加作家である造園ユニットveigの西尾耀輔と片野晃輔の案内のもと、自然豊かなミッドタウン周辺を実際に歩き、その後会場にてトークを行うという盛りだくさんのイベントとなりました。「建築家」「造園家」「研究者」というそれぞれの立場から空間や植生について語り合った、本イベントの様子を紹介します。
* 本イベントは、Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2024「TALK SALON」として開催されました

左から、片野、西尾、大野。

普段から面白い事象に出合うと、互いに情報を共有し合っているという大野・西尾・片野の3人。イベントのはじめに片野は「専門家とはいえ普通に生活している僕たちが普段どういった目線で街を見ているかをお伝えし、同じ事象を自分だったらどう見るか考える機会にしていただけたら。街を見る視点をお土産のように持ち帰ってほしいです」と話しました。早速、3人の先導で散策がスタートします。

今回の散策はミッドタウン・ガーデンからスタートし、檜町公園の中で大きな池を回遊して、またミッドタウン・ガーデンに戻ってくるというルートでした。 檜町公園内では、池をのぞむ東屋、藤棚、ベンチが集まる休憩所など複数のスポットで立ち止まり、石や木や道など、普段はあまり目に留めないような何気ない要素からもヒントを得て「都市の中の緑」について考察しました。

約30分の散策を終えると、一行は東京ミッドタウン内の会場に移動し、着座でのトークへと移ります。

会場では、事前に現地調査した際に撮っていた複数枚の写真を順番に見ながら、対談形式でトークが繰り広げられていきました。
はじめにスクリーンに映し出されたのは、今回の散策ルートでも地面に多数転がっていたであろう「ミミズの糞塚」を収めた写真です。ミミズの糞は、空気や水分の入る隙間がある団粒構造をしており、生き物が住みやすい環境をつくります。現在開催中の「ゴミうんち展」では、展示作品である井原宏蕗の「made in the ground -MIDTOWN」がまさにミミズの糞塚からつくられた作品となっています。

「ミミズの糞塚」を撮影した写真を見ながらトークする3人。

また今回の散策時にも歩いた、檜町公園内の橋を撮影した写真も映し出されました。大野は、橋は一般的には最小限の部材でどのように力を伝えるか、どれだけ長くスパンを飛ばせるかということが重要になるが、檜町公園内の橋はそのような合理性を無視した形になっていることを指摘しました。なぜそのような形になっているのか、またこの橋からどんなことがわかるか、三者三様の目線で読み解いていきます。まず大野が建築的目線として、曲がる部分が多いことで角が生まれるため、たとえ最短ルートで行ったとしても溜まり場ができ、歩く人と檜町公園の景色を眺めたい人の導線を互いに妨げないと分析しました。次に西尾が造園的目線として、檜町公園にあるような「池泉回遊式庭園」という池を中心として回遊できる庭園は、はじめに庭を楽しむための「視点場」を計画してから造られるが、今回取り上げている橋は公園内の池と川を両方見ることができる視点場としての役割を担っているのだろうと話しました。最後に片野が生物学的目線で、石畳とコンクリートの間の目地に木の葉などが落ちていることに着目し、このまま落ち葉を掃除しなければ土ができ、緑地が横断する可能性があることを伝えます。もし繋がれば、緑地がトンネルのような働きをして、一方ともう一方にある生態系が開通して結びつくこともあるだろうと語りました。

「檜町公園内の橋」を撮影した写真。

この他にも、公園内で見られる石の形や向き、東屋の屋根、舗装、水辺の環境についてなど、写真を見ながら多種多様なテーマでトークを繰り広げた3人。同じものを見ても取り上げる要素がまったく異なることに驚きを覚えつつ、その違いを楽しみ、刺激を受け合っているようです。
日常の中の些細な出来事にもなぜ?という疑問を抱き、探求することで、これまでとは異なる景色を⾒ることができると実感できるひとときとなりました。

2024年10月20日(日)、企画展「ゴミうんち展」に関連して、トーク「ゴミうんちを考える」を開催しました。本展でアートディレクターを務める岡崎智弘、企画協力の角尾 舞、会場構成を務める大野友資 (DOMINO ARCHITECTS)と、21_21 DESIGN SIGHTプログラム・マネージャーの中洞貴子が登壇し、企画の始まりから、タイトルの決定、企画チームが「ゴミうんち」をどのように考えながら展覧会をつくりあげてきたかを振り返りました。

左から、中洞、岡崎、大野、角尾。

はじめに岡崎は、2022年の秋に本展の展覧会ディレクターである佐藤 卓から「ゴミをテーマにした展覧会を一緒にやらないか」と声がかかったときのことに触れ、その後、佐藤から「ゴミうんち」という言葉が発表されたときのことを思い起こしながら、その時の衝撃について語りました。驚きと、音のおもしろさ、その言葉がもつパワーを感じたといいます。人の営みや社会、思想と密接に関わるため、視点を広げないと太刀打ちできないテーマであることにすぐに気付き、次に声をかけたメンバーが、大野でした。

大野は、岡崎の考え方や視点、おもしろいことを発見していこうとする姿勢に共感するところが多かったことから「岡崎さんが誘ってくれるなら」と参加を決めたといいます。「会場構成」という肩書であるにも関わらず、出来上がったものを空間の中でどう上手く見せるか、ではなく、どういうものを見せたいかから自分で考え、「ゴミうんち」とは何なのか、という概念から一緒に考えてつくり上げなければならないという役割に気付き、驚いたと話しました。21_21 DESIGN SIGHTの企画展はまずテーマが決まり、チームでリサーチするところから始まります。当館での展覧会に関わるのが3度目となる岡崎は、毎回つくり方が異なる21_21 DESIGN SIGHTのそのような展覧会の制作に大野を巻き込んだと話しました。

その半年後に角尾に声がかかることになりますが、それは、客観的に言葉を整理できる人が必要なタイミングだったといいます。企画チームに参加してほどなく、角尾が「この展覧会は正解を出すものではない」とはっきり言ったことがあったと中洞が振り返りました。21_21 DESIGN SIGHTは多視点を提示する場でありたいと考えていますが、企画チームは、ことさらゴミや環境問題については時に何か一つの考えやあり方を正しいとする方向に傾きがちであることを危惧していました。展覧会の議論が、例えば環境に対するグッドアクションを展示するような方向に振れはじめたところだったので、角尾がそのようにはっきりと方向性を示したことはチームにとってとても良いきっかけになったと言います。

展覧会の制作が進む中で、企画チーム各々が考える「ゴミうんち展」を発表しあったことがありました。それぞれがもつ多様な視点を洗い出すため、だれにも相談せずに自分が考えるゴミうんち展を出し合ったのです。そのときの大野の案から「糞驚異の部屋」や、サンクンコートに庭を設けることが決まっていったと振り返ります。

大野は「ゴミうんちとは何か、と、一言で説明できる言葉はない。そこで、博物館の起こりとされる『驚異の部屋』をモチーフに、ゴミうんちにまつわる情報でパンパンに埋め尽くす部屋をつくることを考えた」と説明します。「ゴミうんち」で思いつくものを皆で持ち寄り展示することで、演繹法的にぼんやりと導き出されるイメージがあるのではないか。自分なりの「ゴミうんち」像を、それぞれのバックグラウンドと重ねて結びつけられるはずだと考え、そういう部屋を展覧会の最初に持ってきたかった。これが「糞驚異の部屋」が生まれた瞬間でした。岡崎もその話を聞いたときに、これは絶対に入れるべきだと思ったと言います。

「糞驚異の部屋」展示検証中の様子。

岡崎は議論が進むにつれて、これはまとまらない展覧会だと感じ始めます。まとまらないことを受け入れながら、その前提でどうデザインしていくか。まとめずにどうまとめていくかが重要だと考えたと話します。そして「ゴミうんち」というワードができたとき、「pooploop」という英語タイトルが決まったとき、それを岡崎がコマ撮りの動画にしてみたとき、それぞれの瞬間に、グイグイっと前に進んで行った感覚があったことを思い起こしました。岡崎は、展覧会のつくり方に正解がないからこそ、杭を打ってそれを頼りに前に進むことでしか、進んでいかない。その瞬間の積み重ねだったと続けます。

トークは会場構成の話に移ります。これまで展覧会の会場構成をあまり手がけたことのない大野は、展覧会の会場をつくる施工会社に、展覧会がどういう材料でどのようにつくられているかを丁寧にヒアリングしたといいます。ゴミうんち展の二つ前の企画展「もじ イメージ graphic 展」が閉幕後どう解体されるかを見学し、建築では考えられないスピードで壁が解体され、次の展覧会ができあがっていくことに驚きました。そのスピードの秘密の一つは、壁の下地になっているリースパネルというパネルの存在でした。リースパネルは展覧会の業界の中で循環して(使い回されて)います。そこで、施工会社が所有しているリースパネル300枚を借りて空間をつくり、ゴミうんち展が終わったらまた戻すという発想で会場をつくることができないかと考え始めました。

会場に運び込まれたリースパネル。

本展では既存の300枚に加え、新しいリースパネルも制作しています。本展で役目を終えるパネルもあれば、この展覧会から使い回されていくものもあります。大野には「この展覧会を通して新陳代謝を起こしたい」という考えがありました。循環をテーマにした展覧会をつくる上で、新しいものをつくることを否定することはしたくなかった、と話す大野に対して、角尾は、ゴミがテーマになると物を増やすことに対する罪悪感が先に出てしまうことがあるが、それを完全に否定すると、文化が止まってしまうことになりかねない。そうではないやり方があると模索していた、と続けました。

話は再び「糞驚異の部屋」の制作背景に戻ります。会場設営中に出るゴミも「糞驚異の部屋」で展示されることになり、岡崎は展示品を探して会場中ゴミを探し回ったといいます。また設営中に破棄される予定のものの一部はサンクンコートの作品「漏庭」の造形に使用されました。施工中も話し合いながらつくっていくことができたのは、この展覧会ならではなのかもしれない、と角尾は振り返ります。決まりきっていなかったからこそ、楽しむ余白があった。常に動いていて会期中も変わっていく、会期終了後も変わっていくだろう、という考えが浸透していた。大野は、動的平衡や、新陳代謝のように、常に動いているけど全体像は変わらない、という展覧会なんだろうと話していたと振り返りました。展覧会ディレクターの佐藤、竹村も「動き続ける展覧会にしたい」と常に言っていたと言います。

その他、エントランスバナーからタイトルが消えたこと、本展ならではのキャプションの工夫や、「pooploop popup」、会場内に散りばめられた「うんち句」など、各所に散りばめられた本展を何度でも楽しむことのできる工夫についても紹介されました。トーク参加者からは、遠方から来館したという嬉しい声も聞かれました。当館ならではの展覧会のつくりかたについて隠すことなく語られ、より深く、展覧会の成り立ちと趣旨を理解することのできる機会となりました。