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2018年3月 (7)

企画展「写真都市展 −ウィリアム・クラインと22世紀を生きる写真家たち−」の展覧会ディレクターを務めるのは、数々の著書や展覧会企画で知られる写真評論家で美術史家の伊藤俊治。ウィリアム・クラインの作品が、映像作家TAKCOMの手でどのようなインスタレーションとなったのか。展覧会の全体像を紐解く展覧会ディレクターのインタビュー第2弾。(文・聞き手:中島良平)

ウィリアム・クライン+TAKCOM「ウィリアム・クライン+TAKCOM,2018」

ニューヨークのスカイスクレイパーの印象が強烈なロビーから次の展示室に移動すると、ウィリアム・クラインのイメージが目くるめくスピードとリズム感で空間に展開する。映像作家TAKCOMがウィリアム・クラインの作品200点あまりを使い、空間全体でマルチ・プロジェクションを行う映像インスタレーション『ウィリアム・クライン+TAKCOM, 2018』だ。ここにもやはり、「従来の写真展の方法とは一線を画したい」という伊藤の狙いが見え隠れする。

「クラインさんの処女作は『ニューヨーク』ですが、都市を回りながら撮影を続け、やがて彼は映画制作を発表するようになり、デザインにも大きな興味を持ったり、『VOGUE』などのファッション誌に写真を発表したり、表現の場を移していきました。今回、TAKCOMさんにインスタレーションを依頼することに決め、写真や映画、アニメーション、タイポグラフィ、映画のスティル写真など、様々な作品を集めました」

ウィリアム・クライン「Models, backstage from the movie "Who are you, Polly Maggoo? (1966)"」

クラインの事務所と話し合い、またTAKCOMの意見も聞きながら作品の選出を行なった。大きなサイズで映像が投影されるメインの壁面のみではなく、対面の壁にはクラシックなスライド映写機でポジフィルムの投影も行われるなど、演出は一面的ではない。鑑賞者も体の向きを変えながら全身で空間を体験し、クラインのビジュアル世界に引き込まれていく。

「異なるメディアをフラグメンタルに見せてしまうのではなく、それぞれのメディアが最終的に融け合わさって、見ている人たちがまるで空飛ぶじゅうたんに乗って新しい星へと連れ去られていくようなビジョンがあったらおもしろい、というようなことを考えたんです。TAKCOMさんがそのコンセプトを理解して、最終的に新しい写真の体験が、新しい映像の体験が可能な一つの場が生まれたと感じています」

ウィリアム・クライン+TAKCOM「ウィリアム・クライン+TAKCOM,2018」

このインスタレーションを出ると、21_21 DESIGN SIGHT最大の展示室に20代から50代の東アジアの作家たちの作品が並ぶ。20世紀の都市の典型とも言えるニューヨークの姿に始まるこの企画展の展開には、21世紀に入って西洋中心の価値観が大きく崩れてアジアのダイナミズムが生まれるなど、都市や国どうしのバランスが大きく変容した様子が表現されている。

「ウィリアム・クラインとTAKCOMの組み合わせもそうですけど、異なる2つのものが出会ったとき、そこには今まで見たことのないような美的な、創造的な、知的な結合が生まれると考えて私はこれまで展覧会を作ってきました。今回も、西洋の都市を疾走してきた今年90歳のクラインさんの表現に、次の世紀を担うようなアジアのエネルギッシュな才能を対比させた意図はそこにあります。ネットワークやテクノロジーと組み合わさって、新たな写真表現が生まれていることも、自然とそこに立ち現れてくるでしょう。『写真都市』というテーマである一つの見方を強要するのではなく、そこに多軸的な概念や視点が生まれることで興味深い展示になると考えたのです」

Vol. 3に続く

2018年3月17日、企画展「写真都市展 −ウィリアム・クラインと22世紀を生きる写真家たち−」に関連して、トーク「テクノロジーと表現」を開催しました。 トークには、情報学研究者のドミニク・チェンと本展参加作家のTAKCOMが登壇しました。

写真表現は、飛躍的なテクノロジーの革新によりその可能性をますます拡張し、視覚や知覚を通して私たちの固定概念を揺さぶり、世の中の価値を変容させてきました。
本展参加作家のTAKCOMは、ウィリアム・クラインの作品を使って展示空間に都市が現れてくるような作品を制作しました。
TAKCOMは、「クラインがAdobeやMacを使用したらどのような表現をするのか」を想像しながら、グラフィックデザイナーでもあるクラインによる無数の作品を自ら解釈し、再構築し、モーショングラフィックやアニメーションを制作したと言います。

次に、写真とSNSの関係性について二人は語り合いました。
「InstagramやTwitterなどを通じて、世界中で同時に様々なことが起こっていることに気づく」とドミニク・チェンが語るように、今はSNSの発展により、複数のタイムラインから世界を見ることが可能な時代となりました。さらに、タイムラインは数分の間に流れるように変わり、テキストを交わすように写真を交わしてコミュニケーションをとる時代になったと続けます。TAKCOMは、AR技術を有効活用した韓国発祥のカメラアプリSNOWを例にあげ、加工することにより、非現実的でユニークな動画や写真を撮ることができる顔認証機能に関心を持っていると言います。

写真の鑑賞方法が多様化し、変化している今、本展が「ゆっくりと写真を観る機会となった」と二人。写真を観る行為の意味について、新たに問いかける展覧会になったのではと見解を続けます。

最後には、参加者からの質問に、様々な視点から新しいテクノロジーや写真の在り方について語られ、私たちの日常に溢れているテクノロジーと表現がより身近に感じられるトークとなりました。

2018年2月23日、企画展「写真都市展 −ウィリアム・クラインと22世紀を生きる写真家たち−」が開幕した。展覧会ディレクターを務めるのは、数々の著書や展覧会企画で知られる写真評論家で美術史家の伊藤俊治。「写真都市」という言葉に込めた意味とは? ウィリアム・クラインが出発点となった理由とは? 展覧会ディレクターのインタビューから、企画の全体像を紐解いていく。(文・聞き手:中島良平)

「写真の誕生時期には諸説ありますが、1820年前後には写真の原型ができあがっていたと言われています。それからおよそ200年の年月が経って、写真には技術的な進化が起こり、写真独自の表現の展開も生まれてきました。21_21 DESIGN SIGHTから、ウィリアム・クラインと写真にフォーカスした展覧会を行いたいという意向を受けて、私は、これからの変化を予兆するような展覧会を実現できたら刺激的だと考えたのです」

そう語る伊藤俊治が、最初に思い浮かんだのが、1956年にクラインが衝撃的なデビューを飾った写真集『Life Is Good & Good for You in New York: Trance Witness Revels(邦題:ニューヨーク)』だった。

ウィリアム・クライン「Gun 1, New York 1955 (painted contact 2000)」

その背景には、1984年に上梓した自身初の単著『写真都市−CITY OBSCURA 1830→1980』で綴ったように、写真技術と近代都市との発展の関係性がある。

「近代都市の発生と写真の発明は、ほとんど同時期にシンクロしながら展開してきました。ニューヨークが両大戦間に変貌するプロセスをとらえたベレニス・アボットや、20世紀初頭に転換するパリを撮影したウジェーヌ・アジェなどといった写真家たちと都市の発展との関わりについて、そして、ウィリアム・クラインもまたエポックメイキングな都市ビジョンとそのイメージを作ったということを本に書きました。ニューヨークに始まり、ローマ、モスクワ、東京、パリなど世界の都市を巡って撮影した彼の刺激的なイメージは、多くの写真家やアーティストに強い影響を与えたのです」

地下ロビー展示風景

展覧会場の地下1階に足を運ぶと、最初の展示空間で目に飛び込んでくるのが、壁一面を覆うニューヨークのスカイスクレイパーの写真『Atom Bomb Sky, New York 1955』だ。林立するビルが墓標のようだと表現されることもあり、空の向こうに広がる光の輪が彼岸へと、あるいは次世紀へと誘うような強烈なイメージを伊藤は「過去も現在も未来も一つのイメージに圧縮したような感覚をもたらす」と表現する。

「まずクラインさんは膨大な数の写真を撮っていて、写真集だけでも何十冊も作っているので、写真のプリントだけを壁面に展示するような、従来の写真展の方法とは一線を画したいという狙いがありました。それで、スカイスクレイパーのイメージをメインにして、その周りに、彼が初めてデジタル撮影した最近作の『BROOKLYN+KLEIN』を初めとする写真集の現物や、実際に撮影に利用したデジタルカメラの実機などを展示しました」

企画展の出発点となったウィリアム・クラインの表現。次の展示室には、CMやMVに始まり、実験的なショートフィルムなども手がける気鋭の映像作家TAKCOMが、クラインによる数々の素材を組み合わせたインスタレーション作品を空間全体に展開する。

Vol. 2 に続く

開催中の企画展「写真都市展 −ウィリアム・クラインと22世紀を生きる写真家たち−」に関連して、『Numéro TOKYO』4月号(扶桑社)に、ウィリアム・クラインをはじめ本展参加作家の作品が、クラインが『Numéro TOKYO』に寄せたコメントとともに紹介されました。

>> Numéro TOKYOウェブサイト

『Numéro TOKYO』4月号(扶桑社)

2016年に開催した21_21 DESIGN SIGHT企画展「土木展」の巡回展が、2018年3月31日より、上海の藝倉美術館で開催されます(主催:藝倉美術館)。
展覧会ディレクターの西村 浩が上海でリサーチを行い、土木写真家 西山芳一の撮りおろし写真など、巡回展独自の作品も加えた展覧会です。私たちの生活を支える縁の下の力持ち「見えない土木」を、楽しく美しくビジュアライズします。

>> 藝倉美術館ウェブサイト

21_21 DESIGN SIGHT企画展「土木展」in 上海 メインビジュアル(展覧会グラフィック:柿木原政広)
会期
2018年3月31日(土)- 6月24日(日)
会場
藝倉美術館3階(中国・上海市)
3F, Modern Art Museum (4777 Binjiang Avenue Pu Dong, Shanghai)
休館日
月曜日
開館時間
10:00-18:00
主催
藝倉美術館 Modern Art Museum
企画
21_21 DESIGN SIGHT

2018年2月24日、企画展「写真都市展 −ウィリアム・クラインと22世紀を生きる写真家たち−」に関連して、トーク「沈 昭良の写真について、アジアの写真の特性について」を開催しました。
トークには、台湾を代表する写真家で本展参加作家の沈 昭良と、本展ディレクターの伊藤俊治が登壇しました。

はじめに、伊藤より台湾の地理や宗教について、沈より移動舞台車(STAGE)の歴史について説明がありました。
1990年代初期から台湾南部を中心に、冠婚葬祭のために使用された移動舞台車は、その後、手動から自動へ、有線から無線へ技術も絶えず進化し、音響や電子装飾が加わった電気花車に発展しました。現在は、冠婚葬祭はもちろん、ポールダンスや歌のパフォーマンス、選挙活動の街頭演説に使われるなど、廃れることなく時代のニーズに応えながら、台湾の特殊な文化として深く根付いているといいます。

次に沈は、時代ごとの移動舞台車のデザインを並べて見せながら説明しました。
沈の写真は、すべてのものを吸い込んでしまうような亜熱帯の夜の特別な瞬間を捉えていると伊藤は述べます。
まるで移動舞台車自体が都市であるかのような印象を受けたと伊藤が語るように、歴史と場所を切り取った沈の写真からは、島国独特の文化ビジョンが強く伝わります。長期にわたり撮影した3つのシリーズ『STAGE』『SINGERS&STAGES』『台湾綜芸団』からも、社会や地域にどんどん深く入り込み、内容も奥深いものになっていることがわかります。

最後に伊藤は、政治や文化といった社会的な大きな変容にあわせ、写真の力や写真の役割も同様に変化していると自身の見解を語りました。
沈の作品を通して、写真が担う意味の重さ、表現の可能性を参加者とともに探る貴重な時間となりました。

21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3では2018年3月3日から「thinking tools. プロセスとしてのデザイン― モダンデザインのペンの誕生」が開催されています。

バウハウスデザインのドイツのペンブランド、LAMYによるペンのデザインの過程に焦点を当てた本展。
LAMYを代表する様々なペンのプロトタイプや製品開発の現場のワンシーンの展示に加え、世界に名を馳せるイラストレーター、クリストフ・ニーマンが本展のために手掛けたドローイングとインスタレーションで機能美のデザインの本質に迫ります。

© Christoph Niemann for C. Josef

本展は、2016年にドイツ・フランクフルトの応用工芸博物館での開催を皮切りとしたLAMYデザイン50周年を記念した世界巡回展です。