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野生展:飼いならされない感覚と思考 (5)

2018年1月27日、企画展「野生展:飼いならされない感覚と思考」に関連して、「田島征三と木の実のワークショップ」を開催しました。

絵本作家でありながら、絵本の枠を超えて様々な制作活動を続ける田島征三は、本展で、未成熟のモクレンの実と膠(にかわ)を使った作品「獣の遠吠え」を展示しています。 この作品にちなんで、本ワークショップでは、2歳から10歳までのこどもたちが、木の実の膠を使って自由に作品をつくりました。

はじめに、田島自身の解説を聴きながら、「獣の遠吠え」を参加者みんなで見学します。 木の実が生きていたときの記憶を蘇らせたこの作品は、素材となったモクレンの実や膠と、田島との対話によって制作されました。
ワークショップで使う木の実も、「今はカラカラに乾いて固くなっているけれど、元々は生きていたもの。だから、それをくっつけるのにも膠という動物からできた糊を使います」と田島は言います。

こどもたちがそれぞれ持参した紙箱に土台となる片面段ボールを貼り付けたら、いよいよ木の実を使った作品づくりです。 田島が持参した様々な形の木の実を、立てたり、寝かせたり、逆さまにしたり、思い思いの方法で箱に付けていきます。初めて使う膠も、だんだんコツを掴んで上手に付けられるようになりました。

「少しくらい失敗してもいいから、誰かの真似はしないこと」という田島の言葉通り、一人一人、個性やストーリーを込めた作品が、完成しました。

最後には、記念撮影も行いました。作品づくりから、完成した作品を保護者のみなさんと鑑賞するまで、素材と自分自身との対話を楽しむ2時間となりました。

2018年1月13日、企画展「野生展:飼いならされない感覚と思考」に関連して、トーク「まるで野生」を開催しました。

トークには、本展ディレクターの中沢新一と、21_21 DESIGN SIGHTディレクターでプロダクトデザイナーの深澤直人が登壇しました。

冒頭で深澤は、「『野生』という言葉を以前から用いている中沢さんと一緒に、本展を読み解き、現代の様々な事象を『野生』という視点からどのようにみることができるのかを話したい」と、本トークの主旨を説明しました。

中沢、深澤はともに山梨県の出身です。まずは、本展のイントロダクションとして展示されている「丸石神」の多くが山梨県にあること、現地の縄文遺跡から丸石がたくさん出土されたことに触れました。こうした信仰が「アミニズム」、人間的でないものと人間とのコミュニケーションという視点でも説明できると二人は語ります。「岩が自然の現象で丸くなるのを、神による創作としたのではないか」と、深澤。

その後、「かたち」へと話は移ります。深澤は、本トークのために、大理石の産地として知られる台湾・花蓮にて採取した海辺の石たちを持参しました。この自然のかたちに触れつつ、ものづくりは人間の行為であることを前提に、「自分のデザインが、自然の中から生まれたかのようにものづくりを行ないたい」と深澤が述べると、「深澤さんは、深澤直人という道具を用いて自然を造形しているのではないか」と中沢が応えました。

人類学者とデザイナー、二人の視点から、「野生とかたち」の関係を読み解き、野生をデザインに取り入れるヒントを探るトークとなりました。

2017年12月16日、企画展「野生展:飼いならされない感覚と思考」に関連して、フィールドワーク「野生さんぽ」を開催しました。
展覧会ディレクターの中沢新一と企画協力の山田泰巨の案内のもと、本イベントのために用意された「アースダイバーマップ」を片手に、六本木を散歩するイベントです。

アースダイバーマップとは、縄文海進期の地層図に、古墳の場所や現在の神社などを重ねて記した地図です。21_21 DESIGN SIGHTの位置する六本木・赤坂周辺は、都市開発が進んではいるものの、古来よりの場所も点在しています。そういった場所を巡り、タイムラインを体感することがこのフィールドワークの目的であると、はじめに中沢が説明しました。

参加者は、21_21 DESIGN SIGHTから街へと出発します。谷が多く、都市開発の対象となりにくかった六本木・赤坂は、戦後にアメリカ軍の統治の影響を強く受け、水商売や芸能の街として栄えたと中沢は言います。例えば、大通りを抜けると現れる飲み屋が立ち並ぶエリアは、元々農道であったため、坂道が錯綜するような構造となっていると説明しました。街が現在の姿に至るまでには様々な背景があることが実感されます。

朝日稲荷や氷川神社などを巡り、かつて古墳であったときの名残や過去の片鱗を見聞きすることで、人々の暮らしの変遷を辿っていきます。高層ビルが立ち並ぶ街のなかに、古のものが残っていることに驚き、感銘を受けます。

私たちが今立っている場所を、時空を超えて読み解くことで、普段と異なる視点で自らを取り巻く環境を楽しむ方法を提案した本イベント。都市における野生の発見方法を体感できる機会となりました。

2017年10月28日、企画展「野生展:飼いならされない感覚と思考」に関連して、オープニングトーク「はみだし野生」を開催しました。
トークには、本展ディレクターの中沢新一と参加作家のしりあがり寿が登壇しました。

まず、両者はしりあがり寿の作品「野生の現出」について触れました。「しりあがり寿の作品に野生を見る」と語る中沢。日本に存在する野生とは、下品なものではなく何か違うものだと考えたとき、しりあがり寿の名前が浮かんだと言います。さらに、日本古来の芸術表現が野生的であるとすれば、野生とはとてもエレガントなのだという認識を得たと中沢は語りました。

話題は、「かわいい」と野生の関係性に移ります。本展では、「『かわいい』の考古学:野生の化身たち」と題して、縄文土器から現代のキャラクターに至るまで、日本人が「野生の依り代」として生み出してきた「かわいい」造形を展示しています。その「かわいらしさ」は、捉えどころのない野生の領域を、形としてどう表現するかにかかっていると中沢は言います。しりあがり寿のスケッチを使って、野生の領域について解説します。

しりあがり寿は、野生は「ごちそう」だと言います。「人間は、予測不可能な混沌に満ちた野生的なものに出会うと、そこから秩序をつくる」と述べ、つまり秩序とは、人間が取り入れた野生を排泄したものであり、人々が求めているのはまさに野生であると語りました。

トーク終盤では、ものづくりにおける野生の力について触れられました。法律やきまりなどを意識し、枠を超えた表現が難しくなっている昨今において、野生の領域は日本に残された独占領域であり、創造の原点であると中沢は語りました。 様々な視点から野生について語る二人の言葉から、「野生の発見方法」に通じるヒントが垣間見えるトークとなりました。

2017年10月20日、いよいよ開幕となる「野生展:飼いならされない感覚と思考」の会場の様子を、いちはやくお届けします。

人間の文化と生活には、心の土台となる「野生」の能力が欠かせません。
理性や合理性ばかりが前面にあらわれる現代においても、私たちの本能であり知性でもある野生の感覚と思考は、いまだ失われていません。
本展は、現代の表現者たちのもつ野生の魅力に着目し、さまざまな作品や資料を通して、その力を発動させるための「野生の発見方法」を紐解く展覧会です。

写真:淺川 敏/Photo: Satoshi Asakawa