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2023年6月 (5)

六本木アートナイト2023の開催に合わせ、21_21 DESIGN SIGHTでは開館時間を22:00まで延長しました。5月28日(日)には、企画展「The Original」の関連プログラムとして、本展ディレクターの土田貴宏によるギャラリーツアーを開催しました。

本展では19〜21世紀の家具など日用品の名品が大まかな時系列で展示されていますが、そこに明確な順路はなく、さまざまな方向から観てプロダクトの新しいつながりに気づくことができるように構成されています。ツアーでは、展示プロダクトを俯瞰して互いの共通点を見つけ出し、デザインの意図や背景についての理解が深められるよう、会場を巡りました。

プロダクトに近づき細部まで観察する姿や、頷きながらメモを取る参加者も見られ、本展をより深く理解することができる機会となりました。

展覧会の会期も残りわずかになりました。プロダクトに加えて、写真やテキスト、グラフィック、展示空間でも「The Original」の背景にある考え方をあますところなく紹介しています。会場にお越しの際はぜひお楽しみください。

2023年5月22日(月)、企画展「The Original」に関連して、トーク「並はずれた、独創の力。」を開催しました。本展ディレクターの土田貴宏、21_21 DESIGN SIGHTのディレクターでもあり、本展企画原案の深澤直人が出演し、企画協力の田代かおるがモデレーターを務めました。

左から、土田、深澤、田代。

冒頭で展覧会誕生の経緯について尋ねられると、深澤は、デザインの真髄を見せる展覧会を一度やった方がいいのではと考えていたと答えます。「デザインには、真似ではなく、エッセンスを継承していくという流れが必ずある。それとは絶対交わらないぞ!という思いでやっているデザイナーもいるし、自分で独創性を生み出そうとデザインをする人たちがたくさんいた時代があった。そういう人たちを知った方がいい」と語りました。

そして、二人のジャーナリスト、土田と田代に語ってもらうことを考えたといいます。深澤から挙がった「The Original」という原案に対して、土田は、いわゆる「原点」だけではなくより独創性に焦点を当てたものへと考えを展開し、「いくつかの方向性から考えることで展覧会を構成することができるのではと考えた」と加えました。

また展覧会タイトル決定の経緯について深澤は、何がオリジナルなのかがわからない時代だからこそ「The Original」という言葉を選んだと説明します。当初土田は「独創の力、その意義と美しさ」というキャッチコピーを挙げましたが、「並はずれた(Extraordinary)」という言葉が深澤から出てきたことで「並はずれた、独創の力。(The Extraordinary Power of Originality.)」というキャッチコピーが生まれたと話しました。

続いて深澤が、本展を企画するきっかけとなった3つのプロダクトについて紹介します。1点目はフランコ・アルビニによる椅子「ルイーザ」(1955/2008、カッシーナ)。少しだけ広がった脚先やアームの先のデザイン。これを別の人がやったら真似になる。なぜ単純な椅子にこんなにも個性が出せるのか。深澤は「尊敬しかない」と感じ、本展の企画の際に一番最初に頭に浮かんだといいます。

2点目はルイジ・カッチャ・ドミニオーニのランプ「インブート」(1953/2018、B&B イタリア)、そして3点目として挙げたのがヴェルナー・マックス・モーザーによる椅子「モーザー 1-250」(1931、ホルゲングラルス)です。モーザーは日本では流通していませんが、スイスではよく見られる一般的な椅子です。深澤によると、背板の隅に後ろ脚がくっついている点で「僕らの常識からは上(うわ)っている。」こんなに人に影響を与える単純な椅子は他にない、間違いなく「最高の椅子」だと語りました。

トークは、本展のメインビジュアルに「ローリーポーリー」(2018、ドリアデ)が採用された経緯へと展開します。やや広すぎるくらいの座面は、デザイナーのフェイ・トゥーグッドが母性に目覚めた時期に生まれたデザイン。土田は、個人的な思いが表現された形のインパクトと、元々は少数生産品だったものが量産されて広がっていったというストーリーが魅力だと語りました。土田の提案を受けた深澤は、この椅子をメインビジュアルとして使用することで「一体どんな展覧会なんだろう?」と思わせるのではと考え、メインビジュアルに推薦したと説明しました。

本展ではローリーポーリーのような近年のデザインも複数展示しています。土田は「デザインの変遷が見られるだけでなく、まだ価値づけされていない現代デザインもぜひ見てもらいたい」と話しました。

田代は「デザインに限らずどの分野でも、何がオリジナルで何がリデザインで何がコピーなのかよくわからなくなってしまった時代。知ろうと思えば、ちょっとした努力で、オリジナルを探ることはできる。展覧会で見たものがそのヒントになればいいなと思う」と語りました。形あるものに囲まれて生きる中で、その形がどのような苦労を経て生まれてきたかを知ると、生活が楽しくなる。ものの背景にある作者の葛藤や喜びを知って楽しんでもらえれば、と続けました。

最後に深澤は、日常の中でいいデザインを語りあえる機会があまりないこと、また本物に触れて感動する機会が減っていることを危惧しているといいます。「いいデザインを知れば知るほど、自分を豊かにしてくれるものがこんなにもあることに気づき、生活は豊かになると思う」と強調しました。

また、若手のデザイナーに対して「目標があればそれに向かって努力できる。凄さを知らなかったら、行く術がない。経験の少ないデザイナーは自分が感動したものを手本にすればいい。たどり着けると思ってやろうとすれば、きっとできるようになる」というメッセージを伝え、本トークを締めくくりました。

* 括弧内は、デザイン年/販売開始年、メーカーを表しています

現在開催中の企画展「The Original」に関連して、『AXIS』223号に、展覧会ディレクターの土田貴宏と、21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクター川上典李子のインタビューが掲載されました。
詳細と購入に関しては、AXISのウェブサイト(外部サイト)でご確認ください。

『AXIS』223号

ギャラリー3では、6月25日(日)まで「Summer Greetings by HAY」を開催しています。

HAYは、新しいタイプのデザインカンパニーとして2002年にデンマークで設立されたインテリアプロダクトブランドです。世界中の優れたデザイナーと開発を行いながら、高品質で長く使うことができ、かつ手頃な価格でプロダクトを提供することを目指すHAYが、新たに復刻したのはヘリット・リートフェルトによるCRATE COLLECTION。この名作家具シリーズを中心に、「アウトドア」をテーマにした空間がギャラリー3に現れました。

​​インテリアスタイリスト 作原文子により、生活のさまざまなシーンが散りばめられたギャラリー内はグリーンに溢れ、HAYのプロダクトが表情豊かにスタイリングされています。さらに窓の外のミッドタウン・ガーデンの木々や草花への広がりが心地よさを際立たせ、ギャラリー3の空間の特性が活かされた構成です。洗練されたアウトドア家具は、ガーデンを行き交う人々に対し、賑わいとともに安らぎも提供しています。

会場では、これからの季節に最適なインテリア雑貨や、キッチンプロダクトを販売する HAYミニマーケットでのお買い物もお楽しみいただけます。

撮影:Kanta Nakamura (NewColor inc)

2023年4月30日(日)、企画展「The Original」に関連してトーク「企画展『The Original』を俯瞰する」を開催しました。登壇者には、鈴木 元(プロダクトデザイナー)、松澤 剛(デザインプロデューサー)、山田 遊(バイヤー)、渡部千春(デザインジャーナリスト)を迎え、本展ディレクターの土田貴宏がモデレーターを務めました。

左から、松澤、鈴木、山田、渡部、土田。

トークは、それぞれが企画展「The Original」を観覧した際に抱いた感想を述べ合うところから始まります。
渡部は「最近は実物を見るという機会が減っている。展覧会を見て、美しいものはやはり心に響くと感じた」と述べました。開幕初日の午前中に見にきたという山田は「観覧の早めの段階で展示品がほとんど現行品であることに気づいた。つまりかなりセレクトショップに近い形の展覧会だと思う」と語りました。普段お店をつくる上で、情報の置き方や見せる順番を常に考えている山田は、展覧会のテキストの置き方から、先に情報を入れたいのだということに気付いたといいます。それに対して土田は、展示品にはすべてにテキストをつけ、展示プロダクトを見る際に絶対に文字が目に入るよう工夫したと説明しました。

鈴木は作り手の立場から「本当のマスターピースというより少し外したものが入っていて、その串刺しの仕方が『The Original』だと感じた」と述べました。自身のものづくりに対する考え方も交えながら、展示プロダクトが、独創的であろうとしてつくられたものではなく、目の前の素材などに向き合い没頭してつくったという印象を受けたといいます。また、そのほとんどが量産品であることについて、独創的で個性的であるにも関わらず、受け入れられて売り続けられていることに感銘を受け、つくり手として勉強となったと語りました。

松澤は「オリジナルはつくろうとしてつくるものではない。作為なく、滲み出てしまうデザイナー自身の細胞のようなものなのではないか」と話し、デザイナーとメーカーとの関係に触れながら、ひとつのプロダクトが何十年も残るということがいかに難しいことかについて説明をしました。

一方で松澤や山田からは「これがない、あれがない」がたくさんあったという意見も上がります。土田は、展示候補として挙がってはいたものの、国内の在庫の状況などにより展示を諦めたプロダクトがあることを明かしました。また展覧会として俯瞰して考えた場合に、当たり前のものが並びすぎているのはどうかと考え、あまりにも有名すぎるプロダクトのいくつかはあえて候補から外したという経緯も語られました。

引き続き選定についての意見交換が深まります。渡部は「どうしても一人では選べないと思う」といいます。あまりに主観的なもの選びは、それはそれでおもしろいかもしれないけれど、デザインがコミュニケーションのツールであると考えると一人のメモリだけで測るのは無理だと話しました。土田も「客観性を重視した」と答えます。選定者が複数いれば指標はいくつか持たざるを得ない。揺らぎはどうしても避けられないがそれもひとつの意義として捉えていたと加えました。

トーク後半の質疑応答では「展覧会を、こう見たらおもしろいのでは?というのがあれば教えてください」という質問が寄せられました。
松澤は「その場で値段を調べたり、情報を調べながら見るのもおもしろいのでは」と答え、値段によってそれがどれだけ世の中の人を対象としているのかと知ることもできるといいます。鈴木は「自分の家に置いてみたらどう見えるんだろうと考えながら見るのも楽しい」と答えました。

土田は鈴木のコメントを受け、展示プロダクトが「展示されること」を目的につくられていないこと、それゆえ展示空間でその良さをすべて伝えるのは難しいと述べました。展覧会ではどこにオリジナリティがあるのか、に焦点をあて紹介しています。土田は、それを考えるきっかけを示せればと話し、本トークを締めくくりました。