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クリストとジャンヌ=クロード "包まれた凱旋門" (13)

企画展「クリストとジャンヌ=クロード "包まれた凱旋門"」に関連して、2022年12月16日(金)、オンライントーク「LIFE with Christo and Jeanne-Claude」を開催しました。本トークには、写真家のウルフガング・フォルツを迎え、聞き手として21_21 DESIGN SIGHT アソシエイトディレクターの川上典李子が出演しました。

フォルツは専属写真家として、クリストとジャンヌ=クロードと50年以上活動を共にしました。具体的には、クリストがドローイングを制作する際に使用する景観の写真、交渉活動や工事の記録写真、そしてプロジェクトの完成写真を担当しました。

オンライントークでは、まず二人との出会いについて振り返りました。1968年、当時写真を学ぶ学生だったフォルツは、ドイツのカッセルで開催された国際美術展 第4回ドクメンタではじめて二人の作品を見て、非常に強烈な衝撃を受けながら、その「5,600立法メートルのパッケージ」を1枚だけ写真に撮ったと話しました。その後、1971年にドイツのハウスラング美術館の展示で初めてクリスト本人に会いました。クリストに写真を撮らせてほしいと依頼し、まさか撮らせてもらえると思わなかったものの、了承してくれたので、当時から誰に対してもフレンドリーに接していることが印象に残っていると語りました。

クリストとの出会いを語る様子

この出会いを機に、二人のプロジェクトに関わり始めるようになります。クリストから直々に、第5回ドクメンタの会場にてコロラド州で行われるプロジェクトの最新情報を案内するインフォメーション・ブース係に誘われ、フォルツはプロジェクトの写真を撮るためにコロラド州へ自分を連れていくことを条件にこの仕事を引き受けました。こうしてフォルツは「ヴァレー・カーテン、コロラド州ライフル、1970–72」を見事に写真に収めることができたのです。撮影のすぐ後、突風で作品が吹き飛ばされてしまったので、写真を撮れてとても幸運だったと話しました。また、フォルツは自身を情報案内係のように、写真家以外のタスクも任せられる人材だということを二人は見極めていたのだと実感したそうです。

フォルツは「ランニング・フェンス、カリフォルニア州ソノマ郡とマリーン郡、1972–76」の実現に向けて、反対する人々に対して二人が数年にわたって誠実に説明を繰り返す姿を見てきました。その過程を経て、実現したランニング・フェンスを初めて見たときは、本当に素晴らしいと感じ、今でも一番思い出深いプロジェクトだと語りました。 また、「囲まれた島々、フロリダ州グレーター・マイアミ、ビスケーン湾、1980–83」では、写真家としての役割が新しい段階へと発展したといいます。フォルツが上空から撮影したビスケーン湾の島々の写真を、クリストはコラージュに活用したのです。準備風景や完成写真の撮影だけではなく、実現に向けた設計図でもあるアートワークの一部となったことは特別な経験でした。

「ランニング・フェンス、カリフォルニア州ソノマ郡とマリーン郡、1972–76」について語る様子

「囲まれた島々、フロリダ州グレーター・マイアミ、ビスケーン湾、1980–83」について語る様子

本展で展示されている写真の多くはフォルツによるものですが、写真家としての二人との協働に加え、布の調達や工事業者の調整役としても深く関わり、「包まれたライヒスターク、ベルリン、1971–95」、「ウォール、オーバーハウゼン、ドイツ、1998–99」、「ビッグ・エア・パッケージ、オーバーハウゼン、ドイツ、2010–13」ではプロジェクト・ディレクターを任されました。

プロジェクト・ディレクターを務めた「包まれたライヒスターク、ベルリン、1971–95」について語る様子

二人がフォルツのことを紹介するとき、写真の仕事をする人とは言わず、「プロジェクトにともに取り組む仲間」と表現していたと話しました。二人は歳を重ねても、常にワーキング・ファミリーを深く信頼し、彼らの能力を引き出していたところが他のアーティストとは異なる特徴だと感じていたようです。

Paris, June 2009, Christo and Jeanne-Claude and Wolfgang Volz/ Photo Didier Gicquel

クリストとジャンヌ=クロードとの出会いから、常に現場という近い場所にいる写真家のフォルツだからこそ見ることのできるプロジェクトの風景、思い入れのあるプロジェクトのエピソードや二人の人間性についてなど、盛りだくさんの内容となりました。

2021年にパリで実現した「包まれた凱旋門、パリ、1961–2021」では、モニターと呼ばれる約350人もの案内スタッフが作品の周辺でプロジェクトの説明などを行いました。過去のプロジェクトにおいてもクリストとジャンヌ=クロードは常に公共性を重視し、地域住民から政治家まで、その作品を取り巻く人々との話し合いを欠かさずに続けてきました。プロジェクトの準備段階で周りの理解を育むだけではなく、完成後もその作品を囲み、他者と「話し合うこと」で意見交換が生まれることを大切にしていました。

パリでのモニター(案内スタッフ)の様子
Photo: Benjamin Loyseau © 2021 Christo and Jeanne-Claude Foundation

本展でもクリストとジャンヌ=クロードのそのようなフィロソフィーを取り入れ、会場内では「展覧会スタッフ」が来場者と会話をしながら、展覧会やクリストとジャンヌ=クロードのアーティスト活動について説明を行うなど、作品と来場者の架け橋となりました。

展覧会開催前から一般公募で集まった展覧会スタッフは、アーティストや作品に関する特別なレクチャーを受けトレーニングを重ねました。そして会期中には、アーティストや作品の魅力を伝える活動や、来場者と語り合いながら会場を案内する「コミュニケーショツアー」を実施しました。それぞれのスタッフが経験を重ねながら、来場者の質問から話題を発展させたり、自分の好きな作品の前で案内をしてみたりと、展覧会の内容をより深く伝えられるよう工夫しながら取り組みました。

展覧会スタッフの案内を受けた来場者からは、「このように展覧会スタッフと話せる機会は有り難い」といった声や、「作品の内容がより深くわかりました」、「楽しく勉強になりました」といった声が寄せられました。



また、活動を終えた展覧会スタッフからは、「来場者とともに感じた内容を話し合うことで、お互いの考えを整理するようなコミュニケーションを目指して活動しました。」「いろいろな国の方と、クリストとジャンヌ=クロードの作品世界を語り合えるのは幸せなことだと感じました。」という感想があり、来場者だけではなく展覧会スタッフにとっても、発見や喜びを感じられる取り組みとなりました。

国籍や年代もさまざまな展覧会スタッフの活躍により、子どもから大人まで本展を訪れた多くの来場者に、展覧会を通してクリストとジャンヌ=クロードのプロジェクトに対する思いや、壮大な作品の魅力を多角的に伝え、ともに語り合うことができました。

夏のキッズプログラムでは高校生の展覧会スタッフも活躍しました

11月上旬、港区立南山小学校の3年生と4年生が二日間にわたって来館し、企画展「クリストとジャンヌ=クロード "包まれた凱旋門"」を見学しました。

展覧会への理解を深めるため、紙芝居を使用しながら「凱旋門の高さはどのくらい?」「布とロープはどうしてこの色を選んだの?」などのクイズを盛り込んだガイドツアーを行いました。

児童の皆さんにとっては初めての美術館鑑賞となったようですが、非常に熱心に話を聞き、クイズに参加し、映像作品に見入る様子が印象的でした。後日先生からは「クリストとジャンヌ=クロードの『夢を叶えたい』という情熱と、その想いに賛同し作品に関わった方達の輝くような表情から、生き方そのものを学ぶことができた」との感想が届きました。

今回の見学が、今後の美術鑑賞のきっかけとなることを願っています。



2022年11月3日(木)、企画展「クリストとジャンヌ=クロード "包まれた凱旋門"」の関連プログラムとして、ワークショップ「包まれたほにゃらら」を開催しました。

何かを包むことで新しい造形をつくり出し、いろいろな視点で「包む」ことを考えるワークショップです。 本展のグラフィックデザインを手がけた野間真吾を講師に迎え、作品をつくる様子と完成した作品を撮影して、オリジナルの小さなポスターを制作しました。

ワークショップでは、まずはじめにジュニアガイドを使いながら、クリストとジャンヌ=クロードと彼らのプロジェクトについて紹介。凱旋門を包む様子の映像と、実際にプロジェクトで使われたものと同じ布とロープの展示を鑑賞しました。

ギャラリー2にて、ジュニアガイドを活用したガイドの様子

つぎに、クリストの初期の作品について紹介。 クリストは初めから景観を変えるような大きなプロジェクトに取り組んだのではなく、初期には空き缶や椅子、道路標識や車など身の回りのものを包んだ作品を手がけていたことを紹介し、ワークショップでの制作のヒントを示しました。

制作を開始する前に、講師の野間から、私たちの生活に身近な「包む」ことについてレクチャーがあり、子どもたちは真剣に「包む」ことを考え始めました。

野間による「包むこと」を考えるレクチャーの様子

本ワークショップは午前と午後の2回開催され、小学校低学年から中学生まで合計11組が参加しました。 布やシートを丁寧に折りたたんでみたり、大きなオブジェを勢いよく覆ってみたりと、個性を光らせながら自由な方法で制作していました。


自由に制作する様子

一人でいくつもの作品に挑戦する子や、親子で協力したり、友だち同士で相談しながら作ったりと、それぞれの感性や発想を活かして、熱心に作品と向き合う様子がうかがえました。

親子で協力しながら制作

最後に、ポスター制作のため、講師の野間が完成した作品を撮影。 野間のアドバイスを受けながら、作品の向きや持ち方など、細かなところまで気を配り、1つしかない記念のポスターが完成しました。

作品の撮影風景

参加者の作品で制作したオリジナルポスター

ワークショップを通じて、見たことのないような新しいものを作る楽しさや、試行錯誤して完成したものがポスターとして形になる達成感など、さまざまな体験を得られる機会となったことでしょう。


参加者と講師の野間とのコミュニケーションの様子

現在開催中の企画展「クリストとジャンヌ=クロード "包まれた凱旋門"」に関連して、『AXIS』219号に、クリスト・アンド・ジャンヌ=クロード財団ディレクターのヴラディミール・ヤヴァチェフ氏のインタビューが掲載されました。
詳細と購入に関しては、AXISのウェブサイト(外部サイト)をご確認ください。

『AXIS』219号

2022年9月17日(土)から19日(月)までの3日間、東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデンの21_21 DESIGN SIGHT前では、「新聞紙とガムテープで包まれた凱旋門とエッフェル塔」を展示しました。本作品は、企画展「クリストとジャンヌ=クロード "包まれた凱旋門"」の関連プログラムとして8月に開催されたワークショップ「みんなの形で凱旋門を包もう(エッフェル塔も!)」にて、造形作家の関口光太郎とワークショップの参加者によって制作されました。
あいにくの天気で、ときおり雨や風に打たれながらも、その圧倒的な存在感はミッドタウン・ガーデンを行き交う人々の注目の的となっていました。

21_21 DESIGN SIGHT前に展示された「新聞紙とガムテープで包まれた凱旋門とエッフェル塔」

パリで「包まれた凱旋門」プロジェクトが実現した2021年9月18日からちょうど1年になる9月18日(日)と翌日19日(月)には、21_21 DESIGN SIGHT スタッフによる「コミュニケーションツアー」を開催しました。
両日ともに集まった20名以上の参加者は、スタッフとコミュニケーションを取りながら一緒に会場を巡り、「包まれた凱旋門」の構想から実現までの道のりを体験することのできる時間となりました。

参加者とスタッフが会場を巡る様子

六本木アートナイトは3年ぶりの開催。「新聞紙とガムテープで包まれた凱旋門とエッフェル塔」の展示と「コミュニケーションツアー」を通じて、困難を乗り越える強さやアートの楽しさを分かち合う機会となりました。

「六本木アートナイト2022」期間中にギャラリー3で来場者を出迎える、関口制作のクリストとジャンヌ=クロード人形

現在開催中の企画展「クリストとジャンヌ=クロード "包まれた凱旋門"」に関連して、本展特別協力の柳 正彦によるレクチャーシリーズ「二人のアーティスト:創作の64年」(全4回)が始まりました。
2022年7月28日(木)、シリーズの第1回として「『包まれた凱旋門』への道」と題し、オンラインにてトークを開催しました。

Photo: Wolfgang Volz
©1985 Christo and Jeanne-Claude Foundation
©1995 Christo and Jeanne-Claude Foundation
©2021 Christo and Jeanne-Claude Foundation

クリストとジャンヌ=クロードから「ジャパニーズ・サン(日本の息子)」と呼ばれ、1980年代から数々のプロジェクトに携わってきた柳。トークでは、柳だからこそ知ることのできたエピソードを交えながら、64年にわたるクリストとジャンヌ=クロードの創作活動を振り返り、二人がなぜ「包まれた凱旋門」をつくったのか、その理由に迫りました。

トークは二人の生い立ちから始まります。幼いときの写真資料やクリストのインタビュー映像を紹介しながら、二人がアーティストとなった経緯やこれまでのアーティスト活動を時系列に沿って解説しました。

クリストは1950年代末から電話や家具など身の回りにあるものを包み始め、作品のスケールは次第に建物へと大きくなっていきます。1961年にクリストはいくつかのフォトモンタージュ(合成写真)を制作します。この頃から、大規模なプロジェクトの構想を紙の上で提示するという手法を始めたといいます。その翌年1962年には「包まれた凱旋門」プロジェクトのフォトモンタージュが制作されます。

1964年にそれまで住んでいたパリからニューヨークに移り住むと、「包まれた凱旋門」の構想は心の片隅にしばらく置かれることになります。その後、初めて公共建物のプロジェクトが実現したのは1968年、スイスのベルン市美術館(「包まれたベルン市美術館、1967–68」)でした。70年代から80年代は、「ヴァレー・カーテン、コロラド州ライフル、1970–72」「ランニング・フェンス、カリフォルニア州ソノマ郡とマリーン郡、1972–76」など、「包む」以外のプロジェクトが中心になっていきます。数々の作品の実現を経て、それまで二人が包んだ中で最大規模の建物である「包まれたライヒスターク、ベルリン、1971–95」が実現します。そして2017年、「包まれた凱旋門」プロジェクトが再スタートしたのです。

「包まれた凱旋門」がそれまでと違った点は、「オーダーでつくった服をまとっているように見えること」だと柳は話します。前もって計算してつくった形をかける方法はベルン市美術館のときには見られませんでした。その違いを生み出しているのは、布の下にフレームを入れていることだといいます。建物の装飾を保護するためだけではなく、フレームが建物に新しい形を与えている。包み隠すのではなく、布とフレームによって新しい外観を与えているのだと説明します。

トークの後半では、二人がどのようにプロジェクトを進行していったか、またワーキング・ファミリーについてにも触れました。
質疑応答では、なぜ「包む」のか、「包み方」がどのように変化してきたのか、資金調達や二人の役割分担についてなど、長年共に過ごしてきた柳自身の見解も交えながら、深い考察に触れ、質問が尽きない中でトークは終了となりました。

本レクチャーシリーズ第2回は9月29日(木)に開催します。テーマは「日本とのつながり」です。詳細は企画展「クリストとジャンヌ=クロード "包まれた凱旋門"」の「関連プログラム」をご確認ください。みなさまのご参加をお待ちしています。

2022年9月1日(木)から27日(火)まで、企画展「クリストとジャンヌ=クロード "包まれた凱旋門"」に関連して、ISSEY MIYAKE KYOTOのKURAにて、KURA展 特別展示「写真家ウルフガング・フォルツがみた『クリストとジャンヌ=クロード "包まれた凱旋門"』」を開催しています。

©️ ISSEY MIYAKE INC. Photography: Keiji Okubo

写真家のウルフガング・フォルツは50年以上前からプロジェクトの写真を撮り続けています。またフォルツは写真家としてだけではなく、いくつかのプロジェクトではディレクターもつとめ、実現における重要な役割を担いました。21_21 DESIGN SIGHTにて開催中の本展で展示されている写真の多くも、フォルツによるものです。

©️ ISSEY MIYAKE INC. Photography: Keiji Okubo

クリストとジャンヌ=クロードの友人であり、二人からの熱い信頼のもと、短い期間しか存在しないプロジェクトの全てを記録することを託されたフォルツがみた「包まれた凱旋門」をご覧ください。

会期:2022年9月1日(木) - 27日(火)
会場:ISSEY MIYAKE KYOTO(京都府京都市中京区柳馬場通三条下ル槌屋町89)
お問い合わせ:075-254-7540(ISSEY MIYAKE KYOTO)

下記ショップではKURA展と連動した特別展示を開催します。
2022年9月15日(木)から me ISSEY MIYAKE / AOYAMAにて
2022年10月1日(土)から ISSEY MIYAKE SEMBAにて

詳細はISSEY MIYAKE INC.の公式サイト(外部サイト)をご覧ください。
https://www.isseymiyake.com/ja/news/9692

2022年8月4日から11日までの8日間、企画展「クリストとジャンヌ=クロード "包まれた凱旋門"」の関連プログラムとして、造形作家の関口光太郎によるワークショップ「みんなの形で凱旋門を包もう(エッフェル塔も!)」を開催しました。

ワークショップでは、まず講師の関口より、新聞紙とガムテープを上手に使うコツの説明があり、そこからイメージを膨らませた参加者は思い思いに好きな形をつくります。

関口によるレクチャーの様子

親子で力を合わせたり、友達同士で楽しみながらつくったりと、子どもから大人まで夢中になって工作を続けます。

親子で一緒に制作

動物や植物、乗り物、食べ物など、細かい部分を忠実に再現したものから、エネルギッシュで大きなものまで、参加者の自由な創造力でたくさんの形が完成しました。
参加者が完成した形を関口に手渡すと、関口が凱旋門とエッフェル塔の骨組みに取り付けていきます。

自由に好きな形を制作
完成した形を関口に手渡す参加者
参加者のみなさんと関口による形で骨組みを包む様子

凱旋門とエッフェル塔の骨組みは、関口自身と参加者のみなさんが制作した形であっという間に埋め尽くされ、8日間で素晴らしい作品が完成しました。

完成した「新聞紙とガムテープで包まれた凱旋門」と「新聞紙とガムテープで包まれたエッフェル塔」は、2022年8月28日まで東京ミッドタウンのプラザB1に展示されます。
東京ミッドタウンを訪れる人々の心をワクワクさせてくれるでしょう。

ワークショップ開催中の様子は、21_21 DESIGN SIGHT公式Instagramのハイライトにてご覧いただけます。また作品が完成した直後の関口のコメント動画を21_21 DESIGN SIGHT公式Vimeoアカウントにて公開しています。

8月11日、関口光太郎さん作品完成コメント

フランスの国家を代表するナショナルモニュメントであり、世界的に有名な建造物の「エトワール凱旋門」を布とロープで包んだプロジェクト「L'Arc de Triomphe, Wrapped, Paris, 1961–2021(包まれた凱旋門)」を紹介する企画展「クリストとジャンヌ=クロード "包まれた凱旋門"」では、プロジェクトの制作過程や、実施中の風景をインスタレーションで展示しています。街の音や凱旋門のスケール感、そしてクリストとジャンヌ=クロードの出会いからのストーリーなどを通じて、会場全体がパリを舞台にした映画のようにも感じられるかもしれません。

会場風景(撮影:吉村昌也)

このようにフランスとの関わりの深い内容でもある本展は、在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本の後援を受け開催しています。

本展が開幕して間もなく、フィリップ・セトン駐日フランス大使夫妻が来場されました。夫妻は、本展ディレクターのパスカル・ルランや、特別協力のクリスト・アンド・ジャンヌ=クロード財団より来日していたヴラディミール・ヤヴァチェフ氏、ロレンツァ・ジョヴァネッリ氏らの説明を受けながら、時間をかけて展示を鑑賞されました。

左からパスカル・ルラン、フィリップ・セトン駐日フランス大使夫妻、ヴラディミール・ヤヴァチェフ氏(撮影:吉村昌也)
左からパスカル・ルラン、ロレンツァ・ジョヴァネッリ氏、フィリップ・セトン駐日フランス大使夫妻(撮影:吉村昌也)

アンスティチュ・フランセ日本は、2012年にフランス大使館文化部と東京日仏学院、横浜日仏学院、関西日仏学館、九州日仏学館が統合し誕生したフランス政府公式機関です。日仏の文化交流活動のほか、フランス語講座を開講し、フランス発の文化、思想、学問を発信しています。

2022年7月、フランスの文化を学ぶクラスから講師と生徒20人が来場し、本展を鑑賞しました。展示を通じてクリストとジャンヌ=クロードの情熱に触れただけではなく、講師のセドリック・リヴォー氏自身が実際に体験した「包まれたポン・ヌフ、パリ、1975–85」の感動を伝えるなど、フランス人、フランス文化を学ぶ人、それぞれの視点から感じることを語り合う時間となりました。

2022年6月23日、企画展「クリストとジャンヌ=クロード "包まれた凱旋門"」に関連して、オープニングトーク「『包まれた凱旋門』の実現とこれから」をオンラインで開催しました。

本プログラムには、本展特別協力のクリスト・アンド・ジャンヌ=クロード財団から、ディレクターでありクリストの甥のヴラディミール・ヤヴァチェフ氏と、同財団ディレクターのロレンツァ・ジョヴァネッリ氏、展覧会ディレクターのパスカル・ルラン、モデレーターとして21_21 DESIGN SIGHT アソシエイトディレクターの川上典李子が出演しました。
クリストとジャンヌ=クロードの人生と、2021年にパリで実施された「包まれた凱旋門」について、また本展をつくり上げるプロセスや見どころについて語り合いました。

まず川上が、「包まれた凱旋門」プロジェクトの背景についてヴラディミールに問います。
「包まれた凱旋門」のプロジェクトの構想は、1961年にクリストが作成したフォト・モンタージュから始まり、60年の時を経てプロジェクトは実現しますが、驚くことに2017年に動き出したその認可の進行はとてもスムーズだったと説明しました。それは、1985年のパリでの大規模なプロジェクト「包まれたポン・ヌフ」が非常に素晴らしい記憶としてパリの人々に残っていたからだといいます。
続けて、実施にあたり乗り越えなければならなかった課題はどんなことだったのか、川上は問いました。
ヴラディミールは「世界的に有名なモニュメントを包むことは、価値を付けられないほどの重みがあった。また、2020年に他界したクリストが現場にいなかったため、その喪失感で気持ちを維持していくことが困難だった。」と述べました。

スタジオで「包まれた凱旋門」のドローイングを描くクリスト、ニューヨーク、2019年9月21日
(Photo: Wolfgang Volz ©2019 Christo and Jeanne-Claude Foundation)

次に、川上からロレンツァへ、活動を記録し、整理して伝えるアーカイブの仕事について尋ねました。
ロレンツァは2016年に実施されたイタリア・イセオ湖でのプロジェクト「フローティング・ピアーズ」に2014年から参加し、現場で活動する楽しさを知っていることに触れ、クリストとジャンヌ=クロードの作品の特性でもある"期間限定であること"が、美しさや素晴らしさをより一層濃厚にしてくれると語りました。
また、自身が担当しているアーカイブの重要性については、「作家や作品の情報はもちろん、アーティストの人生や、手がけてきた芸術を理解するための手がかりにもなる。今後の研究においても極めて重要な価値のある資料にもなり得る。」と述べました。そして本展では、本来知ることが難しい、プロジェクトに関わる人々の姿をきちんと伝えることが出来ていると続けました。

凱旋門の外壁の前面に布を広げている様子
(Photo: Benjamin Loyseau ©2021Christo and Jeanne-Claude Foundation)

最後に本展ディレクターのパスカル・ルランから、展覧会をつくりあげるプロセスを説明しました。本展への参加が決まった際にパスカルがまず行ったことは、クリスト・アンド・ジャンヌ=クロード財団から手に入れることのできる資料をすべて集め、それらに目を通すことでした。「パリの規模や包まれた凱旋門のスケール、制作のプロセス、またプロジェクトに関わる人々の技術を、説明文ではなく、視覚的に伝えられる展覧会構成を目指した。」と述べました。

会場風景(撮影:吉村昌也)

トーク終盤では、視聴者から三者への質疑応答も実施されました。今後の展望として、アラブ首長国連邦の砂漠に41万個のドラム缶を積み上げるという、1977年から進行中のプロジェクト「マスタバ」についても触れました。「包まれた凱旋門」プロジェクトと今後の二人の活動の紹介を通して、クリストとジャンヌ=クロードが大切にしてきたことをもうかがい知ることのできる、貴重な機会となりました。

2022年6月13日、企画展「クリストとジャンヌ=クロード "包まれた凱旋門"」が開幕しました。

開幕日である6月13日は、クリストとジャンヌ=クロード二人の誕生日です。クリストは1935年6月13日、ブルガリアのガブロヴォで生まれ、ジャンヌ=クロードは同年同日にモロッコのカサブランカで、フランス人の両親の元に生まれました。
本展は二人のパリでの出会いに始まり、「包まれた凱旋門」の構想から実現までの長い道のりをさまざまな手法で展示します。

長い年月をかけ、さまざまな困難を乗り越えて実現へと向かう、ポジティブで力強い姿勢。また、そのような二人の強い思いの元に集まってきた仲間たちの存在があるからこそ、今までだれも見たことのない作品を生み続けることができるのです。
激動の時代のなかにあってもなお状況を切り拓き、喜びをもたらす創造の大きな力そのものに目を向けます。

会場風景(ロビー)
会場風景(ギャラリー1)
会場風景(ギャラリー2)
会場風景(ギャラリー2)
会場風景(ギャラリー2)
会場風景(ギャラリー2)

撮影:吉村昌也/Photo: Masaya Yoshimura

6月13日から始まる企画展「クリストとジャンヌ=クロード "包まれた凱旋門"」。これに関連して5月11日、柳 正彦と青野尚子による21_21 クロストーク vol.3「二人が見た『包まれた凱旋門』」が開催されました。

21_21 DESIGN SIGHTでクリストとジャンヌ=クロードにフォーカスした展示をするのはこれが3回目になります。2010年の「クリストとジャンヌ=クロード LIFE=WORKS=PROJECTS」の展覧会ディレクターを務めた柳 正彦はクリストとジャンヌ=クロードと長年にわたって協働してきました。オンライントークでは柳に、クリストとジャンヌ=クロードを中心としたグループ展「『そこまでやるか』壮大なプロジェクト展」(2017年)の展覧会ディレクターを務め、柳とともに実際にパリで凱旋門プロジェクトを体験した青野尚子が聞きました。
(文:青野尚子)

「L'Arc de Triomphe, Wrapped, Paris, 1961–2021(包まれた凱旋門)」が実施されたのは2021年9月18日〜10月3日の16日間。もともとは2020年春に予定されていましたが、春は希少な鳥が凱旋門に巣を作ること、またコロナ禍もあって延期されました。実施期間中はコロナによる移動制限もあり、海外でクリストとジャンヌ=クロードとコラボレーションしてきた柳も不安が多かったと言います。

「クリストとジャンヌ=クロードは『作っているプロセスも作品の一部。苦労が大きいほど、喜びも大きい』と言っていました。今回は行くまでのプロセスが大変だった分、それを乗り越えて間近に見た『包まれた凱旋門』には特別の感慨がありました」(柳)

実際に現地で見た「包まれた凱旋門」はどのような様子だったのでしょうか。

「僕は凱旋門が見えるところにホテルをとったので好きな時に見られたのですが、とりわけ日の出と日没時の眺めは素晴らしいものでした。太陽の光が強くなったり弱くなるのにあわせて凱旋門を包んだ布がピンク色や金色に輝くんです。週末にアーチ上部から掲げられる巨大なフランス国旗が風にはためくのもよかった」(柳)

1995年6月、「包まれたライヒスターク」でのクリストと柳 正彦

前述したように21_21 DESIGN SIGHTでクリストとジャンヌ=クロードにフォーカスするのは今回で3度目。また「包まれた凱旋門」についてのドキュメントがまとまって展示されるのは世界でも初めての機会になります。その背景には、三宅一生とクリストとジャンヌ=クロードたちの長年の交流がありました。

「あるとき、日本で開かれたレセプションパーティーにジャンヌ=クロードがイッセイ ミヤケのドレスを着てきたんです。ジャンヌ=クロードが一生さんに『これはあなたのデザインしたドレスよ』と言ったのですが、一生さんは覚えがないという。よく見たらジャンヌ=クロードはドレスを上下逆に着ていたんです(笑)。そこで二人で人目に付かないところに行って、直してきたことがありました」と柳は懐かしそうに語ります。

21_21 DESIGN SIGHT企画展「クリストとジャンヌ=クロード "包まれた凱旋門"」では「包まれた凱旋⾨」の実現までの道のりをシネマティックに紹介します。布で包む凱旋門などのプロジェクトとはまた違う側面を見ることができます。クリストとジャンヌ=クロードはプロジェクトの現場でリアルな空気、音、日差しを感じてほしい、と語っていました。「包まれた凱旋門」を始めとするプロジェクトの『リアル』を想像しながら展示をお楽しみください。