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21_21放談 vol.4 三宅一生×佐藤 卓×深澤直人×川上典李子 「オープン直前の21_21 DESIGN SIGHTで語るデザインの未来」 前編

2006年12月、竣工間近の21_21 DESIGN SIGHT(以下、21_21)をディレクターが訪れ、ほぼ完成した建物を見学しました。実際の空間を見ながら行なわれた今回のディレクターズ放談は、意気高揚しつつも21_21およびデザインの核心に迫る内容となりました。


安藤建築の魅力は空間を体験することで見えてくる


深澤
建物を見ると、やはりインスパイアされますね。実際の空間の中に身をおくと、そこでしか出てこない発想というのが浮かんできます。すでに第1回企画展のプロジェクトはかなり具体的なところまで進行してきています。が、こうしてできあがった建物を前にして、はじめてそうの空間に事物をインストールすること、この場所でどのような展覧会をするのかということがリアリティを帯びてきますよね。
佐藤
安藤さんの建築って、まず外から見るじゃないですか、そうすると、小さめの量感で個性的なかたちをしている。でも、中に入ると外側からは想像できない空間が広がっている。図面や模型で見ていたときには、そのことがどんな感覚を我々に与えるのか、想像がつきませんでしたが。安藤建築は、内部を歩くと空間がどんどん変化していくので、その空間をどう活かしていくかということが問われるんじゃないかという気はします。触発されますよね、あの空間は。
深澤
たぶん21_21を訪れる人は、行なわれているイベントが目当てということもあるけれど、建築的な魅力を味わいたいという願望も抱いているでしょうから、両方を堪能できれば二重の喜びがある。そういう意味で21_21という場所は、安藤さんの建物の魅力とそこで展開されているコンテンツによって成立するのだと思います。両方を活かさなくてはならないというのは、面白い試みですね。
佐藤
今はまだがらんとしていて何もない空間ですが、21_21がスタートうすると、観客は展示物がおかれ状態の空間しか見られないということになります。いわゆる"素"の空間が、展覧会と展覧会を縫うようなタイミングで見られるようなプログラムを計画するのもよいですね。というのは、何もない空間を見るといろんな発想や感覚が得られると思うのです。
深澤
オープン時に行なう特別企画「安藤忠雄/2006年の現場 悪戦苦闘」がまさにそれですよね。
三宅
安藤さんはもともと建物を"素"、ヌードで見せたい人ですからね。そういうことができる建物はあまり多くない。安藤さんの建築は、ちょっと動いただけでほんとうに見え方が違う。それから外部に対する配慮もある。特別企画ではすべての空間を素の状態で見せるわけではなく、模型建設過程の写真などを展示して、完成までのプロセスも紹介します。
川上
展示スペース以外の空間も面白いですよね。階段のまわりなど。それがうまく見せられるとたしかに良いですね。以前、安藤さんが"豊かな余白"について何かでおっしゃっていたことがあります。日本の美術や書道同様、建築や都市にも"余白の可能性"というのがすごくあるんだよと。そうしたスペースは、使う側としては大変に触発されます。もっとも、展覧会があるときというのはそれこそ建物のすみずみまで使ってイベントをしたり設置をしてしまうかもしれないけれども、展示スペース以外のところも含めて何もない状態を見ていただける機会があると良いですよね。
三宅
企画のアイディアが上手くいかないときはそれでいこうか。

 (一同爆笑)

佐藤
安藤建築は、やっぱり挑戦的ですよ。結果がわかりきっているものはやらない。問題提起をして「どうだ」というようなところがある。あなたはここでどんな体験をしますか、という問題を常に投げかけているのだと思います。
三宅
この21_21 DESIGN SIGHTの建物は遊歩道にすぐ面しているんですよね。直島の美術館やホテルにしても、村に面していたり、風景や水に面していたりする。だから僕は、安藤さんの建物そのものに加えて、建築の中から見る風景とか、建物に上がって見る外の景色というのにいつも感動するんですよ。直島に行ったときも、「景色がいいですね」って言っちゃったんです(笑)。僕は、安藤さんはずいぶん変わったなあと思います。もちろん、住吉の長屋のころからそこに生きる人びとや生活者の視点であることは変わらない。最近はさらに発展して、植物の緑を使って安藤忠雄の建築をずっと街に広げていくような発想が出てきている。表参道ヒルズも低層建築ですが、屋上に上ると街路樹の緑とつながっています。ああいう視点をもてる人はなかなかいないと思います。
深澤
圧倒的に体験的な空間ですよね。オブジェクトじゃない。
川上
特別企画の後には、深澤直人ディレクションによる第1回企画展「チョコレート」が開催されます。
深澤
チョコレートというテーマを発表したあと、何人かが「チョコレート!?」っていうリアクションを返してきました。このような「いったい、なんなんだろう?」という感じをある程度来場者側に抱かせつつ展覧会をスタートするのは悪くないですね。

ただ誤解されないように気をつけなければいけないのは、ここではあくまでも私たち人間が日常の世界をどう捉えているかということを見せていくのが主眼であって、チョコレートのデザインを披露するわけではないということです。チョコレートは21_21の視点を見せるためのきっかけのことばにすぎないので、ふたを開けたらいろいろなものがでてくるはずです。

実際、さまざまな作品ができあがりつつあるのですが、それらを見ていると、かなり楽しめるものになるのではないかと思います。4月から始まる展覧会にぜひ足をお運びくださいと言いたいですね。「チョコレートを通して世界を見るっていうのはこういうことなのか」という感じが、そこで初めてわかっていただけるのではないかと思います。
佐藤
「チョコレートSight」ということですね。

放談vol.4 後編へつづく