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新しい立体造形を探る、 コンピュータサイエンティスト
川上典李子のインサイト・コラム vol.2
リアリティ・ラボ・プロジェクト・チームが服のパターンを研究・開発するなかで、三谷 純の研究を生かしたことは、前回のコラムで触れました。今回は、コンピュータサイエンティスト、三谷の研究について紹介しましょう。平坦な素材を折ることで形づくられる立体造形の数理的研究が専門です。
「子どもの頃からペーパークフラフトが大好きでした」と三谷。精密機械を専攻していた東京大学大学院での学位論文もペーパークラフトに関する内容だったそうです。一枚の紙で造形をつくる折り紙の研究は5年前から。立体的な折り紙の研究は2年前から続けられています。
「架空の形を自由に表現できるCGとは異なり、実在する紙で制作できるという点が求められます。ある種の幾何学的な制約が生じますが、それゆえにチャレンジすべき興味深いテーマです」。オリジナルのソフトウェアで展開図を検討。展開図を折り、造形をつくりあげるまでの一連の過程が研究対象です。
三谷ならではの造形の特色は、「曲線折り」の技法が含まれること。仮想空間における一本の軸を中心として、折れ線を回転させて立体が形づくられるのです。WOWとのコラボレーションとなる本展出展作品『Spherical Origami(スフェリカル・オリガミ)』では、一枚の紙が一体どのように折りあげられていくのか、ダイナミックなCG映像にも注目ください。
21_21 DESIGN SIGHTでも紹介している新作のひとつが、『ホイップクリームの3連結』。手作業で図面を描くのがまさに困難な、曲線の集合から構成される立体造形の一例です。「平面に敷きつめられる正多角形は、正三角形、正四角形、正六角形。この作品では展開図と立体形状の両方が正六角形を連結した構造になるように工夫しました」。螺旋を描きながら伸びるタワー、『3段重ねボックス』も新作のひとつ。多数のひだがもたらす陰影の美しさにも三谷のこだわりがあります。
「数式で表現できる形はコンピュータ上で構築可能です。ですが、実際に紙でつくれるのかどうかは、手を動かして確かめてみないとなりません。実際に折る場合には素材の厚みや、自分の指の動きなどの物理的な状況が加わってきますから」。本展会場では2年間の試作品、約300点もあわせて紹介しています。三谷が教鞭をとる筑波大学の研究室で保管していた貴重な試作の数々です。
三谷は現在、次なる研究も進行中。軸対称ではない立体造形の考察です。
無造作に折られた紙に見えるかもしれませんが、すべての曲線が計算で導きだされている画期的な立体造形です。「幾何学的な対称性を持たない曲線で折ったものです。このような形を設計することは今もなお難しい課題で、具体的な設計技法は確立されていません。その課題を、最近自分で開発したソフトウェアで試みてみました。有機的な曲線のネットワークから生まれる形を導出したものです」
すべてが、「表現の可能性を拡げるための研究」。「コンピュータの中で折り紙の造形を様々にシミュレートしていると、過去に多くの折り紙アーティストが見出してきたパターンを再発見することもあります。その一方で、自分でも予測しなかった新しい造形に驚かされることも少なくありません。今後も、今までに見たことのない造形を、一枚の紙で実現させていきたい」。 その想いとともに、三谷の研究はさらに続いていきます。
文:川上典李子
vol.1 「132 5. ISSEY MIYAKE」開発ストーリー
vol.2 新しい立体造形を探る、コンピュータサイエンティスト
vol.3 ドキュメンタリー映像作家米本直樹が考える「再生・再創造」