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「アーヴィング・ペンと私」 vol.10 ピーター・バラカン

9月16日から開催中の「アーヴィング・ペンと三宅一生 Visual Dialogue」展にあわせ、各界をリードするクリエーターの方々に、ペンの写真の魅力について語っていただきます。


セローニアス・マンクの音楽のような、決して真似のできない写真と服


──アーヴィング・ペン展をご覧になって、いかがでしたか?

ピーター・バラカン(以下、バラカン):
ペンさんの写真は、カルティエ・ブレソンのように決定的瞬間をうまく捉えるのではなく、むしろ完璧にセッティングして、自分の思い描いているものを押さえる方なんだなと今回の展覧会を見てわかりました。大きなスライドにするとよくわかるんですけど、化粧もすごい時間をかけているし、ライティングもおそらく何時間もかけてる。でもね、計画的で計算しつくしたものではあるけれど、そうは思わせない。見る方はただ感激する、すごく感覚的な作品でした。ミュージシャンで天才的な即興をする人でも、その裏では毎日何時間も練習していたり、人を感動させるためには技術と作品を仕上げるための努力がありますよ。その努力が瞬時に観客にバレたら、興醒めしちゃう(笑)。だからさりげなさがあって、よく見るとわかる。そんな感じ。ペンの写真の素晴らしさはもちろんなんだけど、一生さんの服の独自の芸術性もただただ!言葉を失ってしまうんだよね。

──確かに。三宅さんの服がペンさんの琴線を刺激したりしたということもあるでしょうね。

バラカン:もちろんそうだと思います。ここまで一生さんの服を上手く撮れるカメラマンが他にいるかなって思わせるほどインパクトがありますね。僕は、基本的に音楽の世界の人間なんですけど、一生さんほど真似のしようのない音楽を作る人、たとえばジャズピアニストでセローニアス・マンク。彼ほど気持ちよく演奏出来る人って、そうはいない。彼の個性、癖というか、ちょっとメロディを聴いただけですぐに彼の音楽だとわかるし、誰にも真似できない。だから、その個性を深く理解した人じゃないとセッションは成立しない。一生さんの服もそうだと思う。一生さんの服の写真も、本当に一生さんの服を深く理解しないと作品にはならないんじゃないかな。アーヴィング・ペンの写真を見て、この人は理解している、そう思った。

──バラカンさんは、本展でアニメーションの三宅さんの声をご担当されましたが。ペンさんと三宅さんのダイアローグを演じて、どう感じましたか?

バラカン:二人の間のよい距離感をすごく感じました。アーヴィング・ペンは一度もショーに行ってないし、一生さんは一度も撮影の現場に行ってないし、その距離の取り方は2人とも意識してたんでしょうね。わかるような気がします。

あの映像がなければ、どういうプロセスであのポスターが生まれてくるのか、おそらく多くの人がわからない。そこに目をつけた、北村みどりさんの発想が面白かった。とにかく今回の展覧会は何から何まで完璧だと思ったのです。凝ったことをやってるわけじゃない、シンプルなんだけど強い、何度も見た方がいい、飽きない展示だと思います。

──ありがとうございます、では最後に、バラカンさんの最近のお仕事を教えてください。

バラカン:月刊プレイボーイで6年ほど連載していたコラムが書籍化され、『ピーター・バラカン音楽日記』というタイトルで発売になりました。ぜひご覧ください。

(聞き手:上條桂子)

【関連情報】
2012年4月1日(日)14時から15時30分に21_21 DESIGN SIGHTで開催の展覧会関連プログラムトーク「ピーター・バラカン出前DJーVisual Dialogueに寄せて」にピーター・バラカンが出演します。ぜひご来場ください。詳しい情報・参加ご予約はこちら

また、ピーター・バラカンがメインパーソナリティーを務めるラジオ番組「The Lifestyle MUSEUM」(TOKYO FM)の過去放送回では、展覧会ディレクターの北村みどりと、2012年1月28日の関連プログラムトークにも出演した東京都写真美術館キュレーターの笠原美智子がゲストとして登場しました。これらの放送はポッドキャストで視聴可能です。あわせてお楽しみください。
2011年2月16日放送/ゲスト:北村みどり
2012年2月17日放送/ゲスト:笠原美智子



Peter Barakan

ピーター・バラカン Peter Barakan

ブロードキャスター
1951年ロンドン生まれ。 ロンドン大学日本語学科を卒業後、1974年に音楽出版社の著作権業務に就くため来日。
現在フリーのブロードキャスターとして活動、「Barakan Morning」(インターFM)、「ウィークエンド・サンシャイン」(NHK-FM)、「CBS 60ミニッツ」(CS ニュースバード)、「ビギン・ジャパノロジー」(NHK BS1)などを担当。
twitterのアカウントは@pbarakan
著書に『200CD+2 ピーター・バラカン選 ブラック・ミュージック アフリカから世界へ』(学研)、『わが青春のサウンドトラック』(ミュージック・マガジン)、『猿はマンキ、お金はマニ 日本人のための英語発音ルール』(NHK出版)、『魂(ソウル)のゆくえ』(アルテスパブリッシング)、『ロックの英詞を読む』(集英社インターナショナル)、『ぼくが愛するロック名盤240』(講談社+α文庫)などがある。

『ピーター・バラカン音楽日記』

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