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「アーヴィング・ペンと私」 vol.18 坂田栄一郎
現在開催中の「アーヴィング・ペンと三宅一生 Visual Dialogue」展にあわせ、各界をリードするクリエーターの方々に、ペンの写真の魅力について語っていただきます。
60年代のNYで体験したペンとアヴェドンとの交流
──坂田さんは実際にペンさんとお会いされているんですよね?その際のエピソード等をお聞かせいただきたいと思います。
坂田栄一郎(以下、坂田):
1960年代と、NYから帰ってきてからですから70年代後半で全部で3回お会いしました。最初はアーヴィング・ペンが日本で展覧会をやった時です。とても静かな方でね。展覧会のレセプションで「ペンさん挨拶を」と言われたとき、さっとマイクの前に立って何か一言しゃべるのかと思ったら「サンキュー」、それだけ。ビックリしました! 僕はアヴェドンのところに4年いましたが、アヴェドンとはとにかく対照的な人ですよね。だけどアヴェドンとペンは仲が良くて、よく電話で喋ってました。もちろん何を話しているかは分かりませんが(笑)。
──そうなんですね。素敵なエピソードです。ほかにはどんな交流がありましたか?
坂田:筆の話があります。当時、NYに日系の写真家でペンのアシスタントをされていたカズ・イノウエさんという方がいて、僕がNYにいた時にはヘアスタイリストの奥さまにお世話になっていたんですね。僕が帰国後に奥さまが日本にいらして、ペンが印画紙を作るために材料を塗る筆を探していると。そこで彼女を浅草にお連れして何本か見繕ったんです。その数年後にペンが日本に来たので会いに行って、きっと覚えていないだろうと思ったので、カズ・イノウエさんと仲良くしていたんだという話をしたら「ああ、あなたが筆を探してくれた人ですね、ありがとう!」って言われたんですよ。そんな小さなことまで覚えていてくださったんだ、と感激したことを覚えています。
──坂田さんはペンさんとアヴェドンという対照的な巨匠お二人を知っていらっしゃるわけですが、ご自身の写真にはどんな影響がありましたか? 坂田さんの撮影現場の雰囲気はどちらに近いですか?
坂田:そこはアヴェドンですね。静かだと間がもたない(笑)。昔は人の心に入り込んで撮るのが怖くてなかなかできなかった。でもペンみたいに静かに撮るというのは自分らしくない。そう、今思い出したけど、昔アヴェドンに「君は道を間違えたんじゃないの? だってキミはジェリー・ルイスみたいじゃないか」って(笑)。今考えると、的を射た言葉だったなと思いますね。
──坂田さんの最近のお仕事を教えてください。AERAの表紙はもっともたくさんの方が見ていらっしゃると思いますが。世界有数の著名人たちを撮影されていますが、やはり坂田さんでも緊張されますか?
坂田:次の展覧会までは時間があるから、皆さん毎週ご覧いただけるのだとAERAの表紙かな。もうやり始めて23年経つんですが、最初の6年は緊張しましたね。だってアラファト議長とか国賓級の人ばかりなんだもん。でも、僕はジェリー・ルイスだから(笑)。現場を楽しくすることには自信がある、だからインタビューよりも先に撮影してくれっていつも言われちゃうんです。
(聞き手:上條桂子)
2012年3月24日に21_21 DESIGN SIGHTで開催された展覧会関連プログラムに坂田栄一郎と亀井武彦が出演しました。
トークの様子は動画でお楽しみいただけます。
トーク「サプライズ・オブ・ニューヨーク」の動画を見る
坂田栄一郎 Eiichiro Sakata
写真家
東京都生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、ライトパブリシティへ入社。66年渡米。リチャード・アヴェドンに師事。70年に独立。個展「Just Wait」で注目される。主な写真集に『注文のおおい写真館』『amaranth』『PIERCING THE SKY-天を射る』など。 「AERA」誌の表紙写真を創刊以来23年撮り続けている。1993年には、アルル国際写真フェスティバルで写真展・ワークショップを開催。アルル名誉市民賞を受賞した。2005年「PIERCING THE SKY-天を射る」で第24回土門拳賞、日本写真協会作家賞を受賞。