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「アーヴィング・ペンと私」 vol.19 細谷 巖
現在開催中の「アーヴィング・ペンと三宅一生 Visual Dialogue」展にあわせ、各界をリードするクリエーターの方々に、ペンの写真の魅力について語っていただきます。
寝ても覚めてもアーヴィング・ペンだった
──ペンさんの写真の第一印象をお聞かせください。
細谷 巖(以下、細谷):
僕は1953年に18歳でデザイナーとしてライトパブリシティに入社しました。当時から、会社では「ライフ」「ルック」「エスクァイア」「マッコールズ」「セブンティーン」などのアメリカンマガジンを購入していて、それらのエディトリアル・デザインのすごさに驚嘆したものです。写真・イラストレーション・タイポグラフィなどがとても美しくて、勉強になりました。そして、ファッション誌の「ヴォーグ」でアーヴィング・ペン、「ハーパース バザー」でリチャード・アヴェドンの写真を知りました。
アヴェドンは動的で、ペンは静的なイメージだった。
特にペンさんのポートレート写真を初めて見た時あまりにも素晴らしいので、ちょっとオーバーな言い方かもしれませんが「幸せとはこういうことなんだ」って思ったんです。
それは個人的な感受性のことかもしれませんが、いいものを見た時には幸福感を感じるでしょう。それからはペンさんの撮られた写真が気になって気になって、まさに「寝ても覚めてもアーヴィング・ペン」になってしまいました。
──ペンさんの写真のどういうところが胸に響いたのでしょう?
細谷:カメラマンではない僕が、どうしてそんなにすごいと感じたのかというと、ペンさんの写真はライティングのすばらしさはもとより、形を重要視しているからだと思いました。ペンさんのポートレイト写真はオブジェクトのように写真を撮られます。形=デザインだから、私から見ると、ペンさんの写真はすごくデザイン的に見えたのです。そしてエレガンスとディグニティを感じました。
ペンさんは若い頃、 画家になろうとしていたらしいのですが、アレクセイ・ブロドヴィッチのもとでデザインと写真の師事を受けたのち、「ヴォーグ」の仕事に入り、アーティストでありアートディレクターであるアレクサンダー・リーバーマンに会って、とても感化されたのではないかと思うんです。画家の素養があるから、ペンさんの風景写真はモネやスーラの印象派の絵のようです。静物写真はセザンヌやジョルジョ・モランディを思い起こさせます。
──ペンさんはさまざまな作品を撮られていますが、どちらがお好きですか?
細谷:ファッション写真やポートレートが有名ですが、私は静物写真や、いろいろな国を訪れたルポルタージュ的な写真が好きです。作品集の「MOMENTS PRESERVED」がすごく好きで、それは記憶に残された瞬間、その一瞬を記憶に残すことなのだと思います。「写真を撮ることは時間を撮ること」だと言ったカメラマンがいましたが、まさにその通りだと思います。
ペンさんの写真を見ていると、写真はビジュアル・コミュニケーション(視覚言語)だということがよく解ります。カメラの背後にある「感情」と「知性」が見事に表現されています。
──細谷さんの最近のお仕事を聞かせてください。
細谷:私が今までに本や雑誌などに書いた雑文的なものをまとめて『hosoyaの独り言』というタイトルで白水社さんから春に出版する予定です。
(聞き手:上條桂子)
2012年2月4日に21_21 DESIGN SIGHTで開催された展覧会関連プログラムに細谷 巖が出演しました。
トークの様子は動画でお楽しみいただけます。
トーク「寝ても覚めてもアーヴィング・ペンだった」の動画を見る
細谷 巖 Gan Hosoya
アートディレクター
1935年神奈川県生まれ。1953年神奈川工業高校工芸図案科卒。同年ライトパブリシティ入社。現在代表取締役会長。東京アートディレクターズクラブ会長。日本グラフィックデザイナー協会会員。受賞=日宣美展特選(1955、56年)。東京ADC金賞・銀賞(1959年)。毎日産業デザイン賞(1963年)。日宣美展会員賞(共同制作、1967年)。ADC会員最高賞(1971、78、84、88年)。朝日広告最高賞(1988年)。日本宣伝賞山名賞(1990年)。紫綬褒章(2001年)。作品展=グラフィックデザイン展「ペルソナ」(松屋銀座、1965年)。細谷巖アートディレクション展(GAギャラリー、1988年)。タイム・トンネル:細谷巖アートディレクション1954→展(クリエイションギャラリーG8/ガーディアン・ガーデン、2004年)。クリエイターズ展(世田谷美術館、2006年)。ラストショウ:細谷巖アートディレクション展(ギンザ・グラフィック・ギャラリー、2009年)。主な作品集・著書=『イメージの翼・細谷巖アートディレクション』(1974年)。『イメージの翼2・GAN HOSOYA ART DIRECTION』(1988年)。『細谷巖のデザインロード69』(2004年)。『クリエイターズ』(2006年)。