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「アーヴィング・ペンと私」 vol.20 マイケル・トンプソン
現在開催中の「アーヴィング・ペンと三宅一生 Visual Dialogue」展にあわせ、各界をリードするクリエーターの方々に、ペンの写真の魅力について語っていただきます。
ペンさんから教わったのは、シンプルの追求
──トンプソンさんは、ペンさんのスタジオでアシスタントをされていたそうですが、まずは何故ペンスタジオに行こうと思ったんですか?
マイケル・トンプソン(以下、トンプソン):
写真学校でペンの写真を知って、なんてシンプルで力強い写真なんだと衝撃を受けた。ペンさんの写真には、シンプルなイメージの中にすごくたくさんのメッセージが含まれている。そんな強いインパクトを持つ写真に憧れていたんだ。
そして1987年に、カリフォルニアからNYに出てきてペンスタジオを訪ねた。最初の面接の時に、普通のスタジオだったらアシスタントの人が出てくるだろ?だけど僕がドアをノックしたら、ペンさん本人が出てきたんだ。採用の連絡がきた時は、夢じゃないかって思ったよ。ペンさんは当時、一流の写真家として有名な人だったからね。
──ペンさんから影響を受けたことは?
トンプソン:そりゃあたくさんある(笑)。ペンさんはシンプリシティを追求するために、自分が納得いくまで何度も何度もやり直す。そして、どんなにたくさん仕事をしている時でも自分でプリントを焼いていた。そんな彼から、決して自分が納得いくまで諦めないということを学んだ。あとは、仕事とプライベートのバランスを大切にする人だった。毎日同じ時間に始まって、同じ時間に終わる。彼は家族のこともすごく大切にしていたんだ。
──トンプソンさんが写真を撮るときに大切にしていることは何ですか?
トンプソン:1枚の写真からいかに多くのことを語れるか。写真っていうものは1枚で人の心を違うところへと運んでくれる。その中でもいい写真というのは、感情にすっと入り込んできて、喜怒哀楽の感情を沸き上がらせる。そのときに大切なことは、シンプルであること。シンプルな写真の方が、その奥にあるメッセージがストレートに伝わると考えている。
──ペンさんから言われて印象的だった言葉はありますか?
トンプソン:ペンスタジオから独立する最後の日にペンさんと交わした会話がある。「マイケル、君は写真撮影にかかる経費を抑えるための方法を知っているか。作品を作る、アシスタントにお金を払う、機材をレンタルする、すべてのことにお金がかかるんだ。そのコストを払うためには、君は望まない仕事もたくさんしなければならない。逆に、日ごろからコストがかからないようにしていれば、好きな仕事だけを選んで、ハッピーなクリエイティブライフを送れるはずだ」と。すごく大切なことだし、華美ではない生活をしていたペンさんの人柄が出ていた言葉だったのでよく覚えているよ。
──最近のお仕事を教えてください。
トンプソン:もともとは、1993年にモデルに青い塗料を塗った写真を撮ったんだけれども、またやりたいと思っていて、次に撮影をする時にはパワフルな赤を使いたいと思っていた。そして、後日1日だけ撮影をすることができたので、赤い塗料を使ってフォトセッションを行ったんだ。それが写真集『RED NUDE』につながった。肉体を抽象的なオブジェのように扱っていて、面白い見え方をしてるだろう。あと同時期に『PORTRAITS』という写真集を出版した。これは、20年間撮りためた写真から編集して作り上げたものだ。ここには世界中のセレブリティが登場しているが、彼らの意外な一面がきっと見られるだろう。ぜひ手に取って見てみて欲しい。
(聞き手:上條桂子)
マイケル・トンプソン Michael Thompson
フォトグラファー
1962年アメリカ・ワシントン州に生まれる。
町の写真館を営んでいた父親の影響で幼少期から写真に興味を覚え、ブルックス写真大学で写真を学ぶ。
卒業後、ニューヨークに移り、アーヴィング・ペンに師事。「allure」誌の創刊号(1991年)の仕事に抜擢されたことをきっかけに独立。
多くの雑誌でファッション、ビューティの撮影を手掛け、TVコマーシャルの分野でも活躍中。
「VOGUE」「W」「Harpers BAZAAR」「Interview」「VanityFair」など数々のファッション誌のカバーを手掛ける写真界をリードするトップフォトグラファー。
現在、妻のケリーと、2人の子供、ルビー、ショーンと共にオレゴン在住。