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「アーヴィング・ペンと私」 vol.24 藤塚光政
現在開催中の「アーヴィング・ペンと三宅一生 Visual Dialogue」展にあわせ、各界をリードするクリエーターの方々に、ペンの写真の魅力について語っていただきます。
シュルレアリスムを感じさせる、ペンの写真
──藤塚さんはアーヴィング・ペンさんの写真についてどう思われていましたか?
藤塚光政(以下、藤塚):
僕は他の写真家が撮っている写真にはあまり興味がなくてね(笑)。それは、僕自身が、アートとして写真を創造するというよりもジャーナリストとして写真を撮っているから、誰かの写真を作品として見るという感覚が希薄だったんですよ。アーヴィング・ペンの写真を知ったのは、三宅一生さんを通してなんです。
──一生さんとのお付き合いは長くていらっしゃいますよね?
藤塚:1970年代末か'80年位からかな。僕は当時、ファッションにもまったく興味がなかった。Tシャツとジーンズがあればいいって感じだから(笑)。一生さんとの出会いは、「インテリア」という雑誌の仕事でショーを撮りに行ったのがきっかけ。モデルがポーズとるところばかりを撮るカメラマンの中で、僕は服だけではなく空間全体を撮っていた。僕はそれが普通だと思っていたけど。その後、一生さんから東京コレクションを撮って欲しいって言われた。
僕は、撮影するとき、ファッションというよりは一生さんの発想が面白くてね。あの人は単なるファッションデザイナーじゃないですよ、サイエンティスト。服を見ていても、薄膜構造とか流体力学が想起されるし、その上、民俗学や解剖学まで心得てるんじゃないかと思うほどなんだ。ショーの音楽と照明も素晴らしかった。
──では、一生さんを通してペンさんの写真をご覧になって、どのように感じられましたか?
藤塚:彼はシュルレアリストなんだよ。今回の展示や本にもあったけど、チョコレートがべったりついた口とか、蛙の足筋肉とカタツムリ。僕はこういう写真は撮らないけど、シュルレアリスムの作品を見るのは好きで。いわゆる「キレイは汚い、汚いはキレイ」という美の感覚。美しいものの対極に汚いものがあるのではなく、色に汚い色なんてない、そんな感覚。まさにシュルレアリスムだと思うよ。晩年のBedside Lampも良かった。
──展覧会をご覧いただいた感想はいかがでしたか?
藤塚:非常にうまい展示だよね。ペンさんは、背景を極限まで省略して写真に凝縮している。完璧な白バックで抽象化するシュルレアリストの世界を感じた。巨大画面のプロジェクションもよかったけど、ユーモラスなアニメーションもよかったなあ。すべてが調和していて、ディレクターの北村みどりさんの一生さんを支える力を感じたなぁ。
──では、最後に藤塚さんの最近のお仕事をお聞かせください。
藤塚:建築家の仙田満さんの40年もの仕事の集大成を1000ページにまとめた『遊環構造BOOK SENDA MAN 1000』(美術出版社、デザイン:秋田 寛)という書籍を作りました。仙田さんとは長くて、中の写真は95%僕が撮影してます。本は厚さ70㎜、重さ2kgあるよ。
(聞き手:上條桂子)
藤塚光政 Mitsumasa Fujitsuka
写真家
1939年東京・芝に生れる。1961年東京写真短期大学卒業。1965年フリーに。1987年日本インテリアデザイナー協会賞受賞。1961年~1985年、月刊『ジャパン・インテリア・デザイン』撮影。1982年~2006年、月刊『室内』表紙を撮影。1986年『記憶の建築 毛綱毅曠作品集』 文・毛綱毅曠。1987年『意地の都市住宅Ⅰ・Ⅱ』 文・中原洋。1991年『現代の職人』 文・石山修武。1993年『不知詠人』 文・毛綱毅曠。1995年『建築リフル』全10巻 文・隈研吾。2002年『身近なテクノロジー』写真・文とも。2004年『藤森照信特選美術館三昧』 文・藤森照信。2007年『建築家・五十嵐正』 文・植田実。2008年『安藤忠雄の建築3』。2009 年『BRIDGE』 文・大野美代子。2009年『21世紀の建築魂』 文・藤森照信。2009 年写真展『倉俣史朗・to be free』。2011年『木造仮設住宅群』 文・芳賀沼整。2011年『SENDAMAN・1000』 文・仙田満