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「アーヴィング・ペンと私」 vol.29 ブリット・サルヴェセン
現在開催中の「アーヴィング・ペンと三宅一生 Visual Dialogue」展にあわせ、各界をリードするクリエーターの方々に、ペンの写真の魅力について語っていただきます。
二人の才能のダイアローグをヴィジュアライズしてくれた展覧会
── ペンさんの写真との出会いを教えてください。
ブリット・サルヴェセン(以下、サルヴェセン):
確か1987年だったと思います。ペンの回顧展がニューヨークのMoMAから巡回して世界を巡っていたのをロンドンで見ました。その数年後90年代には、私はペンから作品アーカイブを寄贈されたシカゴ美術館で仕事をしており、そこでコリン・ウェスターベックが企画したペンの回顧展を見る機会がありました。
── ペンさんの写真についてどう思いますか?
サルヴェセン:彼の写真は写真史の中で非常に重要なポジションを占めると思う。何故なら、写真というメディアはさまざまな目的で使われていますが、ファッション、静物、文学、プライベートな作品......、彼はそのすべてのジャンルに及んだ作品づくりをして、いずれの作品もアート作品のレベルに達している。写真のインパクトと対象の細部に焦点をあてる彼の作品は、今の時代にすごく重要なメッセージを持っていると思います。
── 展覧会の感想を聞かせてください。
サルヴェセン:二人のダイアローグはアーティスト同士の関係の中でもとてもユニークなものだと思います。彼らはすごく個人的なパーソナリティの部分で互いに影響を与え合っている。それは、相手が打つ球を見極めて打ち返し、時間をかけてお互いをより偉大な到達点に押し上げる、とても優秀なテニスプレーヤーのよう。お互いに尊敬し合っている関係をすごくリアルに感じることができる展覧会でした。
── ペンさんの写真から学んだことは?
サルヴェセン:私はペンにはお会いしたことがありません。しかし、若い研究者だった私にペンは写真を通してたくさんのことを教えてくれました。道に落ちているタバコやゴミが、たちまち美しいものに変わるということ。それは私にとって驚くべき発見でした。
── ペンさんの写真を1枚手に入れられるとしたら何にしますか?
サルヴェセン:難しいわね(笑)。やはり象徴的な「Harlequin Dress」(1950)でしょうか。あの写真は一度見たら忘れられない強さがあります。
── 最近のお仕事を教えてください。
サルヴェセン:LACMAでは、エルズワース・ケリーの写真と映画についての展覧会が現在開催中です。今後の予定としては、2012年6月にシャロン・ロックハート、2012年10月にはアーヴィング・ペンにも非常に影響を受けたロバート・メイプルソープ、そして2013年の秋にはメキシコの映像作家のガブリエル・フィゲロアの展示を予定しています。
(聞き手:上條桂子)
ブリット・サルヴェセン Britt Salvesen
ロサンゼルス・カウンティ美術館(LACMA)キュレーター、ウォーリス・アネンバーグ写真・プリント・ドローイング部門長
コートールド美術学校文学修士号(1991年)、シカゴ大学博士号(1997年)。シカゴ美術館の学術出版物のアソシエイト・エディター(1994-2002年)、ミルウォーキー美術館のプリント・ドローイング・写真担当のアソシエイトキュレーター(2002-04年)を経て、アリゾナ大学のクリエイティブ・フォトグラフィー・センター(CCP)のディレクターおよびチーフキュレーターを務める。2009年10月より現職。
これまでの展覧会に、『Harry Callahan: The Photographer at Work(2006年)』『New Topographics(2009年)』『Catherine Opie: Figure and Landscape(2010年)』『Ellsworth Kelly: Prints and Paintings(2012年)』等。今後、シャロン・ロックハート、ケイティ・グラナン、チャーリー・ホワイト、ロバート・メープルソープ、ジョン・ディヴォラ等の展覧会を手掛ける予定の他、レナード・アンド・マージョリー・ヴァーノンのコレクションの大規模な展覧会も予定している。