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オープニングトーク「祝福された時間と創作」を開催
2012年9月29日、「田中一光とデザインの前後左右」展オープニングトーク「祝福された時間と創作」を開催しました。
本展ディレクターの小池一子はまず、「過去の偉業だけではなく、今この時代に何を提案できるか」を考えてまとめたという展覧会コンセプトを解説。戦後のモノクロームの社会から色のある美しい生活世界を思い描き、創作に生きた、田中一光の「祝福された時間」について語りました。
本展で会場構成とグラフィックデザインを手掛けた廣村正彰は、田中一光デザイン室で過ごした11年間を振り返り、「その時代時代で田中先生が何を考え、仕事を通して社会とどのように接してきたか、『前後左右』の『前』(=Future)をいかに展示するか」を熟考したと話しました。
続いて、田中一光の作品やデザイン室の資料を保管する「DNP文化振興財団」でのリサーチプロセスを紹介。小池は「このアーカイブがあってこそ実現した展覧会」とアーカイブの重要性を説き、廣村は「給与明細や鉛筆の一本一本まできちんと保管している」アーカイブのあり方に、驚きとともに敬意を表しました。
廣村はまた、手書きから活字、写植、フォントまで、「デザイン人生を通して文字に強い興味を持ち続けた」田中の姿を、展覧会ポスターの「T」(光朝)と「一」(活字)で表現したと語りました。1960年代に田中と出会い、芝居好きで意気投合したという小池は、「アートディレクターは、イタリアンオペラのアリアを聴いて、劇場を出たら屋台でおでんをつっつくようなダイナミックさを持つこと」という田中の言葉を紹介しました。
トーク後半は、田中の代表作として知られる5点のポスターを中心に、様々なエピソードを交えながら展開。田中がスタッフに突然紙を切るよう指示し、四角や三角、丸など、最も基本的な造形から生み出した傑作「Nihon Buyo」などの例をあげ、手作業から新しい発想や展開が生まれるデザインプロセスの可能性を示唆しました。
また、展覧会では紹介しきれなかった「田中一光デザイン室のお昼ご飯」(小池)や、「仕事の前にお礼状、料理、本棚の整理」(廣村)をしていたという田中の素顔にも触れました。満員の会場は、何よりも人が好きで、人が集まって創造する場づくりに情熱を傾けた、田中一光の暖かさに包まれました。