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「カラーハンティング展 色からはじめるデザイン」レポート
第1回 藤原大に聞く 〜前編〜
「カラーハンティング展 色からはじめるデザイン」の開幕に向け、展覧会ディレクター 藤原 大のインタビューを通じて、展覧会の魅力やプロセスを連載でお伝えします。
ディレクターの横顔
色について考え、行動することからデザインをはじめる。その方法論を「カラーハンティング」と名付けたのが、デザイナーとして活動する藤原 大だ。6月21日から始まる企画展では、カラーハンティングから始まったいくつかのプロジェクトとその成果物が展示され、実際にどのように「色を"とる"」作業をしているのか、ものがつくられるまでにどのようなプロセスを経るのかが示される。
そもそも、なぜ色なのか。このインタビューではそれを聞きたかった。本題に入る前のウォーミングアップとして、まず藤原のプロフィールをかんたんに辿っておこう。
藤原は東京生まれ。多摩美術大学美術学部デザイン科を卒業後、1994年に三宅デザイン事務所に入社。98年、三宅一生と共にA-POC プロジェクトをスタート。これはコンピュータ制御した編機・織機によって一枚の布から一体成型による衣服をつくり出すという画期的なプロジェクトだ。この仕事によって2003年毎日デザイン大賞を受賞している。
2006年にISSEY MIYAKE クリエイティブディレクターに就任した彼は、A-POCをISSEY MIYAKE ブランドのデザインソリューションと位置づけ、テクノロジーと日本各地の染めや織りの伝統的な技術・素材とをつなげる服作りを展開。一方で英国のダイソン社のジェームス・ダイソン氏や、数学のノーベル賞と称されるフィールズ賞受賞者、ウィリアム・サーストン氏と協働するなど、その創造性が国内外で高く評価された。
2008年に自身の会社 株式会社DAIFUJIWARAを設立、現在は大学等で教鞭をとるとともに、様々な活動を精力的におこなっている。鎌倉で地域や大学の関係者と「国際観光デザインフォーラム」を共同運営する一方、この5月には、バッグのコレクション「Camper Bag by Dai Fujiwara」がスペインのカンペール社から発売された。紙とポリエステルから作られた特殊なニット素材を使ったバッグは、男女を問わず身体になじむ柔らかな手触りが機能的で、独自の素材開発から始める点は藤原の面目躍如と言える。
また、建築プロジェクト「スカイ・ザ・ボートハウス」も興味深い仕事だ。自らコンクリートを打ち、船大工とともに建設した、海の見える丘に建つ家は、屋根の一部が布で、取り外すことができる。トップライトからふんだんに光を取り込むことができるこの家は、色についての大きな示唆を彼に与えたに違いない。色は、光なくしては存在しないからだ。このプロジェクトは海外の美術館などで紹介されている。「カラーハンティング展 色からはじめるデザイン」では映像が展示される予定だ。
中国で山水画を学ぶ
4月下旬、打ち合わせの折りに「そもそも、なぜ色なのか」と藤原に問いかけてみた。
「子どもの頃から色に惹かれていて、光のスペクトルのことを何も知らないのに、似たような絵を描いていました。まだカラーハンティングという言葉こそ使っていなかったけれど、大学時代も自分の作品として自然の色をとることをしていましたね。そのなかでも、中国で山水画を学んだ経験から得たものが大きいと思います」
「1992年、日中国交正常化20周年記念事業の一環として企画された学生使節団に加わることができたので、大学を1年休学して北京の国立中央美術学院に留学しました。山水画を勉強したかった。当時の私なりに今しか学べないものは何かと考えた結果、アジアから日本を見てみたい、とくに中国の思想や考え方を理解した上で日本を見てみたいと思いました。それで中国の書画を学ぶことにしたのです」
中国で始まった山水画は自然の景色を描いているが、自然を絶対的かつ霊的・精神的な存在として見る中国人の自然観を反映している点が西欧の風景画とは根本的に異なる。それはさておき、墨で描かれる山水画はモノトーンの世界で、色は存在しない。山水画を学んだ経験が色につながるというのは、どういうことだろう?
<つづく>
構成・文:
カワイイファクトリー|原田環+中山真理(クリエイティブ エディターズ ユニット)