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川上典李子のデザインコラム Vol.1
各国デザインミュージアムのいま 後編
「日本のデザインミュージアム実現にむけて展」企画協力でジャーナリストの川上典李子によるデザインコラム。本展のために行ったリサーチから、各国のデザインミュージアムの現状や日本のデザインミュージアムの未来像を、連載でお伝えします。
社会の変化をふまえたミュージアムであること
各館関係者のコメントから、現代のデザインミュージアムに関する重要な点がいくつか見えてきました。社会の変化にどう向き合うのかということです。ひとつが、オンラインなどのデジタル発信。前編で紹介したV&Aのアルモンド氏はこう述べます。
「V&Aのコレクションをデジタル形式でも体験できるようになっています。『創造性を刺激する』というV&A の目的を、我々が関わる全ての活動において、館内とオンラインの双方を用いてはっきり示していくことが大切だと考えています」
パリ、ポンピドゥー・センター国立近代美術館のギヨーム氏の言葉も引用しておきます。「デジタルツールの登場によって今日の学習スタイルも変化しています。そのなかでミュージアムは、知識と経験をいかに構築するのかという課題に直面しています。デザインミュージアムは創造性の拠点。国内外の文化の動向や、デジタルがもたらす変化との相乗効果を視野に入れるべきだと考えます」
「現実そして仮想の環境も絶えず変容します。 状況を考慮し、増えつつある非物質的な作品にも向きあうことが、博物館学・美術館学、ミュージアムの視覚化において、求められています。もうひとつの課題は、デザイナーの役割を改めて考察することです」
2014年の新たな動きーニューヨーク、ソウル
デザインミュージアムに関する2014年の注目すべき動きにも触れておきましょう。
1897年に開館し、1967年以来はスミソニアン財団の一部となっているニューヨークのクーパー・ヒューイット国立デザインミュージアム。現在は改装中で、2014年秋に展示空間を従来の6割ほど拡大して再オープンします。
教育プログラムに力を入れている同館の活動は改装中も積極的に継続されており、教育プログラムなどの催しは、ニューヨークではハーレムのクーパー・ヒューイット・デザインセンターで行われています。さらに「デザイン・イン・ザ・クラスルーム・プログラム」をニューヨークの他、ニューオリンズ、サン・アントニオ、ワシントンDC などの各地で行われています。海外でも開催されています。
さて、来春の話題は、来年3月にソウルに誕生するデザインミュージアムです。その名は東大門(トンデムン)デザイン・プラザ(DDP)。ソウルデザイン財団によって運営されます。ザハ・ハディッドが設計した建築施設もすでに世界の話題を集めています。同館の広報担当者はこう述べます。
「地下3階、地上4階の建物内では5つの空間に15の機能を備えています。デザインミュージアムのほか、アートホール、ビジネスセンター、公園などです。 DDPには際立った特徴がいくつもありますが、なかでも特徴的なのは建物を覆う約45,000枚のカーブしたアルミパネルでしょう。きわめて高い技術力が集結されていることを物語っています」
「DDPの目的はソウルのクリエイティブ産業を活性化し、グローバルなネットワークを構築することです。また、現在の文化的な資産に未来的な要素をもり込んでいきたいと考えています。それらを通じて文化や創造性の中心地として機能し、来館者に韓国のダイナミズムやアジアの創造性を見てもらうことができるものと考えています」
館長に就任する鄭 國鉉(チョン・クッキョン)氏はサムスン電子デザイン経営センター副社長に所属していた人物。「BeSeT(ベセット)と呼ばれる北京、ソウル、東京の施設の連携など、アジアのデザインミュージアムの連携を図っていきたい」と抱負を語ってくれました。鄭氏は2014年1月11日(土)に21_21 DESIGN SIGHT館内で開催予定の関連プログラム「トーク『現場からみる、デザインミュージアムの可能性』」に出演します。より具体的な話を聞ける機会となります。
アーカイブの方針や運営の仕方、そして何をどう伝えていくのか。できるだけ幅広く歴史を網羅するコレクションを誇る施設があれば、対象を明快にコレクションと研究を進める施設もあるなど、各館それぞれに特色があります。収集・保存、調査・研究、展示・紹介、教育などミュージアムに求められる複数の役割は共通していますが、各々に独自の試みを続けていることがうかがえます。
では、日本における総合的なデザインミュージアムを考える際、それも21世紀に誕生するデザインミュージアムとして、どのような可能性があるのでしょうか。「日本のデザインミュージアム実現にむけて展」は、日本のデザインの背景に目を向けるところから、そのことを考える場となっています。(Vol.2へ続く)
文:川上典李子