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「『そこまでやるか』壮大なプロジェクト展」Web連載
第1回 クリストとジャンヌ=クロード
「『そこまでやるか』壮大なプロジェクト展」には、2016年に「フローティング・ピアーズ」を実現させたクリストとジャンヌ=クロードをきっかけに、世界各国から「そこまでやるか」と私たちに思わせてくれるクリエイターが集います。
展覧会の出発地点とも言える、「フローティング・ピアーズ」を本展企画スタッフがレポートします。(文・写真:21_21 DESIGN SIGHTスタッフ)
2016年6月、21_21 DESIGN SIGHTのディレクターのもとに、イタリアのイセオ湖に色鮮やかな浮く桟橋が突如として現れるという手紙が届きました。クリストとジャンヌ=クロードによるプロジェクト「フローティング・ピアーズ」は2016年6月18日から7月3日の16日間、今までの彼らのプロジェクト同様に、完全に無料で一般の人たちへ公開されたものでした。
21_21 DESIGN SIGHTで、ぜひ何かの形で展覧会にしたいと、企画スタッフの一人がイセオ湖に見学へ行くこととなりました。
イセオ湖は、ミラノから電車で3時間程、プロジェクトの最寄り駅はスルツァーノ駅です。スルツァーノ駅の数キロ前からは、徒歩で、バスで、タクシーで「フローティング・ピアーズ」に向かう人たちで混雑していました。
「フローティング・ピアーズ」は、湖面をわたる全長3km、幅16mで高さ50cmほどの浮く桟橋と、歩道2.5kmを輝くオレンジの布で覆ったプロジェクトです。
電車やバスなどで近くに到着して、まず歩道を通り、そして水面を歩き、湖の中の小さな島に辿り着きます。この湖には、橋がないので街の人たちは普段はボートでの往来をしています。
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このプロジェクトは、布で覆われた部分のみが作品なのではなく、湖の深い色、山々といった自然、住宅などの街並、そして訪れた人々全てで「フローティング・ピアーズ」となるのです、とクリストは言います。
そして、このプロジェクトは訪れた人々が「歩くために歩く」のだ、とも話しました。職場や学校に行くためではなく、目的を持たずにこの橋の上を人々が歩くために歩く、その中で多くの人が、山や湖の美しさや、心地よい水の音に気がついたのではないでしょうか。
また、座って風景を見つめる人、友人や家族と語らう人、裸足になって水の上と布の感覚を楽しむ人、訪れた人たちが様々に「フローティング・ピアーズ」を楽しむ姿がそこにはありました。
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本展のクリストとジャンヌ=クロード企画構成の柳 正彦さんに、スタッフボート乗り場をご案内いただきました。布の下には、白いキューブがつなぎ合わされ、水の中には上に人や物が乗った時に沈まないようバランスをとる重しがつながっています。
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その上にはまず柔らかいフェルト、オレンジ色の布は橋の長さよりも20%長くして襞(ひだ)ができるようにデザインされていると、教えてくださいました。
湖上の船に乗ったクリストに気づいた人たちが、一目クリストを見ようと橋の端へ集まりました。「ブラボー」「グラッツィエ」と歓声と拍手が沸き上がる光景を目の前に、訪れた人たちが「フローティング・ピアーズ」を心から楽しんでいることが伝わりました。
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本展では、「フローティング・ピアーズ」の世界初公開を含む映像とニューヨークのスタジオで撮りおろしたクリストのインタビュー映像を、3画面の迫力ある映像にまとめました。 進行中のアラブ首長国連邦の「マスタバ」や、これまでのプロジェクトについても紹介し、クリストとジャンヌ=クロードの作品に宿る驚きと感動を伝えます。