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2019年1月 (4)
開催中の企画展「民藝 MINGEI -Another Kind of Art展」で、テキスト執筆を担当した猪飼尚司が、本展の企画に深く携わり感じたこと、考えたことを全2回でお伝えします。
第1回は、猪飼がどのように民藝に向き合い、したためたのか、その姿勢を語ります。
21_21 DESIGN SIGHTで開催中の「民藝 MINGEI -Another Kind of Art展」は、すでにご覧いただけましたでしょうか?
現代のデザインやものづくりを中心に執筆活動を行ってきた私にとって、本展への参加はひとつのチャレンジでもありました。
以前から交流のあったディレクターの深澤直人さんと日本民藝館学芸員の古屋真弓さんからお声がけいただいたことはとても嬉しかったのですが、正直に言うと、どのように頭を動かし、文章にまとめればよいのかすぐに想像することができず、躊躇したところがありました。
一般的に「展覧会テキスト」と言えば、作品の読み解き方を記しているもの。通常ならば、作品が生まれた時代の社会情勢などに照らし合わせながら順序立て、作家がどのようにコンセンプトのもとに技法を編み出し、どのようなプロセスを経て製作に至ったのかなど、作品や作家の背景が明確に理解するためのヒントがそこには隠されています。
しかしながら、民藝には解説の指針となる具体的な資料が存在しません。全国の民藝関連の施設に収蔵されている作品も見ても、箱書きもなく、作者不詳のものが多くあります。同時にそれらがいったいどのような関連性を持っているかを判断するのも困難です。
私も過去に何度となく民藝について執筆する機会はあったものの、それは誰かしらの取材をベースにしたものであり、実際に自分が正面をきって民藝というものと対峙したことはありませんでした。もちろん本展は深澤直人というディレクターの思考をベースに考えられたものであり、すべてを私だけの力で一から執筆する必要はありませんでしたが、一つ一つのセクションを体系化し、文章としてどのように表せば良いのかと思考を巡らせる必要があったのです。
しかし、実際にプロジェクトを進めていく段階で、深澤さんや古屋さんをはじめとした関わるスタッフの方々が、とても素直な感覚で作品と向き合っていることに気づいたとき、自分のなかにも民藝に対する明確な態度が生まれてきました。
結果として私は解説をするのではなく、来場者と同じ感覚で作品を鑑賞する、もしくは状況を傍観しているような感覚で、文章を仕上げていくことに決めました。
実際に会場内に掲げられているパネルに目を通していただけば分かると思いますが、その内容は展示の風景をありのままに捉えたものであり、ときに来館者に問いかけるような文体になっています。
展覧会における文章としては、みなさんにとって少し物足りないものに感じるかもしれません。しかしながら、私にとってこれも民藝、ひいてはものづくりや暮らしと正直に向き合うための一つの方法論だと考えています。
猪飼尚司
©永禮賢
2019年1月19日、ギャラリー3にて「OBI KONBU」展が始まりました。
会場に入ると、鮮やかな21色のトートバッグが目に入ります。その質感からKONBUと呼ばれるこのバッグは、特殊な複数の細い糸で編み上げた大きなバッグを、1/4に縮ませた後に染色するという、独自の製法により生み出されたものです。
編立から整形に至る製造工程を短い映像で観ることができるほか、各プロセスのサンプルを実際に手に取って、その独特の手触りを感じることができます。
奥のコーナーには、平面にたたまれた時の形状からOBIと名付けられたリュックとトートバックが展示されています。これは、熱を加えることで硬化する特殊な糸を用いたジャージ素材をバッグの形に裁断縫製し、折りたたんで熱プレスをかけたものです。
バッグを構成するすべてのパーツを解体したパネルとリズミカルな映像で、構造の新しさとユニークさを観ることができます。
常にリサーチと研究開発を重ね、素材からものづくりを始める三宅デザイン事務所(MIYAKE DESIGN STUDIO)の最新作を、ぜひ会場でご覧ください。
2019年1月17日、日本民藝館 学芸部長の杉山享司の案内により、「日本民藝館と楽しむAnother Kind of Artギャラリーツアー」を開催しました。
「民藝 MINGEI -Another Kind of Art展」は、プロダクトデザイナー 深澤直人のディレクションによる展覧会です。ツアー冒頭で杉山は、「デザイナーとしての深澤氏が、どのように民藝を見ているのか追体験できる展覧会。彼が展示作品の魅力を素直に語るコメントとともに鑑賞して欲しい」と、杉山と話しました。
40年以上にわたり日本民藝館で美の裏方を務める杉山。まずは個々人が先入観なく、ものに感動するところから民藝に触れて欲しいと、想いを伝えます。さらにツアーでは、深澤のコメントを手がかりに展示作品のかたちや素材の面白さに着目。その後にそれぞれの用途やつくり手の背景などを解説しました。
また杉山は展示を考えるとき、色々な並べ方を検証し、もの同士が調和するようにしているとも言います。もの同士が会話をするような空間をつくる喜びについて、「食卓のテーブル構成を考えるように、取り合わせのバリエーションを楽しんで欲しい」と語りました。
終わりに、杉山は「誠実、健康、自然、自由」という民藝の4つのキーワードをあげました。人々の営みから生まれた、控えめだが存在感に溢れた民藝。人の気配があるからこそ、親近感がわくのではないかと、杉山は語ります。私たちの暮らしと民藝との関わりについて、深く知り、考えることができるツアーとなりました。
21_21 DESIGN SIGHT企画展「民藝 MINGEI -Another Kind of Art展」では、1925年、柳 宗悦によって名づけられた、無名の職人たちによる民衆的工芸、「民藝」を、これからのデザインのインスピレーションとなる「Another Kind of Art」と捉え、紐解いています。
ここでは、柳 宗悦らが創立した日本民藝館で開催される展覧会をご紹介します。
日本民藝館「柳宗悦の『直観』 美を見いだす力」
2019年1月11日(金)- 3月24日(日)
それまで顧みられることのなかった、朝鮮陶磁、木喰仏、日本の民藝などに次々と美を見いだしていった柳 宗悦(1889-1961)。その前人未到の業績を可能とさせたものは、ほかならない柳の「直観」でした。柳は、「直観とは文字が示唆する通り『直ちに観る』意味である。美しさへの理解にとっては、どうしてもこの直観が必要なのである。知識だけでは美しさの中核に触れることが出来ない」と、そして「何の色眼鏡をも通さずして、ものそのものを直かに見届ける事である」と述べています(「直観について」1960年)。
本展では柳の眼差しを追体験できるよう、説明や解説を省き、時代や産地、分野を問わず、柳が蒐めた名品を中心にして一堂に展示されています。
「民藝 MINGEI -Another Kind of Art展」では、展覧会ディレクターの深澤直人が「作者が誰かとか、いつどこでつくられたのか、とかいった情報は必要ない。ただ純粋にその魅力にくぎ付けになる。『これはヤバイ』と」と語る民藝。
開催中の二つの展覧会で、その美しさに向き合ってみてはいかがでしょうか。
会場・主催:日本民藝館
*「柳宗悦の『直観』 美を見いだす力」の入場券(半券も可)のご提示で、「民藝 MINGEI -Another Kind of Art展」の入場料が100円引きになります
*「民藝 MINGEI -Another Kind of Art展」の入場券(半券も可)のご提示で、「柳宗悦の『直観』 美を見いだす力」の入場料が100円引きになります
*いずれも1枚につき1回1名限り有効、他の割引との併用不可