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2022年7月 (2)

フランスの国家を代表するナショナルモニュメントであり、世界的に有名な建造物の「エトワール凱旋門」を布とロープで包んだプロジェクト「L'Arc de Triomphe, Wrapped, Paris, 1961–2021(包まれた凱旋門)」を紹介する企画展「クリストとジャンヌ=クロード "包まれた凱旋門"」では、プロジェクトの制作過程や、実施中の風景をインスタレーションで展示しています。街の音や凱旋門のスケール感、そしてクリストとジャンヌ=クロードの出会いからのストーリーなどを通じて、会場全体がパリを舞台にした映画のようにも感じられるかもしれません。

会場風景(撮影:吉村昌也)

このようにフランスとの関わりの深い内容でもある本展は、在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本の後援を受け開催しています。

本展が開幕して間もなく、フィリップ・セトン駐日フランス大使夫妻が来場されました。夫妻は、本展ディレクターのパスカル・ルランや、特別協力のクリスト・アンド・ジャンヌ=クロード財団より来日していたヴラディミール・ヤヴァチェフ氏、ロレンツァ・ジョヴァネッリ氏らの説明を受けながら、時間をかけて展示を鑑賞されました。

左からパスカル・ルラン、フィリップ・セトン駐日フランス大使夫妻、ヴラディミール・ヤヴァチェフ氏(撮影:吉村昌也)
左からパスカル・ルラン、ロレンツァ・ジョヴァネッリ氏、フィリップ・セトン駐日フランス大使夫妻(撮影:吉村昌也)

アンスティチュ・フランセ日本は、2012年にフランス大使館文化部と東京日仏学院、横浜日仏学院、関西日仏学館、九州日仏学館が統合し誕生したフランス政府公式機関です。日仏の文化交流活動のほか、フランス語講座を開講し、フランス発の文化、思想、学問を発信しています。

2022年7月、フランスの文化を学ぶクラスから講師と生徒20人が来場し、本展を鑑賞しました。展示を通じてクリストとジャンヌ=クロードの情熱に触れただけではなく、講師のセドリック・リヴォー氏自身が実際に体験した「包まれたポン・ヌフ、パリ、1975–85」の感動を伝えるなど、フランス人、フランス文化を学ぶ人、それぞれの視点から感じることを語り合う時間となりました。

2022年6月23日、企画展「クリストとジャンヌ=クロード "包まれた凱旋門"」に関連して、オープニングトーク「『包まれた凱旋門』の実現とこれから」をオンラインで開催しました。

本プログラムには、本展特別協力のクリスト・アンド・ジャンヌ=クロード財団から、ディレクターでありクリストの甥のヴラディミール・ヤヴァチェフ氏と、同財団ディレクターのロレンツァ・ジョヴァネッリ氏、展覧会ディレクターのパスカル・ルラン、モデレーターとして21_21 DESIGN SIGHT アソシエイトディレクターの川上典李子が出演しました。
クリストとジャンヌ=クロードの人生と、2021年にパリで実施された「包まれた凱旋門」について、また本展をつくり上げるプロセスや見どころについて語り合いました。

まず川上が、「包まれた凱旋門」プロジェクトの背景についてヴラディミールに問います。
「包まれた凱旋門」のプロジェクトの構想は、1961年にクリストが作成したフォト・モンタージュから始まり、60年の時を経てプロジェクトは実現しますが、驚くことに2017年に動き出したその認可の進行はとてもスムーズだったと説明しました。それは、1985年のパリでの大規模なプロジェクト「包まれたポン・ヌフ」が非常に素晴らしい記憶としてパリの人々に残っていたからだといいます。
続けて、実施にあたり乗り越えなければならなかった課題はどんなことだったのか、川上は問いました。
ヴラディミールは「世界的に有名なモニュメントを包むことは、価値を付けられないほどの重みがあった。また、2020年に他界したクリストが現場にいなかったため、その喪失感で気持ちを維持していくことが困難だった。」と述べました。

スタジオで「包まれた凱旋門」のドローイングを描くクリスト、ニューヨーク、2019年9月21日
(Photo: Wolfgang Volz ©2019 Christo and Jeanne-Claude Foundation)

次に、川上からロレンツァへ、活動を記録し、整理して伝えるアーカイブの仕事について尋ねました。
ロレンツァは2016年に実施されたイタリア・イセオ湖でのプロジェクト「フローティング・ピアーズ」に2014年から参加し、現場で活動する楽しさを知っていることに触れ、クリストとジャンヌ=クロードの作品の特性でもある"期間限定であること"が、美しさや素晴らしさをより一層濃厚にしてくれると語りました。
また、自身が担当しているアーカイブの重要性については、「作家や作品の情報はもちろん、アーティストの人生や、手がけてきた芸術を理解するための手がかりにもなる。今後の研究においても極めて重要な価値のある資料にもなり得る。」と述べました。そして本展では、本来知ることが難しい、プロジェクトに関わる人々の姿をきちんと伝えることが出来ていると続けました。

凱旋門の外壁の前面に布を広げている様子
(Photo: Benjamin Loyseau ©2021Christo and Jeanne-Claude Foundation)

最後に本展ディレクターのパスカル・ルランから、展覧会をつくりあげるプロセスを説明しました。本展への参加が決まった際にパスカルがまず行ったことは、クリスト・アンド・ジャンヌ=クロード財団から手に入れることのできる資料をすべて集め、それらに目を通すことでした。「パリの規模や包まれた凱旋門のスケール、制作のプロセス、またプロジェクトに関わる人々の技術を、説明文ではなく、視覚的に伝えられる展覧会構成を目指した。」と述べました。

会場風景(撮影:吉村昌也)

トーク終盤では、視聴者から三者への質疑応答も実施されました。今後の展望として、アラブ首長国連邦の砂漠に41万個のドラム缶を積み上げるという、1977年から進行中のプロジェクト「マスタバ」についても触れました。「包まれた凱旋門」プロジェクトと今後の二人の活動の紹介を通して、クリストとジャンヌ=クロードが大切にしてきたことをもうかがい知ることのできる、貴重な機会となりました。