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2025年10月 (6)
2025年10月19日(日)、企画展「そのとき、どうする?展 –防災のこれからを見渡す–」に関連して、トーク「3つの視点で紐解く、『そのとき』のデザイン」を開催しました。
本展の企画チームより、大内裕史(WOW)、佐々木 拓(コクヨYOHAK DESIGN STUDIO)、鈴野浩一(トラフ建築設計事務所)の3名が登壇し、ディレクション、グラフィックデザイン、空間設計というそれぞれの立場から展覧会をどのようにつくりあげてきたか振り返ります。最後には、デザインの社会的役割と未来への可能性までをも語り合いました。
* 本イベントは、TOKYO MIDTOWN DESIGN LIVE 2025「TALK BATON」として、東京ミッドタウンの屋内スペース、アトリウムにて開催されました
左から、大内、鈴野、佐々木。
本展の企画が持ち上がるよりも前に、サウナ好きという共通点から出会っていた3名。和気あいあいとした雰囲気でトークが繰り広げられていきます。
まずはじめに大内が、展覧会の話を最初に受けたときのことを振り返ります。「防災」をテーマにした展覧会をWOWのディレクションで、という話を受け、防災の専門家ではない自分たちがどのように展示に落とし込んでいくのか、社内のメンバーでブレインストーミングを重ねたと言います。依頼を受けた翌月には、会場を迷路のように構成し、各所に問いを散りばめて、自分なりに考えながら進むような展示の仕組みを構想し始めました。タイトルは、この段階から既に「そのとき、どうする?」。「スマホで答えを入力し、それを持ち帰れるようにしたかった。色々な立場の人が触れ、他者の答えを見ることも、防災を考えるうえで大切だと思った」と語りました。
早々に展覧会の企画チームが結成され、本格的に動き始めました。佐々木がグラフィックデザインを、鈴野が会場構成を担当することになります。
グラフィックデザインを担当した佐々木は、「防災を扱うということで、あまりふざけすぎてもいけないし、とはいえ展覧会として見に行きたくなるようなフックも必要。防災袋をアイコンにしたらどうかなど色々と考えていた」と話します。幾通りものデザインを提案し、方向性を検討する中で、21_21 DESIGN SIGHTのディレクターである深澤直人から掛けられた「どれも『そのとき』じゃない、『その前』だったり『その後』だね」という言葉が強く印象に残ったと言います。「そのとき」に一番入ってくるビジュアルはなんだろうと考え、最終的には蛍光オレンジの枠をシンボルにしたシンプルなデザインに行き着きます。展覧会の象徴ともいえる印象的なビジュアルは、こうした議論を経て形作られていきました。
展覧会の招待券とチラシ
また会場構成を担当した鈴野は、「受け身になってしまうとどうしても考えることを止めてしまうと思うので、なるべく能動的に、自分から入り込んでいけるような展覧会にしたいと思った」と語りました。問いに答えてから次に進むような構成を考え、来場者自身が体験を通して考えられるような空間をデザインしたのです。
会場風景(ギャラリー2) 撮影:木奥恵三
その後、展覧会の中で展示するさまざまなプロジェクトやプロダクト、作品に関して、各企業や作家らへオファーの声掛けをしていきます。
そして開幕直前の6月まで、展示作りは続いていきます。展示台の段ボールモデルを作って検証したり、キャプションの文字の見え方を現場で確認したり。施工中の写真を見ることで新しいアイデアが生まれることもありました。細部にまでこだわり抜いた設計が、来場者の体験の質を支えてくれています。
そうして7月4日、本展は無事に開幕のときを迎えたのです。
その他、特に印象的な作品や展覧会のオリジナルグッズについてなど、本展についてたっぷりと語り尽くすトークセッションとなりました。


トークの最後には、登壇者3名それぞれが「あなたにとってデザインとは?」という問いに答えました。
鈴野は「夢」と表現します。
「建築やインテリアには様々な制限がある。スケジュールや予算、クライアントの思い、法規的な条件など多くの制約があるが、単に問題解決型に解いていくだけではつまらないと思う。その中に自分の思いや考え、『夢』と呼んでいるものを乗せていきたい。それを見た人が少しでも感動したり、デザインについて考えるきっかけになったり、職業的にも夢を持ってもらえたら」。
大内は「憧れ」と答えました。
「学生の頃は、デザイナーは『かっこいい仕事をしている人たち』という憧れがあった。最近は、こうなったらいいなという思いや、もっと良くしたいという気持ちが、憧れを抱く感覚に近いと感じている。著名なデザイナーの方と仕事をする中で、その仕事ぶりを見て『こういう風に仕事をしたい』という気持ちも湧いてくる」。
佐々木は「未来に希望を持つための活動」と語ります。
「デザインを通じて、対象がよりポジティブに見えたり、希望を持てるようになると思っている。世の中は暗いニュースが多く複雑な社会だが、その中でどうやって希望を持つかということがデザインではないだろうか。仕事の中でも最初は嫌だなと思うことやつまらないと感じることもあるが、それをどう面白くできるかを考えるのがデザインだと思う」。

それぞれの専門分野から生まれた知見が交わり、形作られてきた今回の展覧会。本展を通して一人でも多くの方に、いつか訪れるかもしれない「そのとき」をどう生きるか、考えるきっかけにしていただければと思います。
いよいよ会期も残りわずかとなりました。11月3日(月・祝)までの開催となりますので、ぜひお見逃しなく。
企画展「そのとき、どうする?展 –防災のこれからを見渡す–」の会期中、8月、9月には、毎週月・水・木・金曜日の朝11時から、21_21 DESIGN SIGHTのスタッフによる「めぐり方ガイド」を開催しました。
本展は「『安全な場所』って、どこ?」や「災害をどのように知る?」といった、会場に散りばめられたさまざまな「問い」を通じて、防災や災害について改めて考える展覧会です。展示を通してさまざまな取り組みを知ることや、自分とは違う多様な考えにふれる体験も、大切な「備え」のひとつです。
めぐり方ガイドでは、「問い」を軸とする本展ならではの展示構成や、特設サイトでの回答方法など、展覧会をより深く理解していただくための導入としてご案内しました。対話を通じて理解を深める貴重な機会となりました。

六本木アートナイト2025の開催に合わせ、21_21 DESIGN SIGHTでは開館時間を22:00まで延長しました。9月27日(土)には、企画展「そのとき、どうする?展 –防災のこれからを見渡す–」の関連プログラムとして、本展ディレクターのWOWの加藤 咲と白石今日美によるギャラリーツアーを開催しました。

作品の解説を行うWOWの加藤(上)と白石(下)。WOWの二名からは、本展にて紹介しているプロジェクトの内容や防災プロダクトのデザイン、WOWによる作品の制作意図などについて、各作品ごとに丁寧な解説が行われました。参加者はその説明に耳を傾けながら、本展のために用意された特設サイト 「みんなは、どうする?」webにスマートフォンでアクセスし、防災・災害に関する10の「問い」について考えながら会場を巡る様子も見られました。
展覧会の会期も、いよいよ残りわずかとなりました。会場では、これまでの来場者による回答が多数、映像として展示されています。さまざまな視点に触れながら、自分自身にとっての「防災」について改めて考える機会として、ぜひご来場ください。
ギャラリー3では、2025年10月1日(水)から11月24日(月・祝)まで「TYPE XIII Atelier Oï project by A-POC ABLE ISSEY MIYAKE:一枚の布から生まれる、新しい光のかたち」を開催しています。
建築やプロダクトデザインなど、スイスを拠点に多岐にわたる分野で活躍するデザインスタジオatelier oï(アトリエ・オイ)と、異分野や異業種との協業を通じてこれまでにない服づくりを探求しているA-POC ABLE ISSEY MIYAKE。本展は、デザインに対する思想やアプローチに共鳴した二者が協業して生まれた、「一枚の布」と「一本のワイヤー」を融合させた新たな照明器具シリーズを展示しています。来日したatelier oï共同設立者パトリック・レイモンは、A-POC ABLE ISSEY MIYAKEを率いるデザイナー宮前義之とそのチームとの協業について「徹底的に素材に向き合うという共通点のもと、『ワン・チーム』として活動してきた」と語りました。
会場は、二者のインタビューと制作風景の映像から始まります。そしてギャラリーでは、二種類の白い照明器具のシリーズが効果的にインスタレーションされています。一つ目、ポータブル型の「O Series」のシェードには、atelier oï が構造設計を手掛けた楕円形のワイヤーフレームと、A-POC ABLE ISSEY MIYAKEの服づくりに活用されているリサイクルポリエステルをベースにした「Steam Stretch」素材が使われています。Steam Stretchは、一枚の布にデザイン要素をあらかじめ織り込み、熱を加えることで意図した部分の布を収縮させ、繊細で立体的なプリーツ形状のテクスチャーを生み出す独自の技術です。二つ目の「A Series」は、A-POCを象徴する無縫製ニットによる照明シリーズで、ペンダント型照明器具のプロトタイプを展示しています。このシリーズでは、チューブ状のニット生地にあらかじめシェードの形状が編み込まれており、フレームとなるワイヤーを挿入することで、立体的なフォルムに変化します。さらに、連続して編まれたシェードは、カットする位置によって、シングル、ダブル、トリプルなど、空間に合わせてさまざまな形状や大きさに仕上げることができます。A-POCならではの遊び心に溢れたデザインが特徴です。
本展会期中、21_21 NANJA MONJAでは、特別にA-POC ABLE ISSEY MIYAKEのプロダクトを販売しています。ぜひお立ち寄りください。







© ISSEY MIYAKE INC.
2025年3月7日(金)から6月15日(日)まで開催した企画展「ラーメンどんぶり展」の記録映像を21_21 DESIGN SIGHT公式 Vimeoアカウントにて公開しています。
映像:渡辺 俊介
2025年9月13日(土)、企画展「そのとき、どうする?展 –防災のこれからを見渡す–」に関連して、「『そのとき』を、みんなで考えよう」を開催しました。
本イベントは二部構成で、第一部を「子どものための防災ワークショップ」、第二部を「大人のための防災セッション」と題して開催しました。本展に学術協力として携わる災害社会学の専門家・関谷直也と、企画協力およびテキストを手がけたデザインライター・角尾 舞が、モデレーターとして登壇しました。
第一部の「子どものための防災ワークショップ」では、小学校と中学校に通う参加者がオリジナルのワークシートを使って、本展で提示されている「『安全な場所』って、どこ?」や「十分な備えって、どのくらい?」などの災害や防災に関する問いに向き合いました。考えた内容は順番に発表し、関谷・角尾との対話も重ねることで、防災に関する知識を深めていきます。
画面奥、左から、関谷、角尾。
「あなたにとって、その後の生活に必要なものはなに?」という問いに関連しては、防災バッグに入れておきたいものをテキストやイラストで自由にまとめました。参加者からは、寝袋・寝巻き・下着・耳栓といった生活に直結するグッズや、iPad・ヘッドフォン・トランプといった娯楽のアイテム、さらには両親の存在など、多種多様な意見が挙がりました。
ワークシートに記入する様子。
関谷は、災害時は必ずしも避難所に避難するとは限らず、たとえば自宅が安全であれば在宅避難をするような場合もあると述べました。その場合に備えて、水や食料、トイレなどの「ないと生活できないもの」を、1週間分を目安として自宅に備えておくことが大切だと呼びかけます。
最後に、自身が記入したワークシートを持って記念撮影をして、第一部の「子どものための防災ワークショップ」は幕を下ろしました。
第二部の「大人のための防災セッション」では、関谷の解説を聞きながら、第一部よりも一歩踏み込んだ内容で災害や防災について見つめ直していきます。

関谷によると、私たち人間には心の平穏を保つための機能として「正常性バイアス(正常化の偏見)」というものが備わっていますが、非常時にこの防御作用が働いてしまうと、本来であれば危険な状態と判断すべき事象を「大きな問題ではない」と誤認する危険性があると言います。その対策として、日頃から災害や防災について考えておくことが非常に重要なのです。
都市においては特に地震火災に気をつけるべきで、火災から逃れるために自宅付近の広域避難場所を把握することが大切であること。災害があったときには気象庁が出す一次情報を確認し、それらの情報を理解して迅速な避難(安全確保)を行うこと。このような、改めて認識しておきたい防災に関するさまざまなトピックスを、本展で提示されている10の「問い」をもとに、関谷・角尾の両名と参加者がコミュニケーションを取りながら紐解いていきました。

セッションの終盤、参加者から寄せられた質問に関谷が答える場面では、災害時のトイレ問題についても改めて触れられました。停電、断水、排水管の破裂などが原因でトイレが使えなくなったときに備えて、たとえば携帯トイレを持ち歩いておくことは非常に有効です。
21_21 DESIGN SIGHTの1Fにあるギャラリーショップ「21_21 NANJA MONJA」では、11月3日までの会期中に、本展オリジナルデザインの携帯トイレ「ぽけっトイレ」を販売しています。名刺サイズで嵩張らず、かばんに一つ入れておくだけでも安心です。
災害社会学を専門とする関谷の知見を交えながら、防災について思考を巡らせた第二部「大人のための防災セッション」も、盛況のうちに締めくくりとなりました。
本展オリジナルデザインの携帯トイレ「ぽけっトイレ」もご紹介。
