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THE OUTLINE 見えていない輪郭 (5)
最後のトークイベントは、深澤直人、藤井保、今回展覧会のアートディレクションをつとめた副田高行の鼎談形式で行われました。テーマは「地と図」。「じとず」と読むこの言葉は深澤からの提案でした。しかしなんと、当日まで「ちとず」だと思っていた藤井と副田。スタートから会場は笑いに包まれつつ、トークは深澤の「地と図」の説明から始まりました。
「地と図は3人のものづくりへの共通項だと思った」と深澤は言います。それぞれの図である被写体やプロダクト、商品だけに焦点をあてるのではなく、地である背景や生活風景も常に視野にいれるという姿勢。「僕らはものを凝視しない」と語る深澤の言葉から、今回の展覧会の主旨でもある「見えていない輪郭」にも近づいていきます。
以前の仕事中、霧がかったぼんやりとした風景をそのまま写しとることで「見えていないことがリアル」だと確信を持ったという藤井。現代は明るすぎる藤井の言葉に、多くの仕事をともにしてきた副田はうなずきました。深澤の著書『デザインの輪郭』を愛読していて、前日にもおさらいのつもりが熟読してきてしまったという副田。自分の思っていたことがすべて文言になっていてびっくりした、と初めて読んだ当時の感想も披露。最後に3人は見えすぎてしまうこの時代だからこそ、客観的な、引きをもった立場でバランスのいい「地と図」をつくる仕事をしていきたいと志を確かめ合いました。
3人のトークのあとは、恒例の質疑応答へ。着席だけでなく、立ち見の参加者からも積極的に手が挙がりました。今までの仕事からデザインの本質に至るまでさまざまな質問を丁寧に答えていく中、「よいデザインをしていくには?」との質問に「よい地図をつくってください」と答える場面も。それぞれが異なるジャンルで活躍する3人のものづくりの姿勢に、「地と図」の調和という共通項が実感できるひとときとなりました。
12月21日、大学生のために特別に行われた深澤直人によるギャラリートークでは、初めに深澤のデザイン思想と展覧会のテーマである空気や生活、環境や世界と密接に関わるものの「輪郭」について語られました。その後深澤の解説とともに会場を巡り、無印良品のCDプレーヤーやギャラリークレオのコートハンガー、トーネットのエクステンションテーブルなどは深澤自身によるデモンストレーションも。ひとつひとつの作品の説明に熱心に耳を傾ける学生たちの姿が印象的でした。
トークの後半は、「通常よりもライティングを落として自宅のリビングのように落ちつける空間に構成した」という会場で、学生たちとの質疑応答。デザインを始めて30年になる深澤に何度か訪れたという転機や、アメリカで仕事をした頃のエピソード、学生時代の時計の課題や子どもの頃に最初にデザインを意識した車の話など、話題は尽きませんでした。
「ものの形ではなく関係に注目し、人の気持ちの中にあるものの原型を探す」という深澤直人のデザインと素顔に触れられる、熱気に満ちた時間となりました。
藤井 保が仕事をする写真スタジオは、半地下のテラスを改造し、自然光が差し込む心地よい空間です。ワークショップは展覧会場に原寸大で再現されたスタジオで、代表的な3つの光の使い方のセッティングからポラロイド撮影まで、藤井の普段の仕事ぶりを再現するように行われました。熱心に質問したりメモをとる参加者に、スタジオをつくった際に発見した「秘密の」ライティングも特別に披露しました。
「深澤直人さんのプロダクトや人柄が魅力的だから連載を4年間も続けて来られた」という藤井は、展示中のチェア「PAPILIO」や洗面器とバスタブ「Sabbia」を例に、曲線の多い深澤作品における光と闇のグラデーションの魅力や、触ることで初めて分かる「皮膚感」の表現を語りました。谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』をきっかけに光に深く興味を持つようになった藤井。撮影の際には「どこから見れば一番そのものが輝いて見えるかを見極めることが大切」だと話します。
最後に参加者からの質問に「人間はどうしようもなくものをつくっていく動物。人がつくったものが自然の中でどう見えているかを、風景として表現するのが写真家の役割」であり、「写真家とは、一番前でものを見る仕事。一番前は風が強い。だから風に向かって立てる男であるように心がけている」と答えました。若い人には楽しむこと、好きなことを見つけて欲しいという藤井から、多くの来場者が勇気をもらうワークショップとなりました。
2人の活動を通して、私たちが見えていなかったデザインの輪郭に気付く「THE OUTLINE 見えていない輪郭」展。10月31日、関連プログラムとして深澤直人と藤井保によるオープニングトーク「2人に見えている輪郭」を行いました。
出会いのきっかけからトークはスタート。雑誌の連載中も実際に顔を合わせることはほとんどなかったという2人。お互いの仕事を通して、ものが存在するために必要な関係性を表す「輪郭線」の存在に深澤は気付いたと言います。この発見はのちに展覧会や書籍のタイトルにも繋がっていきます。藤井は「深澤がデザインをしている過程できっと見ていた風景を考えた」と今回の展示写真について語りました。
その後、それぞれのものづくりや仕事に対する姿勢へとトークは展開。藤井のヨーロッパロケのエピソードをはじめ、深澤が自ら建てた山小屋での暮らしも話題にのぼりました。
トーク後半の質疑応答のコーナーでは、現代におけるものづくりの意味や、本展をつくっていく上での苦労話からお気に入りの展示写真、出会ってからのお互いの印象に至るまで、さまざまな質問が飛び交いました。多くは語らない2人のデザイン、表現に触れることができる貴重な機会となりました。
「アウトラインとはものの輪郭のことである」
「わたしの役割はその輪郭を割り出し、そこにぶれなくはまるものをデザインすることである」
アウトラインとはモノの輪郭のことである。その輪郭はそのモノとそれを取り囲む周りとの境目のことでもある。そのモノを取り囲んでいるのは空気だから、そのモノの形をした空気中の穴の輪郭はそのモノの輪郭と同じである。空気はそのモノの周りに漂う雰囲気を指す比喩でもある。この空気(雰囲気)は、そのモノの周りに存在するあらゆるもの、例えば人の経験や記憶、習慣や仕草、時間や状況や音、技術や文化、歴史や流行などの要素で構成されている。それらの要素のたった一つが変わってもモノの輪郭は変わる。人はその空気の輪郭を暗黙のうちに共有している。わたしの役割はその輪郭を割り出し、そこにぶれなくはまるモノをデザインすることである。
藤井さんの写真を最初に見たとき、そのはっきりとしないモノの輪郭に驚いた。しかし、考えてみればモノは空気や光に溶けているから、人には輪郭がはっきりと見えていないことに気付いた。その事実を知って感動した。藤井さんはたとえモノを撮っていても風景を撮っているんだと思った。わたしのデザインと一緒にその周りの空気を撮っている。藤井さんには、みんなが知っているけど見えていない輪郭が見えている。
深澤直人
「"もの"は何も語らないが、実はその背後に多くの言葉や物事の真理がひそんでいる。装飾とは無縁なプロダクトの実在を前にして、僕は風景や彫刻を見るように写真を撮っている」
深澤さんとの出会いは、雑誌『モダンリビング』の連載で、深澤直人デザインのプロダクトを3枚の写真で構成する企画からである。現在で22回目、隔月刊なので、約4年間そのキャッチボールは続いている。
彼の書物のなかに、週末を過ごすための自作の山小屋には電気も水道もないという話がある。その不便さの中で生活をすることで本当に必要なものは何かが見えてくるという。これ程、最先端の工業製品をデザインしている人間が、その便利さと逆の環境に身を置いて思考をしている。僕は、そこから生まれた表現も言葉も信用できると思った。人には、自己否定も、自然に対しての謙虚さもまた必要なのだ。"物"は何も語らないが、実はその背後に多くの言葉や物事の真理がひそんでいる。装飾とは無縁なプロダクトの実在を前にして、僕は風景や彫刻をみるように写真を撮っている。
藤井 保