21_21 DESIGN SIGHT 1周年記念講演会「デザイン・トーク」 vol.2 独自のアプローチを試みた企画展
2008年6月20日 15:56|
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アソシエイト・ディレクター、川上典李子の進行で、3人のディレクターがこの1年間の活動について語りました。各人がディレクションを担当した企画展についてふり返る言葉から、21_21 DESIGN SIGHT独自の展覧会のつくりかたが浮かび上がってきました。
- 川上
- 21_21 DESIGN SIGHTの第1回企画展は、深澤直人ディレクション「チョコレート」でした。
- 深澤
- 最初の企画展だったので緊張はしましたが、あれほど楽しい時間が過ごせたことはなかったと今は思います。
実は施設の立ち上げのミーティングの際、一生さんに「ミュージアムという言葉を使わない」と最初に言われてしまって驚いたのです。根本的な言葉や概念を使うことができないから、ではこの施設をどう表現するのか、非常に難しかった。
僕自身としては、美術館のように「良いもの」を見せる場ではないので、すべて「良いもの」が並ばないかもしれないが、何かをやった結果として必ず面白いものが立ち上がる場、と考えました。
企画展のテーマを決めるときにも、一生さんが「チョコレートはどうですか」とおっしゃった。最初はうーんと唸ってしまいましたが、実際にチョコレートをデザインすることと、チョコレートから発想はするが、まったく関係ないものを考えるという、ふたつの方向で「チョコレート」展をディレクションしました。
チョコレートそのものはかたちをもっていない、可塑的なものだということがとても面白かったですね。そこで、かたちづくりに新しい意味を加える、その際に必ずチョコレートというフィルターを通すということをやりました。結果的に、最初にお話しした、やってみて良いものを知ることに繋がったと思っています。
- 川上
- 深澤さんが全身チョコレートづけになるようにして、企画を進めてくださったように、第2回企画展「water」で佐藤さんは水の世界にどっぷり浸ってくださいました。
- 佐藤
- 展覧会のテーマを考えるミーティングの席で、三宅一生さんがアーヴィング・ペンさんの写真を資料としていくつか出されて、そのなかに「パンと塩と水」を写したすばらしい写真がありました。ペンさんの写真が、ひとつのトリガー、きっかけにもなったと思います。コップに入った水の写真を見ながら、「水っていうのはもしかしたらテーマになるかもしれないな」と話をしたわけです。
ごく日常のなかの「えっ、それってなにができるんだろうか」というところへ、デザインという言葉を投げかけてみる。で、そこでなにができるのかを、初めて考えていく。そうすると、水は我々の身体のなかにも存在するし、いまこの空気中にも水の分子は飛んでいるわけです。水がすべてをつないでいる。水と関係ないものは、実は世の中になにもない。それなのに、いろいろ調べていくと、水のことを我々はわかっていない。これは何かができるかもしれないと思ったわけです。
でも最初は、どんな展覧会になるのか、まったく想像できませんでした。とてもじゃないけれど水について、私ひとりでは手に負えないと思って、環境に対してさまざまな角度でアンテナを張っている竹村真一さんに連絡するところから始まりました。他にも水の専門家などいろんな方々に協力いただきながら、展覧会の準備を進めたのですが、実は、どんな展示にするか、まったく思い浮かばないわけです。生まれて初めての経験でした。いままでの経験値が役に立たないんです。というのは、水をテーマにすると、調べれば調べるほど、次から次に知らないことが発生してくるからです。どんどん広がるばかりなんです。
ですから今回の展示は、本当に無理矢理、情報を束ねてそれを体験する場をつくったという感じではあります。目の前の当たり前のことを、僕らはほとんど知らないですよねっていう、投げかけです。
- 川上
- 佐藤さんがおっしゃったように、「知っていたようで、知らなかったこと」「わかっていたようで、わからなかったこと」を、それこそギリギリまで探り続けていく......そうやってひとつの展覧会のかたちにまとめながら、あるテーマについて対話や議論が広がる場をつくろうと試みてきた状況を、皆さんにも感じていただけたのではないでしょうか。そして今年、第3回目の企画展が、三宅一生ディレクションの「XXIc.―21世紀人」です。
- 三宅
- この展覧会に「XXIc.―21世紀人」と名前を付けました。20世紀は経済や科学が発展して豊かになりましたが、その歯車が逆転した側面もある時代でした。今やるなら、人間をテーマにした展覧会にしたいと考えたのです。
そこでふと、思いついたのがイサム・ノグチの《スタンディング・ヌード・ユース》という絵なんです。青年時代の彼が北京に滞在中、中国の横山大観、ピカソと言われる斉白石という画家に指導をうけて描いた作品です。イサム・ノグチの人生そのものが展覧会のテーマにふさわしいのではないかと思い、彼の作品を出発点にしました。
一方で、いま我々がおかれているのは、ある意味で恐怖の時代であると感じています。それは逆に言えばエネルギーの時代ということでもあります、たまたま、昨年3月にロサンゼルスの美術館でティム・ホーキンソンの展覧会を見まして、「あっ!これだ」と思ったわけなんです。イサム・ノグチの作品と絡めて、ストーリーをつくっていこうと考えました。
後は、いろいろな人にどんなふうにすれば21世紀を表現できるかということを問いかけました。そしてたくさんの人との新しい出会いがあったわけです。発見をしたり、会話をしながらつくっていった。人に教えるというよりも、一緒になってやっている、そんな感じが強かったですね。
作家の方たち以外にも、宮城、福井、富山、石川など様々なところへ紙を訪ねて歩きました。我々が紙づくりの面白さに驚いて、喜んでいると、職人さんたちも一緒に乗ってきてくれるんです。そんな風に人間と触れながらつくってきたといいますか、最初も最後も人間、その面白さを体験できたと思っています。
- 川上
- さて、3人のディレクターにこの1年の企画展を振り返っていただきましたが、企画展以外にも実験的なプログラムをいくつか開催しました。舞台での表現と日常を題材にした身体表現、デザインをつなげる「落狂楽笑 LUCKY LUCK SHOW」、ファッション、メッセージを示すという視点から「THIS PLAY!」展、そして21_21 DESIGN SIGHTのパートナー企業とのコラボレーション企画として、「200∞年 目玉商品展」です。続いて、私たちが今考えていることについて、話の内容を進めていきます。
vol.1 21_21ができるまで
vol.2 独自のアプローチを試みた企画展
vol.3 vol.3 21_21における「考える」「つくる」ということ