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2009年3月 (8)
ルーシー・リィーとボタンの話
見事な釉薬の配合による独特の色使いと、仕上げに手仕事を加えた温かいフォルム。ひとつとして同じもののないルーシー・リィーのうつわの魅力は、どこから生まれたのでしょうか。
1938年、イギリスに亡命したリィーの暮らしは、自ら「キャベツの日々」と振り返るほど、厳しいものでした。彼女の生活を支えたのは、陶製のボタンづくり。金属の乏しかった当時、リィーはオートクチュールのデザイナーたちの様々な要望に応えながら、色やかたちの研究を行い、その後のうつわづくりの技術を身につけたと考えられています。本展を企画した三宅一生は、「ボタンは、ルーシーさんの創作の原点、出発点だったのだろう」と語っています。(展覧会関連書籍より)
1989年、リィーとの交流を深めていた三宅は、ISSEY MIYAKE秋冬コレクションで、そのボタンを使った服を発表します。リィー自身も、「ボタンが40年ぶりに息を吹き返した」と、心から喜んだそうです。そして、それから20年、21_21 DESIGN SIGHTに、当時の服が新しいスタイリングで登場します。「U-Tsu-Wa/うつわ」展の会場にちりばめられた606のボタンとともに、今を生きる服とボタンの姿を、ぜひお楽しみください。
陶のボタンをつくる、こども向けワークショップが開催されました。
4月4日(日)には、大人向けのボタンづくりワークショップも行われます。
[特別展示]
3月25日(水)より会期終了まで、ISSEY MIYAKE '89年秋冬コレクションで発表した、ルーシー・リィーのボタンを使った服を、新しいスタイリングでご紹介します。
ひびや割れなど、土本来の性質を引き出したスケールの大きなうつわを手がける、陶芸家の小川待子が自身の制作について語りました。
小川の創作の原点は、西アフリカでの生活にあります。現地の人々がうつわづくりに用いる「たたき」や「ひもづくり」の技法を用いた作品をはじめ、身体装飾や木製のマスクなどからヒントを得た作品も紹介。また、小川の作品によく用いられる、透明感のあるガラス釉は、アフリカでの生活で水が手に入らなかった辛い経験と、世界中を旅した際の水の記憶からきているそうです。土の破片から、大地や生命、時間の堆積へと大きな広がりを感じさせ、見るものを包み込む小川のうつわづくりに、来場者は興味津々の様子でした。
3月21日、バスケタリー作家の本間一恵の指導のもと、男女幅広い年齢の方々が参加してうつわをつくるワークショップが行われました。
うつわといえば、木や陶などが代表的ですが、このワークショップでつくるのは、手で編むうつわ。梱包用の紙テープを用い、口から編んでいくのです。
木のうつわや陶器と違い、手で編むうつわの特徴は、でき上がった形が動くこと。編んでいくうちにでてくる縮みが独特な形を生み出します。梱包用テープも、裂き方や、伸ばしたり叩いたりという加工によって、何十通りにも風合いを変えることができるのです。
編んでいくうちに出てくる縮みと格闘しながら、それぞれのうつわを作り上げた参加者の方々。男性の方が意外ととても繊細なうつわを作られていたりと、できあがったものを全員で眺める時間もとても楽しいものでした。
「ボタンは、ルーシーさんの創作の原点、出発点だったのだろう」と三宅一生が語る、ルーシー・リィーが戦中戦後に制作していたボタンの数々。1989年、リィーとの交流を深めていた三宅は、ISSEY MIYAKE秋冬コレクションで、そのボタンを使った服を発表します。リィー自身も、「ボタンが40年ぶりに息を吹き返した」と、心から喜んだそうです。
そして、それから20年。21_21 DESIGN SIGHTに、当時の服が新しいスタイリングで登場します。「U-Tsu-Wa/うつわ」展の会場にちりばめられた606のボタンとともに、今を生きる服とボタンの姿を、ぜひお楽しみください。
「U-Tsu-Wa/うつわ」展では、ルーシー・リィーが戦中戦後に手がけた陶のボタンが特別に展示されています。そんな陶のボタンをつくるこども向けワークショップが陶芸家の岡崎裕子を講師に迎えて行われました。
まず、実際のルーシー・リィーのボタンを見て、これからつくるボタンのイメージを膨らませ、制作開始です。1つめは、土の扱いに慣れるため、ルーシー・リィーのボタンをまねて、棒状に伸ばした土を結んで、みんなで同じものをつくります。2つめのオリジナルボタンの制作では、植物や動物をモチーフにしたものや、表面に模様をつけたり、色化粧を鮮やかに施したものなど、こどもたちの自由な発想から生まれた個性的なボタンがたくさん並びました。
岡崎の丁寧な指導のもと、こどもたちは制作を楽しんだ様子で、1ヶ月後の焼き上がりを心待ちにしていました。
安藤忠雄の会場構成
両掌ですくいあげた、小さな宇宙----三宅一生が3作家のうつわから感じとった「宇宙」の空間表現は、安藤忠雄の手に託されました。それは、かつて自らが出会った感動のかたちを、次の時代の担い手たちに、ガラス越しではなく、直接届けたいという想いからです。
安藤忠雄が描いたのは、「水面に映える夜空の星」。水盤や粉砕ガラスの上に、3作家が持って生まれた星座----ルーシー・リィー(魚座)、ジェニファー・リー(獅子座)、エルンスト・ガンペール(牡羊座)----をなぞるように、うつわを浮かべました。2万8千個のガラス瓶を敷き詰めた水盤が、壁面に設えた滝のかすかな音とともに、会場内に静かな緊張感を生み出しています。子どもの頃に見た川の美しさを、いつか違うかたちで表現したいと考えていた安藤。会場の水の流れに対峙するように、サンクンコートには青々とした麦が生い茂っています。
安藤忠雄のギャラリーツアーが行われました。
ギャラリーツアーは、4月にも予定されています。
環境問題に興味を持ち、森を活性化する方法はないか、という試行錯誤の末、うつわ作りを始めたという木工作家、須田二郎が自身の活動について語りました。
障害木を使ってつくられるウレタンや漆を塗らない食器類は、商品としてはなかなか受け入れられないという現実の中でも、支持してくれる人たちがその使い道を発見してくれたと語る須田。公開制作で作られたアカシアの木のサラダボールは、サラダを3回ほど調理することで、ドレッシングの油が防水効果をもたらし、その後はスープなどを入れるうつわとしても使えるようになるそう。ユニークな発想とオリジナリティー溢れる須田の活動に、来場者も興味深々の様子でした。
安藤建築の中で、会場構成も安藤自身が手がけた「U-Tsu-Wa/うつわ」展。当日はたくさんの方がトークを聞くために集まりました。トークでは、三宅一生の服づくりのコンセプト"一枚の布"から着想を得てつくられた21_21 DESIGN SIGHTの建築についての話を交えながら、今回の会場構成のポイントについて語られました。
今回の会場構成について安藤は、「三作家の高い美意識を際だたせるような演出を考えた」とし、「水」を使った演出にもついても触れました。小さい頃に見た川の美しさが忘れられず、その美しさを違う形に置き換えたいと常々考えていたという安藤。今回の演出では、水を使いながら「視覚だけなく、聴覚にも訴えるものにしたかった」とのこと。壁面に水を流す演出によって三作家の力強くも静謐な世界観を表現したかった、とその思いを語りました。