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「アーヴィング・ペンと私」 vol.13 加納典明
9月16日から開催中の「アーヴィング・ペンと三宅一生 Visual Dialogue」展にあわせ、各界をリードするクリエーターの方々に、ペンの写真の魅力について語っていただきます。
静物写真の中に宿っているペンの写真的技術と精神的眼力
──加納さんがアーヴィング・ペンさんの写真に出合ったのはいつ頃ですか?
加納典明(以下、加納):
高校時代ですから、17、18歳の頃。名古屋の実家がグラフィックデザイナーだったんですよ。当時は図案家って言ってましたけど。だから、家に洋雑誌がたくさんあったの。その中でアーヴィング・ペンやヒロ・ワカバヤシとか、いろいろ写真は見ていたんだけど、その中でもペンの静物写真っていうのは突出していた。日本人の感覚というか日本の感覚というものを超越して、まったく異国のものなんだけれども、だけどアメリカ的でもない、全然違うものを持っていたんだよね。
静物写真がとにかくよかった。静物写真っていうのは、自分の気持ちを自己沈殿させて、ものと対話する。セザンヌが静物画を描く時に、ものの配置を実際に目で見える位置とは違う方向で絵にしたという作画方法があるでしょ。ペンの写真も西洋絵画のようなんだけれども、ある意味それを超えるものだと思う。ものを見る、ものを見越すというかスルーするというか。そのものを包含して取り込む視力っていうか。それにじーっとやられたよね。
ペンの写真って、本質を視ると同時に本質を壊してペンの世界にしている。その「壊し力」っていうのかな、その力と自信と作画する技術っていうのが普通じゃなかった。だから日本的とかアメリカ的とかではない、独自の世界を持っていたんだと思う。ペンは広告写真もたくさん撮っていたけど、自分の美意識空間をまったく壊さずペンの世界に持っていってる。その写真的技術と精神的眼力は、世界中のフォトグラファーに影響を与えていると思う。
──展覧会をご覧になったご感想をお聞かせください。
加納:まずは、三宅さんがペンに写真を頼んだっていう目の付け所がいいと思ったね。それで二人のやりとりの間に必ず北村さんが入ってやってた、そのお互いの距離感があるからこそ、13年もあんなにいい写真が撮れたんだということがよくわかった。両者に感心したよね。ペンの写真もすごいんだけど、あんなに大きなスクリーンで見ると、三宅さんのすごさもよくわかる。そこには、ファッションを超えた見たことのないジャンルがあった。すごいと思ったよ。
──加納さんの近況をお聞かせください。
加納:僕の師匠で今年2月にお亡くなりになった杵島隆さんとの二人展なんですが、杵島さんのヌード写真と、僕のデビュー作である「FUCK」をプリントし直したものを「SCANDAL extra Takashi Kijima Tenmei Kanoh」で展示しています。「FUCK」はNYでのパーティでいろいろな性のパターンを撮ったもので、これを発表した次の日に俺は一躍有名になっていたという。
もうひとつは「片目のツァラトゥストラ」という個展を名古屋で開催しました。これは、キャンバスプリントフォトっていうのでプリントして、そこに筆を加えた、写真と絵画の新しい表現で、売り上げはすべて東日本大震災の義援金に充てることにしました。今後、東京と大阪でも開催予定です。
(聞き手:上條桂子)
2011年12月23日に21_21 DESIGN SIGHTで開催された展覧会関連プログラムに加納典明が出演しました。
トークの様子は動画でお楽しみいただけます。
トーク「静物写真について」の動画を見る
加納典明 Tenmei Kanoh
フォトグラファー
愛知県出身、1942年2月生まれ
写真家でありながら、小説、映画、DJ、レコード制作、映画出演、ムツゴロウ王国移住など、写真家の枠にとらわれない数々のパフォーマンスを示す。
日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞、カレンダー展、ポーランドポスター展等受賞。
加納典明オフィシャルホームページ tenmeikanoh.com