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「アーヴィング・ペンと私」 vol.15 吉岡徳仁
現在開催中の「アーヴィング・ペンと三宅一生 Visual Dialogue」展にあわせ、各界をリードするクリエーターの方々に、ペンの写真の魅力について語っていただきます。
揺るぎない「強さ」がある
圧倒的な力を持った、ペンさんの写真
──吉岡さんは、ちょうど本展の作品に登場するコレクションの時代に三宅デザイン事務所にいらっしゃいましたが、その際のエピソードなどをお伺いできれば。
吉岡徳仁(以下、吉岡):
そうですね。まさに、ペンさんのクリエーションに触れたのは、一生さんを通じてのことでした。一生さんからペンさんの写真を見せてもらったり、北村みどりさんから撮影の時のお話を聞いたりしていました。ちょうど自分がパリコレで帽子を担当していた時に作品を撮影していただきました。ペンさんに撮っていただいた帽子のカットは、後に購入して宝物にしています。また、一生さんに「ニューヨークを見てきなさい」と言われたことがあり、ペンスタジオにもお邪魔しました。残念ながら撮影を見ることはできなかったのですが、服の説明をする時に横に座って話を聞いていました。すごく穏やかで寡黙な方だった、という印象です。
──ペンさんの写真から、どんな印象を受けますか?
吉岡:僕のデザインした帽子ではないのですが、有名なエピソードがあって、パンを使ってデザインされた帽子があったのですが、輸送の時にパンにカビが生えてしまったんです。その帽子が届いた時に、ペンさんが「カビが美しい」とおっしゃって、カビが生えたままの帽子を撮影されました。それがすごくペンさんを象徴している話だなと思いました。
ペンさんの写真は、ただ美しい、というだけではなくて、破壊されたり腐ったりという「生の瞬間」に美を見出していて、その表現にものすごい力がある。これだけのパワーを持った写真を撮る方に、出会ったことがありません。
撮影風景を見た方というのはすごく限られていますが、すごく暗いところで撮影をするとモデルさんから聞きました。シャッタースピードが遅いからモデルも動かないでいなければならない、それが大変だったという話を聞いたことがあります。
──吉岡さんがペンさんの写真から影響を受けたことは?
吉岡:強さです。一番難しいところだと思いますが、何もしないで強いもの、そこに行き着くまでの経過が見えないようなものがすごいと思います。そこを目指していきたいです。
──吉岡さんの最近のお仕事を教えてください。
吉岡:今年、オルセー美術館がリニューアルしたのですが、その際のリノベーションプロジェクトで「Water block」が印象派ギャラリーに設置されています。マネやルノワール、ドガ、セザンヌといった印象派の巨匠たちが並ぶギャラリーに置かれ、実際に座って絵画鑑賞をすることができます。パリを訪れる方はぜひお立ち寄りください。
(聞き手:上條桂子)
吉岡徳仁 Tokujin Yoshioka
デザイナー
1967年生まれ。2000年吉岡徳仁デザイン事務所設立。プロダクトデザインから建築、展覧会のインスタレーションなど、デザインの領域を超える作品はアートとしても高く評価されている。
数々の作品がニューヨーク近代美術館、オルセー美術館などの世界の主要美術館で永久所蔵品、常設展示されている。Design Miami / Designer of the Year 2007、A&W Architektur & Wohnen/Designer of the Year 2011受賞。TBS系ドキュメンタリー番組「情熱大陸」への出演、アメリカNewsweek誌日本版による「世界が尊敬する日本人100人」にも選出されている。
www.tokujin.com