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2014年4月 (7)

2014年4月26日、おかげさま農場代表の高柳 功、本展企画協力の宮崎光弘、奥村文絵によるトーク「おかげさまで食は命」を開催しました。

はじめに、「コメ展」の企画準備においてコメづくりを学ぶべく、企画チームが千葉県成田市にある「おかげさま農場」を訪れ、高柳の指導のもと、苗づくりから収穫まで学んだ経緯が語られました。

次に、高柳の農業の背景を紹介。高柳は「人間は食べることによって命を構成している、その食は農からあるとし、命に必要なものは自然から頂いているという立場で自らの農をまっとうしている」と語り、宮崎は「人は自然の一部であるという見方に感化された」と、また奥村は「高柳さんと交流することで、人間として知っておくと良いことは農のなかにあるという気づきに至った」と続きました。人間が生きること、それは自分が必要とするものを自分でつくっていくことであり、そのなかでお互いに不足している部分を分かち合うことの大切さが述べられました。

展覧会に対し、高柳は「コメは日本の文化や生活に非常に多く関わっていることが、映像や写真などの展示を通し、よく捉えられている」と感想を述べ、コメに限らず食というものが風土や民族と切り離せないものであり、「『生きることは食べること』、その根幹を担う農業における問題は、農家だけでなく我々の食べ物における問題という意識を持つこと」の重要さを語りました。本トークは「コメ展」の会場を舞台に、コメを通じた「命」への気づきのタネが蒔かれる内容となりました。

2014年ゴールデンウィーク前半、東京ミッドタウンの芝生広場では「コメ展」との連動企画として「ミッドタウン コメピクニック」が開催されます。
新緑の青空のもと、広大な芝生の上で、くつろぎながら"HANDS FREE"で愉しめる都会型のピクニック。「コメ展」リサーチ先から、五つ星お米マイスターにより厳選された10種の"おコメ"を実際に味わっていただけるイベントです。東京の真ん中で、自然を感じながら、優雅な休日をお過ごしください。

期間:2014年4月25日(金)- 4月29日(火祝)
場所:東京ミッドタウン 芝生広場、コートヤード
時間:11:00-17:00
主催:東京ミッドタウン
お問い合わせ:東京ミッドタウン・コールセンター(03-3475-3100)
>>東京ミッドタウン ウェブサイト

【MENU】

10種類のピクニックセット
俵おにぎり(60g×1種類3個)+つけあわせ2種類

お米の食べ比べセット
俵おにぎり(60g×3種類3個)+つけあわせ3種類

各¥500(税込) ※それぞれ汁もの付き

<お米ラインナップ>
北海道 砂川ゆめぴりか
北海道 芦別ななつぼし
北海道 北竜おぼろづき
秋田県 神代じゃんご米あきたこまち
新潟県 朱鷺と暮らす郷コシヒカリ
長野県 鈴ひかりコシヒカリ
島根県 石見銀山つや姫
島根県 島の香り隠岐藻塩米特選コシヒカリ
高知県 土佐天空の郷ヒノヒカリ
佐賀県 逢地さがびより

全てのお米は「コメ展」で、つけあわせは東京ミッドタウン内でご購入いただけます。

■藁を使ってつくるワークショップを開催

「コメ展」参加作家の監修による、稲の茎を乾燥させたわらを使用して、ピクニックに使えるアイテムをつくるワークショップです。大人も子供も楽しめる内容で、どなたでもご参加いただけます。
監修:ことほき(鈴木安一郎+安藤健浩)、studio note(ともに「コメ展」参加作家)

期間:2014年4月26日(土)、27日(日)、29日(火祝)
場所:東京ミッドタウン コートヤード
時間:11:00-17:00
料金:無料
参加人数:なくなり次第終了

「コメ展」を盛り上げるのは、コメや参加作家だけに留まりません。コメと真摯に向き合ってきた「コメびと」達、彼らの言葉と眼差しには、食卓からは伺い知ることのできないコメの多彩な有り様が映し出されます。ここでは、展示に秘められたコメびと達の息づかいを、取材時のエピソードを交えてお届けします。(記:奥村文絵)

【第3回:2013年10月14日】

*金重 愫(かねしげまこと)さん(備前焼作家:岡山県岡山市)
金重家は代々、備前焼に従事してきた家系で、父の素山は戦後の備前焼復興に努めた。備前を代表する陶芸家。京都大学時代の専攻は「農学」。

海を越えて伝わった技

備前焼の歴史をひも解いていくと、古墳時代から平安時代にかけてつくられた須恵器が発展したものだから、日本最古の窯場といっていい。それまで手びねり、野焼きでつくられた弥生式土器に対し、須恵器はろくろを用いて形をつくり、窯焚きにすることで生じる高温で素地の強度が増した。飛躍的な技術の進歩の背景には朝鮮半島との文化交流がある。平安末期になると、備前地方の農民たちは渡来人から伝わった須恵器の技術をもとに、自らの生活の道具をつくり出した。

緋襷小鉢(金重 愫)

命を守った焼物

種籾を一年間保管しておく種壷、水を保存しておくための大甕、収穫した米を鼠などから守るための瓶。稲作にとって「貯蔵」は、命と直結するテーマだった。焼き締められた強固な陶器は古人の暮らしに常に寄り添い、身守りになったに違いない。やがて桃山時代にはいって侘び茶が盛んになると、生活用品を茶器に見立てた茶人たちによって備前焼は茶陶として使われるようになり、陶工は器づくりに専念するようになる。

古備前水差。古い種壷が用いられている。

農家になりたかった

半農半工の営みから生まれた備前焼。以来、連綿と備前の地につづく陶工の家に生まれた若き青年は、大学で農業を選んだ。「本当に農家になろうと思っていたんです」という金重さん。結局、鍬を持つことはなかったが、田んぼの底土を使う備前焼の継承者として、今なお農業に対する想いは深い。「農業従事者は哲学者ですよ。あれほどの智恵を持つ人々を、社会はもっと大事にしないといけない。」その優しい眼差しの奥に、農業や伝統工芸といった「自然と向き合い、手をつかって生み出す仕事」が、都市化する社会のなかで存在感を失いつつある今を、見過ごしてはならないという強い光があった。

人の手が引き出す美

稲作が備前焼を育んだように、備前焼にもまたコメは欠かせない。釉薬をかけず、土を直火が焼き締める製法は、土味がそのまま風情になる。冷たすぎず、粗野にならず、伸びやかで口あたりの柔らかな土肌は、微生物が長い時間をかけて耕した田んぼの底土から生まれる。太古の地層から採れる備前特有の田土(ひよせ)だ。そして大きな瓶や壷を焼く際にできる隙間に小さな皿を並べ、器同士がつかないように藁を間に挟んで焼くと、1300度の窯のなかでも焼け落ちない藁の生命力が、焼物の表面に赤々と藁痕を描く。「緋襷(ひだすき)」と呼ばれる備前焼の見所もまた、稲と人の合作なのだ。

コメと暮らす

「窯焚きは昼夜問わずに1週間以上、火勢を見続ける長丁場。それを乗り切れるのは、腹持ちのいいおむすびのおかげ、パンでは保ちません」金重さんは窯焚きの間、夜食におむすびを食べるのだと言う。その窯を見せてもらうと、外壁の土にも藁が漉き込まれていた。それだけではない。工房の床、天井も同じ仕様になっている。土に混ぜ込んだ藁には、時間が経つと土の分子を密着させる働きがあると聞いたことがある。「稲作が近くにあったからこそ、生まれた智恵でしょう。全部、自然の流れなんです。」

土づくりから始まる焼物の仕事

窯焚きは年に2回。赤松の薪だけが燃料となる。その日のため、金重さんは半年かけて土をつくる。「備前の土は太陽でも風でも割れてしまうほど繊細です。それを陶芸に使うためには、よほど土を練り込まなければ形になりません。」緋襷に用いる藁もまた、柔らかくなるまで木槌で叩いて初めて器に巻ける状態になる。材料を手にいれるだけでは仕事にならない。薪を割り、土を育て、藁を叩きながら、匠は折々の素材の声を聞く。山も田んぼを持たない陶工が、薪や田土を買い求めるようになって久しい。最近では良質な田土が減り、品種改良によって稲の穂丈が短くなったために巻きづらくなっているそうだ。赤松も松枯病の被害が顕著と聞く。備前焼はまるで有機栽培のようだと金重さんは考える。健康な土が、健康な作物を育てるように。

上手よりも大事にしたいこと

100円でモノが買える時代に、何倍もする品を選ぶ理由はなんだろう。陶芸に限らず、ものづくりに関わるひとはみな、そんな問いにも向き合わなくてはならない。工房の片隅に見つけた手づくりの藁筆。自分のかたちをつくりたいから、道具も自分でつくると、金重さんは言う。「市販の筆というのは、誰もが上手に描けるようにつくられたものでしょう。」世の中を計る物指しはもっとたくさんあって良い。あなたにはあなたの形がある、と語りかける器がある。そういう道具が気づかせてくれる人生を、100円で買うことはできない。

>>『コメびと日誌』一覧を見る

「六本木アートナイト2014」に合わせ、21_21 DESIGN SIGHTでは以下のスペシャルプログラムを実施します。

■4/19(土)24:00まで開館延長

六本木アートナイト開催に合わせ、2014年4月19日(土)は、通常20:00閉館のところを特別に24:00まで開館延長します(最終入場は23:30)
*但し、18歳未満の方のご観覧は23:00までとさせていただきます

■奥村文絵によるコメ展ギャラリーツアー

日時:2014年4月19日(土)15:00-16:00
ご案内:奥村文絵(「コメ展」企画協力)
>>詳細はこちら

■コメ展 × PechaKucha

日時:2014年4月19日(土)20:00-22:00(途中休憩含む)
司会:アストリッド・クライン/マーク・ダイサム
出演:清田貴代、河野結美、杉村 啓、福原志保、Bob Sliwa、町田 忍、Matt Alt、水代 優、村山 誠
>>詳細はこちら

六本木アートナイト

六本木の街を舞台とした一夜限りのアートの祭典です。美術館をはじめとする文化施設、大型複合施設、商店街が集積する六本木の街全域にわたり、アート展示、音楽やパフォーマンス、トークなどのイベントが開催されるほか、美術館の開館時間延長や入場料割引、様々なショップでのサービスなどが実施されます。

■日時
2014年4月19日(土)10:00 - 4月20日(日)18:00
<コアタイム> 4月19日(土)18:17【日没】 ~ 4月20日(日)5:03【日の出】

■開催場所
六本木ヒルズ、森美術館、東京ミッドタウン、サントリー美術館、 21_21 DESIGN SIGHT、国立新美術館、六本木商店街、その他六本木地区の協力施設や公共スペース
>>六本木アートナイトの詳細についてはこちら

2014年4月13日、ネイチャーフォトグラファーの内山りゅう、新潟大学農学部准教授の吉川夏樹、本展ディレクターの竹村真一によるトーク「田んぼの未来」を開催しました。

はじめに、淡水の水中写真家として、また田んぼ博士として知られる内山が、生物多様性について語りました。もともと魚の研究をしていたという内山は、生き物好きが高じて写真家になったといいます。九州から北海道まで田んぼをつぶさに観察するなかで、田んぼごとに生き物が違うことに注目した内山は、自身の豊富な写真作品を見せながら、単純にに見えて奥が深い、田んぼの世界について解説しました。水陸両方の生き物が棲んでいる田んぼは、まさに生き物の宝庫。多様な生物が棲む田んぼのコメは安全であると、熱く語りました。

続いて、水田をいかに使いやすくするかという農業土木の分野で研究を続ける吉川が、新たな治水の方法として注目されている「田んぼダム」の可能性について語りました。雨の多い国、日本は、その山がちな地形と相まって、世界的に見ても洪水の多い国だといいます。農業土木の歴史は、洪水との戦い、つまり治水の技術の発展の歴史でもありました。中世、近代、そして現代と、治水の思想の歴史的変化をふまえながら、田んぼの仕組みを利用して、降った雨をゆっくりと下流へ流していく「田んぼダム」のコンセプトを披露しました。

二人のレクチャーの後、竹村は、会場に集合していたコメ展参加作家を紹介。最後に竹村とともに本展ディレクターを務めた佐藤 卓もコメントし、本展をきっかけに田んぼとコメ文化の未来について考え続けていきたいと、トークを締めくくりました。

「コメ展」を盛り上げるのは、コメや参加作家だけに留まりません。コメと真摯に向き合ってきた「コメびと」達、彼らの言葉と眼差しには、食卓からは伺い知ることのできないコメの多彩な有り様が映し出されます。ここでは、展示に秘められたコメびと達の息づかいを、取材時のエピソードを交えてお届けします。(記:奥村文絵)

【第2回:2013年12月7日】

*村嶋 孟(つとむ)さん(銀シャリげこ亭:大阪府堺市)
「1日48升の米を炊く店」として知られる大阪の名食堂「銀シャリげこ亭」を営んで50年、遠方からの常連客も多い。「飯炊き仙人」に、料理人も厚い信頼を寄せる。

昼過ぎに閉店する食堂

「朝4時から仕事してますから、いつでもどうぞ。」と言われて、少し遠慮気味に伺ったのは午前8時。「銀シャリげこ亭」は出汁の香り、焼物の焦げる匂い、釜からこぼれる湯気で溢れかえっていた。それぞれの持ち場を預かる料理人たちの表情は真剣そのもの。店の営業時間は9時から13時すぎの数時間。売り切れ御免の人気店には厨房と客席を隔てるものが何もない。材料も仕込みも一目瞭然、店主、村嶋 孟さんの生き方を映す店構えだ。

コメで一流を目指す

店の名物はなんと言っても銀シャリ。自前のかまどで、特注の大きな飯釜を使って毎日16釜を炊き上げるが、炊いても炊いても間に合わない。ここに来る客はみな、大盛りにしたご飯を平らげるのだ。店に入った村嶋さんは、仕事を始めるとひとときも火から離れず、4つの火口を操りながら、ひたすらご飯を炊き続ける。東京オリンピックの翌年に店を開けてから50年変わらない光景。大阪・堺の84歳は夏になれば上着を脱ぎすて、裸で湯気のなかに立つ。「料理人になりたかったんですわなぁ。ずいぶんと名店を食べ歩きましてね。ところが一流の料亭でも、ご飯の味はイマイチじゃないか、と。」食べるのに苦労した戦時中の経験から食の仕事を探したが、すでに家族もあり、板前修業には遅すぎたことも、今となれば幸いだった。

おいしすぎたらいかん

食堂を持つとおかずは奥さんに任せ、自分は飯炊きに没頭した。以来、魚も肉も包丁も触らないのは「匂いが手につくでしょ」。コメだけを触ってきた村嶋さんの手は大きく、そして繊細だ。手が道具になり、道具が手になる。長年使っている木しゃもじには、彼の手形がはっきりとのこる。ふいに「はい、食べてみて。」とたった今、炊きたてのご飯で握ったおむすびを差し出された。つやつやと光り輝くようなササニシキの粒。ほふほふとしながら頬ばると、口のなかにコメの香りが立ちこめた。「ご飯があんまりおいしすぎると、おかずが食べられへんでしょ。必要以上に甘みとか旨みを求めたらあかん。」ご飯はあくまでもおかずと食べるもの。その信条から、銀シャリげこ亭のコメはコシヒカリではなく、ササニシキと決めた。おむすびは噛むほどおいしかった。

命の通う味

夢中になって話しているうちに、いつの間にか食堂が開店していた。ずらりと並んだおかずが次々と入ってくる客を迎えている。その品揃えを見て驚いた。おでんに刺身、焼き魚、揚げ物...。どれもつくり立てで生き生きとしている。なかでも人気なのは、お母さんがつくる厚焼き卵。つくり置きはせずに、注文を受けてからひとつひとつ目の前でつくってくれる。その優しさと鮮やかな黄色に心が躍った。「命をもらっているんやから、感謝して食べなあかん。」すこしずつここがどんな店なのかが分かってきた。

極めれば見えてくる

おいしいコメを炊くのに一番大事なものはなにか。その質問に、村嶋さんは迷わず「水」と答えてくれた。暑い時期は水もコメも質が落ちる(特に昔はコメの貯蔵システムなどなかった)ため、6月から8月は店を休み、老夫婦は二人で世界を旅して周る。「いろんな国に行くのは勉強になりますなぁ。」随分と前に訪れたドイツでは、村々で自家製品を売る農家に出逢った。同じ戦争を経験しながら、その後の歩みが違うことに深く感じるものがあったという。「過去に学び、未来を考えることが大事でしょ。」村嶋さんは味の善し悪しに留まらず、もっと大きなテーマを見ている。コメを育み、コメをご飯に変える水。そして人の身体をつくり、地球をつくる水。生きるとはなにか。豊かさとはなにか。村嶋さんの銀シャリが語りかける。

食は心との対話

「自分が食べたいなぁと思うものを食べるのが薬。好きなものを食べたらええ」と村嶋さんがこぼれるように笑う。迷いに迷って選んだのは、生まぐろのお刺身、ひじきの煮物、ぬた、大根おろしとじゃこ、厚焼き卵としじみのお味噌汁、そして銀シャリご飯。漆器や茶碗も決して安物ではないが、アルミのトレイが食堂感を盛り上げる。箸をつける。どれもひとつひとつの食材から染み出た味だ。さて、普段の2倍はありそうな銀シャリ、、、、あれ、さっぱりとしていておかずにちょうど合う。くどくないからおかずもよく合う。もりもり食べられる。そういうことかと目が覚めた。

味は人に在り

村嶋さんは「2013年を以て店を閉める」と宣言し、周りを驚かせた。確認したところ、今も元気に店に立っているというから、勇退はもう少し先のことになるのかもしれない。とはいえ残された時間は決して長くはない。店の味を受け継ぐ人も出てきたそうだから、銀シャリげこ亭は新たに別の物語を紡いでいくことになるのだろう。「ご飯には格があるわな。デキの悪いのが飯、まあまあがご飯、最高に炊けたんが銀シャリや。」日々、銀シャリを炊き上げる。その一念のもとに村嶋さんを導いてきたコメ。かまどの火加減を確かめる背中がぴんと伸びていた。

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企画展「コメ展」に展示中の映像作品「白姓」を手がけた山中 有による予告映像で、本展の展示作品や会場の様子をご覧いただけます。ぜひご覧ください。