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「土木展」は21_21 DESIGN SIGHTではもちろん、他の美術館でも珍しい土木を扱った展覧会。ディレクターたちもいつもとはちょっと違う雰囲気を楽しみながら準備に取り組んでいます。21_21 DESIGN SIGHTディレクターの一人、深澤直人に聞きました。
構成・文:青野尚子
外国から日本に帰ってくると、何もかもがきちんとしていることに驚かされます。ビルが曲がったり、道路がでこぼこだったり、道の脇にいつまでも水がたまっていたりといったことがなく、シャワーからはいつもお湯が出て、道は平らだし、横断歩道の白線も真っ直ぐです。ガラスで覆われたビルの表面には景色がぴしっと映り込んでいます。外国だと、ガラスがまっすぐでないのか、映り込んだ風景がもやもやしていたりするのです。出来上がったあと、いつまでもきれいに保たれるような工夫もされています。日本の土木や建築を見ていて、日頃から日本の底力、豊かさを感じていました。
その影には土を掘り、コンクリートやアスファルトを流し込む、あらゆる段階でわずかな誤差もゆるがせにせず、ていねいな仕事をしている人たちがいるのです。21_21 DESIGN SIGHTの工事でも、現場がとてもきれいだったのが印象に残っています。汚さないように作業をし、汚れても毎日それをきちんと落としているからです。最近も私のオフィスから見えるところでビルの建て替え工事が行われていたのですが、巨大な工作機械を効率的に動かし、資材を搬入し、残土を搬出する、それらの作業が極めて段取りよく行われているのに驚きました。限られた敷地と時間内で必要な作業を割り振るのは高度なパズルを解くような大変な仕事です。巨大プロジェクトではJV(ジョイントベンチャー)と言って数社が協力しあって施工にあたるようなネットワークやシステムもできている。こうしてつくるプロセスがきれいだと、結果としてできあがるものも美しいものになるのです。
また土木や建築の現場で働く人たちは一見、荒っぽく見えるかもしれませんが、彼らはとても規則正しい生活をしています。早朝4時か5時には起きて8時から働き、お昼の他に10時と3時にも休憩して5時には帰る。こうしないと体力が持たないからです。誰か偉い人が権力で動かしているわけでもないのにきちんと統制がとれていて、みんながルールを守っている。こういった姿勢が、品質への信頼につながっているのだと思います。
私の専門であるプロダクトデザインと土木には共通したものづくりの姿勢があります。クオリティを保つため、ズレ幅の許容範囲内に収まるよう厳しく追い込んでいく技術力やマインドは小さなものでも大きなものでも変わりません。しかもこうやってつくりあげた精度の高いものをていねいにメンテナンスして使い続けている。たとえば1964年の東京オリンピックに合わせてつくられた首都高速道路は最近、山手トンネルなどが完成し、混雑が緩和されました。新幹線も開通して半世紀、地震などを除くと事故ゼロで運行されています。基礎をきっちりつくってメンテナンスも欠かさない、それらに関わるすべての人々がプライドを持っているからこそ、クオリティの高いものが保たれているのです。
こういったことを日本人は当たり前だと思っていますが、外国から見ると驚くべきことなのです。もうすぐ完成するアメリカのアップル社本社ビルはイギリスの建築家、ノーマン・フォスターの設計ですが、この建物は「MacBook」と同じような精度を目指していると聞きました。彼らは日本のものづくりを尊敬し、同じようなきめ細かさを実現しようとしているのです。「土木展」はこのことを改めて皆さんに知ってほしいと思って企画しました。日本とはこういう国なんだということを自覚してもらい、伝える機会にしたいと思ったのです。
この展覧会では、普段は見えない土木の世界や裏側で起きていることが見えてくるものにしたいと思っています。見えていない部分が見えるから面白い、そう感じていただけるようなものにしたい。子どもがわくわくしながら工事現場を見るような楽しい展覧会になるといいと思っています。これは21_21 DESIGN SIGHTがいつも目指していることでもあります。こうしてお客さんの興味をくすぐって、あ、そうなんだ、といろいろなことに気づいてもらい、感動してもらえればうれしいと思っています。