contents
山中俊治 (21)
2024年8月17日(土)と18日(日)の2日間に渡り、企画展「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」に関連して、夏のスペシャルワークショップとして、本展展覧会ディレクター山中俊治によるスケッチ教室、「山中先生のスケッチ教室」を開催しました。
本展ではプロトタイプやロボットとともに、その原点である山中のスケッチも多数展示しました。デザイナーが描くスケッチは、モノを観察することや、考えの過程をあらわすこと、そしてコミュニケーションの道具としての役割など、さまざまな側面を持っています。
ワークショップは、形の見方、モノをシンプルな線で描く方法を学ぶ小学4年生以上の方を対象にした回と、高校生以上の方を対象として、思考の道具としてアイデアを伝えるためのスケッチを学ぶ上級者向けの回と、2回に分けて行われました。その様子を写真で紹介します。
デザインを通じてさまざまなものごとについてともに考え、私たちの文化とその未来のビジョンを共有し発信していくイベントシリーズ、21_21 クロストーク。今回はその第7回として、2024年7月21日(日)に、東京ミッドタウン・デザインハブにて展覧会ディレクターズバトン「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」×「ゴミうんち展」を開催しました。
9月8日(日)まで開催する企画展「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」の展覧会ディレクター山中俊治と、9月27日(金)から始まる企画展「ゴミうんち展」の展覧会ディレクター佐藤 卓、竹村眞一が登壇し、モデレーターは両展覧会で企画協力を務める、デザインライターの角尾 舞が務めました。
まずはじめに山中から「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」の概要を紹介しました。
本展は科学者とデザイナーが出会うことで生まれる「未来のかけら」をテーマにしています。特に企業においては、研究者が開発した新しい技術や素材はデザイナーと共に商品化され、最終的に製品やサービスという形で私たちのもとに届きます。山中はいつも、そのように研究者とデザイナーが出会い、新しい技術や素材を前にして盛り上がった瞬間が最高におもしろいと考えてると話し、製品になる以前の、通常は公開されないそのような瞬間を発表する活動を、仲間たちと共に20年ほど前から始めていると話しました。
本展の開催のきっかけは、2022年に東京大学生産技術研究所にて、山中の退官前最後の展覧会として開催された「未来の原画」展に佐藤が訪れたことでした。トークでは佐藤が展示作品でもある「自在肢」を特別に体験する様子が動画で紹介されました。「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」はその企画をさらに広げ、デザイナー・クリエイターと科学者・技術者を新たに出会わせて制作された作品を加えたものです。
佐藤は、本展を鑑賞した感想として、小さな頃に虫を探していたこと、枝一本でどう遊ぶかを触っているうちに発見すること。そんな、日頃忘れがちなことを思い出させてくれた気がすると述べました。
山中は、科学とは「おもしろい」「不思議」「なんでだろう」と感じる体験がベースになっていることに間違いないといいます。例えば川に葉っぱを流してみるように、なんの役に立つかはわからないけれど、おもしろがって何かをやってみること、やってみて「すごい!」と思う瞬間を体験することが基本にあるといい、自身も60年間ずっとそんなことをやってきている気がすると話しました。そして、学校では学生たちにも常に、何の役に立つかを考えるのを一回やめて、なんかワクワクする、なんか惹かれる、引っかかる、という気持ちを大事にして研究してみてほしいと伝えている。何の役に立つかは、やっているうちに見つかるもの。とりあえず役に立たないものをつくろうと伝えていると言います。
竹村が感想を続けます。竹村と21_21 DESIGN SIGHTとの関わりは、2007年に佐藤 卓ディレクションの企画展「water」にコンセプト・スーパーバイザーとして関わったことから始まります。「water」は、水をテーマにした企画展というより、水という視点で世界を捉え直すという企画だったと当時を振り返ります。その7年後には「コメ展」で、今度は展覧会ディレクターという立場で佐藤と共に展覧会を企画し、佐藤と竹村が率いる企画展は今回が3回目となります。
竹村は、山中が骨の美しさを愛でるのみならず、義手義足にしてもそうだが、自分の手でデザインをしているという点について触れました。生命の構造や機能に匹敵しうるものを目指してつくっているのだと思うと言い、人間はつくることでより深く理解する生き物だと思うと話しました。
科学やデザインの営みも、現在の技術が生命を模した機械までつくれるようになったからこそ、自然や生命のすごさを改めて思い知らされ、気付かされていると話しました。そして、つくることは、より深く理解すること。「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」の展示作品は、全てその営みであるように感じると続けました。
話題は科学者とデザイナーにとっての「美」に移ります。山中は、つくってみて初めてわかることがすごく多いと話し、ありとあらゆる自然の美しさは、生命の生存機能に依存している。美とはそういうものだと思っている、と続けます。つまり、根本的には自然には機能美しか存在しない。私たちが美しいと思うものは、基本的には生命が生き残るためにつくってきた模様や形なのだと説明しました。
折り紙や螺旋、言語やDNAなども例に挙げながら、竹村は、複雑系科学がデザインにもたらしたことはある意味革命的であると続けます。山中は、科学者が美しいと思っている瞬間はなかなか簡単には伝わらない。本展ではそれをうまく伝えたいと考えたと説明しました。
続いて佐藤と竹村が「ゴミうんち展」の企画主旨について説明します。21_21 DESIGN SIGHTは日常における様々なものごとをテーマに展覧会を開催しています。まずテーマを見つけて、何ができるかを探っていくという実験的な場でもあります。今回佐藤がテーマとして扱いたいと考えたのが「ゴミ」でした。グラフィックデザイナーとして大量生産品のデザインに関わっていて、大量に資源を使い、それが大量にゴミ箱に捨てられることになることから、佐藤の頭の中には常に「ゴミ」の問題があり、どうすればいいかと考えていました。デザイナーもそうした視点を持たなければならないと考えて、2001年から「デザインの解剖」というプロジェクトを個人的にスタートさせました。まずは目の前にあるものがどうやってできているのかを、デザインの視点で徹底的に解剖し、知るところから始める。そして、どうできているかを知った後は、それがどこにいくのかを考える必要があります。
21_21 DESIGN SIGHTとして独自の視点で何かできないか、デザインの視点で、考えるきっかけをつくることができないだろうかと、佐藤は竹村に声をかけました。するとすぐさま竹村から「ゴミ」「うんち」「CO2」という三つのワードが出てきたのです。「CO2」の存在は随分前から社会的に問題となっていますが、ゴミとうんちがくっついた「ゴミうんち」というフレーズに、佐藤はビビビと衝撃を受けたと話します。そして話はどんどん広がり、非常におもしろいと感じたと話しました。佐藤は、山中と同じように竹村も非常に前向きに課題を捉え、それに対して具体的に人は何ができるかを前向きに語ってくれたと言います。
続けて竹村は、ゴミうんちの問題は自分にとっては「未開」そのものだと話しました。江戸時代にはゴミをアップサイクルして、100万都市を運営した実績があるのに、そこから相当後退している。窒素やリンをリサイクルしていたことも、数値をもって再評価されているにもかかわらず、人間の社会や文明は前進するばかりではないと説明します。現代は排泄物は水で流して忘れられるし、非常に便利だが、排泄物は長い「社会の腸管」を通って遠くに運んで処分しているだけで、希少な資源であるにも関わらずリサイクルできていない点で、未開の文明だと話しました。
自然が最初から完璧だったかというと、実はそうでもないことが、地球の歴史が紐解かれるにつれ明らかになってきています。廃棄物を再利用するような地球規模でのイノベーションはこれまで度々起こり繰り返されてきました。廃棄物問題をクリエイティブに解決してきた積み重ねの結果であるともいえます。忘却の対象にしてきたうんちは、腸内細菌層の宝庫として、「ブラウンジェム(茶色い宝石)」とも言われ、再評価されています。次の地球の循環OSを更新することが、私たち人類に今託されているミッションだと、竹村は説明します。そのメインテーマの一つが「ゴミうんち」であり、これからの5年、10年の最初の一歩になればいいと続けました。
山中は2007年の企画展「water」を振り返ります。「water」では、水について壮大な視点で語るところから、水滴のかわいさを語るところまでと、そのコントラストがすごかった。それが展覧会の幅を広げていることを、二人の話を聞きながら思い出したと話しました。牛丼一杯をつくるのに、2,000リットルもの水が使われているという展示がありましたが、その視点がとてもわかりやすいビジュアルで示されていました。「ゴミうんち展」もそのように、フィジカルでおもしろい部分と、ゴミうんちにまつわる壮大なストーリーが合わさった、ディテールから宇宙規模の話まで幅の広い展覧会になるだろうと期待している、と続けました。
例えば宇宙ごみや発酵の世界など、展覧会の準備をしていると勉強しなければならないことが山ほど立ちはだかっている、と佐藤は話します。諦めるのではなく立ち向かい、チームとともにどこまでできるのかを探っていて、おもしろくて仕方ない。ゴミうんちという視点で世の中を見てみると、今まで見えていなかったものが見えてくると言いいます。「『water』のときは世の中を水で見た。樹木は立ち上がる水だ、とは竹村さんの言葉だ。今は微生物で世の中を見ようとしている。そういった新たな視点を、展覧会に来てくれた人にもって帰ってもらって、日常生活の中で良い形で生かされて、発酵されると嬉しい」と話しました。
トークの最後には、「ゴミうんち展」のメイングラフィックのデザインに込められた意味や、コンセプトブックについても紹介もされました。話題は多岐に渡り、2時間ではとても語り尽くすことのできない、深いテーマに触れるトークとなりました。
2024年7月19日、企画展「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」に関連して、トーク「稲見昌彦×遠藤麻衣子×山中俊治」を開催し、本展に参加する稲見昌彦、遠藤麻衣子と本展ディレクターの山中俊治が、それぞれの視点から研究や制作活動について語りました。
稲見が研究総括を務める研究者・学生スタッフら約100人による「稲見自在化身体プロジェクト」では、人間が物理/バーチャル空間でロボットや人工知能と「人機一体」となり、自己主体感を保ったまま自在に行動することを支援する「自在化身体技術」を研究開発、またそれらが認知、心理、神経機構にもたらす影響の解析も行いました。稲見と以前からよく話をしており、身体拡張に興味を持っていた山中は、このプロジェクトで人が装着して動くロボットを、研究室の共同研究として制作することになりました。こうして完成した、ダンサーが最大4本のロボットアーム「自在肢」をつけて踊る映像は、インターネット上で話題となりました。「重さ最大14kgの自在肢を装着したダンサーは、1時間動き続けられます。それは、振りの動きで身体と機械の協創関係が生まれるからです。身体の拡張がクリエイティビティの拡張に繋がり、その美しさによりリアリティが生まれたことに驚いた」と稲見は話します。
©︎JST ERATO INAMI JIZAI BODY PROJECT
©︎ 3 EYES FILMS, JST ERATO INAMI JIZAI BODY PROJECT
一方、プロジェクトの研究活動を文化的な領域に届けるアウトリーチを目的として、映画監督の遠藤がこのプロジェクトを取材し短編映画作品を撮ることになります。ドキュメンタリーとファンタジーが同居すると評されるこれまでの作品で、海外の映画祭などでも高い評価を受けている遠藤は、作品制作において、テクノロジーと映像の関係を意識してきたと言います。遠藤は、稲見の研究室など5つの研究室で実験を体験し、研究者たちとの対話を通じて、身体拡張の技術への興味と同時に、言葉では表し難い身体の感覚的なものをどう映像で感じさせるのかに取り組んだと振り返ります。科学の伝え方として、言葉での解説を超え、身体や心の共感や違和感を映し出して欲しいと考えていた稲見は、完成した映画『自在』を、個人の体験である「触感的」な映画という感想を持ったと言います。
遠藤の元には、映画を観た人たちから、「ディストピアに思えた」から「ワクワクした」まで、全く違う種類の感想が届いていると言います。遠藤にとっても、稲見の研究する「自在」は、相反する感覚や世界観を複雑に感じさせるもので、映画『自在』についてもそのボーダーは観る人が決められると考えています。映画に登場する装着ロボット「自在肢」と「三つ目のメガネ」をデザインした山中は、映画の主人公の自由さが不自由さにも見える面白さを挙げ、何かの不自由さをテクノロジーが解消しても、本当の自由にはならず次の開発が求められてきた歴史から、「自在」は常に未来に繋がると言います。稲見は、人が自身の成長を感じる喜びは人類史上おそらく不変のことであり、さらなる能力の向上をそれぞれが求めていくことにより多様性が生まれ、「自動」ではなく「自在」と名付けた研究の価値となっていくと今後の研究への期待を込めて語りました。
会場からは質問も多く寄せられ、山中のスケッチ実演など見どころの多いトークとなりました。
* 企画展「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」では、稲見自在化身体プロジェクトの実物の「自在肢」やダンスの映像と、映画『自在』より本展のための特別エディションをご覧いただけます
* 映画『自在』は、2024年8月16日までシアターイメージフォーラムで特別上映されています
https://www.jizai-film.com/
企画展「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」がNHK World「DESIGN×STORIES」にて紹介されました。
以下のリンク先(外部サイト)からぜひご視聴ください。
(視聴期限:2027年3月31日まで)
NHK WORLD「DESIGN×STORIES」視聴リンク
◯「Science & Design: Evoking the Future」2024年7月18日(木)放送
https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/shows/2101030/
2024年6月22日(土)、企画展「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」に関連して、「ディープ・サイエンス・トーク」を開催しました。本展ディレクターの山中俊治、参加作家の池内与志穂、郡司芽久、舘 知宏を迎え、科学の視点を通じてさまざまな可能性を探りました。
池内は、ヒトiPS細胞などの脳の細胞を真似た組織(脳オルガノイド)をつくる研究に日々取り組んでいます。体外で脳のような神経組織をつくり、今後はさらに機能させていくことを目指していると話し、科学の明るい未来を語りました。郡司は自身の研究の話から発展し、日本における動物園と大学、博物館の繋がりについて説明します。日本では、海外と比べて献体ネットワークが密に発達していると言い、その要因として日本では動物園の数が多く、国土が狭いため、大学や博物館の距離が物理的に近いからだと述べました。また舘は、大学時代に建築を学びながら趣味の折り紙と関連付けて研究を行っていたことを紹介し、複雑な多面体形状を一枚の紙から折るための展開図を生成できるソフトウェア「オリガマイザ」をつくり、折っていて気づいたら10時間も経っていた、などという驚きのエピソードを明かしました。
同じ研究者でありながら、異なる分野の研究を行う4名は、お互いの研究内容に興味を持ち、それぞれの立場から質問を投げかけ合い、研究の詳細を紹介しました。科学の視点で語られるディープなトークは途切れることがありません。研究に対する熱度や専門用語が飛び交う内容に、参加者が圧倒される場面も多々みられましたが、普段は知ることができない研究者たちの貴重なエピソードや熱い想いにじっくりと聞き入っていました。
トークの最後には質疑応答の時間も設けられ、研究や科学とデザインについて参加者とディープな対話が行われました。途中何度も笑いを交え、終始和やかな雰囲気に包まれたトークとなりました。
2024年4月12日(金)、企画展「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」のオープニングトーク「未来のかけら」を開催しました。本展ディレクターの山中俊治、グラフィックデザインを担当した岡本 健、会場構成を担った萬代基介を迎え、企画協力として携りテキストも執筆した角尾 舞がモデレーターとなり、本展の制作の裏側とそれぞれの思いを語りました。
まず最初に、山中より本展の開催に至った経緯が紹介されます。プロダクトデザイナーとして、様々な企業の商品開発に携わる中で最先端の技術に触れてきた山中は、まだ実現するかはわからない段階ではあるが面白いものや、発見した形や動きなどを、プロトタイプ(試作品)としてつくってデザイナー自身が発表していくという活動を始めました。デザイナーの傍ら、大学教員になった山中は大学内で研究や発表の場を持ち、その活動を続けていきました。そして2022年11月から12月にかけて学内で開催した展覧会に、21_21 DESIGN SIGHTディレクターで館長の佐藤 卓が訪れた際、これをより多くの人に見せるために21_21 DESIGN SIGHT企画展に発展させて欲しいと佐藤から言われたことが本展開催のきっかけとなりました。
山中研究室最終展示「未来の原画」展(2022年11月17日〜12月4日、会場:東京大学生産技術研究所S棟、主催:東京大学山中研究室)に、岡本はグラフィックデザインで、角尾はテキスト/企画協力で参加した。岡本と萬代は、山中研究室の企画が、山中俊治『Prototyping in Tokyo』展としてサンパウロ(ブラジル、2018年)、ロサンゼルス(アメリカ、2018年)、ロンドン(イギリス、2019年)のJAPAN HOUSEへ、さらにナショナル・デザイン・センター(シンガポール、2020年)へ巡回をした際に参加した。
続いて角尾の進行により、展覧会制作の裏側が時系列に紹介されました。
21_21 DESIGN SIGHTでの開催が決まり、2023年3月下旬のキックオフミーティングから企画が動き出します。企画チームには、これまでの山中の展覧会で実績のあるメンバーが集まりました。21_21 DESIGN SIGHTで開催するにあたっては、これまでの研究成果に加えて新しいものを展示に入れるべく、「一緒に何か面白いものをつくりませんか?」と、研究者とクリエイターの組合せの「お見合い」をしたり、すでにコラボレーションしている組合せに声をかけていきました。参加作家は網羅的にリストアップしたわけではなく、山中が「自分が面白いと思ったのが、すごいもの」と信じるようにして、自身の関心を元に声をかけたと言います。
タイトルは当初「デザインの芽」でしたが、21_21 DESIGN SIGHTディレクターズとも議論する中で「未来のかけら」になりました。本展では、その通りには実用化されないかもしれない最新のプロトタイプが数多く並ぶので、来場者には未来予想ではなく「未来ってそういうところにあるのかもね?」と未来のかけらを感じて欲しいと山中は言います。
2023年夏には、秋のプレスリリースに向けてメインビジュアルの制作を進めました。学内の展示は研究発表の要素が強く、目的がはっきりしている来場者が多かったが、21_21 DESIGN SIGHTには様々な属性の人が来場するため、もう少し目を引くようにスピード感やヴィヴィッドさを出す必要があると考えたという岡本。回転寿司のように動くビジュアルを想定し、山中から「面白い!」と賛同を得ました。また多くの展示作品の最終形がどのようなものになるか分からない中、「触れる展示」は当初から予定されていたため、触感を想起させたり「なんだろう?」と思わせるために、展示で使われる3Dプリンターで出力されたモデルの中でトゲトゲしたものを選び、メインビジュアルに使用しました。
背景の緑色はこれまでの21_21 DESIGN SIGHTのビジュアルであまり使われていないことと、白い出力モデルがより引き立つ背景色として、蛍光に近いこの緑を選びました。メインビジュアルは、3Dプリンターモデルをこの緑の背景に置いて撮影した写真を使っています。動くメインビジュアルを前提に各モデルを撮影したので、動画でうまく繋がるように光の当て方なども細かく調整を行ったと岡本が語りました。
「科学」と「デザイン」がひとつに合わさっていることを表すように、「禾」と「デ」をひとつの漢字のようにした、岡本考案のハンコ風のデザインも加わります。
そして半年間ほど議論を重ねてメインビジュアルが決まり、11月に発表されました。
撮影:木奥恵三
2023年9月頃から具体的に始まった会場構成の計画で、展示順に明確なストーリーはなく、来場者の好奇心のままに見てもらうことになりました。そして展覧会の会場デザインは、あくまでも作品の背景であり、鑑賞の邪魔をしないようにつくるものと話す萬代。そこに、こっそりと独自のものを仕込んでいきます。21_21 DESIGN SIGHTは安藤忠雄による建築なので、空間内の光と影の美しさを生かしたいと考え、展示台の天板の色をシルバーにすることで光を、展示台の側面のセメント板が影を表すようにしました。
メイン展示室であるギャラリー2の展示台の、波打ち、宙に浮いて見える天板は、これまでのJAPAN HOUSEでの世界巡回では白色で作成した実績があります。波打つ天板は、モノが自重でたわむ形を再現することで、地球の中心に向かう重力を表現してます。萬代は構造設計と模型による「たわみ」のスタディや、全て異なる脚の接着面の計算、平面図作成など、この天板を実現するための多大なプロセスを説明しました。当初、波打つ天板について「そんなリスクを冒さなくても」と思った山中でしたが、萬代の「でも面白いでしょう」という考えに納得したと言います。
撮影:木奥恵三
2023年10月頃、会場内のテキストとグラフィックの制作が始まりました。テキストを担当した角尾は、本展の会場テキストには、作品ごとに「作品解説」と「研究者紹介」があることを紹介。特にその研究者の普段の研究内容を知らせることは重要であり、どの年代の来場者にもわかりやすいことを目指したと言います。それは各研究者の興味の本質を理解しないと書けないので、とても大変な作業だと山中は指摘します。
メインビジュアルと同様、会場グラフィックも岡本により計画されました。本展の構成上、まず来場者に伝える情報として、各作家名(研究者とクリエイター)を壁面を使って大きく表示するデザインにしました。次に「作品タイトル」「作品解説」があり、そして緑色の四角の中に「研究者紹介」が書かれています。さらに深く知りたい来場者向けに、関連する専門的な研究内容を、各研究者が岡本がつくったA4サイズのフォーマットに記入して、壁面に追加していけるようにしました。各研究者のディープな研究を、展示ではさらっと伝えたいが、より知りたい人には深く伝えたいという山中の思いがありました。クリスマスに集まり、展覧会が本当に面白いものになるかどうかを議論した企画チームは、このA4を追加していく仕組みの提案を岡本から聞き、不安が解消されたと言います。
またグラフィックの色について、メインビジュアルでは目を引くためもあり緑を使ったが、会場グラフィックでは緑を使うことで内容が軽く見えないかどうかを最後まで検証したと語る岡本。最終的に、メインビジュアルと色は揃え、書体を変えることで会場ではより学術的に見えるようにしました。
2024年2月頃、開幕まで2ヶ月を切り、ブラッシュアップに入ります。
展示の最初のロビーの作品、nomena+郡司芽久「関節する」の一部が触れる作品になることが最終段階で決まりました。触れる展示物を展示の最後に置くことを初めから決めていた山中でしたが、結果的に最初と最後が触れる展示になりました。
会場グラフィックでは、メインビジュアルに使われているハンコ風のデザインを、参加作家の各組に対してつくることにしました。研究者とクリエイターが組んだ証として、各作家の頭文字から組み合わせた図柄です。
そして会場デザインの最終盤まで決まっていなかった、波打つ天板の素材を決めます。シルバー色の素材として、ステンレスか亜鉛メッキ銅板が最後まで検討され、前の展覧会の休館日などを使い会場での検証を重ねた結果、厚さ3.2 mmの亜鉛メッキ銅板に決定しました。
岡本も萬代も、サンプルや模型で見ているものを実際の会場に置いた時など、スケールが変わるとモノの見え方が変わると言います。いずれも作品の背景と考えているので、鑑賞時にストレスにならないようにするため、現場での検証が重要だと二人は語りました。この「背景であること」についての具体的なスタンスを角尾から聞かれると、萬代は「自分にしかできないことを必ず展示デザインに入れようとしているが、自分は建築も生活の背景と考えており、むしろ常に背景について考えている。『新しい背景』をつくる思い」と答えます。岡本は、「メインビジュアルやポスターは広報物として記憶に残るものにするが、会場グラフィックは背景と考えている。またグラフィックを通して自分を打ち出すことは目指していないので、山中から『表現ではなくプロセスの作家性がある』と言われて救われた。プロセスにはこだわりがあるので、そこから滲み出ているものがあるのであれば嬉しい」と話しました。
撮影:木奥恵三
いよいよ開幕直前の施工期間中、萬代は21_21 DESIGN SIGHTに滞在し、安藤建築を長く眺めているうちに、いろいろなことが気になり出したと言います。館内のコンクリートの壁に並ぶPコン穴(注:コンクリート打設時の型枠を固定するための部品の一つ、Pコンを取り除いたあとの穴)が全ての壁に非常にきれいに等間隔・高さに並んでいることに気づいた萬代。これは隣同士の型枠と固定位置、打設後にできる階段の段とPコン穴の関係などを、コンクリート打設時に全て計算しているからできることです。改めて安藤の凄さを実感したと語ります。建築家が各土地に合わせた建築を設計するように、展覧会の会場構成も館の建築家への挑戦と考える萬代ならではのエピソードでした。
トークの聴講者から、子どもたちへの本展の勧め方を聞かれた山中は、「面白くてきれいなものがたくさんあるので、触りに来てください」と答えます。本展には、一緒に教育を受けることがない科学とデザインを合わせ、「どれかを選ばなくてもいい、一緒にした方が面白いよ」というメッセージを込めているのです。
また聴講していた佐藤 卓から、本展のプロトタイプにあるような「役には立たないけれど面白い」もの自体が商品としての魅力を持つ可能性について聞かれた山中は、日頃学生たちには「何の役に立つか考えるのはやめよう」と話していると言います。面白ければ何かになるかもしれない。また「役に立つ」予想は大概当らず、違う使われ方をしていったりするのです。だから本展は「未来の予想」ではなく、「未来のかけら」。今は、インターネット上で「こんなものができた」と発信でき、それがバズったり、その発信を仕事にする人もいる。近代産業とは全く違う、そういった流れにある本展だと自覚して企画したと、山中は答えました。
展覧会が、グラフィックや空間にこのようなこだわりを持ってつくられていることを本トークで初めて知ったという聴講者からは、これは山中の通常の仕事の考えから来ているのかと聞かれました。プロダクトも単体の作品ではなく、パッケージ、商品の使われ方や使用体験をデザインするという意識があると話す山中。展覧会の見せ方とは、思想そのものであり、どんなメッセージを伝えたいのかが現れるもの。空間が重要なのでこのチームで展覧会制作を続けている中で、徹底的な機能の追求により、その美しさが出ているのではないかと語りました。
最後に山中から、本展開幕時に21_21 DESIGN SIGHTの担当者から「こんなに順調に進んだ展覧会は珍しい」と言われて心強く感じた、というエピソードが披露され、「『展覧会技術者』として、マチュアになれた実感を持てた」と締めくくりました。
撮影:木奥恵三
2024年3月29日、いよいよ企画展「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」が開幕します。
未来の世界をはっきりと想像するのは、まだ難しいかもしれません。しかしだからこそクリエイターたちは、さまざまな可能性に思いをはせ、その姿をプロトタイプを通じて確かめます。本展では、デザインエンジニアの山中俊治が大学の研究室でさまざまな人々と協働し制作してきたプロトタイプやロボット、スケッチの紹介とともに、7組のデザイナー・クリエイターと科学者・技術者のコラボレーションによる作品を「未来のかけら」として展示します。
ここでは会場の様子を写真で紹介します。
千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター (fuRo)+山中俊治「Wonder Robot Projection」
千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター (fuRo)+山中俊治「Robotic World」
千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター (fuRo)+山中俊治「ON THE FLY」
村松 充(Takram)+Dr. Muramatsu「場の彫刻」
A-POC ABLE ISSEY MIYAKE+Nature Architects「TYPE-V Nature Architects project」
山中研究室+稲見自在化身体プロジェクト「自在肢」
nomena+郡司芽久「関節する」
荒牧 悠+舘 知宏「座屈不安定性スタディ」
山中研究室+新野俊樹「触れるプロトタイプ」
撮影:木奥恵三/Photo: Keizo Kioku
デザインを通じてさまざまなものごとについてともに考え、私たちの文化とその未来のビジョンを共有し発信していくイベントシリーズ、21_21 クロストーク。今回はその第6回として、2024年3月4日(月)に、東京ミッドタウン・デザインハブにて展覧会ディレクターズバトン「もじ イメージ Graphic 展」×「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」を開催しました。
3月10日(日)まで開催した企画展「もじ イメージ Graphic 展」の展覧会ディレクター室賀清徳、後藤哲也、加藤賢策と、3月29日(金)から始まる企画展「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」の展覧会ディレクター山中俊治が登壇し、モデレーターは企画展「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」のテキスト/企画協力を務める、デザインライターの角尾 舞が務めました。
まずはじめに室賀から「もじ イメージ Graphic 展」の概要を説明しました。企画展「もじ イメージ Graphic 展」は、現代のグラフィックデザインを、日本語の文字を起点に考える展覧会です。日本語の成り立ちを紹介する展示や戦後のグラフィックデザインの代表作の紹介、そしてパソコン上で出版物や印刷物のデータ制作を行うDTP環境が主流となった1990年代以降のデザインの展開を13のテーマに分けて展示しました。
さらに本展は縦横二つの軸を基に展開したと室賀は説明します。一つは、世界における現代の日本のグラフィックデザインの位置付けを見るという水平軸。もう一つは、これまでの日本の伝統と、現代の日本のグラフィックデザインをつなげるための視点として用いた「文字」という垂直の軸です。
1984年にマッキントッシュが入ってきて、日本のDTP環境は1990年代に形を取り始めますが、そこには、それまでの日本のデザイン環境との間に飛び散った火花のようなものがありました。室賀の中には、その頃にデザイナーたちが考えたことや試行錯誤したことが、情報としてあまり残っていないという感覚があったことから、本展では90年代を入り口としています。同じ符号を交換してコミュニケーションをとるというタイポグラフィのシステムが全体を覆う中で、それに収まらないマルチモーダル性(複数の形式や手段を組み合わせていること)が、日本語の視覚デザインの中でどう生まれてきたかという視点で展覧会を組み立てていきました。
日本で生まれた絵文字が世界に広がったことや、本来表計算のためのシステムであるエクセルを使って、文書を作成することなども、日本独自のあり方だといい、日本ではそのような特徴がいろいろと観察されるといいます。室賀は、本展のポスターやチラシも全てエクセルで制作しようという話があったことを、笑いを交えて紹介しました。
山中は、いらすとやや、寄藤文平の作品展示など、イラストを文字として捉える感覚が新鮮だったと話しました。室賀によると、この10〜15年は駅などの公共空間に絵と文字が交差したものが氾濫した時代で、本展ではそうした状況が生まれた背景についても考えたかったといいます。また、自身も漫画家を目指した時期があるという山中は、祖父江 慎の装丁に当時とても感動したことを話しました。さらに、DTPが未来を開きそうだという感覚や、すごくワクワクする未来を見せてくれる感じが強烈にあったと、その時のインパクトや感動を伝えました。
続いて山中が「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」について展覧会のコンセプトや展示作品を一つひとつ紹介しました。本展は、デザインエンジニアである山中が大学の研究室でさまざまな人々と協働し制作してきたプロトタイプやロボット、その原点である山中のスケッチの紹介とともに、7組のデザイナー・クリエイターと科学者・技術者のコラボレーションによる作品を紹介する展覧会です。
山中は、2013年に東京大学の生産技術研究所に教授として着任した際「ここは宝の山だ」と感じたといいます。そこには形にしてほしいと思っている技術がゴロゴロ転がっていて、そこから数多くのプロトタイプを制作してきました。本展は、2022年に東京大学の山中研究室が最後の展覧会として大学のキャンパスで開催した「未来の原画展」がきっかけとなっています。特別教授という称号を与えられ任期が伸びたことで、実際には最後の展示にはなりませんでしたが、21_21 DESIGN SIGHT館長の佐藤 卓が、もっと多くの人に見てもらわないともったいない、と伝えたことがきっかけで「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」の企画がスタートしました。
プロトタイプの展示が展覧会の一つの骨格になっていますが、室賀からは、80年代と現代のプロトタイプでどのような変遷が見られるかという質問が投げかけられました。元々は製品の一歩手前のもの、あるいは未来の製品のための試作をプロトタイプと呼んでいて、それらの多くは大企業でなければつくれませんでした。結果として、魅力的であっても発表されないまま、人の目に触れないまま埋もれてしまうものがあり、それが自然なことで宿命でもありました。山中によると、二つの理由から、個人でもプロトタイプをつくれるようになったといいます。一つは、2000年頃から電子デバイスが小ロットでアマチュアの元に届くようになったこと。二つ目として、世界的なイベントや、ネット上でなど、プロトタイプを発表する場が増えたことです。
そのような経緯もあっていまではプロトタイプ自体がおもしろいもの、刺激的なものとして価値を持つようになりました。またクラウドファンディングの存在で、個人が制作したプロトタイプを量産するなどのことが、経済的にも可能になりました。それが山中らの活動の原点となっていると説明しました。山中によるとその在り方は、DTPによってグラフィックデザインの環境がガラッと変わってきたことと似ている部分もあるといいます。
後藤からは、デザイナーは短期的な問いの解決に取り組んでいくことが求められるのに対し、研究者や科学者はもっと長期的なスパンで課題に取り組むことが多いと思うが、その両者を掛け合わせたプロジェクトはどのようにしたらうまくいくのか、という質問が投げかけられました。
山中は、研究者や科学者は、本当は、研究の途中段階も世の中に伝えたいと感じていると話しました。それによって新しい研究テーマを発見することもある。デザイナーと研究者が交わるメリットはそういうところにもあると答えました。
本展では、最先端の科学がやろうとしている「凄まじさ」や「恐怖」も伝えたいと続けます。昨今の環境問題やエネルギー問題にしても、歴史的に見れば科学に対して批判的にならざるを得ませんが、過去のよくなかった面だけを見るのではなく、これからの科学がなにをするかを一緒に考えられれば一番いいと思っているし、それがプロトタイピングの役割だと考えていると話しました。
室賀は山中に、「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」の展示作品は、人とテクノロジーをつなぐものだと思うと話し、そこには人そのものをどう捉えるか、さまざまな現代なりの「人間感」があるのではと投げかけました。
山中は、結果的に「身体性」が大きなテーマになっているといい、その背景には、人間が今後どうなるのかという強烈な問題意識があるからだろうと話します。例えば「自在肢」の開発にあたっては、両手が塞がったときに「3本目の手が欲しい」と思う欲求に応えるのは実はとても高度な技術が必要で難しい。しかし「ダンスをするくらいならできるかもしれない」という研究者の言葉がきっかけで、踊るための手をつくったと話します。「自在肢」を背負ったダンサーが踊った映像は、あちこちで話題になりました。いまは腕一本一本に対して操作者がいて、5人掛かりでダンスしている状態ですが、未来はAIがそれを担うといいます。果たしてそれを自分の体の一部だと思えるかどうかは疑問ですが、こういう経験が、新しい身体性を考えるきっかけになっていきます。今回展示される作品の中に、そのような「ネタ」がたくさんあると話します。
文字と日本語のグラフィックデザイン、科学、という異なる分野の展覧会をディレクションするそれぞれの立場からの質問は途切れることがなく、途中笑いも交えながらの本トークは、今まさに開幕に向けての準備が佳境を迎えている企画展「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」に対して、期待の高まる時間となりました。
ギャラリー3では、2021年10月23日から11月3日まで、「ISSEY MIYAKE WATCH展 12人のデザイナーによる25の腕時計」を開催しています。2001年の秋に誕生したISSEY MIYAKE WATCHプロジェクトの20周年を記念したイベントです。
会場ではこれまでの20年の間に、12人のデザイナーによって生み出された25のモデルが一堂に展示されています。それぞれのモデルの名前の由来や、デザインのコンセプト、デザイナーのメッセージなどを腕時計とともにご覧いただけます。会場の奥では、デザイナー本人が登場する映像も放映しておりますので、ぜひお楽しみください。
21_21 SHOPでは、展示しているISSEY MIYAKE WATCHの一部を取り扱っております。展示をご覧いただいた後に、ぜひSHOPへお立ち寄りください。
また、会期中の10月28日には、深澤直人と篠田哲生によるインスタライブ「デザイナー深澤直人が語る ISSEY MIYAKE WATCH project」を行います。会場から無観客での配信を行います。ISSEY MIYAKE WATCH 公式Instagramアカウントて会場から無観客配信を行いますので、ぜひご覧ください。
企画展「㊙展 めったに見られないデザイナー達の原画」に関連して、『Tokyo Midtown STYLE』42号に、展覧会ディレクター 田川欣哉と、デザインエンジニアで、日本デザインコミッティーのメンバーでもある山中俊治のインタビューが掲載されました。
田川は本展の企画意図について、山中は自身のスケッチについて語りました。
下記ウェブサイトでも紹介されています。18-20ページをぜひご覧ください。
山中俊治と石黒 浩による特別対談は3部構成で行われました。まずはロボット開発の研究プロセスをモニターに映しながら、石黒のプレゼンテーションがスタート。娘をモデルとしたアンドロイドを作ったときに「不気味の谷」を意識したという石黒。無意識にでも「人間らしい」と感じるアンドロイドを目指していると語ります。自分そっくりのアンドロイドも開発した石黒は、披露後の周りの反応に「自分の癖は他人の方がよく知っている」ことを教えられたとか。
その後マイクは山中にバトンタッチ。山中が関わったプロジェクトや製品のエピソードを画像と共に紹介。昨年21_21 DESIGN SIGHT「骨」展に出展したからくり人形の製作についても語りました。「似せる」ことではなく機能にも重点を置いた山中の仕事と、前半の石黒のプレゼンテーションとの対比は、デザイナーとサイエンティストの違いと共通点を感じさせるものでした。
最後は2人がマイクを持ち、未来のものづくりについて語りました。活発に質問の手もあがる濃厚な時間となりました。
21_21 DESIGN SIGHT 第五回企画展「骨」展のディレクター、山中俊治が本展をご案内します。
まずは入り口から標本室へ!
次は実験室です!
実験室後半へ!
エンディング・スペシャルトーク 「未来の骨」
「骨」や「骨格」をテーマに幅広い分野の講師をゲストにトークやワークショップなどを開催してきた「骨」展。その締めくくりとなる今回のトークは、本展ディレクター山中俊治と義肢装具士の臼井二三夫、そして臼井の制作した義足を装着してさまざまな分野で活躍する鈴木徹、大西瞳、須川まきこの3名を迎え行われました。
まず山中が、テレビで義足ランナーが走っている姿を見てその美しさに目を奪われた義足との出会いから語り始めました。続けて臼井が、義肢製作に携わるようになったきっかけについて話しました。小学校の担任の先生が骨肉腫で足を切断し義足を装着することになったり、職探しをしていた際にその時の義足が思い浮かんだと言います。続いて、臼井が働く鉄道弘済会の義肢装具サポートセンターの紹介や、義足の成り立ちや仕組みについての説明に。表面が甲羅のように固い殻で覆われた昔の義足や股関節を切断した場合の義足など、実物を用いて義足の装着の仕方や歩行の際の力のかかり方などを具体的に説明しました。
本展の「標本室」と呼ばれる生物の骨と工業製品の骨組みを展示したパートの最後には、山中がデザインした義足のプロトタイプが展示されています。身体と人工物を繋ぐものの象徴として義肢にはまだまだデザインの余地があるのではないかと考える山中が、どのように「格好良い」プロトタイプを考えていったかについてイラストを交え語りました。スポーツ義足の第一人者でもある臼井は、選手が格好良く見えるのが課題だと言います。そんな義足を使うことがきっかけで、義足であることのストレスがなくなればいい、との思いからです。
トーク中盤では、義足アスリートである鈴木徹がその場で自らの義足を外して説明をし、北京パラリンピックで5位に入賞した経験について話しました。同じく義足アスリートの大西瞳は、ショートパンツにカラフルなハイビスカスが描かれた義足で登場し、「義足だからこそかっこよく歩きたい」と義足に「膝小僧を作って欲しい」と臼井にリクエストしたエピソードに触れました。イラストレーターの須川まきこの義足をモチーフとしたイラストも紹介。須川は骨肉腫により義足で生活することになった際に、義足をモチーフに素敵な世界を描くことで自分や同じ境遇となった人たちの気持ちが救われると考えイラストを描き始めたと語ります。
質疑応答では、陸上競技をするにあたり義肢製作には基準やルールがあるのかという質問があり、結局義肢を使うのは人なので義肢だけが進化しても人の能力が追いつかず身体が壊れてしまう、という鈴木の答えが印象的でした。
その後出演者とトーク参加者は1階館外へ移動。実際に鈴木と大西による走行の様子を見学しました。鈴木と大西が歩行トレーニングからダッシュをすると、軽やかな走行とスピードに観客からは感嘆の声。鈴木は途中通路を区切っていたパーテンションを飛び越えるパフォーマンスも披露。一同から大きな歓声が上がった瞬間でした。
普段生活をしている中では見えにくかった義肢という世界をデザインという視点から垣間見ることで、身体と道具の関係を考えさせられる貴重な時間となりました。山中のデザインした義足をはめてパラリンピックで活躍する選手を見られるのもそう遠い未来ではないかもしれません。
夏休みキッズスペシャル
「骨」展ディレクターの山中俊治はプロダクトデザインのほか、ロボットの開発にも携わっています。山中のロボットデザインの仕事において欠かせないパートナーである未来ロボット技術センター(fuRo)のメンバーが、移動ロボットHalluc II(ハルク・ツー)と共に満を持して21_21 DESIGN SIGHTにやってきました。
所長の古田貴之の軽快なトークでショーは進められました。まず始まったのはHalluc II開発の歴史から。前身であるハルキゲニアというロボットは古代の生物に由来しています。単に動くロボットではなく、未来の乗り物を目指しロボットと自動車の技術を融合して開発されたのがHalluc IIでした。それぞれ7つのモーターを駆使した8本の脚には多関節モジュールが装備され、状況に応じて変幻自在に移動します。自動車は4輪であるために、前後などの限定された移動しかできません。自動車よりも滑らかに、より自由に動くものをつくろうという山中の提案のもとHalluc IIは生まれました。
Halluc IIが変形するたびに、会場からは拍手や歓声があがります。関節を曲げ柔らかな足取りで前進をしたり、歩きながら床に転がった棒をまたいでみたり。子どもたちの「がんばれー」の声がかかると動くHalluc IIは、まさに生き物のようでした。
「骨から美しいものにしよう」という志のもとにつくられたHalluc IIには、中の構造を隠すような化粧カバーは存在しません。すべてのパーツが必要な骨格であり、骨そのものが動いているという仕組みです。動きや仕組みから考えていくことがものづくりである、とショーに来場した山中はコメントしました。遠隔操縦で動くHalluc IIは、免許がなくても安心な、未来には欠かせないロボットなのかもしれません。
ショーの後は特別に子どもたちがHalluc IIを持ち上げたり、実際にハンドルを握って操縦したりする場面も。夏休みにふさわしい、にぎやかなイベントとなりました。
サマースクール「デザインのコツ」:社会
3時限目「社会」の授業では、本展ディレクターの山中俊治が、身の回りのものの形と構造、そしてそれらと社会とのつながりを体感するためのスケッチ教室を開催しました。
まず参加者それぞれが鶏を描いてみることからスタート。人間の脳は特徴を抽象化して記憶している場合が多いため、何も見ずに鶏を描くには、たとえば足の仕組みを考えて描くと描きやすいと山中は指摘します。画家が物体のディテールを細かく見るのは、その物体の仕組みや構造を正確に捉えるという目的があるのです。次に、「公共空間にあるもの」を題材に、信号、そして普段私たちが使用しているSUICAの自動改札機を描きました。山中は、SUICAの形状の説明に加え、10年前にJR東日本に依頼されて始動したSUICAの開発プロセスについて、映像とともに語りました。開発や制作にあたり丁寧な実験をすることでデザインが社会性を獲得するとし、デザインとアートの違いにも触れました。
続いて、大根おろし器。山中はGマークを受賞したOXO社の大根おろし器の開発の経験を通して「私達が知っているもの、いつも使っているものを丁寧に観察していくこと」こそが、道具に変化をもたらすきっかけと成りうると言います。
最後は、山中が参加者の質問とリクエストに応えて人間の走る姿や手、自動車等を描くコツを披露しました。
サマースクール「デザインのコツ」:特別講義 「デザイナーvsエンジニア デザインを巡る攻防」
「骨」展はデザインとエンジニアリングをつなぐキーワードとして「骨」や「骨格」にアプローチしています。
デザイナーとエンジニアがそれぞれ働き、共につくり出すもの、また彼らを取り巻くデザイン環境とは。両方の視点を持つ山中俊治のナビゲートのもと、サマースクール「デザインのコツ」特別講義は、日産自動車のデザイナー谷中謙治とエンジニア小野英治、イクスシーで商品開発を行った堀尾俊彰を講師に迎えて行われました。
まずデザイナーとエンジニアの違いから講義は始まりました。一般的にデザイナーは外側をつくる、エンジニアは内側をつくるものだと思われているが、それは違うと思うと山中は会場に投げかけます。
本展では会場1Fに入場するとすぐ目に飛び込んでくる日産フェアレディZ。それは長い歴史を持った難しいプロジェクトであったと日産の二人は語ります。自動車は0からデザインをするのではなく、与えられた条件(寸法やエンジンの大きさなど)の中でつくられていると谷中は言いました。小野は内側である構造設計の条件をふまえて、外側の車体のデザインを行うということは、目に見える部分もまた骨格の一部であるのかもしれない、と答えます。
また、出展されている椅子たちの中でもひときわシンプルな骨組みを持つイクスシーの「OLIO 1009」。それは堀尾がイクスシー開発部に所属し、ライセンス生産が主流でデザインはしなくていいと言われていた時代に、構造からデザインをして生まれた椅子です。理に適ったかたちを作り出すために、自らコピー紙を使って構造を探ったり、再生紙を熱圧プレスで成形したりして考案したものです。生産技術とデザインが一体化したエピソードに、家具をつくることの高い目標がうかがえます。
カテゴリーの異なるプロダクトを扱う講師による講義ということもあり、質疑応答は多岐に渡りました。フェアレディのスケルトンモデルを使っての説明や、実際にOLIOを解体する場面も。
ものづくりの目指しているところはひとつだと、山中は言います。多くの人間が並列で作業を行なっていく場合でも、ひとりの人間が直列に作業を行う場合でも、構造とデザインの間に同じ骨を通すことが大切であるというメッセージが、現場の声を通じて実感できる講義となりました。
■空想科学バラエティ「ロボつく」(テレビ東京)
7/26(日)、8/2(日)9:00-9:30
---------------
小学生の子どもたちを対象にした科学情報番組。
「ロボつく研究所」というコーナー内で二週に渡って「骨」展ディレクターの山中俊治が出演し、本展のご紹介もします。
詳細は番組のホームページへ。
■「5時に夢中!」(TOKYO MX)
7/30(木)17:00-18:00
---------------
毎週月~金曜日の夕方から生放送の主婦向け情報番組。
今回は木曜日の「ジョナサンでもわかるアート」VTR内にて、リーディング・エッジ・デザインの檜垣万里子さんが「骨」展をご案内します。
詳細は番組のホームページへ。
スペシャルトーク 「骨のはなし」
解剖学者の養老孟司をゲストに迎え、本展ディレクターの山中俊治との対談形式で行われたスペシャルトーク「骨のはなし」。
「人間のつくったものに興味なし」という養老の第一声で始まったトークは、養老の「生き物の骨」に対する考えと、山中の「デザインの骨」に対する想いが興味深いディスカッションとなって展開しました。
虫をよく分解し研究するという養老。人間とは違い、虫の骨の関節はざらざらしているがゆえ、動く際に独特な音を出し、さらにはその音が虫同士のコミュニケーションとなるといいます。レオナルド・ダ・ヴィンチが一番描きたかったのは「関節」ではないかという養老の考えに、山中も同感。山中は工業製品をデザインする際、関節となる仕組みを考えることが楽しく、そうして出来上がった製品が美しければうれしいと語りました。
また、JR東日本Suica自動改札システムの開発に携わった山中は、アンテナ面を手前に15度傾けたデザイン策を提案。傾いた面に何かを載せるという人間の習慣をデザインに取り入れ、Suica実用化に大きな貢献をしました。それに対し、「穴があったらのぞきたい」精神を利用して何かつくってはどうか?という養老の言葉には客席から笑いが。デザインされたものが日常生活に入り込みやがて習慣となると、人々は「デザイン」と認識せず使用する、そんなデザインをしていきたいと山中は話しました。
虫の中でもどの虫が一番好きですか?という客席の質問に対し、悩んだ果てに「ゾウムシ」と答えていた養老と、本展でも工業製品の「骨」として展示しているISSEY MIYAKEのウォッチプロジェクト第一弾「INSETTO(昆虫)」をデザインした山中のスペシャルな対談となりました。
オープニングトーク 「からくリミックス」
色やかたちだけではなく、構造や仕組みからデザインを考えることをテーマに企画された「骨」展。オープニングトークは、本展の目玉作品でもある「骨からくり『弓曵き小早舟』」と「WAHHA GO GO」の作者を迎えて行われました。
トークの間には、伝統的なからくり人形「茶運び人形」「弓曵き童子」の実演や、電動楽器「メカフォーク」と「セーモンズ」による生演奏もあり、木と金属という全く違う素材を使いながらも、「骨」から考えることで生まれた動きや声に、満員の会場は驚きと笑いの連続でした。
山車からくりを軸に「200年以上も前のものが祭りに支えられて生きている」と、からくり人形の世界に土佐が素直に感嘆すると、「からくり人形も進化したら声を出すかもしれない」と玉屋が応え、「次は、玉屋さんと明和電機さんとのコラボレーションで『笑うからくり』が見たい」との声も。
21_21 DESIGN SIGHTを舞台に行われた九代目からくり人形師玉屋庄兵衛と父、兄と続いた三代目(?)明和電機のからくり対決から、「未来の骨」を探る新たな視点が生まれました。
過去の骨格に学び、未来の骨格をデザインする
一冊の写真集がある。漆黒の背景に浮かび上がる様々な生物の骨格。生きているときの配列が忠実に再現された白色の物体は、しなやかに連動し、伸び上がり、走り、滑空する。骨という構造体が抽出されることで、生物の持つ躍動感がいっそう強調されているかのようだ。
生物の骨格は、その優美な外観と見事に連携している。全てが一つの細胞から分化して生成されるプロセスを思えば、その関係が不可分なのも当然かもしれない。しかし人工物のそれはどうだろうか。振り返れば、骨格を隠蔽すべく見ばえを恣意的につくってきた行為こそが、デザインだったのではないかという疑念もわく。それでも、デザインの根幹はその製品の骨格にあるのではないかという期待もある。
現実には、私たちが日常的に接する道具や装置にも、ふと生物に通じる有機的な佇まいを感じることがある。自然のものに似せることを意図したわけではない、金属やプラスチックでできた工作物が、命を思わせるのはなぜだろうか。実際に工業製品の 構造体を収集してみると、その問いへの答が見え隠れする。共通の目的に向かい連携するように組み上げられた部品の配列、長年の工夫の積み重ねからなる進化の痕跡。それらが完成形ではなく、これからも変わっていくことを予感させるあたりにも、生き物に通じるものがある。
では、未来の骨格はどのように変わっていくのだろうか。テクノロジーは人と人工物の新しい関わりを生み出しつつあり、デザインの自由度を広げ、時には突然変異をも誘発する。新素材の骨、高精細な骨、伝統に支えられた骨、自然に学んだ骨、情報技術に見る仮想の骨。クリエーターたちとともに、改めて「骨」と「骨格」を合言葉にデザインを行い、またそれらに触発されながら、次に私たちがつくり出すべき世界の本質を探してみたい。
本展ディレクター 山中俊治