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瀧口範子による「建築家 フランク・ゲーリー展」ガイド 第1回
「建築模型のみかた」

21_21 DESIGN SIGHTでは、2015年10月16日より企画展「建築家 フランク・ゲーリー展 "I Have an Idea"」を開催します。
展覧会開幕に先駆け、21_21 DOCUMENTSでは、本展企画協力の瀧口範子による連載を企画。会期を間近に控えた今回は、フランク・ゲーリーのマニフェストでも語られ、本展でも数多く展示する「模型」について、そのみかたと建築のプロセスにおける重要性を解説します。


Facebook本社 西キャンパス(アメリカ・メンローパーク 2015年)模型
Image Courtesy of Gehry Partners, LLP

本展では、フランク・ゲーリーの建築をさまざまな方法で見せている。中でも、数が多いのは模型(モデル)だ。

模型というと、プラモデルとかミニチュアカーなどが頭に浮かぶだろう。建築において模型は、いろいろな意味で重要な役割を果たしている。

よく見るのは、完成予想模型。住宅ならば、「でき上がったら、こんな家になりますよ」というのを形にしてみせるものだ。家の外観がミニチュアでつくられていて、尺度は100分の1など、どの部分でも均一に縮小されている。そのため、家の高さと屋根の大きさ、敷地の中で家が占める割合などを正しく把握できる。屋根を持ち上げて、家の中の部屋割りを確かめることもできるだろう。

さて、建築では完成模型だけでなく、いろいろな種類の模型が多様な目的のためにつくられる。ことにゲーリー事務所では、その数が飛び抜けて多い。本展のテーマになっている「アイデア」も、実はそれに関連しているのである。

模型は、どんな建築であるべきかを探索するためにつくられる。それをスケッチや二次元の図面で行う建築家もいるが、フランク・ゲーリーは最初から三次元の模型でそれを行うことで知られている。


UTS(シドニー工科大学)ドクター・チャウ・チャク・ウィング棟(オーストラリア・シドニー 2014年)模型
Image Courtesy of Gehry Partners, LLP

UTS(シドニー工科大学)ドクター・チャウ・チャク・ウィング棟(オーストラリア・シドニー 2014年) Photo: Andrew Worssam

最初は、建物のプログラムに基づいて内部をどう構成できるかを考えるための模型がある。プログラムとは、その建物が使われる用途とそれに必要な面積といったことだ。学校ならば、教室、講堂、廊下、食堂などの用途とその面積が最初に定められているだろう。ゲーリー事務所では、そうした用途ごとに色分けしたブロックを積み木のように組み合わせて、最良の構成をさぐる方法論を編み出している。

積み木は何度も重ねたり崩したりを繰り返す。入口から入ってどんな用途が並んでいるのがいいのか、敷地の日照や風景を鑑みるとどこにどんな用途を配置すればいいのか。建物全体として、どんな性質を備えているべきか。そんなことを何通りも試すのだ。

ブロックでだいたいの空間構成が決まれば、今度は外観のかたちを考える。この部分は天井を高くしてトップライトを設けるとか、ダイナミックな表情のある建物にしたいとか、どんな建材を外壁に使いたいといったような要素を、ここで試してみるのだ。ここでも、ゲーリー事務所は紙やプラスチックなどを使いながら、時に先のブロック模型も流用しながら、無数の模型をつくる。

外観ができたからと言って、それで終わりではない。特定の内部空間を、今度はもっと大きな模型をつくってじっくりと検討する。天井の高さ、窓などの開口部の位置と大きさ、空間の広がりなどが模型でわかるようになっている。中に人間大のフィギュアを置いて、人と空間との関係がどんな風になっているのかを確かめることもある。もっと細かく、部材の組み合わせといったものを検討する模型もある。外壁の素材とかたちをもっと詳細に探索するために、さらに模型がつくられる。

こうしてたくさんの模型をつくりながら行われているのは、スケッチや図面、そして頭の中で考えていることが、本当にその通りなのかを確認する作業である。建築には構造があり、外壁があり、中の空間がある。それらが本当に構想した通りになっているのか、それを外観といった全体から、ディテールのレベルにまで落として確認できるのが模型なのだ。建物は完成しないと、そこにいる実体験はわからないのだが、模型はその体験を最大限に代替する手段なのである。

したがって模型は、つくりながらまた考えを進め、また新しい模型をつくっては検討しと、建築の構想に伴走する存在である。ここで模型づくりの労力を惜しんでいては、構想も半ばに終わってしまう。

本展にはたくさんの模型が展示されているのだが、これはゲーリー事務所にある模型のごくごく一部に過ぎない。ゲーリー事務所のあふれるような模型の数は、それだけアイデアを試し、確かめ、また練り直しといった作業が行われたことを示しているのである。

文:瀧口範子

>>第2回「展覧会の見どころ」
>>第3回「ゲーリー建築を支える技術」