contents
U-Tsu-Wa/うつわ (23)
台湾にて、Fubon Forumに参加しました
2016年1月27日、台湾のFuBon Art Foundation主催で台北市のTaipei New Horizonで行われたFubon Forumに、21_21 DESIGN SIGHTが参加しました。
当日は、200名を超える聴衆を前に、デザインディレクターのTomic Wu氏の司会のもと、21_21 DESIGN SIGHTよりコミュニケーション・ディレクターの高 美玲と、オペレーション・ディレクターの犬塚美咲が「Everything Can Be Design」をテーマに語りました。
はじめに高が、21_21 DESIGN SIGHTの設立のプロセスやコンセプトを説明。特徴的な展覧会として、第1回企画展「チョコレート」と、東日本大震災を受けて開催したふたつの展覧会「東北の底力、心と光。『衣』、三宅一生。」、「テマヒマ展〈東北の食と住〉」を紹介しました。
続いて犬塚が、三宅一生の企画と安藤忠雄の会場構成で実現した「U-Tsu-Wa/うつわ ― ルーシー・リィー、ジェニファー・リー、エルンスト・ガンペール」、はじめて展覧会ディレクターを置かずに開催した「単位展 ― あれくらい それくらい どれくらい?」を転機となった展覧会として紹介。21_21 DESIGN SIGHTの来場者や組織・運営についても解説しました。
最後に、会場との質疑応答では「展覧会の成功とは何か」「台湾やアジア諸国とのデザイン交流の可能性」など、活発な意見交換が行われました。参加者の半数以上が21_21 DESIGN SIGHTを訪れた経験があるなど、台湾におけるデザインや21_21 DESIGN SIGHTへの関心の高さに触れられる機会となりました。
4月25日(土)、南伊豆を拠点に活動する陶芸家 塚本誠二郎と三宅一生によるクリエイターズトーク3「ものづくりと環境」が行われました。
塚本は学生時代に旅した伊豆に魅了され、その後東京で見た陶芸展で「ものの後ろ側に人が感じられる焼き物の可能性」に注目。伊豆に居を構えて38年。陶芸においては、「成分が均一でない伊豆の土が、焼くことでたわんでいく表情」が魅力だと語りました。自身が暮らす環境を軸に様々な作品を制作し、近年は陶芸だけでなく、幅広い表現方法で作家活動を行っています。
東京のギャラリーで塚本の仕事に出会った三宅は、後に作品が「自然のままにごろごろと」並ぶ伊豆の自宅兼工房を訪れ、「生活の中で日本や地球全体が抱える環境の問題と対峙しながら、とどまることのないアイディアと独自の方法で表現を続けている」塚本の人柄に感動したと言います。
美しい海と山を抱える伊豆の自然の中で、「山をがりがりと削るような、機械を使う人間の力」が及ぼす影響を痛感するという塚本。三宅は「ものづくりをする我々は、常に時代と社会について考える必要がある」と語りました。満員の会場には、塚本のうつわや家具が特別に展示され、ものづくりと環境について多くを考える機会となりました。
------------------------------
塚本誠二郎 展
2009年5月18日(月) - 30日(土)
12:00 - 19:00 (最終日17:00まで)日曜休廊
巷房ギャラリー
104-0061 東京都中央区銀座1-9-8 奥野ビル3F Tel/Fax 03-3567-8727
「U-Tsu-Wa/うつわ」展の見どころ vol.5
うつわ展の楽しみ方
5回にわたってご紹介してきた「うつわ展の見どころ」。最終回は、21_21 DESIGN SIGHTの外に飛び出し、展覧会を何倍にもに楽しめる、一日の過ごし方をご提案します。
午前11時。開館と同時に21_21 DESIGN SIGHTに到着し、「U-Tsu-Wa/うつわ」展を鑑賞。土や木でつくる多様なうつわたちの豊潤な世界を満喫したら、12時過ぎに、お隣のカノビアーノ・カフェへ。新鮮で優しい味わいのコースランチの最後に、ルーシー・リィー直伝のレシピから再現した、幻のチョコレートケーキを選ぶのを忘れずに。
ガーデン内の新緑を楽しみながら、太鼓橋を渡って14時、サントリー美術館へ。「一瞬のきらめき まぼろしの薩摩切子」展へは、「うつわ×きりこ割引」として、「U-Tsu-Wa/うつわ」展の半券をご提示いただくと、100円引きでご入場いただけます。過ぎし日の薩摩切子の盛衰に思いを馳せたら、ミッドタウンタワーの最上階へ。
15時半、ザ・リッツ・カールトン東京のレストラン「フォーティーファイブ」で一休み。やはり半券の提示で、デザートブッフェが15%割引で楽しめます。
ガレリア3Fのインテリアショップでショッピングを楽しんだ後、ルーシー・リィーのうつわがもう一度見たくなったら、半券を持って21_21 DESIGN SIGHTへ。20時まで開館している当館には、当日に限り、何度でもご入場いただけます。
4月11日土曜日午後、2回にわたり、建築家 安藤忠雄によるギャラリートークが開催されました。 21_21 DESIGN SIGHT の建築を設計した安藤は、今回の「U-Tsu-Wa/うつわ」展の会場構成も手がけ、展示のみどころについても話しました。
建築の分野に限らずさまざまな世界で活躍している安藤は、都市とは「緑」と「文化」があって成立するものだとの意見。ヨーロッパにみられる都市には活気のある文化施設があり、東京も是非、文化施設を大切にして欲しい。日本を「チャンスのある国」、外国人に対して「開かれた国」にし、誰でもチャンスを求めて日本に来るような「文化の国」にすべきだと語りました。
各回200名程の方にお集りいただき、トークの後にはサイン会も行い、大変にぎわいのある土曜日の午後となりました。
うつわをとらえる眼
空輪、宇宙輪、うつわ----本展を企画した三宅一生は、3作家のうつわの空(くう)に、神秘的な宇宙のひろがりを感じとりました。確かに、英語のspaceは「空(くう)」も、「宇宙」も意味する言葉です。三宅のそんな考え方は、本展のヴィジュアルディレクションを手がけた、杉浦康平をも刺激します。杉浦は、「それぞれに味わい深い差異を見せる三人のうつわ宇宙を、『空』なる紙面のひろがりに招きいれた」と言います。
本展メインビジュアルの、鮮やかなピンクが印象的な写真。実は、ルーシー・リィーのうつわを真上から撮影したものです。撮影は、写真家の岩崎寬。撮影に入るまでの間、ただ、うつわたちと対峙し続けたそうです。時に原初の地球の姿をかいま見せ、宇宙的な美をもって私たちを魅了するうつわの数々。日本を代表するクリエーターたちの眼が捉えた、ものづくりと美の原点を、ぜひ会場でご体験下さい。
毎週水曜日18時より、展覧会ギャラリーツアーを行っています。
本展の企画担当スタッフによる見どころ満載のツアーで、展覧会を何倍にもお楽しみいただけます。
- 番組名:
- 日曜美術館
「陶器のボタンの贈り物 三宅一生と陶芸家ルーシー・リー」 - 放送予定日時:
- 2009年4月19日(日)9:00-9:45(教育テレビ)
2009年4月26日(日)20:00-20:45(同・再放送)
1984年、ロンドンの書店で手にした一冊の本をきっかけに始まった三宅一生とルーシー・リィーとの交流を、彼女の遺言によって贈られた陶製のボタンを軸に紹介します。
4月4日土曜日、ミッドタウン・ガーデンではようやく桜が見頃になり、たくさんの人で賑わう中、現在展示中のルーシー・リィーのボタンにちなみ、陶芸家の金子真琴氏を講師に迎え、陶でつくるボタンのワークショップを行いました。
まずは展示中のルーシー・リィーのボタンを見学し、制作するイメージをふくらませます。アクセサリーとしてのボタンや、ブローチ、髪留めの飾りなど、さまざまなアイデアがあるようです。
頭の中のイメージをスケッチし、いざスタートです。
カッターや定規なども使用して陶土を成形し、5つのボタンを作ります。白い陶土に3色をランダムに混ぜてマーブル模様にしたものや、間に別の色を挟んで周囲をカットし、断面が層になって見えるもの、お子さんの顔など素敵なボタンがたくさんできてきました。
形ができると各自自宅に持ち帰り、約1週間乾燥。その後は家庭のオーブンで焼き、最後に防水仕上げ液を塗って完成です。
手を使ってつくることの楽しさや、創造することの素晴らしさを体験していただけたワークショップとなりました。
4月3日、21_21 DESIGN SIGHTの2周年を記念して、ディレクターズの佐藤卓と深澤直人によるスペシャルトーク「こんな時だからこそデザイン」が行われました。
世界中の企業を相手に仕事をする深澤からは、経済も情報も「太り過ぎた」現代、逆に「何が本来の価値なのか考えやすくなったのでは」との意見。グラフィックの世界でもひしひしとデザインと真撃に向き合う時代を感じているという佐藤は、「コミュニケーション、言葉にすることが大切」と語りました。
そんな中、深澤は「正しいデザイン」という考え方を提案。センスや個性がつくる「良いデザイン」から、社会的で責任感のある「正しいデザイン」へ。その考え方に深く共鳴した佐藤も、「デザインとは、気を使うこと」との持論を展開しました。
トーク後には会場とのやりとりも活発に行われ、来場者とともに現代におけるデザインの役割について考えるひとときとなりました。
ルーシー・リィーとボタンの話
見事な釉薬の配合による独特の色使いと、仕上げに手仕事を加えた温かいフォルム。ひとつとして同じもののないルーシー・リィーのうつわの魅力は、どこから生まれたのでしょうか。
1938年、イギリスに亡命したリィーの暮らしは、自ら「キャベツの日々」と振り返るほど、厳しいものでした。彼女の生活を支えたのは、陶製のボタンづくり。金属の乏しかった当時、リィーはオートクチュールのデザイナーたちの様々な要望に応えながら、色やかたちの研究を行い、その後のうつわづくりの技術を身につけたと考えられています。本展を企画した三宅一生は、「ボタンは、ルーシーさんの創作の原点、出発点だったのだろう」と語っています。(展覧会関連書籍より)
1989年、リィーとの交流を深めていた三宅は、ISSEY MIYAKE秋冬コレクションで、そのボタンを使った服を発表します。リィー自身も、「ボタンが40年ぶりに息を吹き返した」と、心から喜んだそうです。そして、それから20年、21_21 DESIGN SIGHTに、当時の服が新しいスタイリングで登場します。「U-Tsu-Wa/うつわ」展の会場にちりばめられた606のボタンとともに、今を生きる服とボタンの姿を、ぜひお楽しみください。
陶のボタンをつくる、こども向けワークショップが開催されました。
4月4日(日)には、大人向けのボタンづくりワークショップも行われます。
[特別展示]
3月25日(水)より会期終了まで、ISSEY MIYAKE '89年秋冬コレクションで発表した、ルーシー・リィーのボタンを使った服を、新しいスタイリングでご紹介します。
ひびや割れなど、土本来の性質を引き出したスケールの大きなうつわを手がける、陶芸家の小川待子が自身の制作について語りました。
小川の創作の原点は、西アフリカでの生活にあります。現地の人々がうつわづくりに用いる「たたき」や「ひもづくり」の技法を用いた作品をはじめ、身体装飾や木製のマスクなどからヒントを得た作品も紹介。また、小川の作品によく用いられる、透明感のあるガラス釉は、アフリカでの生活で水が手に入らなかった辛い経験と、世界中を旅した際の水の記憶からきているそうです。土の破片から、大地や生命、時間の堆積へと大きな広がりを感じさせ、見るものを包み込む小川のうつわづくりに、来場者は興味津々の様子でした。
3月21日、バスケタリー作家の本間一恵の指導のもと、男女幅広い年齢の方々が参加してうつわをつくるワークショップが行われました。
うつわといえば、木や陶などが代表的ですが、このワークショップでつくるのは、手で編むうつわ。梱包用の紙テープを用い、口から編んでいくのです。
木のうつわや陶器と違い、手で編むうつわの特徴は、でき上がった形が動くこと。編んでいくうちにでてくる縮みが独特な形を生み出します。梱包用テープも、裂き方や、伸ばしたり叩いたりという加工によって、何十通りにも風合いを変えることができるのです。
編んでいくうちに出てくる縮みと格闘しながら、それぞれのうつわを作り上げた参加者の方々。男性の方が意外ととても繊細なうつわを作られていたりと、できあがったものを全員で眺める時間もとても楽しいものでした。
「ボタンは、ルーシーさんの創作の原点、出発点だったのだろう」と三宅一生が語る、ルーシー・リィーが戦中戦後に制作していたボタンの数々。1989年、リィーとの交流を深めていた三宅は、ISSEY MIYAKE秋冬コレクションで、そのボタンを使った服を発表します。リィー自身も、「ボタンが40年ぶりに息を吹き返した」と、心から喜んだそうです。
そして、それから20年。21_21 DESIGN SIGHTに、当時の服が新しいスタイリングで登場します。「U-Tsu-Wa/うつわ」展の会場にちりばめられた606のボタンとともに、今を生きる服とボタンの姿を、ぜひお楽しみください。
「U-Tsu-Wa/うつわ」展では、ルーシー・リィーが戦中戦後に手がけた陶のボタンが特別に展示されています。そんな陶のボタンをつくるこども向けワークショップが陶芸家の岡崎裕子を講師に迎えて行われました。
まず、実際のルーシー・リィーのボタンを見て、これからつくるボタンのイメージを膨らませ、制作開始です。1つめは、土の扱いに慣れるため、ルーシー・リィーのボタンをまねて、棒状に伸ばした土を結んで、みんなで同じものをつくります。2つめのオリジナルボタンの制作では、植物や動物をモチーフにしたものや、表面に模様をつけたり、色化粧を鮮やかに施したものなど、こどもたちの自由な発想から生まれた個性的なボタンがたくさん並びました。
岡崎の丁寧な指導のもと、こどもたちは制作を楽しんだ様子で、1ヶ月後の焼き上がりを心待ちにしていました。
安藤忠雄の会場構成
両掌ですくいあげた、小さな宇宙----三宅一生が3作家のうつわから感じとった「宇宙」の空間表現は、安藤忠雄の手に託されました。それは、かつて自らが出会った感動のかたちを、次の時代の担い手たちに、ガラス越しではなく、直接届けたいという想いからです。
安藤忠雄が描いたのは、「水面に映える夜空の星」。水盤や粉砕ガラスの上に、3作家が持って生まれた星座----ルーシー・リィー(魚座)、ジェニファー・リー(獅子座)、エルンスト・ガンペール(牡羊座)----をなぞるように、うつわを浮かべました。2万8千個のガラス瓶を敷き詰めた水盤が、壁面に設えた滝のかすかな音とともに、会場内に静かな緊張感を生み出しています。子どもの頃に見た川の美しさを、いつか違うかたちで表現したいと考えていた安藤。会場の水の流れに対峙するように、サンクンコートには青々とした麦が生い茂っています。
安藤忠雄のギャラリーツアーが行われました。
ギャラリーツアーは、4月にも予定されています。
環境問題に興味を持ち、森を活性化する方法はないか、という試行錯誤の末、うつわ作りを始めたという木工作家、須田二郎が自身の活動について語りました。
障害木を使ってつくられるウレタンや漆を塗らない食器類は、商品としてはなかなか受け入れられないという現実の中でも、支持してくれる人たちがその使い道を発見してくれたと語る須田。公開制作で作られたアカシアの木のサラダボールは、サラダを3回ほど調理することで、ドレッシングの油が防水効果をもたらし、その後はスープなどを入れるうつわとしても使えるようになるそう。ユニークな発想とオリジナリティー溢れる須田の活動に、来場者も興味深々の様子でした。
安藤建築の中で、会場構成も安藤自身が手がけた「U-Tsu-Wa/うつわ」展。当日はたくさんの方がトークを聞くために集まりました。トークでは、三宅一生の服づくりのコンセプト"一枚の布"から着想を得てつくられた21_21 DESIGN SIGHTの建築についての話を交えながら、今回の会場構成のポイントについて語られました。
今回の会場構成について安藤は、「三作家の高い美意識を際だたせるような演出を考えた」とし、「水」を使った演出にもついても触れました。小さい頃に見た川の美しさが忘れられず、その美しさを違う形に置き換えたいと常々考えていたという安藤。今回の演出では、水を使いながら「視覚だけなく、聴覚にも訴えるものにしたかった」とのこと。壁面に水を流す演出によって三作家の力強くも静謐な世界観を表現したかった、とその思いを語りました。
2月14日、「U-Tsu-Wa/うつわ」展オープニングに際して来日した、本展出展作家のジェニファー・リーとエルンスト・ガンペールによるオープニング・クリエイターズ・トーク「大地に向きあい、木と語る――かたちを生みだす想像力」を行いました。
ジェニファー・リーは、彼女が大好きだという、アリゾナやエジプトの砂漠の風景を始め、古代文明の芸術や、彫刻家ウォルター・デ・マリアの作品などを紹介。常に様々なものを見て、それらを自身のフィルターに通すことで、自然を思わせる繊細な色彩や独特のかたちのうつわが生まれるそうです。
エルンスト・ガンペールは、北イタリアにある、17世紀に作られた古い家を改装した工房の様子や制作プロセスの写真を紹介。また、代表的な作品を挙げ、それらが木の幹のどの部分から切り出されたのかをイラストで解説しました。木工ろくろで木を削り、乾燥の過程で木が自然にねじれ、その木が生きてきた歴史を表す彼のうつわについて語りました。
トーク後のQ&Aでは多くの質問があり、会場は活気に満ちていました。
三宅一生と三作家の出会い
1984年ロンドン。映画『マイフェアレディ』で有名なコヴェント・ガーデンの小さな本屋で、三宅一生は一冊の本を手にとっていました。本屋に入るや否や、目に飛び込んで来たその本の表紙には、凛とした表情の純白の花瓶。「この陶磁器の作者に会いたい」と、すぐに訪れたのが、ロンドン南部アルビオン・ミューズにあるルーシー・リィーの自宅兼工房でした。
三宅は、リィーの作品はもちろんのこと、その人柄に心から感動し、「ものづくりとはこういうことだ」と直感したといいます。濃厚なチョコレートケーキとアプリコットケーキ、そしてウィーン育ちのリィーが淹れた薫り高いコーヒーとともに、ひとしきり会話を楽しんだあと、帰り際にサプライズが----なんと、棚に所狭しと並んでいたリィーの作品のうち、三宅が密かに「素晴しいな」と思っていた白いうつわを、新聞紙にくるんでプレゼントされたのです。
ジェニファー・リーと三宅一生の出会いは、1989年。スノードン卿が撮影した写真集『ISSEY MIYAKE PERMANENTE』のモデル、長身で笑顔の素敵な女性がリーでした。それから10年後、三宅はパリの街角で、小さな記事に目を留めました。そこには、コンランショップに並べられたエルンスト・ガンペールの木のうつわたち。本、写真、展覧会......三者三様の出会いから25年。一堂に会した127のうつわを前に、その軌跡に思いを巡らせてみては。
三宅一生と3作家の出会いや、彼らの作風の解説を中心とした、21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクター、川上典李子によるギャラリーツアーが行われます。
「U-Tsu-Wa/うつわ」展の見どころ
- vol.1
- 三宅一生と三作家の出会い
- vol.2
- 安藤忠雄の会場構成
- vol.3
- ルーシー・リィーとボタンの話
- vol.4
- うつわをとらえる眼
- vol.5
- うつわ展の楽しみ方
美しいと感動した経験について話してほしいと言われることがあります。そんな時にまず思い出されるのは、ルーシー・リィーさんの名前としごとです。
今から20数年前に、ロンドンの書店で偶然手にとった陶磁器の本。それを見て心を動かされた私は、さっそくルーシーさんの制作スタジオ兼自宅を訪ねることになりました。彼女の人柄と作品の数々に触れて、その時私は「つくる、とはこういうものだ」と直観して心も身体もリフレッシュし、勇気づけられたことを覚えています。そして、その夢も醒めきらないうちに、日本で「ルゥーシー・リィー展」を企画・実現し(1989年東京と大阪で開催)、大きな反響をよぶことができたのです。
さて、21_21 DESIGN SIGHTの企画による「U-Tsu-Wa/うつわ」展。ここでは20世紀の伝統の中に未来形の創造の宇宙を発芽させたルーシー・リィーさんを中心に、その水脈をうけ継いで明日の陶磁器づくりに新しい方向性をあたえているジェニファー・リーさん、木から生命を見つけ出すエルンスト・ガンペールさん、という二人の作家を配して、多様なうつわたちの豊潤な造形世界が展開されます。土・石・木、自然素材と向き合い、美しい形を削り出していくしごとは、自身の内面を深く厳しく掘り下げる作業に通じています。そこから、私たちの生活と文化をうるおす清新な創造の伏流水が湧き出してくることでしょう。
三宅一生
ルーシー・リィー、ジェニファー・リー、エルンスト・ガンペール。三人のアーティストのつくる〈うつわ〉には、生活文化としてのデザインの可能性が、実に豊かに示されている。
とりわけ、ルーシー・リーの作品は、一つ一つが前世紀の百年を陶芸に賭けて生き抜いた彼女の人生の結晶のようだ。モダニズム造形美の極みともいうべき、優雅に研ぎ澄まされたフォルム。美しさと同時に温かみを感じさせる、微妙でデリケートな陶器の素材感。あの白に輝く器たちの透明感は一体何なのかと、彼女の作品を目にするたび、不思議な感動を味わう。
展覧会では、彼女らのみずみずしい感性がより直接的に伝わるような空間演出を考えた。展示室内に水盤をつくり、その水の上に作品を浮かべる。流れる水という空白を介して、その静と動の狭間で、美しいうつわと対峙するという展示構成だ。訪れる人が、作品を通じて、それをつくった作家の心を感じられるような、展覧会になればと思う。
安藤忠雄
──「うつわ」は「空(うつ)輪」とも、「宇宙輪」とも書けますね──。
最初の打ちあわせで一生さんがつぶやいたこの言葉が、今回のヴィジュアルデザインのヒントになった。
器(うつわ)は空(くう)。からっぽなもの。その中に飲みものや食べものを満たすと、「空」なる器が「実」に変わる。それを飲み・食べると、「空」である人間の体内に「実」なるエネルギーが充ちる。器はそのまろやかな形で、「空」と「実」の対極を、苦もなく巧みに溶けあわせる。 三人三様。土を練り、形をつくり、倒木を削り、ときにひびわれを誘いだす。それぞれに味わい深い差異を見せる三人のうつわ宇宙を、「空」なる紙面のひろがりに招きいれた。ページを繰る指先のリズムとともに、器自身が静かに舞い踊る。
豊かな伝統的技法と現代感覚を結びつけた器たちの多彩な表情を俯瞰し・見上げて、宇宙遊泳に似た動きを誕生させる。岩崎寬さんの感性豊かなカメラアイと、森山明子さんの情感あふれるテキストが、艶やかなうつわ宇宙誕生の支えとなった。
杉浦康平
2009年2月13日より開催される「U-Tsu-Wa/うつわ」展は、陶作家ルーシー・リィーとジェニファー・リー、木の作家エルンスト・ガンペールによる3人展。ものづくりの原点ともいえる3人の仕事とその作品を通して、私たちの生活と文化をうるおす豊かなうつわの世界を紹介します。
詳しくは、「U-Tsu-Wa/うつわ」展ページをご覧ください。