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XXI c. ―21世紀人 (23)
7月19日から開催の次回展覧会「祈りの痕跡。」展プレイベントとして、ディレクター浅葉克己によるトーク「地球文字探険!」が28日に行われました。地球文字探険家として世界中の文字の謎を追う旅をしている浅葉さんが辿り着いた文字の数々と、それらの文字たちをモチーフにした浅葉さんの作品を紹介しました。
浅葉さんが文字の世界に引き込まれたのは19歳の時、「文字は実際に書かないとだめ」という書の先生の言葉に感銘を受け、「一日一圖」を目標に、筆を取って書を書くことを毎日の日課にしているそうです。「祈りの痕跡。」展ロゴや浅葉さんの数々の作品に登場する「浅葉文字」は、コンピューターのグラフィックに手書きの要素を加えて完成し、実際に書くことによって見る人により「伝えたい」という気持ちが届くという浅葉さんの思いからつくられています。
展覧会には、そうした人に何かを「伝えたい」という祈りにも似た強い気持ちが込められた痕跡の数々が出展されます。浅葉さんの痕跡である、10年分の日記も必見です。
最後は手旗信号パフォーマンスを披露し、会場は大きな拍手で包まれました。
『21世紀人』展 協力企業のセーレン株式会社によるクリエイターズトークが27日に行われました。
21_21 DESIGN SIGHTの1階ロビーに掲げられたバナーはセーレンの提供によるもので、再生ポリエステルの生地を使用し、ビスコテックスという独自の技術で印刷されています。
バナーの制作では細い線と地の薄い緑色を出すのに苦労したとのこと。多くの参加作家が再利用や省エネルギーをテーマに掲げる中、企業としても同じテーマで展覧会に取り組むことで来場者により多くのことを感じていただければと考えたそうです。
こうした企業が考える「これからのものづくり」に来場者は感心した様子で耳を傾けていました。
21_21 DESIGN SIGHTでは、今週末もさまざまなイベントが開催されます。
28日(土)は、次回展「祈りの痕跡。」のプレイベントに、展覧会ディレクターの浅葉克己が登場します。
また同日夕刻には、先日行われた1周年記念講演会「デザイントーク」の特別上映会を開催。
29日(日)は、作曲家・音響デザイナーの畑中正人が、「21世紀人」展クリエイターズトークの最終回を飾ります。
各イベントは全て参加無料です。この機会に、ぜひ21_21 DESIGN SIGHTにお越しください。
「XXIc.-21世紀人」展イベント詳細
「祈りの痕跡。」展イベント詳細
21日、東京ミッドタウン・デザインハブでISSEY MIYAKEクリエイティブ・ディレクターの藤原大がレクチャーを行いました。ジェームズ・ダイソンとのコラボレーションについて、彼との最初のミーティングから遡り、記録写真とともに「XXIc.- 21世紀人」展に出品した作品までを解説。現在進行中である次回パリコレクションのトピックも語られ、ISSEY MIYAKEが実践する「新しいものづくりのノウハウ」の背景は知的な刺激に満ちていました。
20日、国立新美術館講堂において21_21 DESIGN SIGHTのオープン1周年を記念した『デザイン・トーク』が開催されました。三宅一生、佐藤 卓、深澤直人の3ディレクターによるトークの前には、スペシャル企画として、イサム・ノグチ庭園美術館学芸顧問の新見 隆にイサム・ノグチの人と作品についても簡単なレクチャーをしていただきました。
約20分という短い時間ながら、イサム・ノグチが広い意味で20世紀のモダニズムを越えようとした芸術家であり、西洋近代彫刻の代表ともいうべきブランクーシに師事しながらも、みずからは東洋的な思想を彫刻表現に取り入れた新たな造形を生み出したことなど、スライドを交えた解説はとても興味深いものでした。
続いて行われたデザイン・トークはアソシエイトディレクター川上典李子を司会に、開館までの経緯やこの1年の活動について、ディレクターたちがそれぞれコメントを発表。これからの21_21 DESIGN SIGHTはどうなっていくべきかなど刺激的な意見も飛び出しました。
トークの後は次回展『祈りの痕跡。』展のディレクターであるアートディレクターの浅葉克已が登場、展覧会の内容について紹介しました。手旗信号などを交えたパフォーマンスで会場は大いに盛り上がりました。
なお、この「デザイン・トーク」の模様を記録した映像を1時間に再編集し、上映会を開催することが決定しました。来場いただけなかった方、ぜひこの機会をお見逃しなく!
(詳細は関連イベント情報をご覧ください)
このレクチャーは、2008年6月20日(金) 国立新美術館 講堂にて開催された21_21 DESIGN SIGHT 1周年記念講演会「デザイン・トーク」中で行なわれました。
こんにちは、新見です。イサム・ノグチさんの美術館が10年前に立ち上がりまして、そこの顧問をしております。今日は三宅一生さんから、少しお話をしろと依頼を受けて参りました。今回三宅さんが、ディレクターとして立ち上げられた『XXIc. --21世紀人』展を見せていただいたのですが、大変感動しました。その印象から始めたいと思います。その前に申し添えますと、僕は三宅さんが、1930年代、ノグチの若い頃の、中国でのこの仕事をほんとうに偶然、さまざまな奇縁に導かれるようにして発見されて、ここから展覧会を発想されたということを聞いております。
さて、僕の受けた印象というのは、簡単な言葉なのですが、「万物照応」ということです。これは新羅万象が響き合って、動物などの生きもの、小さな花、それから風や宇宙、そういうものが響き合っているという意味です。英仏語ですと「コレスポンダンス」という訳語になります。普通は手紙をやりとりしたり、話をしたりという意味に使います。このコレスポンダンス、万物照応というのは、19世紀末のフランス象徴派を主導したボードレールという人が、芸術文化の根幹にある概念ということで提唱した言葉です。それが150年後の今、21世紀になって、大事なのではないかという時代がやってきたように思います。
ごく簡単に申しますと、20世紀は近代主義、文明などと言いながら、単に生活が利便になればよいんだというようなことで科学や技術が発展してきました。僕らはその利点を受けてきたわけですが、一方で環境問題、戦争、民族間の抗争、食糧の危機など、さまざまな問題を背負ってきたと思います。近代主義が始まったのは19世紀の半ばですが、その時代にボードレールが「芸術と文化の根幹は、新羅万象と響き合う自然の心」と「肉体」というふうに捉えた。
今回の展覧会では、三宅さんご自身も再生紙を使った、非常にバロック的というかアジア的というか、「東洋のバロック」とでもいうものを感じさせるような空間を、素晴らしいインスタレーションで実現されていました。ほかにもティム・ホーキンソンさんの《ドラゴン》、デュイ・セイドさんの《スティック・マン》などにも東洋的なものを感じました。そういう意味で展覧会全体が「アジアのバロック」という感じがしたのですね。それらを通して三宅一生さんからの強烈なメッセージとして、「コレスポンダンス」という概念を僕は受け取りました。
前置きはこのくらいにして、本題のノグチの話に入りましょう。《スタンディング・ヌード・ユース》です。制作されたのは1930年、若い頃ですね、ノグチという人は1904年生まれで88年に亡くなられましたから、まさに20世紀をそのまま生きた----明治の終わりからずっと、大正、昭和と生きてこられた方ともいえます。ひとつ、ちょっと乱暴なアイディアを話したいのですが、イサム・ノグチはポストモダン的な人だったと僕は思います。
ポストモダンというと、70年代以降に様式折衷的に起こった、デザインや建築の一原理だと勘違いしている人がとても多い。しかしそうではなく、ポストモダンはもっと大きな概念です。いわば文明の進化論的な、利便になればよい、文明さえ発達すればよい、ものさえつくれば人間幸せになるんだという、そういう文明進化論的な考え方に対して、非常に懐疑的で批判的で、反省的な視座として始まった運動です。
倉俣史朗さん、磯崎新さん、三宅さんなどの方々が、そのなかにおられたわけですけれど、ポストモダンという思想や運動は終わったわけではなく、実は今から考えなくてはならないものだと思うのです。現代社会はさまざまな問題を抱えていますから、そのなかでのものづくりを考えていかなくてはいけない。その最たる人がノグチだったと思います。
ノグチの仕事を御存知の方もおられるでしょう。あかりのデザイン、陶器、それから公園や庭を手がけました。あかりは、岐阜の提灯を世界ブランドに立ち上げて世界発信した、最も成功した日本のプロダクトデザインのひとつといってよいと思います。
2005年がノグチ生誕101年で、亡くなられて17年でした。彼は亡くなる前に、札幌の郊外のゴミ捨て場だったモエレ沼に行き、「おもしろいから、ここを庭にしよう」と考えて、壮大なパークをつくられた。こういった、晩年の自然とコラボレーションした仕事は、ノグチが21世紀の僕たちにプレゼントしたものといってもよいと思います。
《モエレ沼公園》で彼が考えていたのは、子供が遊んでいる、恋人たちが話をしている、それからいろんな人が憩っている、噴水が、遊具があって、山があって、ピラミッドがあって、植生があって、ということですね。壮大な一種の大地ですが、それを設計されたわけです。ですからそのなかには、デザインの問題も建築も時間も風も場も、空間もある。すべてのものをそこに取り入れたのです。これが「ノグチがポストモダン的である」と僕がいった理由です。
ノグチの作品は、世界中の美術館に収蔵されていますけれど、実は彼が一番嫌ったのはホワイトキューブです。パッキリして、力があって、いわばエリート主義的でマッチョな、白いモダニズムの空間です。そのなかに置かれて、ドラマティックな主役として見られる彫刻を、ノグチは拒否したところがありました。それで自ら自然のなかに出ていって、庭をつくったり、それから自然との時間と空間と風とか、自然とか山とか光とかそういうものとコラボレーションする新しい彫刻を考えた。そのひとつが最後の作品、モエレ沼の公園なのです。
香川県の牟礼町には自宅とアトリエがあって、晩年の20年間はそこを使っておられました。現在そのままのかたちで美術館にしていますが、そこに「エナジーボイド」という作品があります。これは、あまりに高速度でエネルギーが廻っているから、そのなかが真空で抜かれるという状態を作品化したものです。僕らはエネルギーの中心の空虚と言っています。彼はブランクーシのような近代彫刻のチャンピオンから習ったわけですけど、それを超えて東洋と西洋を融合した。
ノグチが好きなのは円環構造というか、世界が全部循環して元に戻ってくる有様です。西洋にもありますが、主に東洋の思想にある、虚無ではない豊かな空虚といったものが好きで、そういう造形をされた。人間の身体のなかにも、そういう循環構造がある。漢方の目で見た人間の身体といえばわかりやすいかもしれません。
ノグチは日米混血の人でありましたから、大変つらい思いをしました。政治的にも制度的にも疎外された、孤独な人でした。ですから彼は制度や近代といったものが大嫌いでした。好きなものは古代的なものですね。人間の歴史を超えた、マチュピチュ、マヤの遺跡、ストーンヘンジやピラミッドなど。モエレ沼に行ってご覧になるとわかると思いますが、ノグチはそれらをコピーしたのではありません。今日僕らが世界遺産として知っている、人間の原風景というか、原芸術というか、おそらく芸術にもなってない、元の姿のものが、そのまま21世紀のかたち、ノグチが考えて感じたかたちとして現れてきている。これがイサム・ノグチの素晴らしさであり、モエレ沼のすごさであると思うのです。
新見 隆(にいみ りゅう、1958年 - )
広島県出身。 慶應義塾大学文学部フランス文学科卒業。1982年から1999年2月まで、西武美術館・セゾン美術館の学芸員として、展覧会の企画を担当。 イサム・ノグチ庭園美術館学芸顧問。インディペンデント・キュレーター。千葉大学教育学部大学院美術専攻、慶應義塾大学理工学部、東京造形大学比較造形学科などの講師を経て、1999年より武蔵野美術大学芸術文化学科教授。
講演会の後半では、いくつかのキーワードを軸にディレクターたちがそれぞれの考えを述べました。21_21 DESIGN SIGHTの今後について、活発な意見交換が行われ、盛況のうちにトークを終了しました。
2008年6月20日国立新美術館・講堂にて収録
構成/カワイイファクトリー 撮影/五十嵐一晴
vol.1 21_21ができるまで
vol.2 独自のアプローチを試みた企画展
vol.3 vol.3 21_21における「考える」「つくる」ということ
21_21 DESIGN SIGHT 1周年記念講演会「デザイン・トーク」 vol.2 独自のアプローチを試みた企画展
アソシエイト・ディレクター、川上典李子の進行で、3人のディレクターがこの1年間の活動について語りました。各人がディレクションを担当した企画展についてふり返る言葉から、21_21 DESIGN SIGHT独自の展覧会のつくりかたが浮かび上がってきました。
vol.1 21_21ができるまで
vol.2 独自のアプローチを試みた企画展
vol.3 vol.3 21_21における「考える」「つくる」ということ
2008年6月20日、21_21 DESIGN SIGHTのオープンから一周年を記念して、ディレクターの三宅一生、佐藤 卓、深澤直人の3人が揃った「デザイン・トーク」が開催されました。進行役はアソシエイトディレクター 川上典李子が務めました。トークの前には、21_21 DESIGN SIGHT設立のきっかけに関わった芸術家イサム・ノグチについて、イサム・ノグチ庭園美術館顧問である新見 隆による特別レクチャーが行なわれました。
vol.1 21_21ができるまで
vol.2 独自のアプローチを試みた企画展
vol.3 vol.3 21_21における「考える」「つくる」ということ
6月6日(金)、皇后陛下が21_21 DESIGN SIGHTをご訪問、『21世紀人』展をご鑑賞されました。
21_21 DESIGN SIGHTの建築を設計した安藤忠雄氏と、本展ディレクターの三宅一生の案内で、約30分間、会場をまわられました。
ひとつひとつの作品をゆっくりとご覧になりながら、時折、ご質問をされる場面も。
イサム・ノグチの《スタンディング・ヌード・ユース》には、特に興味深げに説明に耳を傾けていらっしゃいました。
参加作家の鈴木康広さんによるクリエイターズトークが、15日に行われました。鈴木さんの作品《始まりの庭》に感動したモデルのKIKIさんが特別出演。梅雨の中休みの晴天に恵まれた日曜の午後のひととき、日常の何でもないことにも「発見」があり、それを伝えることが大切と語る二人のトークに、会場には爽やかな感動が広がりました。冷水の入ったコップの回りにつく水滴からヒントを得て今回の作品を発想した鈴木。目に見えない空気中の水を、結露として視覚化。普通は敬遠される結露を作品に取り込んだことに対し、KIKIさんは「驚きました。少しでも楽しみかたを探る方がいいですね」とコメント。
やがて、ノグチ作品《スタンディング・ヌード・ユース》を初めて見たときの感動と発見へと話は続きました。日本人の父と米国人の母を持つノグチのアイデンティティの葛藤が、この作品にも表れていると感じたのはKIKIさん。「人としてのリアルさがあり、凄いと思いました。細い線が輪郭に、太い線は陰、骨、血液のように見えました。この2つの線が両方あってはじめて人に見えるように思います」。鈴木は、「イサムさんが26歳の時の作品と聞いて、身近に感じました。技術的にも凄いラインで描かれている。自分が美大に入って、作品を創ることがどういうことかわからない時期があったけど、やがて自分を確認することだと気付きました。イサムさんの20代もそんな時代だったのかなあと」。
みなさんは、ノグチ作品からどんな発見がありましたか。
14日、三宅一生作《21世紀の神話》の制作スタッフによるクリエイターズトークが行われました。今回は、作品に使用した再生紙の制作で協力を得た滝製紙所の瀧英晃さんをゲストに迎えました。滝製紙所は福井県で伝統的な越前和紙を制作している会社です。今回の制作にあたり瀧さんは、「普段の仕事からは考えもつかない内容に戸惑いを感じながらも、こういった形で和紙がいろいろな人の目に触れる機会を得られたことが嬉しかった」とのこと。
イサム・ノグチの作品については、「手漉きと機械漉きの和紙が異なるように、実際に手を動かしてつくられたものは人に訴えかける圧倒的なパワーを持っている」と話していました。
スライドや制作物を用いたプロセスの説明の後には紙漉き体験も行われ、子どもから海外の方まで多くの方が参加し、会場は活気に満ちていました。
13日、参加作家のISSEY MIYAKE Creative Roomによるクリエイターズトークが行われました。DYSON A-POCシリーズと本展でのインスタレーションについて、もの作りのプロセスを語ったのは、パターン担当の中谷学とテキスタイル担当の平尾万里英です。記録映像と図を示しながらのトークから、わくわくしながらもの作りを進めてきた情熱が伝わってきました。話題はイサム・ノグチ作品に及び、「彫刻家としての格闘のプロセスがあったからこそ、あれほどまでの立体感をもつ絵画が生まれてきたのだと思う。自分たちも頑張らなければ」と中谷。平尾は、「初めて見たとき、力強さが強く印象に残りました。展示用のボディを制作する際には負けないように元気なものを作ろうと思いました」とのこと。ノグチ作品《スタンディング・ヌード・ユース》のパワー、ぜひ何度でも体験してください。
好評開催中の「21世紀人」展が、NHK教育「新日曜美術館アートシーン」で紹介されます。三宅一生の考える未来のものづくりとは? それぞれの作品に込められた作者たちの思いとは? スケール感たっぷりの美しい映像で語られる、21世紀人たちの物語をお楽しみに!放送予定は、6月15日(日)午前9:00~、再放送は同日午後8:00
現在開催中の展覧会、「21世紀人」展が、NHK BS2のテレビ番組「デジタル・スタジアム」で紹介されます。
本展出展作家の一人で、「デジタル・スタジアム」キュレーターでもある鈴木康広の作品「はじまりの庭」を中心に、その制作プロセス等も併せて紹介。貴重な映像をお見逃しなく!放映予定は6月13日(金)24:00からです。
6日午後行われた出品作家デュイ・セイドによるギャラリートークでは、本展が本邦初公開のイサム・ノグチ作品について詳しく語られました。作品はノグチが26歳のときに中国で描いたもの。日本にいる父に会うことを拒絶された彼が、日本に行く代わりに北京へ赴き、中国のピカソと呼ばれた水墨画の大家に師事して描いたとされています。自作の《スティックマン》は、この《スタンディング・ヌード・ユース》を見ながら制作したというデュイ。イサムの作品が精神の純粋性の象徴であるとするならば、自身の作品は身体の純粋性の象徴であると語りました。
彼の作品は、木の枝を組み合わせて作った立体的な線による彫刻作品です。枝は紙の原料となるコウゾという木の表皮を剥いだ後に廃棄されるものを使っています。心臓や血管が透けて見えるその彫像は、人間の体内をも可視化される現代を投影しています。照明効果によって壁に映った《スティックマン》の影は、《スタンディング・ヌード・ユース》を覗いているようです。晩年のノグチは、「20代でなければ、このような絵は描けなかっただろう」と言ったそうです。太い筆をコントロールして描くためにはそうとうな筋力がいるからです。作品が生まれる偶然と必然を思い知らされるようなエピソードに、トークに参加した30人余りの観客の皆さんも、納得してうなずいていました。
『21世紀人』展に出品中のイサム・ノグチ作品《スタンディング・ヌード・ユース》。彫刻家のノグチが1930年に北京に滞在した際に水墨で描いた裸体画です。
彼の水墨画はすべてこの時に描かれたもので、100点あまり存在します。中でも、178.5×900cmという大型の《スタンディング・ヌード・ユース》は、スケールにおいても、男性の裸体立像の完成度においても傑出した作品です。
この作品が日本で初公開されているのが本展です。
今後の公開はまったく未定ですから、イサム・ノグチのファンならずともこの機会にぜひ見ておきたい作品です。
世界の美術館に先駆け、初公開中のイサム・ノグチ作《スタンディング・ヌード・ユース》をもっと深く知るために、21_21 DESIGN SIGHT公式ウェブサイトは、本日よりイサム・ノグチ スペシャルと称し、さまざまなレポートをお届けします。そこでさっそくですが、今週のイサム・スペシャルなイベントのお知らせです。
出品作家デュイ・セイドが6月6日(金)15時よりギャラリートークを行います。
デュイ・セイドは出品作《スティックマン》を制作するにあたって、ノグチの作品にオマージュを捧げたと言います。ギャラリートークでは、彼が《スタンディング・ヌード・ユース》と初めて出会ったときの衝撃や、自作とノグチ作品との比較などについて語ります。
イサム・ノグチ・スペシャル
世界の美術館に先駆け、初公開中のイサム・ノグチ作《スタンディング・ヌード・ユース》をもっと深く知るために、21_21 DESIGN SIGHT公式ウェブサイトは、本日よりイサム・ノグチ スペシャルと称し、さまざまなレポートをお届けします。
- vol.1
- デュイ・セイドのギャラリートーク
- vol.2
- ノグチの水墨画、実は本展が世界初公開です!
- vol.3
- デュイ・セイド、ノグチの墨絵について語る
- vol.4
- ノグチ作品に刺激された、ISSEY MIYAKE Creative Room
- vol.5
- 手漉き和紙のエキスパートが見たノグチ作品
- vol.6
- 鈴木康広とKIKIさんが語るノグチの墨絵。
- vol.7
- デザイン・トークでノグチについてのレクチャーも!
『21世紀人』展は、アート作品ありデザイン作品ありの多彩な出品作を、「これからの人間の未来」という一つの大きな物語にまとめあげた展覧会。どんな物語なのかを教えてくれるのがギャラリーツアーです。21_21 DESIGN SIGHTのボランティアスタッフが、金・土・日の午後3時からおこなっています。会期も折り返 し地点を過ぎ、スタッフの語りもなかなか堂に入ってきました。ぜひ、会場に足 を運んで実際に体験してみてください。展覧会が10倍おもしろくなります。
去る5月24日土曜日の午後、参加作家のひとり、デュイ・セイドのトークが開催されました。オープニング後、一旦ニューヨークに帰国したデュイは一ヶ月ぶりに来日し、自作「スティックマン」につながる身体表現の歴史について語りました。あい変わらずの優しい笑顔に再会できて、スタッフ一同大感激でした。また翌日は、予定になかったギャラリーツアーも買って出てくれました。会場構成も手がけた彼だけに、解説は展覧会全体にまでおよびました。
本展のディレクターであり参加作家でもある三宅一生の作品、《21世紀の神話》を制作したのは、長年にわたり彼とともに衣服づくりをしてきた山本幸子。彼女と若手スタッフの森川拓野の2人が、5月23日金曜日、夜6時半より1時間にわ
たって今回の作品づくりのプロセスや三宅一生との仕事について語りました。
《21世紀の神話》のための試作やボツになった作品を実際に見せながらのトークに、ファッションを勉強中の学生たちが目を輝かせながら聞き入っていたのが印象的でした。作品づくりでおこなわれた細く切った紙を編む作業を実際に体験する
など、盛りだくさんの内容となりました。
21_21 DESIGN SIGHT 第3回企画展のテーマは「21世紀人」です。かつて未来と呼ばれた21世紀に、いま、わたしたちはたくさんの問題とともに暮らしています。ディレクターの三宅一生はさまざまなリサーチをおこない、想像力を働かせました。そして、誰もが感じている疑問や課題に向きあいながら新しい表現にとりくんでいる国内外の作家とともに展覧会をつくりあげます。会場を訪れた人たちと一緒に考え、最後には希望を感じられる――。そうした展覧会をめざしています。「XXIc. ―21世紀人」展がこれからのものづくりや暮らしについて考えるひとつの「きっかけ」となればと願っています。