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吉岡徳仁 (6)
21_21 DESIGN SIGHT 第4回企画展「セカンド・ネイチャー」で展覧会ディレクターを務めたデザイナー 吉岡徳仁の個展「吉岡徳仁-クリスタライズ」が、2013年10月3日(木) - 2014年1月19日(日)、東京都現代美術館で開催されます。
アート、デザイン、建築など幅広い領域において自由な着想と実験的な創作から生まれる作品により、世界に最も影響を与える創り手の一人として、国内外で高く評価される吉岡徳仁の作品世界を、初めて包括的に概観できる過去最大規模の個展となります。
本展は、「―自然から生み出される。」という言葉に込められた、吉岡の考える人間と自然の関係性とは何か、それが彼によって「Crystallize(=形を与え、結実させる)」する光景を共有し、次なる創造について考えるための貴重な契機となるでしょう。
現在開催中の「アーヴィング・ペンと三宅一生 Visual Dialogue」展にあわせ、各界をリードするクリエーターの方々に、ペンの写真の魅力について語っていただきます。
揺るぎない「強さ」がある
圧倒的な力を持った、ペンさんの写真
──吉岡さんは、ちょうど本展の作品に登場するコレクションの時代に三宅デザイン事務所にいらっしゃいましたが、その際のエピソードなどをお伺いできれば。
吉岡徳仁(以下、吉岡):
そうですね。まさに、ペンさんのクリエーションに触れたのは、一生さんを通じてのことでした。一生さんからペンさんの写真を見せてもらったり、北村みどりさんから撮影の時のお話を聞いたりしていました。ちょうど自分がパリコレで帽子を担当していた時に作品を撮影していただきました。ペンさんに撮っていただいた帽子のカットは、後に購入して宝物にしています。また、一生さんに「ニューヨークを見てきなさい」と言われたことがあり、ペンスタジオにもお邪魔しました。残念ながら撮影を見ることはできなかったのですが、服の説明をする時に横に座って話を聞いていました。すごく穏やかで寡黙な方だった、という印象です。
──ペンさんの写真から、どんな印象を受けますか?
吉岡:僕のデザインした帽子ではないのですが、有名なエピソードがあって、パンを使ってデザインされた帽子があったのですが、輸送の時にパンにカビが生えてしまったんです。その帽子が届いた時に、ペンさんが「カビが美しい」とおっしゃって、カビが生えたままの帽子を撮影されました。それがすごくペンさんを象徴している話だなと思いました。
ペンさんの写真は、ただ美しい、というだけではなくて、破壊されたり腐ったりという「生の瞬間」に美を見出していて、その表現にものすごい力がある。これだけのパワーを持った写真を撮る方に、出会ったことがありません。
撮影風景を見た方というのはすごく限られていますが、すごく暗いところで撮影をするとモデルさんから聞きました。シャッタースピードが遅いからモデルも動かないでいなければならない、それが大変だったという話を聞いたことがあります。
──吉岡さんがペンさんの写真から影響を受けたことは?
吉岡:強さです。一番難しいところだと思いますが、何もしないで強いもの、そこに行き着くまでの経過が見えないようなものがすごいと思います。そこを目指していきたいです。
──吉岡さんの最近のお仕事を教えてください。
吉岡:今年、オルセー美術館がリニューアルしたのですが、その際のリノベーションプロジェクトで「Water block」が印象派ギャラリーに設置されています。マネやルノワール、ドガ、セザンヌといった印象派の巨匠たちが並ぶギャラリーに置かれ、実際に座って絵画鑑賞をすることができます。パリを訪れる方はぜひお立ち寄りください。
(聞き手:上條桂子)
吉岡徳仁 Tokujin Yoshioka
デザイナー
1967年生まれ。2000年吉岡徳仁デザイン事務所設立。プロダクトデザインから建築、展覧会のインスタレーションなど、デザインの領域を超える作品はアートとしても高く評価されている。
数々の作品がニューヨーク近代美術館、オルセー美術館などの世界の主要美術館で永久所蔵品、常設展示されている。Design Miami / Designer of the Year 2007、A&W Architektur & Wohnen/Designer of the Year 2011受賞。TBS系ドキュメンタリー番組「情熱大陸」への出演、アメリカNewsweek誌日本版による「世界が尊敬する日本人100人」にも選出されている。
www.tokujin.com
「アーヴィング・ペンと三宅一生 Visual Dialogue」展(会期:2011年9月16日〜2012年4月8日)にあわせ、各界をリードするクリエーターの方々に、ペンの写真の魅力について語っていただきます。
- vol.1
- 佐藤 卓(グラフィックデザイナー)
物事の本質に真正面から切り込む写真 - vol.2
- 中野裕之(映画監督、映像作家)
明朝体のような繊細で力強い表現 - vol.3
- 石川直樹(写真家)
衝撃を受けて西アフリカまで訪ねていった、ダオメの写真 - vol.4
- ヴィンセント・ホアン(写真家)
ペンの「静」な生き方に学ぶ - vol.5
- 平野啓一郎(小説家)
人や職業の典型をとらえる収集家のような写真 - vol.6
- 操上和美(写真家)
「生」の瞬間が伝わってくる写真 - vol.7
- 日比野克彦(アーティスト)
平櫛田中とアーヴィング・ペンと三宅一生の共通点 - vol.8
-
深澤直人(プロダクトデザイナー)
ISSEY MIYAKEのイメージを具体化しているのは、実はアーヴィング・ペンなのかもしれない - vol.9
- 広川泰士(写真家)
オリジナルプリントから圧倒的な強さが漂う - vol.10
- ピーター・バラカン(ブロードキャスター)
セローニアス・マンクの音楽のような、決して真似のできない写真と服 - vol.11
- 高木由利子(写真家)
自分と真逆だから惹かれる、ペンの写真 - vol.12
- 浅葉克己(アートディレクター)
人間にとって一番大切なもの「観察力」が見事な人 - vol.13
- 加納典明(写真家)
静物写真の中に宿っているペンの写真的技術と精神的眼力 - vol.14
- ジャン・リュック・モンテロッソ(ヨーロッパ写真美術館館長)
礼儀正しさと優雅さを持ち合わせた、写真界の紳士 - vol.15
- 吉岡徳仁(デザイナー)
揺るぎない「強さ」がある 圧倒的な力を持った、ペンさんの写真 - vol.16
- ジャスパー・モリソン(デザイナー)
加工が盛んな現代だからこそ際立つ、銀塩写真の力 - vol.17
- 深谷哲夫(株式会社 解体新社 代表)
ニューヨークの空気を深く吸い、独自の黄金律で再構築した人 - vol.18
- 坂田栄一郎(写真家)
60年代のNYで体験したペンとアヴェドンとの交流 - vol.19
- 細谷 巖(アートディレクター)
寝ても覚めてもアーヴィング・ペンだった - vol.20
- マイケル・トンプソン(フォトグラファー)
ペンさんから教わったのは、シンプルの追求 - vol.21
- 小林康夫(東京大学大学院総合文化研究科 教授)
衣服と写真と文字 動くボディについて考える - vol.22
- 柏木 博(デザイン評論家)
穏やかで静かな、ペンの視点 - vol.23
- 鈴木理策(写真家)
すべての作品に共通する職人的な技術と品の良さ - vol.24
- 藤塚光政(写真家)
シュルレアリスムを感じさせる、ペンの写真 - vol.25
- 佐藤和子(ジャーナリスト)
現実と虚構を行き来する、夢あるクリエイション - vol.26
- 八木 保(アートディレクター)
決して作為的ではない、ストレートな表現 - vol.27
- シャロン・サダコ・タケダ(ロサンゼルス・カウンティ美術館シニアキュレーター、コスチューム・テキスタイル部門長)
常に新しい表現に挑戦する、素晴らしい才能を持つ二人 - vol.28
- マイケル・クロフォード(カートゥーニスト)
シンプルでパワフルなアートの力を実現した、二人の希有なコラボレーション - vol.29
- ブリット・サルヴェセン(ロサンゼルス・カウンティ美術館キュレーター、ウォーリス・アネンバーグ写真・プリント・ドローイング部門長)
二人の才能のダイアローグをヴィジュアライズしてくれた展覧会 - vol.30
- 北村みどり(株式会社三宅デザイン事務所 代表取締役社長)
類のない創造を生み続けるアーヴィング・ペンさんとの13年間
10月18日、21_21 DESIGN SIGHTでは、オープニング・スペシャルトーク「セカンド・ネイチャーとは?」が開催されました。本展ディレクターの吉岡徳仁をはじめ、ともに企画に携わった橋場一男、上條昌宏、岡田栄造、川上典李子の5人が、展覧会のテーマと出展作品について語り合いました。
自身の作品を見た人たちから、そのデザインに自然の要素が潜んでいることを気づかされたという吉岡は、「半分は人間が、半分は自然が」デザインし、「CGではつくれない、偶然性を取り入れ」、自然の結晶構造を用いた出展作品について解説しました。その制作プロセスでは実験と失敗が繰り返され、展示作品のひとつ『記憶の女神』が、5回の失敗の後、開幕直前に完成したというエピソードも披露しました。また、企画協力の一人、橋場一男は、「セカンド・ネイチャー」という言葉が、イタリアで開催された「Art in Nature」という展覧会のカタログから引用され、本展の目指す方向性にふさわしいと、展覧会のタイトルに決まった経緯を説明しました。
「セカンド・ネイチャー」とは何か?―トークの中では、文字通りの「第2の自然」という意味の他に、「新しい考え方」、「表現のスタート」、「記憶の中の自然」、「想像の世界」など、さまざまなキーワードが飛び交いました。しかしその解釈に答えはなく、展覧会を訪れた人々に自由に感じ、考えてほしいと、全員が口を揃えました。
吉岡は最後に、「僕にとってセカンドとは、未来だったりする」と語りました。生き物を支える構造に「未来のデザインが隠されているのでは」という思いから、今回の結晶に行きついたという吉岡。トーク後のQ&Aも活発に行われた満員の会場で、多くの参加者が「セカンド・ネイチャー」とデザインの未来について、それぞれの考えを巡らせたひとときでした。
吉岡徳仁ディレクションによる「セカンド・ネイチャー」展が、本日より開催となります。本展ディレクター 吉岡徳仁の最新作「ヴィーナス―結晶の椅子」を始めとした国内外8組のクリエーターによる独創的な作品の数々と、雲をイメージした幻想的な空間。21_21 DESIGN SIGHTに出現した新たな自然、「セカンド・ネイチャー」の世界を、ぜひ感じてみてください。
セカンド・ネイチャー ―記憶から生み出される第2の自然、デザインの未来を考える
「自然」は私たちの想像を超える美しさを見せてくれる反面、時に恐ろしいほどの力強さを秘めています。同じ物は二つとなく、二度と再現できない自然の姿は、それだけに神秘的な美を備え、人々を魅了します。
デザインとは、かたちを得ることで完成するものではなく、人の心によって完成するものではないかと考えています。また、自然の原理やその働きを発想に取り組むことが、デザインの今後において大切なものとなっていくのではと感じています。
私の空間インスタレーションを目にした人々が、各自が体験してきた自然現象に重ねあわせるようにしながら、その空間について語ってくれるのを不思議に感じていました。人々の体験に喚起される自然の姿とは一体どのようなものなのでしょうか。そのことを多くの方々と考えていくために、本展「セカンド・ネイチャー」では、異才を放つクリエイター7組に参加してもらいました。会場では、それぞれに自然や生命の神秘的な力を伝える作品に加え、空間全体を包む雲のような会場インスタレーションによって実験的な提案を行います。
ひとりひとりの記憶の奥に存在する「自然」から湧きでるように生まれる想像力と、テクノロジーや生命力とが融合することによって生みだされるデザインの未来。改めて地球に問いかけることで生まれる、未来に向けた発想。
それが、私の考える「セカンド・ネイチャー」なのです。
吉岡徳仁(本展ディレクター)